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127.喧嘩後の対応で相手の本質を見抜きたい
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「また……ドラマみたいな事をしてしまった……」
マンションを出た所で一人、呟く。
喧嘩をして家を飛び出すなんて、初めてだ。
というか、いくらドラマの中とはいえ……何の準備もなく外に出ても、何もできないよね?
鍵がないから家にも帰れない。
お財布が無いからホテルに泊まる事も出来ない。
スマホはかろうじてエプロンのポケットに入っているけれど……。
「こんな時、電話できる相手もいないしな……」
スマホのメッセージアプリの、友達リストを確認する。
大園さん……に話すには、事情が込み入り過ぎてる。
蓮ちゃん……は事情を知っているものの、自分が原因で私が家出したなんて知ったら、心を痛めるだろう。
斎藤さん……はそもそも夫の部下であって。私が頼るべき相手じゃ無い。
お父さんとお母さん……には、心配をかけちゃうから絶対に言えないし。
「交友関係が、わずかすぎる……」
スワイプ無しで全友達が表示される画面に、ため息しか出ない。
どうしよう。ルームウェアにエプロンという薄着のせいもあって、どんどん寒くなってきた。
仁ちゃんに電話して、家に帰る……事も物理的には出来るけど。
したくない。いくら仁ちゃんでも、蓮ちゃんをクズ呼ばわりしたのは、許せない。
「すごい、大きな声出しちゃった……」
自分にも、そういう一面があるんだな。なんて、我ながら驚いた。
しかも、鞄を投げつけるというドメスティックバイオレンスな行為にまで及んでしまうなんて。
「仁ちゃんも驚いただろうな……」
というか、呆れちゃったかな。
仁ちゃんは多分、昔蓮ちゃんが私に嫌な想いをさせたと思っていて。そんな蓮ちゃんとこれからも会いたいなんて言う私を、心配してくれて。
なのに……
「いやいや、私はちゃんと説明しようとしたもん。なのに仁ちゃんはろくに話もきいてくれなくて」
一人、バス停につづく一本道を歩きながら首を振る。
そういえば、打ち上げの時もそうだった。あの時は蓮ちゃんの説明もアレだったけど。
どうして? 仁ちゃんて本来、クールで落ち着きある性格だよね? なのに、この前といい今日といい、どうしてあんな……
「やっぱり、蓮ちゃんが嫌いだから? 感情が乱れまくっちゃう位?」
そうかな。うん、そうなんだろうけど。
そもそも、あんなに優しい蓮ちゃんを、なんでそこまで嫌うんだろう?
私の知らない所で、二人に何があったの?
「あ……私も、何も知らないくせに……あんな事言っちゃったんだ」
そう気づいた瞬間、猛烈な罪悪感が襲ってきて。
私は速足で、今歩いてきた道を戻り始めた。
すると……正面から誰かが、大きな何かを持って、走って来るのが見えて。
「唯っ!」
「えっ」
誰か、は、仁ちゃんだった。
コロコロするタイプの旅行トランクと、私のコートを、抱えた。
「よかった……っ、遠くに行ってなくて……」
「あ、う、うん」
追いかけて来てくれた……のかな? それにしたって、このトランクは?
「俺の顔見たくないなら、俺が出て行くから。唯は家に帰って」
言いながら、私の肩にコート掛けてくれる仁ちゃん。
「そん……だって、仁ちゃんは?」
「俺はどうとでもなる。最低限の荷物は詰めたし。ホテルでも、一輝んちでも。でも唯は……寒いし、危ない。もう暗いから」
仁ちゃんは白い吐息を吐きながら、私の手に家の鍵を握らせてくれた。
その手が、外を歩いていた私以上に冷たくて。
なんだか……目がウルウルして来た。
「ご、ごめんなさい、私……DVまでしちゃったのに……こんな……」
「DV? ああ、鞄……。いや……俺も、怒鳴ったのは悪かった。怖かったよな。ごめん」
「仁ちゃん……」
「……でも、蓮さんをクズ呼ばわりした事は謝らない。どんな事情があれ、唯の能力を買った奴は皆クズだ。その気持ちは変えられない」
ああやっぱり……そうだよね。
仁ちゃんは私の事を思って……蓮ちゃんに怒ってくれたんだよね。
「でも唯にとって蓮さんが大事な人だってのはわかった。大事な人をクズって言う男の顔なんて、見たくないだろ? だから……しばらく俺は」
「ねえ仁ちゃん、話しを……ちゃんとしない? 私達、お互いに知らな過ぎると思うんだ。それぞれが、蓮ちゃんと何があったのか」
知って、どうなるかは分からない。
変わらないかも。悪化するかも。でも――
「私達、夫婦……でしょ?」
「……うん」
分かり合えるチャンスが少しでもあるなら、チャレンジしたい。
形ばかりの夫婦だけれど、でもそれでも、一緒に生きていくと誓ったんだから。
マンションを出た所で一人、呟く。
喧嘩をして家を飛び出すなんて、初めてだ。
というか、いくらドラマの中とはいえ……何の準備もなく外に出ても、何もできないよね?
鍵がないから家にも帰れない。
お財布が無いからホテルに泊まる事も出来ない。
スマホはかろうじてエプロンのポケットに入っているけれど……。
「こんな時、電話できる相手もいないしな……」
スマホのメッセージアプリの、友達リストを確認する。
大園さん……に話すには、事情が込み入り過ぎてる。
蓮ちゃん……は事情を知っているものの、自分が原因で私が家出したなんて知ったら、心を痛めるだろう。
斎藤さん……はそもそも夫の部下であって。私が頼るべき相手じゃ無い。
お父さんとお母さん……には、心配をかけちゃうから絶対に言えないし。
「交友関係が、わずかすぎる……」
スワイプ無しで全友達が表示される画面に、ため息しか出ない。
どうしよう。ルームウェアにエプロンという薄着のせいもあって、どんどん寒くなってきた。
仁ちゃんに電話して、家に帰る……事も物理的には出来るけど。
したくない。いくら仁ちゃんでも、蓮ちゃんをクズ呼ばわりしたのは、許せない。
「すごい、大きな声出しちゃった……」
自分にも、そういう一面があるんだな。なんて、我ながら驚いた。
しかも、鞄を投げつけるというドメスティックバイオレンスな行為にまで及んでしまうなんて。
「仁ちゃんも驚いただろうな……」
というか、呆れちゃったかな。
仁ちゃんは多分、昔蓮ちゃんが私に嫌な想いをさせたと思っていて。そんな蓮ちゃんとこれからも会いたいなんて言う私を、心配してくれて。
なのに……
「いやいや、私はちゃんと説明しようとしたもん。なのに仁ちゃんはろくに話もきいてくれなくて」
一人、バス停につづく一本道を歩きながら首を振る。
そういえば、打ち上げの時もそうだった。あの時は蓮ちゃんの説明もアレだったけど。
どうして? 仁ちゃんて本来、クールで落ち着きある性格だよね? なのに、この前といい今日といい、どうしてあんな……
「やっぱり、蓮ちゃんが嫌いだから? 感情が乱れまくっちゃう位?」
そうかな。うん、そうなんだろうけど。
そもそも、あんなに優しい蓮ちゃんを、なんでそこまで嫌うんだろう?
私の知らない所で、二人に何があったの?
「あ……私も、何も知らないくせに……あんな事言っちゃったんだ」
そう気づいた瞬間、猛烈な罪悪感が襲ってきて。
私は速足で、今歩いてきた道を戻り始めた。
すると……正面から誰かが、大きな何かを持って、走って来るのが見えて。
「唯っ!」
「えっ」
誰か、は、仁ちゃんだった。
コロコロするタイプの旅行トランクと、私のコートを、抱えた。
「よかった……っ、遠くに行ってなくて……」
「あ、う、うん」
追いかけて来てくれた……のかな? それにしたって、このトランクは?
「俺の顔見たくないなら、俺が出て行くから。唯は家に帰って」
言いながら、私の肩にコート掛けてくれる仁ちゃん。
「そん……だって、仁ちゃんは?」
「俺はどうとでもなる。最低限の荷物は詰めたし。ホテルでも、一輝んちでも。でも唯は……寒いし、危ない。もう暗いから」
仁ちゃんは白い吐息を吐きながら、私の手に家の鍵を握らせてくれた。
その手が、外を歩いていた私以上に冷たくて。
なんだか……目がウルウルして来た。
「ご、ごめんなさい、私……DVまでしちゃったのに……こんな……」
「DV? ああ、鞄……。いや……俺も、怒鳴ったのは悪かった。怖かったよな。ごめん」
「仁ちゃん……」
「……でも、蓮さんをクズ呼ばわりした事は謝らない。どんな事情があれ、唯の能力を買った奴は皆クズだ。その気持ちは変えられない」
ああやっぱり……そうだよね。
仁ちゃんは私の事を思って……蓮ちゃんに怒ってくれたんだよね。
「でも唯にとって蓮さんが大事な人だってのはわかった。大事な人をクズって言う男の顔なんて、見たくないだろ? だから……しばらく俺は」
「ねえ仁ちゃん、話しを……ちゃんとしない? 私達、お互いに知らな過ぎると思うんだ。それぞれが、蓮ちゃんと何があったのか」
知って、どうなるかは分からない。
変わらないかも。悪化するかも。でも――
「私達、夫婦……でしょ?」
「……うん」
分かり合えるチャンスが少しでもあるなら、チャレンジしたい。
形ばかりの夫婦だけれど、でもそれでも、一緒に生きていくと誓ったんだから。
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