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49.大勢に囲まれると問答無用に緊張するのは多勢に無勢と本能でわかっているから
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「では……第一回社内運動会実行委員会を開会します」
お誕生日席的位置に座する社員が、そう宣言したのを聞いて、安堵のため息を吐いてしまう。
「よかった……いきなりこんなデカい会議室に連れて来られて、他の社員もゾロゾロ入って来て……何されるのかと思いましたよ」
「ごめんごめん。実行委員の初の集まりが今日だって、仁君に言い忘れててさ。ちょうど伝えに行くとこだったのよ。そしたらなんか揉めてる感じじゃない? でもとりあえず連れて行かないと遅刻するわ~と思って。連行しちゃった」
てへっ。と、舌を出す岡崎さん。年甲斐も無い仕草を、ネタ的に放り込んで来る。
俺が無駄に緊張しているのに気付いていながら、すぐに事情を説明してくれなかった事に腹が立たない訳じゃないない。けれど文句は言わないでおこう。斎藤との不毛な諍いを切り上げさせてくれた事は感謝ポイントだし。
「岡崎さん。そう言った連絡は失念無きようお願い致します。クライアントとのアポとブッキングしてしまったら一大事です」
「だから謝ってるじゃない。そうなったら、私だけで出るつもりだったのよ。前年の実行委員だったから、初回は引き継ぎも兼てどうせ出席しなきゃだったし」
さすが岡崎さん。人の神経を逆撫でる天才である斎藤相手にも、サラリとした受け答え。
当の斎藤は未だ不満気な表情を浮かべてはいるが。
「そんなわけで、今は会議に集中ね。何揉めてたか知らないけど、続きは後でやって」
「……はい」
揉めてたというより、一方的に無礼を働かれてたって感覚なんだけど。俺的には。
でも、やはり岡崎さんが来てくれて丁度良かったんだろう。あのまま言い合いを続けてたら、俺はハラスメントワードを連発してしまっていただろうから。
俺はまだまだ、修行が足りないな。唯の事となるとつい、カッとなってしまって。
感情的言動が原因でトラブルになれば、結果として唯に心配をかけてしまうんだから、自重しなければ。
「ええ、ではまず役割分担ですが。お手元の資料12ページをご覧下さい。委員長の私と、前年度委員さんとで話し合いまして、あらかじめ割り振らせてもらってます。各委員の参加競技に支障がないよう、配慮した結果ですが、不都合のある方は申し出て下さい」
実行委員長の言葉に従い、配付された冊子をパラパラとめくっていく。
そこには、各種業務と、その担当となる委員の氏名が記載された一覧表が載っていて。
「げ……っ」
それを見て、思わず小学生男子のような声を漏らしてしまう。
「仁さんは、騎馬戦の審判になっていますね」
「ふふ。そりゃあ、げ! って言いたくもなるわよね。騎馬戦は全種目の中でも超殺伐とした競技だし。審判ていうか、競技参加者同士が殺し合わない為のストッパーみたいなものだもん。まぁ、SSSの仁君になら安心して任せられるって委員長たちも考え」
「いや、違うんす。そこじゃなくて……」
慌てて、視線を会議室中に巡らせる。
すると……目が、合った。
長方形のように配置された長机と、数メートルの空間を挟んで、俺の斜め前あたりに座っている、奴。
大学生かよとツッコミたくなるような、ベビーフェイスの男性社員と。
「凛……」
口から零れた、そいつの名前。
それに気付いたのか、『げっ』の原因はにっこりと微笑んだ。
その笑顔を見て、眉間に皺を寄せながら……もう一度、担当業務一覧表を目でなぞる。
『騎馬戦審判・飛鳥仁、飛鳥凜』
残念ながら、読み間違えではないようだ。
ああ、今日は嫌な事が続く。
唯と過ごした幸せ時間のお陰で一気に貯まったハッピー貯金が、容赦なく削られて行くストレス……。
思わず深いため息を吐きたくなったけれど……あれだけ嬉しい言動を唯から頂戴したからこそ、これ程度の負の事象が起こらなければ、人生の均衡を保てないのかもしれない。
そう無理矢理自分に言い聞かせて、俺は分厚い冊子を読み込むのだった。
お誕生日席的位置に座する社員が、そう宣言したのを聞いて、安堵のため息を吐いてしまう。
「よかった……いきなりこんなデカい会議室に連れて来られて、他の社員もゾロゾロ入って来て……何されるのかと思いましたよ」
「ごめんごめん。実行委員の初の集まりが今日だって、仁君に言い忘れててさ。ちょうど伝えに行くとこだったのよ。そしたらなんか揉めてる感じじゃない? でもとりあえず連れて行かないと遅刻するわ~と思って。連行しちゃった」
てへっ。と、舌を出す岡崎さん。年甲斐も無い仕草を、ネタ的に放り込んで来る。
俺が無駄に緊張しているのに気付いていながら、すぐに事情を説明してくれなかった事に腹が立たない訳じゃないない。けれど文句は言わないでおこう。斎藤との不毛な諍いを切り上げさせてくれた事は感謝ポイントだし。
「岡崎さん。そう言った連絡は失念無きようお願い致します。クライアントとのアポとブッキングしてしまったら一大事です」
「だから謝ってるじゃない。そうなったら、私だけで出るつもりだったのよ。前年の実行委員だったから、初回は引き継ぎも兼てどうせ出席しなきゃだったし」
さすが岡崎さん。人の神経を逆撫でる天才である斎藤相手にも、サラリとした受け答え。
当の斎藤は未だ不満気な表情を浮かべてはいるが。
「そんなわけで、今は会議に集中ね。何揉めてたか知らないけど、続きは後でやって」
「……はい」
揉めてたというより、一方的に無礼を働かれてたって感覚なんだけど。俺的には。
でも、やはり岡崎さんが来てくれて丁度良かったんだろう。あのまま言い合いを続けてたら、俺はハラスメントワードを連発してしまっていただろうから。
俺はまだまだ、修行が足りないな。唯の事となるとつい、カッとなってしまって。
感情的言動が原因でトラブルになれば、結果として唯に心配をかけてしまうんだから、自重しなければ。
「ええ、ではまず役割分担ですが。お手元の資料12ページをご覧下さい。委員長の私と、前年度委員さんとで話し合いまして、あらかじめ割り振らせてもらってます。各委員の参加競技に支障がないよう、配慮した結果ですが、不都合のある方は申し出て下さい」
実行委員長の言葉に従い、配付された冊子をパラパラとめくっていく。
そこには、各種業務と、その担当となる委員の氏名が記載された一覧表が載っていて。
「げ……っ」
それを見て、思わず小学生男子のような声を漏らしてしまう。
「仁さんは、騎馬戦の審判になっていますね」
「ふふ。そりゃあ、げ! って言いたくもなるわよね。騎馬戦は全種目の中でも超殺伐とした競技だし。審判ていうか、競技参加者同士が殺し合わない為のストッパーみたいなものだもん。まぁ、SSSの仁君になら安心して任せられるって委員長たちも考え」
「いや、違うんす。そこじゃなくて……」
慌てて、視線を会議室中に巡らせる。
すると……目が、合った。
長方形のように配置された長机と、数メートルの空間を挟んで、俺の斜め前あたりに座っている、奴。
大学生かよとツッコミたくなるような、ベビーフェイスの男性社員と。
「凛……」
口から零れた、そいつの名前。
それに気付いたのか、『げっ』の原因はにっこりと微笑んだ。
その笑顔を見て、眉間に皺を寄せながら……もう一度、担当業務一覧表を目でなぞる。
『騎馬戦審判・飛鳥仁、飛鳥凜』
残念ながら、読み間違えではないようだ。
ああ、今日は嫌な事が続く。
唯と過ごした幸せ時間のお陰で一気に貯まったハッピー貯金が、容赦なく削られて行くストレス……。
思わず深いため息を吐きたくなったけれど……あれだけ嬉しい言動を唯から頂戴したからこそ、これ程度の負の事象が起こらなければ、人生の均衡を保てないのかもしれない。
そう無理矢理自分に言い聞かせて、俺は分厚い冊子を読み込むのだった。
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