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173.いくら雰囲気に流されても現実が行く手を阻む
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「……というわけで、軽井沢以来、悩んでてね? こういう話を女性からするのは……はしたないかもと、思ったんだけど」
全然、はしたなくない。
むしろはしたなくてもいいんだけど。清楚で控えめな唯のはしたない様とか、興奮しかしないし。
なんて本音は隠して、ベッドに座る唯の手を握る。
「いや、そんな事は全然ないけど……俺から相談するべきだったよな。悩ませてごめんな」
「ううん。仁ちゃんも同じように悩んでくれてたって知って、安心した。……それで……どう、しようか?」
……いかん。『しようか?』の部分だけが自動でトリミングされて耳に届いて、脳が勝手に興奮する。
「まず……考えなきゃいけないのは子供の件だけど。俺は、亜種だから子孫を残しちゃいけないなんて、シカトでいいと思ってる。法律で禁止されてるわけでもねぇし。もし授かったら、俺が絶対守っていくし」
「そっか……私は……やっぱり、子供とかは考えられないんだよね。生まれた子が、血筋を理由にどんな扱いを受けるのかと思うと……怖くて」
そうだよな。辛い思いをしてきた唯なら、そう考えるのは当然だ。
「うん。じゃあ今まで通り、二人で仲良く楽しく生きて行こう。俺は唯がいてくれればそれでいいし」
「あ……っ、でもね、今はまだ考えられないっていうだけで、仁ちゃんの血筋を残したいっていう気持ちはあるの。なんだろう? 生物としての本能なのかな? 優秀な遺伝子を後世につなぎたい、みたいな?」
そして、まさかの本能シンクロ。ちょっと俺の言う本能とは、違うけど。
「気持ちが変わったら、その都度話し合おう? 二人の事だから、二人で考えて決めて行けばいいと思う。だから唯は、一人で悩んだり我慢したりしないで。俺達はもう……本当の夫婦なんだから」
「うん……ありがとう、仁ちゃん」
ベッドの上に二人で座って、手を握り合って、見つめ合って。
唯は目を、閉じた。
俺はその小さな顔に手を添えて……キスをした。
唯フレグランスで充満するベッドに、香りの元である唯を押し倒して。
手探りで照明のリモコンを探して、オフって。
可愛い唯が、小さく声をあげる度に、唇を塞いで。
「仁ちゃん……」
ああ……控えめに言って、至福。
何度この時を夢見た事か。
何度この様を想像して、自家放電した事か。
「仁ちゃんっ」
もう死んでもいい。
いやよくないけど。俺は短く見積もっても90歳位までは、こうして唯と愛に溢れた日々を送っ――
「仁ちゃん! 待って!」
てっきりピンクな叫びだと思っていた唯の声に、切迫感が出て来た。
「どうした? 大丈夫?」
「ご、ごめん、その……私、持ってないんだけど……仁ちゃんは?」
「…………持って…………無いな」
なんという事でしょう。
幸せの絶頂から奈落の底へ。
「じゃあ今日は……ね? 子供はまだ無理っていう、話しになってたし、ね?」
「……人間が自然妊娠する確率は、ウサギの三分の一以下らしいけど」
「仁ちゃん……」
呆れたようにため息を吐く唯に、今夜の放電は諦めるしか無いのだと、悟った。
「うん、ごめん、わかってる、大丈夫」
全然大丈夫じゃない体にそう言い聞かせながら、唯から離れる。
「……ごめんね?」
「唯が謝る事じゃない。俺こそ、準備不足で……」
「明日……買っておくから」
「え、マジで」
アレを買う唯。買い物カゴの下の方……箱ティッシュの下とかに隠して、女性店員がいるレジに並ぶ、唯。
やばい、想像しただけで……。
「いやいやいやいや、俺が買ってくるっ。女の子に用意させるのはダメだ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……お願いしようかな。あ……あと、もう一つお願いしてもいい? やっぱりこのまま離れちゃうのは、寂しい……から。せめて、一緒に寝るのは、どうかな?」
上目遣いでそう言う唯は、クソ程可愛いけれど。
「ごめん。隣にいたら、俺は確実に越境する」
「うんごめん。それならまた明日という事で……おやすみなさい」
俺は泣いた。
一人で部屋に戻り、息子と向き合いながら泣いた。
刀を持たずに……いや、安全に刀を振るうための鞘を持たずに戦場に出かけた事を、心から悔いて。
全然、はしたなくない。
むしろはしたなくてもいいんだけど。清楚で控えめな唯のはしたない様とか、興奮しかしないし。
なんて本音は隠して、ベッドに座る唯の手を握る。
「いや、そんな事は全然ないけど……俺から相談するべきだったよな。悩ませてごめんな」
「ううん。仁ちゃんも同じように悩んでくれてたって知って、安心した。……それで……どう、しようか?」
……いかん。『しようか?』の部分だけが自動でトリミングされて耳に届いて、脳が勝手に興奮する。
「まず……考えなきゃいけないのは子供の件だけど。俺は、亜種だから子孫を残しちゃいけないなんて、シカトでいいと思ってる。法律で禁止されてるわけでもねぇし。もし授かったら、俺が絶対守っていくし」
「そっか……私は……やっぱり、子供とかは考えられないんだよね。生まれた子が、血筋を理由にどんな扱いを受けるのかと思うと……怖くて」
そうだよな。辛い思いをしてきた唯なら、そう考えるのは当然だ。
「うん。じゃあ今まで通り、二人で仲良く楽しく生きて行こう。俺は唯がいてくれればそれでいいし」
「あ……っ、でもね、今はまだ考えられないっていうだけで、仁ちゃんの血筋を残したいっていう気持ちはあるの。なんだろう? 生物としての本能なのかな? 優秀な遺伝子を後世につなぎたい、みたいな?」
そして、まさかの本能シンクロ。ちょっと俺の言う本能とは、違うけど。
「気持ちが変わったら、その都度話し合おう? 二人の事だから、二人で考えて決めて行けばいいと思う。だから唯は、一人で悩んだり我慢したりしないで。俺達はもう……本当の夫婦なんだから」
「うん……ありがとう、仁ちゃん」
ベッドの上に二人で座って、手を握り合って、見つめ合って。
唯は目を、閉じた。
俺はその小さな顔に手を添えて……キスをした。
唯フレグランスで充満するベッドに、香りの元である唯を押し倒して。
手探りで照明のリモコンを探して、オフって。
可愛い唯が、小さく声をあげる度に、唇を塞いで。
「仁ちゃん……」
ああ……控えめに言って、至福。
何度この時を夢見た事か。
何度この様を想像して、自家放電した事か。
「仁ちゃんっ」
もう死んでもいい。
いやよくないけど。俺は短く見積もっても90歳位までは、こうして唯と愛に溢れた日々を送っ――
「仁ちゃん! 待って!」
てっきりピンクな叫びだと思っていた唯の声に、切迫感が出て来た。
「どうした? 大丈夫?」
「ご、ごめん、その……私、持ってないんだけど……仁ちゃんは?」
「…………持って…………無いな」
なんという事でしょう。
幸せの絶頂から奈落の底へ。
「じゃあ今日は……ね? 子供はまだ無理っていう、話しになってたし、ね?」
「……人間が自然妊娠する確率は、ウサギの三分の一以下らしいけど」
「仁ちゃん……」
呆れたようにため息を吐く唯に、今夜の放電は諦めるしか無いのだと、悟った。
「うん、ごめん、わかってる、大丈夫」
全然大丈夫じゃない体にそう言い聞かせながら、唯から離れる。
「……ごめんね?」
「唯が謝る事じゃない。俺こそ、準備不足で……」
「明日……買っておくから」
「え、マジで」
アレを買う唯。買い物カゴの下の方……箱ティッシュの下とかに隠して、女性店員がいるレジに並ぶ、唯。
やばい、想像しただけで……。
「いやいやいやいや、俺が買ってくるっ。女の子に用意させるのはダメだ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……お願いしようかな。あ……あと、もう一つお願いしてもいい? やっぱりこのまま離れちゃうのは、寂しい……から。せめて、一緒に寝るのは、どうかな?」
上目遣いでそう言う唯は、クソ程可愛いけれど。
「ごめん。隣にいたら、俺は確実に越境する」
「うんごめん。それならまた明日という事で……おやすみなさい」
俺は泣いた。
一人で部屋に戻り、息子と向き合いながら泣いた。
刀を持たずに……いや、安全に刀を振るうための鞘を持たずに戦場に出かけた事を、心から悔いて。
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