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96.俺がいないとダメだな、と言ってる側が、ホントは相手がいないとダメ
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「げ……っ」
思わず、声を漏らしてしまう。
競技場外の、ロータリー。
そこに泊まっている黒塗りセダンの傍らで……一緒にいる唯と一輝を見つけたから。
「唯!」
「仁ちゃん?」
焦って駆け寄る俺から、バツが悪そうに目をそらす一輝。
「よかった……電話しても出ないから……何かあったのかって……」
「へ? あっ、ごめんね!? マナーにしてて、気付かなかった!」
「大丈夫、そういうことなら、よかった」
と言いながら……チラリと一輝を見る。
すると一輝も同じく俺をチラ見した所だったようで、ばっちり目が合ってしまった。
「あ……ええと、一輝」
「やばかったね。借り物の仁。今年のMWPなんじゃないの?」
遠慮がちに話す俺に反し、容赦なく痛い所を突いてくる。
「うるせーな。もう選ばれたよ、人事部の中では、すでに」
「ふふ、うける~。まぁでも……人気集めには成功したんじゃない? あの愛妻家パフォーマンス」
「パフォーマンスじゃねぇわ」
「……だね。ああいう事、自然に仁にやらせちゃうんだもんね、この小娘は。ねぇ?」
「あっ、私ですか!?」
俺達のやりとりを固唾を飲んで見守っていたのに。突然会話に引きずれ込まれて、驚く唯。
「何されても仁に尽くせってさ。自分の旦那がボコった相手に、普通そんなこと言う?」
「す、すいません! でも私、そんな言い方は……」
「俺、こんなんだけど、ハデスよ? 人が目を背けたくなるような仕事、山程してきた広報部のダークホースよ? そんな冥府の王相手に、マジで無礼。マジで怖いもの知らず。この夫にしてこの妻ありだわ」
唯があたふたと謝罪しているにも関わらず、好き勝手いう一輝。
さすがに……と思って、口を挟もうとしたのだけれど。そんな俺を制するように、一輝は笑った。
「しょーもない夫婦だよ。やっぱダメだわ。俺が面倒みてあげないと、ね」
「一輝……」
いつもの、チャラ男スマイルとは違う……どこか達観したような、大人びた笑顔。
「一輝さん……! ありがとうごさいます!」
「でも勘違いしないでよ唯ちゃん? 俺、亜種は嫌いなままだからね?」
「全然いいです! AK〇システムで、仁ちゃんさえ愛して頂ければ!」
「ちょっと待って、AK〇システムってなに?」
「そりゃあ、俺と唯ちゃんのヒミツ! ね~?」
「ふふ、はい! ね~!」
なんだこの二人は。仲が良いのか悪いのか?
わからない。わからないけど……なんだか二人とも穏やかな顔をしているから……今その部分を白黒つける必要は無いだろう。
「一輝……は、帰るトコだったのか?」
「うん、仁は? 人事部の打ち上げいくの?」
「ああ。MWPが逃げるわけにはいかねぇからな」
「ん~、じゃあ俺も、人事のやつ行こっかな。唯ちゃんも行くっしょ? 粗相が無いよう見張らなきゃ」
「え? いえ私は……」
「あ、岡崎さん他多数の希望で……迷惑じゃなければ、唯にも来てもらえると助かる」
「いいの? 私なんかがお邪魔」
「だから~、そういうのがうざいんだって!」
「おい一輝」
「あ、あ、なるほどっ、気を付けます!」
全くの元通り……にはなってない。一輝は亜種への嫌悪をオープンにし始めたし。
でも……悪態をつきながらも笑い合っている所をみると……唯自身への気持ちには、良い変化が起きたのかも。
「じゃ、一輝は現地向かっててくれ。唯は少し待っててくれるか? 実行委員の片付けが終わったら一緒に……」
そんな、『めでたし、めでたし』的な、心地よい気分を味わっていた時だった。
後ろに停車した、白い車から――あいつが出てきたのは。
思わず、声を漏らしてしまう。
競技場外の、ロータリー。
そこに泊まっている黒塗りセダンの傍らで……一緒にいる唯と一輝を見つけたから。
「唯!」
「仁ちゃん?」
焦って駆け寄る俺から、バツが悪そうに目をそらす一輝。
「よかった……電話しても出ないから……何かあったのかって……」
「へ? あっ、ごめんね!? マナーにしてて、気付かなかった!」
「大丈夫、そういうことなら、よかった」
と言いながら……チラリと一輝を見る。
すると一輝も同じく俺をチラ見した所だったようで、ばっちり目が合ってしまった。
「あ……ええと、一輝」
「やばかったね。借り物の仁。今年のMWPなんじゃないの?」
遠慮がちに話す俺に反し、容赦なく痛い所を突いてくる。
「うるせーな。もう選ばれたよ、人事部の中では、すでに」
「ふふ、うける~。まぁでも……人気集めには成功したんじゃない? あの愛妻家パフォーマンス」
「パフォーマンスじゃねぇわ」
「……だね。ああいう事、自然に仁にやらせちゃうんだもんね、この小娘は。ねぇ?」
「あっ、私ですか!?」
俺達のやりとりを固唾を飲んで見守っていたのに。突然会話に引きずれ込まれて、驚く唯。
「何されても仁に尽くせってさ。自分の旦那がボコった相手に、普通そんなこと言う?」
「す、すいません! でも私、そんな言い方は……」
「俺、こんなんだけど、ハデスよ? 人が目を背けたくなるような仕事、山程してきた広報部のダークホースよ? そんな冥府の王相手に、マジで無礼。マジで怖いもの知らず。この夫にしてこの妻ありだわ」
唯があたふたと謝罪しているにも関わらず、好き勝手いう一輝。
さすがに……と思って、口を挟もうとしたのだけれど。そんな俺を制するように、一輝は笑った。
「しょーもない夫婦だよ。やっぱダメだわ。俺が面倒みてあげないと、ね」
「一輝……」
いつもの、チャラ男スマイルとは違う……どこか達観したような、大人びた笑顔。
「一輝さん……! ありがとうごさいます!」
「でも勘違いしないでよ唯ちゃん? 俺、亜種は嫌いなままだからね?」
「全然いいです! AK〇システムで、仁ちゃんさえ愛して頂ければ!」
「ちょっと待って、AK〇システムってなに?」
「そりゃあ、俺と唯ちゃんのヒミツ! ね~?」
「ふふ、はい! ね~!」
なんだこの二人は。仲が良いのか悪いのか?
わからない。わからないけど……なんだか二人とも穏やかな顔をしているから……今その部分を白黒つける必要は無いだろう。
「一輝……は、帰るトコだったのか?」
「うん、仁は? 人事部の打ち上げいくの?」
「ああ。MWPが逃げるわけにはいかねぇからな」
「ん~、じゃあ俺も、人事のやつ行こっかな。唯ちゃんも行くっしょ? 粗相が無いよう見張らなきゃ」
「え? いえ私は……」
「あ、岡崎さん他多数の希望で……迷惑じゃなければ、唯にも来てもらえると助かる」
「いいの? 私なんかがお邪魔」
「だから~、そういうのがうざいんだって!」
「おい一輝」
「あ、あ、なるほどっ、気を付けます!」
全くの元通り……にはなってない。一輝は亜種への嫌悪をオープンにし始めたし。
でも……悪態をつきながらも笑い合っている所をみると……唯自身への気持ちには、良い変化が起きたのかも。
「じゃ、一輝は現地向かっててくれ。唯は少し待っててくれるか? 実行委員の片付けが終わったら一緒に……」
そんな、『めでたし、めでたし』的な、心地よい気分を味わっていた時だった。
後ろに停車した、白い車から――あいつが出てきたのは。
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