障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第143障『私は』

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〈私は、この家が嫌いだ。〉

四大財閥の世継ぎ。何不自由ない生活。求めずとも与えられた。そして、奪われた。

〈私は、両親が嫌いだ。〉

発達障害の姉を失敗作と言い、家から追い出した。

「お前の結婚相手が決まった。一流企業のエリートだ。」

私の意見も聞かずに、何でも決めつけた。

「初めまして。陽道要です。」

自分で決めていれば、こんなクズと出会う事なんてなかった。

「テメェは俺の物だッ‼︎俺の許可無しで外出するなッ‼︎飯も喰うなッ‼︎仮眠もとるなッ‼︎糞もするなッ‼︎命令通り喘いで媚びてろッ…‼︎」

何度死のうと思った事か。

「お姉ちゃんを頼りなさいな。」

姉だけは私の味方だった。優しい姉が好きだった。

「辛くなったら逃げちゃいなよ。私みたいに。」

同時に、羨ましかった。無垢な子供達に囲まれて、穏やかにひっそりと暮らす生活。私も『先生』って呼ばれたいなあ。

「「はい!先生ッ!」」

嬉しかった。あの二人には悪いが、今思えばあの頃が一番楽しかった。

「この裏切り者ッ…‼︎」

あぁ。そうだ。全部、壊れた。私が壊したんだ。陽道が怖い。『先生』と呼んでくれるあの子たちよりも…ただ…ただ……

〈私は、猪頭秀頼わたしが嫌いだ。〉

【現在…】

猫化したヤブ助の腹を喰い破るインフォイーター。そんな彼の脚にしがみつき、猪頭妹は苦しむヤブ助の姿を眺めていた。涙を流しながら。

「(アァ…マタ壊レル……嫌ダ……デモ…動ケナイ……)」

陽道という秀頼のトラウマは数十年に渡って心を蝕んできた。並大抵のものでは解けない。このまま、彼女は何も出来ないまま、ただヤブ助が殺されるのを見るしかなかった。

「…ぇ………」

その時、ヤブ助は声を発した。痛みから出た意味の無い言葉。しかし、この時の猪頭妹にはこう聞こえた。

〈助けて…〉

瞬間、秀頼の中で何かが奮い起こされた。そして、それは同時に、この状況の打開へとつながったのだ。

「ッ!!!?!?!??!!!」

インフォイーターの動きが止まった。いや、止められたのだ。秀頼によって。

「(電撃…‼︎)」

インフォイーターの体に強力な電気が走ったのだ。今も尚、電気は走り続けている。

「(嘘…⁈嘘だろ…⁈何で⁈まさか…⁈でも…なんで⁈)」

次の瞬間、秀頼はインフォイーターの両腕を手刀で切断した。

「ぐあッ…‼︎」

インフォイーターは大きく飛び退き、秀頼らから距離を取った。

「はは…そんな…やめてよ、急に……」

動揺するインフォイーターの目前、数メートル先には迸る電流を身に纏う秀頼の姿があった。
そう。秀頼はタレントを発現したのだ。しかし、何故ノーマルの秀頼にタレントが発現したのか。

「(間違いない。魔物化による影響。妙に硬い装甲だと思ったけど、やっぱり…!)」

今まで魔物化した白鳥組幹部は皆、魔物化した瞬間からPSIの量が莫大に増加した。つまり、魔物はPSIを肉体に保存するに適した生命体である事。魔物化、即ち、ハンディーキャッパー化。

「(PSIは心的影響に大きく左右される。猫よりも先に猪頭を殺した方が良かったか…いや、でもどっちにしろ、陽道に逆らえない猪頭は詰んでる。猫ももう動けまい…‼︎)」

インフォイーターは腕に力を込める。

「ぬぐぐぅ…‼︎」

次の瞬間、インフォイーターの切断された両腕が再生した。いや、再生というより、切断面から肉を突出させ、腕を形成したのだ。

「(情報・肉・栄養素。余力はまだまだある。ただ猪頭に対してどうするか。直接攻撃はダメだ。触れれば感電して動きが鈍くなる。)」

思考するインフォイーター。その時、彼はため息を吐いた。

「(仕方ない。アレやるか。)」

インフォイーターは秀頼の方へと歩き始めた。

「フッ…‼︎」

すると次の瞬間、秀頼は自らの破れた装甲の欠片を耳に突き刺した。陽道の声を聞かぬようにする対策であろう。そして、目も閉じる。

「(視覚と聴覚を塞いで陽道への認識を削いだか。)」

秀頼は気配のみでインフォイーターと相対する、彼はそう思った。しかし、相手はカフの武術を有している。そんな彼の気配を悟るなど無理だ。

「すぅ~……」

その時、インフォイーターは大きく息を吸い、止めた。すると次の瞬間、インフォイーターの右腕が大きく膨らんだ。

「(くッ…‼︎)」

インフォイーターの言うアイツらとは『Zoo』の殺し屋たちの事。彼らの生態情報も既に体内に喰い溜めていたのだ。
今使っているのはブレスの技。細胞を肺化させ、そこに吸い込んだ空気を送っていたのだ。

「(頭が痛い…‼︎コレだからアイツらの技は使いたくないんだ…‼︎)」

『Zoo』の技は反動が大きい。コレは以前、ガイが痛感した事実だ。肉体の限界以上の行動を命令する為、脳など神経系へのダメージが大きくなる。それ故、インフォイーターは使うのを嫌っていた。

「ッ…‼︎」

瞬間、インフォイーターの右手中指から弾丸が飛び出した。体内に食い溜めた金属で弾丸を作り、ブレスの超肺活量により、弾丸を空気圧で放ったのだ。

「(避けられないですよ猪頭!)」

速い。弾丸は時速2000キロ以上の速さで秀頼の左目を狙う。目を閉じている為、多少の装甲の壁はあるが、威力を低下させるにはあまりに薄い。弾丸は秀頼の左目を突き抜け、脳に達する。即死だ。
しかし次の瞬間、秀頼はそれを軽々と回避した。

「なぐあッ…⁈」

その理由は秀頼の纏う電流にあった。弾丸が迫ると纏っている電流が反応する。その微弱な電流の変化を読み取り、秀頼の尋常ならざる瞬発力と反射神経で弾丸を回避した。まるで虫の触角だ。

「『帯雷ライジア』!!!」

秀頼は身に纏う電流の領域を広げた。範囲は秀頼を中心に10メートル程。インフォイーターもその領域内に入っているが、ダメージはない。おそらく、範囲を広げる程、威力が弱まるらしい。しかし、秀頼にとってはそれで良かった。

「電流ヲ通ジてわかル…貴様ノ位置モ…筋肉ノ微弱ナ痙攣モ……」

秀頼は目を閉じたまま、インフォイーターを指差した。

「貴様、動揺シテいるな?」
「うくッ…‼︎」

インフォイーターは一歩退く。それに合わせて、秀頼は一歩前に出た。

「貴様ハまだまだあおい。これナら、カフで居タ時の方がマダ強かっタゾ。マァ今更戻ってモ詰みダガな。」
「ッ……」

インフォイーターはまた一歩退く。それに合わせて、秀頼もまた一歩前に出る。

「能力モ案外悪クない…な。」
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