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165.夏は色んな人の色んな関係が変化する

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 「凛て清香ちゃんにはいっつもああなの!? よく耐えられるね!?」

 蓮さん、凛、そして唯が出発した後……そう声を荒げる一輝。

 「……私は家柄も能力もイマイチでありながら、選んで頂いた立場ですから」

 対する斎藤の答えは相変わらず。
 黙々と皿をすすぐ姿からは、まるで不満が無いとは思えないけれど。

 「何言ってんの! 清香ちゃんは美しくて真面目で、超がつく良い子じゃない! 凛なんかにはもったいない位! 何なら今から俺に乗り換えない!? あんなモラハラ男なんかポイしてさ!」

 どこまで本気なのかわからん一輝の言葉を『ありがとうございます』と愛想笑いで受け流す斎藤。

 「斎藤……家柄とか立場を考える気持ちもわかるけど……結婚したら、あれが何十年と続くんだぞ? ある意味、飛鳥家を敵にまわすよりもキツイ人生になるかもしれない。本当にいいのか?」

 「いいも悪いも……私には凜さんの悪意を受け止める義務があります。中等部の頃、弓道部の先輩として厳しくし過ぎた私に……凜さんは復讐をしているんだと思いますから」

 「「復讐?」」

 思いもよらぬ言葉に、一輝と顔を見合わせてしまう。

 「私は部長として、遅刻、サボリの常習犯である凛さんを、いつも叱ってばかりいました。休日に飛鳥のお屋敷に乗り込んで、警備員さんに警察に通報された事もあります」

 警察……。さすがは斎藤部長。期待を裏切らないまっすぐさだ。

 「その仕返しに、清香ちゃんに辛く当たってるって事? この歳になって? どんだけ幼稚なんだあいつは」

 「それだけ辛かったんだと思います。多感な時期に毎日叱られて……私は、凛さんのプライドや、自己肯定感を傷付けてしまった責任を、取らなければいけないんです」

 てきぱきと皿を片付ける斎藤の言葉には、覚悟を感じる。
 それは強くて、頑なで……けれど、影のある決意。
 
 「でも……そう納得しきれてないから、そんな顔してんだろ? やっぱり一度、ちゃんと話し合った方がいいんじゃねぇの」

 「話し合った所で、何も変わりません。こちらから結婚を断るという選択肢はありませんから」

 「それでも……っ。お前の気持ちとか、考えとか……そういうの伝えとかないと、後々後悔するかもしれないぞ」

 何も変わらないかも。それを承知の上での、無責任な提案。なんて事は、わかってるけれど。

 「……仁さんはした事があるんですか? そういう後悔を?」

 「……現在進行形でしてるわ」

 でも、未来形では、しない。

 その為に、ここまで来たんだ。

 ama〇onでこっそり花火を買って。
 線香花火で、どっちの火の玉が先に落ちるか勝負して。
 超いい感じの雰囲気の中、告白しようと、心に決めた。

 「そうですか……。仁さんがそうおっしゃるなら……検討してみます」

 俺の言葉から、本気度を察したらしい斎藤が、小さく頷く。

 この閑静な避暑地で、二組の男女の関係性が、大きく変わるかもしれない。
 そんな予感に、期待と不安を抱きながら……俺は、さっきからニヤニヤ顔が止まらない一輝を、睨みつけるのだった。
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