障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第136障『自分の為に生きられない人たち』

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【4月2日、19:10、リズの家にて…】

ガイはソファの上で目を覚ました。

「寒っ…」

ガイは目を覚ますなり、身震いをした。

「まだ壁直せていないので。」

ガイが起きた事に気づいたリズは、部屋が寒い理由を言った。

「ごめん。俺のせいだ。俺が居るから、アンタに迷惑を…」

ガイは本田らと戦っていた事を思い出した。

「本田…いや、敵は⁈もょもとは何処に…⁈」

すると、リズは慌てるガイにほうきを手渡した。

「全部解決しましたよ。もょもとさんはちょっと出かけてます。」

ガイは困惑しながらもほうきを受け取る。

「それより、お掃除お願いします♡」
「え、でも俺…急いでるし……」
「さっき貴方が言ったじゃないですか。自分のせいだって。責任とってお掃除お願いします♡」
「んゎ…わかりました…」

ガイは渋々掃了承した。

「(俺、今、目ぇ見えないから掃除できないんだけど…)」
「私と同じですね。頑張りましょう。」
「勝手に心読まないで…」

ガイはリズの発言でとある事に気づいた。

「同じって、アンタも…?」
「はい。私は生まれつきですけど。」
「へぇ。」

ガイはソファから立ち上がり、ほうきを持って掃除を始めた。

「アンタどうやって生活してんの?一人でしょ?しかもこんな辺境地で。」
「昔は母と住んでいたんですが、数年前に病で…でも、コールの村に父が住んでいて。母が死んでからは食糧などは父から貰っています。」

コールの村は白鳥組に潰された。誰一人生きていないだろう。しかし、目の見えないリズには、あの惨状は分からなかった。一方のガイも、この時はまだ、あの村が『コールの村』だとは知らない。

「何で村に住まないの?」

素朴な疑問。それを投げかけた時、リズは少し躊躇うように答えた。

「私が魔女だからです。」
「魔女?」

突如出てきた聞き慣れぬ言葉に首を傾げるガイ。リズはその理由を話し始めた。

「フリージア王国周辺では、タレントは悪しき呪法とされているんです。国の方じゃ差別は比較的マシなんですが、村は昔の風習を重んじている為、結構酷くて…私は村から追い出されちゃいました。」

フリージアは昔、武力反乱を恐れた王政が『タレントは悪しき呪法』として世間に知らしめ、ハンディーキャッパーを迫害した。俗に言う魔女狩りである。この魔女狩りが行われた国はフリージアとチハーヤ。故に、この二国だけはタレントの知名度が低く、兵士などにもハンディーキャッパーの採用が皆無なのだ。

「私、目がコレですから、フリージアで仕事を探す事もできなくて。それでココに住んでるんです。」

リズがココに住んでいる経緯は理解できた。しかし、ガイは一つの疑問を抱いていた。それは『母が死んでからは父に食糧を貰っている』という所だ。話を聞くに、リズの父親は自分の妻と娘を捨て、村に残った。そんな男が何故、今になってリズの面倒を見るようになったのか。
答えは簡単。リズは父親から食料をもらう為に、体を売っていたのだ。仕事ができない体のリズが物資を手に入れる為にはそうするしかない。

「悪用すればいい。」
「えっ…?」

ガイが言い放った言葉にリズは首を傾げる。

「アンタのそのタレント、いくらでも悪用できるだろ。例えば、誰かの弱みを握って、一生ゆすり続けるとか。」
「そんな事しませんよ。」
「なんで?」
「母との約束ですから。」

リズは笑顔でそう答えた。『視る』事を禁止されていたガイだが、この時は彼女の表情が何となく予想できた。

「そうか。」

ガイはリズと初めて話した時の事を思い出した。

〈私のタレントを人殺しの道具にするのは、やめて欲しいです。〉

ガイはその理由が今、わかった気がした。彼女こそ、本当の『良い人』なのだ。

「(きっとこの人は1も9も救う人なんだ。自分がボロボロになるまで。ずっと。)」

助けたい。ガイはそう思った。しかし、今のガイにそんな余裕など無い。
その時、ガイはほうきを手放し、こう言った。

「時間稼ぎはこのぐらいでいいだろ。」
「えっ…?」
「もょもととアンタだけじゃ、本田は倒せない。ヤブ助達が来たんだろ?俺が気絶してるのをいい事に、アイツらは俺を置いて先へ進んだ。俺がそうしたように…」

ガイは全て気づいていた。ヤブ助達の加入。そして、彼らの意思を。

「まったく嫌になる。ヤブ助もアンタも…俺も…自分勝手に生きれたら、どれだけ楽だったか…」

ガイは手探りで玄関へと向かう。

「PSI…?」

その時、ガイは外からPSIを感知した。しかし、今回はいつもと何か違う。ガイは知っていたのだ。このPSIの持ち主を。それは、幼い頃からずっと感じてきた。

「…」

ガイは玄関のドアを開けた。

【リズの家前にて…】

ガイが外に出ると、そこには石川が居た。

「やはり雷世の支配から逃れたか、ガイ。」

石川は誰かを背負っている。老人だ。髪は白く、皮膚はしわくちゃになっている。

「親父…」

そう。老人の正体はガイの父親、障坂巌だ。ガイはそれをPSIから理解した。きっと目が見えていたら、彼の正体には気づけていなかっただろう。しかし、何故こんなにも急激に老化したのだろうか。

「時間がない。早くこの男の『雷世ライセ』を保存しろ。お前の『理解アスタ』なら出来るはずだ。」

そう言うと、石川は背負っていた障坂巌を雪の上に降ろした。

「『雷世ライセ』が無ければ、魔王の封印を解く事は出来ない。お前には叶えるべき願いがあるだろ。」

しかし、ガイは首を横に振る。それを見た石川は話を続けた。

「佐藤武夫のタレントか?確かに、奴のタレントなら魔王の封印を解く事は可能だろう。しかし、その後はどうする?封印は解けても、再度封印する事はできない。リアムを自由にさせるつもりか?それこそ、この世界にとっての最悪なんだぞ。」

しかし、ガイは頑なに首を横に振る。

「後の事は、後で考える。」
「ダメだ。リアムを舐めるな。奴には2万5000年分のアドバンテージがあるんだぞ。それに対抗できるのは、同じく2万5000年の間、障坂として生き続けてきた雷世しかいない。」

ガイは黙った。しかし、石川はすぐさま話を、いや、説得を始めた。時間が無いからだ。

「仲間を助けたいんだろ?だったら諦めろ。お前は雷世になるんだ。」

数秒の沈黙。すると、ガイが口を開いた。

「嫌なものは嫌だ。」

ガイは思考でなく、感情で石川に返答した。これはもはや、石川の専門外だ。説得など不可能。

「そうか。」

石川は肩を落とす。ガイはそんな石川に背を向け、神殿の方へと向かう。

「それでいい…」

巌が呟いた。

「…」

それを耳にしたガイは足を止める。
そう。障坂巌コレこそ、ガイを説得する為の最後の手段。石川の秘策だったのだ。
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