障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第131障『理解AG』

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【4月2日、朝9時、フリージア王国よりさらに北、コールの村にて…】

村の中心部には魔物化した芝見川と時和の姿が。芝見川は体長2mの巨大な顔面に。時和は上半身を失ったものの、下半身のみで生存していた。

「しっカシ腕が無イと不便ジャわて。」
「頑張っタラ生えテ来なインデスか?」
「解ラん。ちト頑張ってみチャウかのぉ~。」

そこへ、骨刀を持ったガイが歩いてくる。

「追っても来ないんだな。」
「貴方ナラ、あの少年を見捨てハしないト踏んでマしタから。」
「ワシゃあ追ワレルより追ウ恋の方ガ好キなんジャがのぉ~。追って追ッテ追いカケて、最後ハ相手ガ死ぬマデぶち犯すんジャ‼︎」

時和のこの発言。前回までのガイなら、嫌悪を通り越し怒りを覚えていたであろう。しかし、ガイはさらりと聞き流す。至って冷静。それだけ、もょもととの会話で心に余裕が生まれたのだ。

「なぁ、今からお互いの情報交換しない?」

ガイの唐突な提案。そして何より、前回とは違うガイの余裕っぷりが芝見川たちの猜疑心を露わにした。

「というト?」
「どうせ今から殺し合うんだ。死ぬ相手に何をいくら教えようが別に構わないだろ?そんで、勝った方はラッキー。情報ゲットって訳。どう?お互い効率的だと思うけど?」

ガイのこの提案、芝見川は思考した。

「(何をドウいう経緯デこの提案に至ったカ…確実ニ情報ヲ得る為…?今得タ情報ヲ何らカの方法デ仲間に伝えラレる…?もしクハ、勝ちが確定シテいる…?何にセヨ、提案ヲ呑む訳ニはいきまセンねぇ…)」

芝見川は時和に目配せをした。下半身のみの時和がそれを見る事ができる訳ないが、何故か芝見川のメッセージだけは読み取る事ができた。

「(解っトる。コレはトラップ。今のガイやつニとっテ、ワシらを倒ス術は限らラレておる。提案ハ会話ノ誘発、それ即チ『青面石化談話ノーグットパーティ』の発動条件!大丈夫。奴ニ勝ちは無イ。ワシにハ、あの余裕の素振りガ痛々しく見えルぞえ。)」

次の瞬間、時和はガイ周辺の時を止め、ガイに近づいた。

「やれヤレ。裏ヲかくトかワシ苦手なんジャよ。どちかテゆーと、本能デ動くたいぷジャて。」

時和がガイの背後に回った。

「もうすグ此奴ノPSIは潰エル。あとハ何度かこうヤって肉を削げバ、いずレ新たナ肉ハ創造デきんヨウに……ん?」

その時、時和はガイの足元の地面が妙に抉れているのに気づいた。

「それ偽物ダミーだから。」

なんと時和の背後にもう一人のガイが現れた。おそらく、今、時和の目の前にいるガイは『現代のオーパーツバイオクラフト』で作った肉人形。ガイは『Zoo』の技を使用し、地中に隠れていたのだ。
瞬間、時和の下半身が縦に両断された。

「なぬッ…⁈」

時和と芝見川は驚愕した。PSIを纏えないガイの攻撃などダメージにすらならないと高を括っていたからだ。

「高温の…剣…⁈」

芝見川はガイが手にしていた刀を見て納得した。ガイの手に握られていたのは、刃を『火炎PSIフレイム』で超高温に熱した骨刀。要するに、熱の力を利用して超硬質の物でも切断可能の刃である。

「やっぱ、一振りで限界か。」

骨刀は温度に耐えきれずに溶けて消滅した。ガイもそれを承知の上。ガイは新しい骨刀を創造しながら芝見川に近づいていく。

「タレントは使うもの。その固定概念こそ、俺の『理解アスタ』の縛りだった。」

ガイは再び『火炎PSIフレイム』で骨刀を熱し始めた。

「全て『理解アスタ』の中に保存されているタレントなら、タレントの複合すら可能。つまり、新たなタレントを創り出す事ができる。それが『理解アスタAGアフターグロウ』。」

次の瞬間、ガイの背後から超再生で復活した時和が襲いかかってきた。

「『時止タンマ』!!!」

時和はガイを含めた周辺の時が止まった。しかし、時和が時間を止めるよりも早く、ガイはその領域から脱出していた。

「(速イッ…⁈)」

時和が驚くのも無理はない。今のガイの動き、PSIの身体強化が無い状態でこの速さは異様。

「(そウカ…己の身体ニ肉を…)」

ガイは『現代のオーパーツバイオクラフト』で創造した筋繊維を見に纏っていた。コレは以前、氷室が使っていた『中山装甲』。しかし、ガイのは少し様相が違う。

「(やっぱり。『時止タンマ』は範囲確定が難しいタレント…動き回ってさえいれば、静止空間に捕らわれる可能性は低い!)」

ガイが模した装甲は『Zoo』。ホールドの剛力、ソフトの柔軟性、ロイの視力。模倣とは言え、それら全てが今、ガイの身体に備わっている。しかし、それらはあくまでも基盤。それを利用できるのは『模倣コピルAGアフターグロウ』を持つガイだけ。

「ッ‼︎」

時和はガイに向けて右拳を放つ。しかし、ガイは高温の骨刀で時和の右腕を切断した。同時に、骨刀が破損した。
時和の腕を切り落としたガイは距離を取り、骨刀を創造しながら、『時止タンマ』の領域に入らぬように動き回っている。
その時、ガイの背後から竹トンボが飛んできた。

「『魅廻ネグロス』!!!」

完全に死角。ガイは回避できないかと思われた。しかし、ロイの目を持つ今のガイに死角など無い。ガイは『魅廻ネグロス』発動前にその竹トンボを握りつぶした。

「(やりマすねぇ。もはヤ遠距離からノ攻撃デはダメージは入らナいデスか。)」

ガイと時和は死闘を繰り広げている。芝見川はしばらくそれを傍観した。

「(しカし、拙僧ニ攻撃ヲ仕掛けテ来ナい事を察するニ、奴はオ師匠の相手に手一杯。『魅廻ネグロス』でチクチクやるノも一興デスが、オ師匠の再生力がどこマで保ツかガわからナイ以上、時間はカケラレませんねぇ。)」

芝見川は少し考えた後、決意の表情を浮かべた。

「警告デス!」

そのセリフを聞き、ガイは耳を疑った。

「(警告⁈まさか『リアムの無限戒アクトバン』を使う気か⁈)」

芝見川の『リアムの無限戒アクトバン』はガイが警告を出した。使用を禁じると。もし、今『リアムの無限戒アクトバン』を使えば、芝見川は今後一切『リアムの無限戒アクトバン』を使用できなくなる。

「(障坂ガイ。貴方ト同じデスよ。我々も賭けてるンデス。命とイウ下らナイものヲ。)」

覚悟の上。芝見川はこの場で確実にガイを殺す事を選んだのだ。例え、自分のタレントが永久に使用不可になろうとも。

「『視る』ヲ禁止しマス!」
「なッ⁈」

ガイは急いで目を閉じた。同時に、芝見川の額にバツ印が浮かび上がる。芝見川は『リアムの無限戒アクトバン』を封じられた。

「(まずい…視界が封じられたら、奴の居場所が…‼︎)」

幸い相手がハンディーキャッパーなら、PSI感知でで位置を特定する事ができる。しかし、今はPSIの波長を消す術を覚えた時和がいる。つまり、ガイは時和の位置を特定する事が出来ないのだ。これでは攻撃も回避もできない。

「ぐあッ‼︎」

ガイは時和に足を切断された。ガイはすぐ様『現代のオーパーツバイオクラフト』で足を治癒した。しかし、間髪入れずに時和はガイに攻撃を繰り返す。肉の装甲とソフトの柔軟性がなければ、今頃ガイは死亡しているだろう。

「(良好良好。後は障坂ガイのPSIガ尽きるのヲ待つだケ…)」

その時、芝見川はとある事に気づいた。

「(何故、奴は警告をしナい…?拙僧が禁忌を犯しタとあらバ、即『リアムの無限戒アクトバン』でオ師匠の攻撃ヲ禁止すれバ良い…何故シなイ……)」

ガイは時和の攻撃を受けまくっている。時和の物理攻撃を禁止すれば、少しは楽になるはず。しかし、ガイはそれをしない。

「(それニ、奴はココに来てカラまだ一度モ『時止タンマ』ヲ使ってイない…何故……)」

しかし、その疑問の解答が出ないまま、戦いは終わろうとしていた。ガイがほとんど全てのPSIを消費してしまったのだ。

「ハァ…ハァ…ハァ…」

腹から血を流すガイが雪の上に倒れている。そのすぐ前には全快の時和。

「哀レ、いや、愚カと言うベキか。あの少年ヲ置いテ逃げれバ、お主だけハ助かったかモ知れヌのに。」

時和はガイに顔を近づけた。

「勝テるって思っチャったのカのぉ~?」
「……」

ガイは目を閉じたまま、動かない。荒く息をするだけ。

「安心セい。あの少年モすぐニ逝かしテやる。ムッフフ。結局、オ主は何モ守れナんだ。じゃが、それデ良いデはなイか。」

時和は拳を振り上げた。

「堕チた先モ、結構悪クはないぞえ?」

実体験のようにそう言った時和。そう。彼も昔は信仰深き僧呂だった。彼がどのようにして堕ちに堕ちたのか、その経緯はわからない。しかし、時和は後悔はしなかった。堕ちた先で、本当の自分を見つける事ができたから。

「俺はもう堕ちてるさ。ずっと前に…」

ガイは言った。過去に自分が犯した罪を思い浮かべて。

「良いとか悪いとか、そんな事は考えなかった。意味が無いと思っていたから。けど違った。アイツらに会って…あの日常を繰り返して…俺は……」

その時、ガイは指パッチンをした。

「ッ!!!?!?!??!!!」

瞬間、ガイの指から放たれるその爆音と衝撃波により、近くにいた時和の意識が一瞬遠のいた。

「オ師匠…‼︎」

芝見川は時和の身を案じ叫んだ。同時に、ガイは禁止されていた『視る』を実行した。

「(最後に視るものがコイツとか…マジで最悪だ…)」

ガイは時和の腕を掴み、芝見川の方へ投げ飛ばした。同時に、ガイの両目にバツ印が浮かび上がる。ガイは『視る』を封じられた。
次の瞬間、ガイは叫んだ。

「『時止タンマ』解除!!!」

その発言を聞き、芝見川は困惑した。

「(解除⁈ドウいう事デス⁈)」

その時、芝見川の目の前に一つの光が現れた。そして芝見川は気づく。

「(そウか‼︎全テはこの時ノ為‼︎‼︎奴ハ既ニ使ッテいた‼︎PSIノ消費ガ激シいのはその為ダったンだ‼︎)」

ガイは既に『時止タンマ』を使っていた。芝見川の目の前、極小の領域に。そして、その領域にガイはエネルギーを供給し続けていた。エネルギーは『火炎PSI』で火に変質させたPSI。

「(溜め続けた…その一点に…俺の全てを…‼︎)」

次の瞬間、その領域から解き放たれた火炎エネルギーが周囲を巻き込み大爆破を起こした。ガイのPSIの消費が激しかったのはその為。

「くッ……ぐぁッ…‼︎」

ガイはその大爆発により吹き飛ばされた。

「「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!?!?!!!?!」」

爆発の中心部にいた芝見川と時和。衝撃により肉片が飛び散る。また、飛び散った肉片はその高温によりすぐさま蒸発した。

「(再生ガッ…追イツカンッ…‼︎)」

魔物化により得た時和の超再生も無効な程の高火力。肉片すら残らないだろう。

「(死ヌ…ダガ拙僧ノ禁ハ未来永劫、貴様ヲ縛リツケル足枷トナル…)」

芝見川は高温地獄の中でこう言った。

「非常ニ…不健全デスヨ……障坂ガイ………」

時和と芝見川は死亡した。

【コールの村の外にて…】

ガイはコールの村の外にまで吹き飛ばされた。

「う…ぐ……ッ‼︎」

左腕と左脚は千切れかかっており、全身には酷い火傷を負っている。にも関わらず、ガイは立ち上がった。

「(回復しないと…)」

ガイは『現代のオーパーツバイオクラフト』を使い、残っていた数少ないPSIで出血を止めた。しかし、完全な治癒ができるほどPSIは残っていなかった。

「急がないと……」

ガイは『理解アスタ』に『時止タンマ』を保存した為、最後に保存されたタレントである『飛翼フライド』が消えてしまった。その為、徒歩で神殿を目指さなければならない。

「早く……陽道に……」

ガイは地面に倒れた。

「(疲労…ダメージ……違う……コレ…は……)」

薄れゆく意識の中、猪頭の言葉を思い出した。

〈奴らを模倣マネ続けると、お前はいずれ、廃人同然にまで堕ちる。間違いなく。〉

『Zoo』の技の模倣は脳への負担が大きい。ガイは今回の戦いで彼らの技を使い過ぎた。そのツケが回ってきたのだ。

「ダメ……俺は……行か…な……きゃ……」

ガイは気を失った。するとその時、ガイの背後に何者かが現れた。

「大技使うなら言ってくれよ…」

もょもとだ。爆発はコールの村全域に被害を及ぼしたようで、もょもとの身体にも酷い傷跡が見える。

「…」

もょもとは雪の上にあるガイの血の跡を見た。

そっちに行きたいのか…」

もょもとはガイを背負い、南の方へと歩き始めた。

「(悪いけど、俺、お前を死なせたくない。フリージアへ戻るからな。んで先ずは病院行って…)」

その時、もょもとは近くからPSIを感知した。

「おいおい嘘だろ⁈まだ生きてんのかアイツら⁈」

しかし、そのPSIの持ち主は明らかに村の外から近づいてくる。

「(新手⁈奴らの仲間か⁈逃げないと…‼︎)」

しかし、もょもとは芝見川の『リアムの無限戒アクトバン』により、『逃走』を禁じられている。

「くそッ‼︎」

もょもとは振り返り、構える。

「(やるしかねぇのか…!)」

しばらくして、吹雪の中を歩いてきた人物と目が合った。

「(女…?)」

現れたのは白髪の少女だった。

「あの…何があったんですか…?」
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