障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第130障『あの頃の気分』

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【4月2日、朝9時、フリージア王国よりさらに北、コールの村にて…】

ガイは芝見川の首を切断した。辺りには、気絶したもょもと。そして、時和の下半身。ガイは戦いに勝利した。

「勝った……」

ガイは地面に座り込む。

「あ、そうだ…」

と同時に、もょもとの事を思い出した。
ガイはもょもとに近づき、もょもとの怪我を治療し始めた。

「ありがとな。お前のおかげで超便利なタレントゲットできた。」

もょもとは気絶している。そんなもょもとを見て、ガイは困った表情をした。

「(コイツ、どうしよう…)」

ガイは辺りを見渡す。村は大いに破壊され、村人は全員死んだ。殺されたのだ。白鳥組に。

「くそッ……」

ガイにとっては無関係な者達。しかし、ガイは負い目を感じていた。

「また…守れなかった……」

ガイが自分の不甲斐無さに唇を噛み締めていた。するとその時、鼻血が出た。

「えっ……」

ガイは困惑した。『現代のオーパーツバイオクラフト』で怪我は治したはず。ダメージはもうない。にも関わらず、出血はおかしいと。

「疲れてんのかな…」

疲れ故の鼻血。それもあり得る。

「(もしかして…)」

しかし、ガイにはもっと他に心当たりがあった。

「ッ‼︎」

瞬間、ガイは戦慄した。鼻血の事など忘れてしまうぐらいに。

「まさか…⁈」

ガイは振り向いた。ガイの視線の先。そこにあったのは切断した芝見川の頭部。
ガイは立ち上がり、身構える。

「嘘だろ……」

芝見川の頭部からPSIを感じる。そして、そのPSIは次第に大きくなっていく。芝見川の頭部と共に。

「『現代のオーパーツバイオクラフト』!!!」

ガイは骨刀を創造し、徐々に巨大化する芝見川の頭部に近づいた。

「うらぁッ‼︎」

ガイは巨大化する芝見川の頭部を骨刀で斬り裂く。しかし、PSIを纏えない今のガイでは、徐々にPSIが増していく芝見川に大したダメージは与えられない。

「くそッ‼︎くそッ‼︎死ねよッ‼︎くそッ‼︎」

ガイは骨刀を芝見川の右目に突き刺す。しかし、PSI上昇により守備力が増す芝見川。ガイの骨刀は眼球にすらダメージを与えられない。
次の瞬間、ガイの骨刀が折れた。

「硬すぎだろ…!」
「そリャおなごガ悦ぶゾえ~!」

その声はガイの背後から聞こえた。

「ッ………‼︎」

ガイは振り向いた。瞬間、ガイは右半身を蹴り潰された。

「ふぐあァァッ!!!」

地面に突っ伏す寸前、ガイは辺りの時を止め、右半身を回復し、ソレから離れた。

「(何でコイツが…⁈)」

背後に居たのは紛れもない時和だ。時和は下半身のみの状態で立っていたのだ。そして、今喋っているのは時和の生殖器。なんと、陰茎が言葉を発していたのだ。
いや、驚くべきはそこではない。ガイが時和の存在に気づかなかった理由。そう。時和からPSIを感じなかったのだ。

「なん…で……」

ガイはすぐ理解した。時和はPSIの波長を消す術を今、学習したのだと。魔物化の影響か、ハンディーキャッパーとしての経験か。おそらく、その両方だ。

「なんで生きてんだよッ…‼︎」

ガイは唇を噛み締めた。トドメを刺したはずだと油断した自分への怒り。そして、後悔。

「ごめん…チビマル、白マロ…‼︎」

次の瞬間、ガイは時和と芝見川を含めた周辺の時を止めたまま、もょもとの方へと走った。

「(ココは一旦引く。仇打ちはまた今度だ。)」

ガイはもょもとを背負い、村の外へと走り出した。

「(一番厄介な芝見川の『リアムの無限戒アクトバン』は実質封じた。奴らの他のタレントも全て把握済み。次は絶対勝てる…!PSIを満タンにして、『斬鉄爪ゴエモンファング』や『簡易の次元低下論2Dメイカー』のような守備力無視の攻撃系タレントを保存すれば、俺の勝ちは確定する…!)」

【コールの村、出口付近にて…】

ガイはもょもとを背負ったまま、村の出口へとやってきた。

「次こそ、奴らを…!」

【コールの村、中心部にて…】

ガイが離れた事により、『時止タンマ』から解除された芝見川と時和。

「イやハや、危うク逝って了う処デしタよ。」

芝見川が発言した。

「先ほドはすミませンでしタ、お師匠。」

芝見川の頭部は2m程の大きさで巨大化が止まった。

「難ノ難ノ!」

芝見川は辺りを見渡す。

「そうイエば、障坂ガイの姿ガ見えマせンが。」
「『時止タンマ』デ逃げヨウとシたんじゃロて。」
「オ師匠。それ、ヨロシク無いのデは?」
「安心セイ。奴ハ仲間ヲ見捨てン。そうじゃロ?」
「ソウでしタ。ソウでしタね。なら安心デス。」

【コールの村、出口付近にて…】

ガイはもょもとを背負ったまま、コールの村を出ようとした。

「待って…」

その時、もょもとは目を覚まし、ガイに話しかけた。

「俺は行けない…」

ガイはもょもとの発言に困惑した。しかし、歩みを止めない。

「は?お前、何言って…」

ガイが村の外へ足を踏み出した瞬間、もょもとだけが村の内部へと弾き飛ばされた。

「お前…それ……‼︎」

ガイはもょもとの足首のバツ印に目が行った。

「お前だけで行けよ…俺はもう……逃げられない……」

そう。もょもとは白鳥組に入った時点で芝見川に『逃走』を禁止されていたのだ。

「ほら!早く行けって!早く行かねーと奴ら来るぞ!」
「で、でも……」

ガイは迷った。このまま戦っても勝てる見込みが無い。かと言って、組織を裏切ったもょもとをこの村に置いていけば、確実に殺される。
短い間だったが、彼とは仲間だった。命を救われた。見捨てられる訳が無い。ガイの中で決断が出かけたその時だった。

「やっぱ嫌ぁだぁあッ!!!」

ガイの脚にもょもとが縋りついた。

「頼むガイッ‼︎俺を見捨てないでくれぇぇぇえ!!!」
「えっ……」

ガイはもょもとの心境の変化に困惑した。

「ちょ…ちょい!お前!さっきは『お前だけでも逃げろ』って言ってただろ!この数秒間で何があった⁈」
「かっこつけてましたッ‼︎ごめんなさいッ‼︎」
「えぇ……」

もょもとは更にガイに訴え続けた。

「死にたくない死にたくない死にたくないッ‼︎俺まだセ○クスだってした事ねーんだッ‼︎ セ○クスッ‼︎ セ○クスがしたいッ‼︎ セ○クスするまで俺は死ねねぇええ!!!」
「……」

ガイの中でのもょもとの評価が下がった。

「頼むぅぅ‼︎ガイぃぃ‼︎助けて‼︎助けて下さいぃぃ‼︎何でもしますからぁぁぁあ‼︎」
「あー!もう!分かった!分かったから離れろ!」
「ふぉんとに⁈」

もょもとはあからさま嬉しそうな表情を浮かべ、ガイに手招きした。

「じゃほら!カモンカモン!こちらが、もょもと君が囚われているコールの村となりまぁす♡」
「……」

ガイは頭を抱えた。

「どした?中二病?話聞こか?」
「黙れ。」

ガイはため息を吐く。

「しばらく俺に話しかけないでくれ。」
「なんで?」
「お前と話してると、なんか…昔を思い出す…」

ガイは中学校での記憶を思い返した。山口や広瀬たちとの想い出。つい数ヶ月前の事なのに、随分昔のように思えた。
瞬間、ガイの顔が強張る。

「俺は決めたんだ。白鳥組の奴らを一人残らず殺すって。いや、殺すだけじゃダメだ。拷問してやる。奴らから搾れるだけ情報を搾り取ってやる。口が堅い事を期待してるよ。すぐ終わっちゃつまらない。」
「……」

もょもとはガイの顔を見て恐怖した。どれほどの恨みがあれば、人はこんなにも恐ろしい形相ができるようになるのか。
その時、ガイの表情に悲しみが帯びた。

「こんなだから嫌なんだ…昔を思い出したら…アイツらが見てる気がして…こんな風になった俺を………もう…思い出したくない…良い想い出ほど…辛いんだ……」
「ガイ…」

自分と同い年の少年。その少年が抱える壮絶な悲しみと憎悪。何の苦労もせず、今の今までただのうのうと生きてきたもょもとが口を挟む事はできない。

「ごめん。やっぱ何でもない。」

ガイは村の中心部、芝見川と時和がいる方へと歩き始める。

「お前はココで待ってろ。」
「それでも…!」

その時、もょもとは戦場へと向かうガイに言った。

「それでも、お前が昔を思い出したくなったら…俺が思い出させてやる…!絶対!あ、いや…多分……」

コレが今、もょもとにできる精一杯の励まし。しかし、その気遣いがガイにとって、どれほど嬉しかった事か。

「ありがと。もょもと。」
「あぁ…悪い、俺……」

一緒に戦う事はできない。もょもとが行けば、ガイの足手纏いになるのは目に見えている。両者ともそれを分かっていた。

「心配すんな。サクッと倒してくるから。」

そう答えたガイの表情は明るかった。それはまるで、自信過剰で探究心の塊だったあの頃のように。
状況は何一つ変わっていない。しかし、ガイの心は清々しかった。今なら、敵がどんな相手でも、純粋に能力バトルを楽しめるだろう。それが例え、仲間の仇であったとしても。
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