上 下
114 / 273

114.悪夢

しおりを挟む
 『ねえ、唯子ってね。勝利の女神様の血統種なんですって』

 『あなたのキスにはね、人に勝利と栄光をもたらす力……とやらがあるらしいの』

 『だから……キス以上の事なら、もっと……ね?』


 うちはいつも貧乏だった。ママはいつも疲れてた。
 亜種である私のせいで、まともな仕事につけなくて。

 だから……私がお金を稼げるなら、頑張りたいと思ったんだ。

 でも――。



 「きゃああ!! いや!! やっぱり無理!」 

 「え!? ちょ」

 体に覆いかぶさられた時、私は急に怖くなった。

 「離して離して!!」

 「どうした!? 大丈夫か!?」

 すごい力で押さえつけられて、跳ねのけようとしても、かなわない。

 「ママ! 助けてママ! ママ―!!!」

 「……唯……っ!!」


 大きな声で名前を呼ばれ……ハッとした。


 「じ……んちゃ……」

 「うん、俺だから……! 大丈夫だから!」

 乱れた息づかい。静かな部屋に響く。

 「あ、れ……? ここ……?」

 「唯の部屋だよ。俺達の、家」

 「あ……あの男の人は……」

 「いない。俺と唯だけ」
 
 目の前には、心配そうな仁ちゃんの顔。
 気が付くと、涙があふれていた。
 
 そんな私を、強く抱きしめてくれる仁ちゃん。
 
 「ご、ごめ……夢、変な夢みちゃって……っ」

 「うん。いいんだよ。怖い夢だったんだな。熱のせいかな」

 私を抱きしめたまま、ゆっくりと頭を撫でてくれる仁ちゃん。
 なんだか、余計に泣けて来てしまう。

 「わ……私、どうしていつまでも……もう何年も前の話なのに」

 「それだけ辛いな想いをしたんだ。当たり前だよ」

 「う……っ、ママを……呼んだの。初めての時……でも、でも来てくれなくて……」

 「俺は、行くから。唯が呼んでくれたら、いつでもどこでも、必ず行くから」

 「仁ちゃん……っ」

 仁ちゃんの背中に手を回して、きつく抱きしめる。
 大きくて、逞しくて、温かくて……キレイ。それが、仁ちゃんという存在なのに。

 「ごめんね……キレイな仁ちゃんに……こんな……汚れてる私を抱きしめさせて……ごめんね」

 少しの濁りも無い泉に、泥んこのまま飛び込むような、罪悪感。
 
 仁ちゃんは、体を離し、少し怒ったような顔で私を見つめた。

 「唯は、キレイだよ。誰よりも何よりも。だから……キレイな唯を汚そうとする奴が現れたら、殺す。今度こそ絶対に……殺す」

 「…………犯罪者には、なってほしくないよ……」

 私の言葉に、吐息だけ笑ってから……仁ちゃんはもう一度、私を抱きしめてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...