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131.どこに行くかよりも誰と行くか
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「女子高生と……デート!?」
キッチンで、泡だらけのお皿を落としそうになってしまう唯。
『仕事の事で相談がある』という俺の話が、予想外の内容だったのだろう。
「ああ。だから25日は仕事が終わったらその子に付き合って、その後に八雲製薬会長の孫のパーティーに行くから……帰りは遅くなりそうで。いいかな?」
「勿論。お夕飯はどうしよう? お仕事でパーティーに出ても殆ど食事とれないよね? 私も夜には帰ってると思うから、その時何か軽いもの作ろうか?」
「……うん、ありがとう」
夜には帰る……。やっぱり今年も当然のように一人でどこかへ出かける予定なんだ。
いや今年は蓮さんと一緒? 気になる。でも今はまず、仕事の話だ。
「で、唯に相談したいのはデートプランの事でさ。先方は、セレブなデートプランをご所望なんだけど……」
「それは私じゃあまり参考に……ああそっか。仁ちゃんはセレブな彼女とセレブなデートしかしてこなかったから、逆に何がセレブで何がセレブじゃないか、わからないって事か」
う。笑顔で俺の逆コンプレックスを突いてくる、可愛い奥さん。
「そうなんだよ。……で、唯は蓮さんとどんなデートしてたかなって。蓮さんが飛鳥社長の息子だって知らなかったって事は、普通のデートをしてたんだよな?」
仕事にかこつけてさりげな~く、二人の仲を、探る。
「普通……と言っていいのか……私はとにかくお金が無かったからさ。映画見に行ったり遊園地行ったり、そういうのは出来なくて」
「蓮さん、俺が出すよ~とはならなかったの?」
「言ってくれたけど……それはダメじゃない。二人で楽しむ為のお金を、相手にだけ負担してもらうなんて」
ああ、そういう所。唯のそういう所に心底魅力を感じてしまう。
いかに男に金を出させるか。そこに雌としての価値があると勘違いしている女共に囲まれてた男としては。
「だからね、山手線に乗りっぱなしデートとか、してた」
「え? 山手線?」
「うん。目的地を設定しないで、ひたすらグルグル……」
なんっじゃそりゃ。予想の斜め上を行く回答に、戸惑う。
「あとは……体育館でバトミントンをしたり。キッチンスタジオを借りてお弁当を作って、公園でピクニックしたり。どっちも公共の施設だとね、何百円とかで使えるから」
そうか、謎が解けた。
超絶お坊ちゃんの蓮さんがどうしてリンゴの皮むけんの? とか、地味に気になってたんだけど。
蓮さんは、唯とのデートで色んな『普通』を習得して行ったんだ。
きっと……唯と、同じ事を同じ温度で楽しむ為に。
「やっぱり私の話じゃ参考にならないね」
「いや……唯は、楽しかった? そういうデート」
「……うん」
少し照れくさそうにはにかむ唯が、可愛い。
でも、ものすごく悔しくて、切ない。
「結局……どんなデートかより、誰とのデートか、が大事なんだよな……」
多分俺だって……唯となら、永遠に山手線をグルグルしていられる。
「だね。結局参考にならない話をしてしまって、ごめんね?」
「なんで唯が謝るんだよ。ちゃんと参考になったって。でも……そうなると、ますます難しいよな。恋人同士でも無い相手を、満足させるデート……うーん……。そもそも、クリスマスに校学したくないとか、クリスマスだからデートしたいとか。カトリックでも無いのに、そこまでクリスマスにこだわる気持ちがわからねぇな」
「……私は……わかるような気がするけどな。やっぱり、特別な日だから……」
食器をすすぐ手を止めて、寂しそうにそう言う、唯。
「唯?」
「あ、さっきもチラっと言ったんだけど。私も例年通り、クリスマスは出掛ける予定があるんだ。もし、急遽早めにお夕飯いる! ってなっても、対応出来ないかもなんだけど……いいかな?」
気になるのは、夕飯じゃない。
誰と、どこで、何をするのか、なんだけど。聞けない。
「あ……ああ、全然、そんなん気にしないで」
適当な受け答えだけをして、ピカピカになった皿を唯から受け取り、布巾で拭う。
「それより、帰りが遅くなりそうなら、タクシー使えよ? 夜道を一人で歩くとか、心配だから。よければ、俺が迎えに行くし」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。今年は蓮ちゃんと行く予定で……帰りは送ってくれるって言ってたから、甘えさせてもらおうかと」
「は?」
相槌が、急に攻撃的なものになってしまう。
「え、待って、蓮さんも一緒なの? 今までもそうしてたの?」
「ううん、連絡を取り始めたのは最近だもん。今年は一緒に過ごしたいって言ってくれてね。私の予定に付き合ってもらう感じで、一緒に行く事にしたの」
え、なにそれなにそれ。
そりゃあ俺は、恋人解禁宣言とかしちゃったけど。蓮さんと今後も会っていいとか言っちゃったけど。
だからってソッコー、クリスマスに約束するとか。これはもう……唯の気持ち、確定なんじゃ?
「あの唯、確認なんだけど。嫌だとかダメだとかじゃなく、単なる確認なんだけど。唯はその……今でも蓮さんの事が好き……なの?」
「勿論! 大好きだよ!」
冬だというのに、ひまわりな笑顔で発せられた、大好き宣言。
俺の心は、一気に撃沈した。
「そ……そうなん」
「あ、あ、でもね、違うよ? 異性としての好きじゃないの! 私と蓮ちゃんが恋人同士になる事は、もう絶対絶対、あり得ないから」
「……へえ……?」
あの、男としての魅力を結晶化させたような蓮さんを、異性として好きじゃない?
じゃあ何として好きなの?
謎過ぎる妻の発言に……俺の中に、ある疑惑が生まれたのだった。
キッチンで、泡だらけのお皿を落としそうになってしまう唯。
『仕事の事で相談がある』という俺の話が、予想外の内容だったのだろう。
「ああ。だから25日は仕事が終わったらその子に付き合って、その後に八雲製薬会長の孫のパーティーに行くから……帰りは遅くなりそうで。いいかな?」
「勿論。お夕飯はどうしよう? お仕事でパーティーに出ても殆ど食事とれないよね? 私も夜には帰ってると思うから、その時何か軽いもの作ろうか?」
「……うん、ありがとう」
夜には帰る……。やっぱり今年も当然のように一人でどこかへ出かける予定なんだ。
いや今年は蓮さんと一緒? 気になる。でも今はまず、仕事の話だ。
「で、唯に相談したいのはデートプランの事でさ。先方は、セレブなデートプランをご所望なんだけど……」
「それは私じゃあまり参考に……ああそっか。仁ちゃんはセレブな彼女とセレブなデートしかしてこなかったから、逆に何がセレブで何がセレブじゃないか、わからないって事か」
う。笑顔で俺の逆コンプレックスを突いてくる、可愛い奥さん。
「そうなんだよ。……で、唯は蓮さんとどんなデートしてたかなって。蓮さんが飛鳥社長の息子だって知らなかったって事は、普通のデートをしてたんだよな?」
仕事にかこつけてさりげな~く、二人の仲を、探る。
「普通……と言っていいのか……私はとにかくお金が無かったからさ。映画見に行ったり遊園地行ったり、そういうのは出来なくて」
「蓮さん、俺が出すよ~とはならなかったの?」
「言ってくれたけど……それはダメじゃない。二人で楽しむ為のお金を、相手にだけ負担してもらうなんて」
ああ、そういう所。唯のそういう所に心底魅力を感じてしまう。
いかに男に金を出させるか。そこに雌としての価値があると勘違いしている女共に囲まれてた男としては。
「だからね、山手線に乗りっぱなしデートとか、してた」
「え? 山手線?」
「うん。目的地を設定しないで、ひたすらグルグル……」
なんっじゃそりゃ。予想の斜め上を行く回答に、戸惑う。
「あとは……体育館でバトミントンをしたり。キッチンスタジオを借りてお弁当を作って、公園でピクニックしたり。どっちも公共の施設だとね、何百円とかで使えるから」
そうか、謎が解けた。
超絶お坊ちゃんの蓮さんがどうしてリンゴの皮むけんの? とか、地味に気になってたんだけど。
蓮さんは、唯とのデートで色んな『普通』を習得して行ったんだ。
きっと……唯と、同じ事を同じ温度で楽しむ為に。
「やっぱり私の話じゃ参考にならないね」
「いや……唯は、楽しかった? そういうデート」
「……うん」
少し照れくさそうにはにかむ唯が、可愛い。
でも、ものすごく悔しくて、切ない。
「結局……どんなデートかより、誰とのデートか、が大事なんだよな……」
多分俺だって……唯となら、永遠に山手線をグルグルしていられる。
「だね。結局参考にならない話をしてしまって、ごめんね?」
「なんで唯が謝るんだよ。ちゃんと参考になったって。でも……そうなると、ますます難しいよな。恋人同士でも無い相手を、満足させるデート……うーん……。そもそも、クリスマスに校学したくないとか、クリスマスだからデートしたいとか。カトリックでも無いのに、そこまでクリスマスにこだわる気持ちがわからねぇな」
「……私は……わかるような気がするけどな。やっぱり、特別な日だから……」
食器をすすぐ手を止めて、寂しそうにそう言う、唯。
「唯?」
「あ、さっきもチラっと言ったんだけど。私も例年通り、クリスマスは出掛ける予定があるんだ。もし、急遽早めにお夕飯いる! ってなっても、対応出来ないかもなんだけど……いいかな?」
気になるのは、夕飯じゃない。
誰と、どこで、何をするのか、なんだけど。聞けない。
「あ……ああ、全然、そんなん気にしないで」
適当な受け答えだけをして、ピカピカになった皿を唯から受け取り、布巾で拭う。
「それより、帰りが遅くなりそうなら、タクシー使えよ? 夜道を一人で歩くとか、心配だから。よければ、俺が迎えに行くし」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。今年は蓮ちゃんと行く予定で……帰りは送ってくれるって言ってたから、甘えさせてもらおうかと」
「は?」
相槌が、急に攻撃的なものになってしまう。
「え、待って、蓮さんも一緒なの? 今までもそうしてたの?」
「ううん、連絡を取り始めたのは最近だもん。今年は一緒に過ごしたいって言ってくれてね。私の予定に付き合ってもらう感じで、一緒に行く事にしたの」
え、なにそれなにそれ。
そりゃあ俺は、恋人解禁宣言とかしちゃったけど。蓮さんと今後も会っていいとか言っちゃったけど。
だからってソッコー、クリスマスに約束するとか。これはもう……唯の気持ち、確定なんじゃ?
「あの唯、確認なんだけど。嫌だとかダメだとかじゃなく、単なる確認なんだけど。唯はその……今でも蓮さんの事が好き……なの?」
「勿論! 大好きだよ!」
冬だというのに、ひまわりな笑顔で発せられた、大好き宣言。
俺の心は、一気に撃沈した。
「そ……そうなん」
「あ、あ、でもね、違うよ? 異性としての好きじゃないの! 私と蓮ちゃんが恋人同士になる事は、もう絶対絶対、あり得ないから」
「……へえ……?」
あの、男としての魅力を結晶化させたような蓮さんを、異性として好きじゃない?
じゃあ何として好きなの?
謎過ぎる妻の発言に……俺の中に、ある疑惑が生まれたのだった。
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