ゴールデンクラッカー☆大介

泉出康一

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LastChance 『ワンチャンやれる』

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夜、サンパウロ、ビル最上階、広い部屋にて…

モカは右手に刀を、左手に拳銃を持ち、長岡達に向かって歩き始めた。

「アイツ、強いんか…?」
「ハッキリ言って、勝てるビジョンが見えない…それに奴は…」

次の瞬間、モカは一気に距離を詰め斬りかかった。

「他人の心が読める…!!!」

長岡とブレイドは刀をかわした。

「はぁ⁈何やねんそれ⁈」

コードネーム:モカ
『Zoo』のNo.2でかつ最年少。他人の表情や声の調子、身体の些細な動作により、相手の感情・思考・行動を読む事ができる。また、身体能力もずば抜けて高く、ブレイドと同等程度の俊敏さを持つ。

長岡は見えない腕を伸ばし、モカを掴もうとした。
しかし、モカは難なく回避して、長岡に向けて発砲した。

「うぐッ…!!!」

その様子を見て、ペッテイングは驚いた。

「(見えない腕を避けた⁈心が読めるのは本当のようだな…)」

長岡は右脚を撃たれ、床に膝をついた。
すかさず、モカは長岡に斬りかかった。

「『高痴漢技術サワレヤ』!!!」

腕を二本創造し、自分を中心に回転させて、モカの接近を防ごうとした。
しかし、モカはそれを飛んで回避した。
モカは長岡の頭上まで飛び、空中で銃を構えた。
モカが発砲しようとしたその時、ブレイドは空中にいるモカに向けて3本のナイフを投げつけた。
だが、モカは右手の刀でそれらを弾き、左手の拳銃で長岡に発砲した。
銃弾は長岡の左肩を貫通した。

「くッ…そがぁ!!!」

長岡は怯む事なく、見えない腕でモカを殴り飛ばした。

「ッ…」

モカはこの広い部屋の端の方まで吹っ飛んだ。

「大介…!」
「大丈夫や…(アイツ、ガードしやがった…)」

モカは相手の心が読める。それ故、防御で遅れを取ることはないのだ。
モカは受け身を取り、立ち上がった。
その刹那、ブレイドがモカの背後に周り、ナイフを突き出した。

「(今だ…ッ!!!)」

しかし、モカは正面を向いたまま、銃を右脇の下に入れ、背後にいるブレイドに向けて発砲した。
弾丸はブレイドの右手に直撃した。
さらにモカは振り返って刀を振るった。

「(まずいッ…!)」

ブレイドはそれを避けよう背後に下がった。
しかし、モカはそれを予知していたかの如く、途中で刀を手から離し、ブレイドへ飛ばした。

「なッ⁈」

モカの飛ばした刀は腹部を貫いた。

「ぐはッ…!!!」

ブレイドは吐血した。
その時、長岡はモカに向けて見えない腕を伸ばした。
しかし、モカはブレイドの腹から刀を抜き取り、腕をかわした。

「(コイツ、バケモンか…!)」

次の瞬間、モカは一気に距離を詰め、長岡に斬りかかった。

「(ヤバいッ!!!)」

モカは心が読める為、長岡が刀を回避できる可能性は極めて低い。その上、長岡は今、脚をやられている。さらに、見えない腕は伸びきっていて、3m以内に戻さなければ2本目の腕も創造できない。

「(ワンチャン殺られる…!!!)」

モカの刀は長岡を捉えた。

「大介!!!」

次の瞬間、辺りに血飛沫が飛んだ。
しかし、それは長岡の血ではなかった。

「お前…」

イザベラが身を挺して長岡を助けたのだ。
急に現れたイザベラにモカは驚いている。

「大介…さん…」

モカは背後に下がった。

「(…油断してた…)」

モカは決して超能力者ではない。心を読む方法は、相手の表情や些細な仕草である。
モカはイザベラを完全に無視していた。故に、イザベラが急に戦闘へ関与してきた事に驚いたのだ。背後に下がったのはこの為である。
心が読めるが故の衝撃。しかし、そんなモカの一瞬の隙を見逃さない男がいた。

「ッ!!!」

ブレイドはモカに斬りかかった。

「ッ…⁈」

モカは不意を突かれ驚いた。が、モカは刀を盾にしてブレイドの斬撃を防いだ。

「ワンチャァァァァァァァア!!!」

次の瞬間、長岡は見えない腕でガイを背後から殴り飛ばした。
モカは部屋の壁に激突した。

「がはッ…!!!」

長岡は両膝をつき、イザベラを抱えた。

「イザベラ!おい!しっかりしろ!」
「ハァ…ハァ…大介…さん…」
「喋るな!」
「ペドロ…は……貴方に…感謝してました…私もです……誰も…貴方のせいだなんて…思って…ない……」
「イザベラ…!!!」
「ありがとう………」

イザベラは息絶えた。

「そんな…こんな事って…」
「くそッ…くそッ!くそッ!!!」

ペッテイングと長岡は、未だかつて感じた事がない程、大きな後悔に苛まれた。
その時、モカは起き上がり、長岡達の元へ歩き始めた。

「くそがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!」

長岡は見えない腕で天井や床を破壊し始めた。

「落ち着け!落ち着くんだ!大介!」

長岡はゆっくり立ち上がった。

「俺は冷静や…アイツ…絶対ぶっ殺したる…!!!」

天井や床を破壊した事で、辺りに砂埃が舞っている。

「(…考えたな…)」

姿が見えなければ、仕草や表情が読めない。砂埃を起こしたのは、モカの心を読む能力を阻害する為だったのだ。

「(意外とクールな奴だ…だがこの程度で、俺の読心術は止められない…!)」

モカは目を閉じ、耳を澄ました。
その時、ブレイドが背後からナイフで斬りかかった。
しかし、モカはそのナイフを回避し、ブレイドの左腕を切断した。

「ゔぐッ…!!!」

モカは足音や風を切る音の情報だけを頼りに、相手が何処にいるか、どのような攻撃を仕掛けてくるかを読んだのだ。
今、ブレイドは左腕を失い、右手は抉れている。とても武器を持てる身体ではない。
モカはそれを理解し、ブレイドにトドメを刺そうとした。

「ッ⁈」

しかし、モカはブレイドから距離を取った。

「(なるほどな。文字通り、全身武器か。)」

なんと、ブレイドの右腕には刃物のような鋭い突起が現れていた。
ブレイドは全身に武器を隠していたのだ。それは服の中だけでなく、身体の中にまで。モカはブレイドの心を読んでそれを知り、反撃を恐れて距離を取ったのだ。

「オプション付きかよ、お前も。」
「ただ強いからって理由で『Zoo』に入れる訳ないだろ。」

次の瞬間、ブレイドはモカに斬りかかった。
しかし、モカは全ての攻撃を回避している。

「まぁ、でも…」

次の瞬間、モカはブレイドの首に刀を突き刺した。

「がッ…!!!」
「何も変わらないがな。」

その時、ブレイドは抉れた右手でモカの刀を強く握った。
モカは何をするかを理解し、刀を手放して背後に飛んだ。それと同時に、ブレイドの口が大きく開いた。
次の瞬間、ブレイドの口から大砲の弾が発射された。

「ッ!!!」

直撃は免れたものの、モカはその爆風により吹き飛ばされた。

「オラァァァ!!!」

モカが着地する寸前、長岡は見えない腕を伸ばし、ビルから殴り飛ばそうとした。
しかし、当然モカはそれを読んでいた。
モカは空中で回転し、見えない腕に乗った。
そのまま見えない腕の上を走り、長岡に襲いかかろうとした。
すると次の瞬間、一機の軍用ヘリがビルの近くに現れ、モカに向けて機関銃を乱射した。

「なッ…⁈」

モカはそれに気づき、寸前で回避した。
ペッテイングと長岡がヘリの方を見る。

「あのヘリは…!」
「植松…⁈」

そう。植松が手助けに来たのだ。

「はは。」

植松は再び、モカに向けて銃を乱射した。

「チッ…」

次の瞬間、モカは跳躍し、ヘリの前方に乗った。
そして、モカは運転席の窓ガラスを破り、手榴弾を置いて、ビルへと戻った。
次の瞬間、ヘリは爆発した。

「植松!!!」

ヘリはそのままビルへと突っ込んだ為、ビルが傾き始め、倒壊が始まった。

「おい!ブレイド!ヤバいぞ!ココは一旦逃げた方が…」

長岡はブレイドの元へ駆け寄った。
しかし、ブレイドはすでに息絶えていた。

「…くそッ…」

するとその時、モカはブレイドのナイフを拾い、長岡に斬りかかって来た。

「どうする大介…戦闘か…退避か。」
「…」

次の瞬間、長岡は床を破壊し、下の階へと降りていった。
モカはその後を追った。

最上階から20階ほど下の階にて…

モカが上の階から降りてきた。
それと同時に、長岡は見えない腕でモカを殴り飛ばした。

「ッ⁈」

モカはビルの外へと吹っ飛ばされた。

「(しまった…!)」

モカは砂埃とビル倒壊の騒音により、読心術がまともに使えずにいた。それ故、長岡の見えない腕を回避する事ができなかったのだ。

「ココまで来て逃げるかよッ!!!」

長岡は傾いたビルの斜面を駆け上った。

「『高痴漢技術サワレヤ』!!!」

長岡は見えない腕を二本創造し、傾いたビルを殴って、更にビルを傾け、倒壊を進めた。
すると、空中に投げ出されたモカに向かって、ビルが勢いよく迫ってきた。
だが、モカは持ち前の運動能力で、倒れてきたビルの中に入り、廊下の壁や瓦礫を伝って、長岡の元まで向かおうとしていた。
しかし、これこそが長岡の狙いだった。
今、モカは狭い通路から壁を蹴って登っている最中である。
そんなモカを、長岡は通路の上から見ている。

「狭い通路やなぁ…」

この時、モカは微かに見えた長岡の表情を見て悟った。

「こんな狭かったら…心読めても避けられへんやろぉぉぉお!!!」

長岡は見えない腕で、狭い通路の中にいるモカに向けて拳を放った。

「ッ…!!!」

ビルを更に傾けたのは、この狭い通路に誘導する為。回避しようの無い場所へ誘い込む為だったのだ。
しかし、モカは壁に脚をかけ、落下を防いだ。
だがその数秒後、ビルは地上に落下し、倒壊した。

地上、瓦礫の山にて…

「ハァ…ハァ…ハァ…」

全身傷だらけのモカが瓦礫の中から現れた。
顔を上げると目の前には長岡とペッテイングの姿があった。

「あんな高い所から…しかも、ビルの下敷きになったってのに…バケモンやな。お前。」
「でも流石にボロボロだね。今なら、心が読めても回避はできないんじゃないかな?」

モカは地面に落ちていたガラス片を拾った。

「往生際の悪い奴や…ッ!!!」

長岡は見えない腕でモカを地面に殴りつけた。

「ワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワチャワチャワチャワチャワチャワチャワチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャ!!!?!?!??!!!」

長岡は見えない腕で何度も何度もモカを殴り続けている。

「ちゃぁぁぁぁぁぁあ!!!?!?!」

長岡はモカにトドメを刺した。

「ワンチャンやれるッ!!!」

サンパウロ、とあるホテルにて…

裏のボス、ボルドビは長岡達が攻めてくる少し前に、例のビルから避難していたのだ。
ボルドビはとある人物と夕食をとっている。

「それで、今日はどのような御用でござりましょうか?」
「…風の噂で聞いたでござる。ボルドビ氏。お主、何やら女人を集めては売り捌いているようでござるな?」
「えぇ。世の中の皆さんに、真の満足を味わって頂く為…」

その時、その相手は声を荒げた。

「恥を知るがいいでござる!!!」
「な⁈か、会長!一体、何を…?」
「真の満足とは!双方の同意の元、心と体に安らぎを与えるモノでなければならない!」

その時、『ちんちん満足の会』と書かれたハチマキをしている者達が現れ、ボルドビを取り押さえた。

「ボルドビ氏。お主には粛清が必要でござる。」
「や、やめてください!で、ござる!俺は…あ、いや!拙者は!!!」
「それと、お主が『ちんちん満足の会』の名前を利用して悪事を働いている件についても、じっくり聞かせてもらうでござる。」

ボルドビはハチマキを巻いた男達に連れ去られていく。

「そ、そんな!嫌だ!許して!許して下さい!会長!!!矢里本やりもと会長ォォォォォォォ~!!!」

ボルドビは連れて行かれた。

「ぬふぅ~…満足とは、難しいものでござるな…桑田くわた氏…」

数日後、病院にて…

長岡とペッテイングがとある病室に入ってきた。

「よ。お見舞いきたぞ。」
「はは。」

植松は奇跡的に助かっていたのだ。

「具合はどうだい?」

ペッテイングが調子を尋ねる。

「僧侶枠やわ。」
「分からん。」

その時、植松は長岡が背負っている大きなリュックに気づいた。

「どっか行くん?」
「あぁ。玉潰しの旅にな。ボルドビの行方も分からんねやろ。」
「…まだやるんか?」
「それが、僕らの使命…いや、目的だからね。」
「そか。」
「じゃあな。植松。また会うやろうけど。」
「それな。」

長岡達は病院を出た。

病院前にて…

「…さて。次は何処へ行く?」
「ヨーロッパの方、まだ行ってへんかったやろ。行かへんか?」
「キミに任せるよ。」
「…おっしゃ!んじゃ、台湾行くか!」
「何で?」

長岡は歩き始めた。

「けど、このペースで世界中の去勢なんて間に合うのかな?」
 「…大丈夫やろ!」
「…ワンチャン、かい?」
「あぁ!ワンチャンやれる!俺らならな!」
「…ホント、キミは変わってるよ。」

彼らは再び、玉潰しの旅へ出た。

「ワンチャンやれる!」





---完---
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