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第2章『ガイ-過去編-』
第139障『精神(こころ)が軟弱(よわ)いぜ』
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【4月2日、19:45、永久氷地、神殿付近にて…】
『Zoo』の殺し屋カフと、魔物化した秀頼が対峙している。その側には、気絶した猫の姿のヤブ助が。
「戦いというものに理由や導入を付けたがる輩が結構いる。だが全て無駄な事。アタシら殺し屋はそこに重きを置いていない。来いよ、猪頭。滾らせ溶かそうぜ、この大氷原を…‼︎」
瞬間、秀頼はカフに距離を詰めた。その気迫はガイとヤブ助に稽古をつけていた時のものとは比べ物にならない程。しかし、それでもカフは怯むどころか構える事すらしない。
「いいねぇ‼︎その気迫‼︎」
カフは笑っていた。久しぶりの強者との戦闘に胸が高鳴っているのだ。
その時、秀頼は拳を入れるタイミングに地面の雪を蹴り上げ、カフに目眩しをした。しかし、カフは首を横に振り、飛んできた雪を躱す。
「ッ…‼︎」
秀頼はそのタイミングを見計らい、カフが避けるであろう座標に左拳を入れていた。
「(読み合いに強いな。)」
しかし、カフは恐ろしい動体視力と瞬発力で、顔面に迫り来る秀頼の左拳を右腕でいなす。だが、それすらも秀頼は想定内。左拳を放ったと同時に右拳をカフの腹に放っていた。
「(山突きッ……⁈)」
腹に迫った拳はいくらカフでもいなしきれない。脚で拳を止めようにも、魔物化した秀頼の攻撃をただの人間であるカフに防げるはずもない。
しかし、カフはその拳に右足を合わせた。秀頼の右拳にカフの右足の裏が接触している。
「ふッ…‼︎」
瞬間、カフは秀頼の右拳を動力、自身の右脚をバネとし、背後へと跳躍した。カフの尋常ならざる筋力と柔軟性あっての芸当。
「(そうか。コイツはハンディーキャッパーとの戦いに慣れてる。裏をかくのはお手のものってワケか。)」
後方へと跳躍したカフ。秀頼は間髪入れずに襲いかかる。
「(引きや牽制は無し…当然か。)」
普段の秀頼ならば、肉弾戦のみの相手にはカウンターを用心し、無力化させる為にフェイントなどを入れる。しかし、構えすら取らないカフにカウンターなど有り得ない。それを判断しての猛攻。カフもそれに気づいていた。気づいた上で、やはりカウンター構えは取らない。
「来いッ‼︎猪頭ッ‼︎」
その理由は一つ。
「もっとアタシを愉しませろッ‼︎」
完全に遊んでいたのだ。
無防備なカフに秀頼は連打した。速い。魔物化の影響もあり、とても常人には拳を目で捉える事すら不可能だ。
「おいおい‼︎こんなもんかぁああぁあッ!!!」
しかし、カフはそれら全てを余裕でいなし続けている。
「ッ!!!」
その時、秀頼の拳が開かれ、手刀に切り替わった。
「『蟷螂掌』ッ‼︎」
秀頼は再び拳をカフに突き出す。何度も何度も。カフもそれをいなし、対処していた。しかし、腕に違和感を感じた。
「(出血…)」
カフの腕には切り傷ができていたのだ。
「(なるほど。そういう技か。)」
『蟷螂掌』は似斬撃の技。先ず爪で相手に小さな切り口を付け、そこから指、手の平、腕と摩擦を利用する事によって、対象の傷口を徐々に広げ、まるで刃物で切りつけたようなダメージを負わせる事ができる。超高等な技術が必要だが、猪頭妹は簡単にやってのけた。
「(さすがは百戦錬磨。技のデパートだな。)」
百戦錬磨はお互い様。並の武闘家なら猪頭妹の手刀を喰らった時点で腕は切断されている。それだけ、カフのいなし方が完璧であるという事。
「(触れるだけで危険というワケか。面白い…‼︎)」
すると次の瞬間、カフはとんでもない行動に出た。それを見た秀頼も咄嗟に声が出た。
「なッ…⁈」
なんと、カフは両手をコートのポケットに突っ込んだのだ。これは明らかに秀頼に対しての侮辱。
「くッ…あ"あ"ア"ァァァァァァァァ!!!」
秀頼は怒り、叫んだ。当然だ。猪頭妹がどれほど武道に対して情熱を注いできたか。カフは猪頭妹の人生そのものを嘲笑い、コケにしたのだ。
「どうした猪頭?攻撃が単調になってきたぞ?」
普段の秀頼なら、こんな取り乱す事はない。しかし、相手は遙か格上。そんな相手が武道を侮辱しているのだ。それが堪らなく許せなかった。
「キサマァァァァァァァァアアア!!!!!」
秀頼の咆哮が轟く。しかし、彼女の攻撃は目の前にいる下衆の肉には届かなかった。
「………」
その時、カフは先ほどと打って変わって、急に冷たい目を秀頼に向けた。
「ッ…⁈」
秀頼はそれを見て一瞬怯んだ。明らかにコレは武闘家のそれでは無く、真の殺し屋の殺気だったから。
「この程度か…」
瞬間、カフはポケットに入れていた右手を秀頼の顔に伸ばした。
「ガッカリだ…」
秀頼はすぐさま危険を察知し、後方に跳躍しようとした。しかし、寸前でカフに左腕を掴まれてしまった。
「ッ…‼︎」
だが、魔物化により身体強化されにとって、カフの腕を振り解けないワケがない。秀頼はカフから距離を取る。
「ウグッ…⁈」
その時、秀頼は左手首に熱を感じた。まるで熱した鉄板を直接押し当てられたような。
そう。秀頼の左手は切断されていたのだ。カフによって。
「なニ…ッ⁈」
秀頼は驚いた。今、自身は魔物化し、全身には分厚い骨の装甲が形成されていた。そんな秀頼の体を、ハンディーキャッパーでもないカフに切断など出来るはずない。
「(捻ラれた…⁈)」
力では無い。カフは捻じ切ったのだ。秀頼の骨の装甲、その隙間、つまり関節部分なら攻撃可能と判断した。
「もっと楽しませてくれると思ったんだがな。あの程度の煽りに乗るなんて…」
カフは秀頼に近づいてくる。そう。殺ろうと思えば、彼女はいつでも。
「精神が軟弱いぜ。」
殺す事が出来たのだ。
『Zoo』の殺し屋カフと、魔物化した秀頼が対峙している。その側には、気絶した猫の姿のヤブ助が。
「戦いというものに理由や導入を付けたがる輩が結構いる。だが全て無駄な事。アタシら殺し屋はそこに重きを置いていない。来いよ、猪頭。滾らせ溶かそうぜ、この大氷原を…‼︎」
瞬間、秀頼はカフに距離を詰めた。その気迫はガイとヤブ助に稽古をつけていた時のものとは比べ物にならない程。しかし、それでもカフは怯むどころか構える事すらしない。
「いいねぇ‼︎その気迫‼︎」
カフは笑っていた。久しぶりの強者との戦闘に胸が高鳴っているのだ。
その時、秀頼は拳を入れるタイミングに地面の雪を蹴り上げ、カフに目眩しをした。しかし、カフは首を横に振り、飛んできた雪を躱す。
「ッ…‼︎」
秀頼はそのタイミングを見計らい、カフが避けるであろう座標に左拳を入れていた。
「(読み合いに強いな。)」
しかし、カフは恐ろしい動体視力と瞬発力で、顔面に迫り来る秀頼の左拳を右腕でいなす。だが、それすらも秀頼は想定内。左拳を放ったと同時に右拳をカフの腹に放っていた。
「(山突きッ……⁈)」
腹に迫った拳はいくらカフでもいなしきれない。脚で拳を止めようにも、魔物化した秀頼の攻撃をただの人間であるカフに防げるはずもない。
しかし、カフはその拳に右足を合わせた。秀頼の右拳にカフの右足の裏が接触している。
「ふッ…‼︎」
瞬間、カフは秀頼の右拳を動力、自身の右脚をバネとし、背後へと跳躍した。カフの尋常ならざる筋力と柔軟性あっての芸当。
「(そうか。コイツはハンディーキャッパーとの戦いに慣れてる。裏をかくのはお手のものってワケか。)」
後方へと跳躍したカフ。秀頼は間髪入れずに襲いかかる。
「(引きや牽制は無し…当然か。)」
普段の秀頼ならば、肉弾戦のみの相手にはカウンターを用心し、無力化させる為にフェイントなどを入れる。しかし、構えすら取らないカフにカウンターなど有り得ない。それを判断しての猛攻。カフもそれに気づいていた。気づいた上で、やはりカウンター構えは取らない。
「来いッ‼︎猪頭ッ‼︎」
その理由は一つ。
「もっとアタシを愉しませろッ‼︎」
完全に遊んでいたのだ。
無防備なカフに秀頼は連打した。速い。魔物化の影響もあり、とても常人には拳を目で捉える事すら不可能だ。
「おいおい‼︎こんなもんかぁああぁあッ!!!」
しかし、カフはそれら全てを余裕でいなし続けている。
「ッ!!!」
その時、秀頼の拳が開かれ、手刀に切り替わった。
「『蟷螂掌』ッ‼︎」
秀頼は再び拳をカフに突き出す。何度も何度も。カフもそれをいなし、対処していた。しかし、腕に違和感を感じた。
「(出血…)」
カフの腕には切り傷ができていたのだ。
「(なるほど。そういう技か。)」
『蟷螂掌』は似斬撃の技。先ず爪で相手に小さな切り口を付け、そこから指、手の平、腕と摩擦を利用する事によって、対象の傷口を徐々に広げ、まるで刃物で切りつけたようなダメージを負わせる事ができる。超高等な技術が必要だが、猪頭妹は簡単にやってのけた。
「(さすがは百戦錬磨。技のデパートだな。)」
百戦錬磨はお互い様。並の武闘家なら猪頭妹の手刀を喰らった時点で腕は切断されている。それだけ、カフのいなし方が完璧であるという事。
「(触れるだけで危険というワケか。面白い…‼︎)」
すると次の瞬間、カフはとんでもない行動に出た。それを見た秀頼も咄嗟に声が出た。
「なッ…⁈」
なんと、カフは両手をコートのポケットに突っ込んだのだ。これは明らかに秀頼に対しての侮辱。
「くッ…あ"あ"ア"ァァァァァァァァ!!!」
秀頼は怒り、叫んだ。当然だ。猪頭妹がどれほど武道に対して情熱を注いできたか。カフは猪頭妹の人生そのものを嘲笑い、コケにしたのだ。
「どうした猪頭?攻撃が単調になってきたぞ?」
普段の秀頼なら、こんな取り乱す事はない。しかし、相手は遙か格上。そんな相手が武道を侮辱しているのだ。それが堪らなく許せなかった。
「キサマァァァァァァァァアアア!!!!!」
秀頼の咆哮が轟く。しかし、彼女の攻撃は目の前にいる下衆の肉には届かなかった。
「………」
その時、カフは先ほどと打って変わって、急に冷たい目を秀頼に向けた。
「ッ…⁈」
秀頼はそれを見て一瞬怯んだ。明らかにコレは武闘家のそれでは無く、真の殺し屋の殺気だったから。
「この程度か…」
瞬間、カフはポケットに入れていた右手を秀頼の顔に伸ばした。
「ガッカリだ…」
秀頼はすぐさま危険を察知し、後方に跳躍しようとした。しかし、寸前でカフに左腕を掴まれてしまった。
「ッ…‼︎」
だが、魔物化により身体強化されにとって、カフの腕を振り解けないワケがない。秀頼はカフから距離を取る。
「ウグッ…⁈」
その時、秀頼は左手首に熱を感じた。まるで熱した鉄板を直接押し当てられたような。
そう。秀頼の左手は切断されていたのだ。カフによって。
「なニ…ッ⁈」
秀頼は驚いた。今、自身は魔物化し、全身には分厚い骨の装甲が形成されていた。そんな秀頼の体を、ハンディーキャッパーでもないカフに切断など出来るはずない。
「(捻ラれた…⁈)」
力では無い。カフは捻じ切ったのだ。秀頼の骨の装甲、その隙間、つまり関節部分なら攻撃可能と判断した。
「もっと楽しませてくれると思ったんだがな。あの程度の煽りに乗るなんて…」
カフは秀頼に近づいてくる。そう。殺ろうと思えば、彼女はいつでも。
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