障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第122障『来世に期待』

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【4月1日、19:40、フリージア王国、城下町にて…】

陣野の自爆により辺り一面焼け野原となった酒場周辺。辺りには瓦礫や木片が散乱している。
その時、瓦礫の下から一人の少女が姿を現した。

「なに…が……ッ……‼︎」

それは全裸の裏日戸だった。陣野が死んだ事で石化が解除されたのだ。また、裏日戸は石化していた事が幸いし、服は破れたが爆破のダメージを最小限で抑えられていた。いや、陣野に守られたのだ。

「うッ…くッ……‼︎」

しかし、最小限といっても片手片足は吹き飛び、全身傷だらけ。股には前田に喰らった矢が突き刺さったまま。

「ぐッ…あぁぁぁあッ!!!!!」

裏日戸は股に刺さった矢を手で引っこ抜いた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

裏日戸は理解した。陣野が自分を助けてくれたのだと。しかし、裏日戸はこう思った。

「もっと…早く…してくれれば……」

そう。陣野がもっと早くにこの自爆作戦を決行していれば、裏日戸はあんな屈辱を味わう事なく、そして、土狛江も死なずに済んだのだ。

〈頼りない大人でごめんな…〉

裏日戸はその言葉を思い出した。陣野が自身に言った最後の言葉。その意味を裏日戸は理解したのだ。

「謝んじゃねぇよ……」

裏日戸は涙を流す。

「守られてばっかじゃねーかッ…‼︎私はッ…‼︎」

裏日戸の涙の理由、それは自身の不甲斐無さ。自分に力が無いばかりに二人を死なせてしまった。いや、この惨状、フリージアの無関係な人々も多く死なせてしまったのだ。それを意識すればするほど、後悔と罪悪感が裏日戸を苦しめた。
その時、近くから足音が聞こえてきた。おそらく、爆発を聞きつけてやってきたフリージア兵士であろう。こんな大惨事だ。すぐに救助は来る。

「くそ……」

何はともあれ、コレでひとまず戦いは終わったのだ。裏日戸は安心し、涙を拭いながらその足音のする方を向く。
いや、疑問はあった。足音は一つだけ。おかしい。

「ッ………‼︎」

それを見た途端、裏日戸は一気に絶望を味わう事となった。

「は…ははハ…ッ‼︎やってクレたっすネェ、陣さん…‼︎」

そこに立っていたのは、魔物化した前田だった。前田はあの爆発の瞬間、魔物化していたのだ。それ故、PSIの全体量が増えて防御力が向上し、あの大爆発から生還できたのだ。

「うっわ!キモ!俺キモ!」

前田は地面に落ちていた鏡の破片で魔物化した自身の姿を見た。全身に棘と鱗、肌の色は血のように赤黒く、眼球は真っ黒に染まり、鋭いツノと牙が生えていた。その姿はまるで聖書に記載された悪魔そのもの。

「あ。キミまだ生きテたンスね。」

地面に座る裏日戸は真っ黒な目をした前田と目が合った。同時に、裏日戸は絶望した。満身創痍の裏日戸に対して、相手は魔物化している。逃げられない。それはもう誰の目からも明らかだ。

「嫌…ッ……‼︎」

裏日戸は残った片腕と片足を使い、匍匐前進の要領で地面を這って前田から逃げようとする。地面に落ちたガラス片が体に突き刺さる事など気にも留めずに。

「はハは!マダ動けるンすね!痛くナイんすか?」

前田は無様に逃げ出そうとする裏日戸をゆっくりと徒歩で追い詰めていく。薄気味悪い笑みを浮かべながら。

「(嫌ッ‼︎死にたくないッ‼︎怖いッ‼︎死にたくないッ‼︎)」

無駄だとわかっていても裏日戸は必死で残った手足を動かす。恐怖で体が震え、涙で視界がぼやける。その姿は哀れそのもの。死を目の前にした人間はこうも脆いのか。

「はイ捕マえたー♡」

前田の棘だらけの手が裏日戸の足首を掴んだ。

「嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!」

裏日戸は必死でそれを振り払おうとする。しかし、前田はそんな裏日戸の足を掴んだまま、彼女の体を持ち上げた。

「そうイや、マダ聞いてナかったスね。障坂ガイの事。」

すると、前田は裏日戸を持ち上げた手とは逆の手で、裏日戸の股間に人差し指を当てた。

「障坂ガイは今ドこっすか?」

尋問する前田。しかし、裏日戸は今、『殺される』というパニックで前田の言葉など理解できていない。
すると次の瞬間、前田は裏日戸の股に当てた人差し指、その先の鋭い爪を彼女の体内に刺し込んだ。

「ほラ早く。オナカ裂ケちゃうッすヨ?」

前田は裏日戸の股に突き刺した爪を徐々に腹の方へと動かす。すると、前田の爪は手術メスのように鋭く、容易に裏日戸の下腹を開いた。

「あ"…ぁあ"あ"……ぁ"ぁ"…ッ……‼︎」

開かれた下腹から腸が垂れ落ちる。腹を切り開かれた痛みと、内臓が自身の体から出ていく喪失感。この世のものと思えぬ不快感が裏日戸の頭を正常から遠ざける。

「あ"……あ"ぁ"…………」

裏日戸は白目を剥き、浜に打ち上げられた魚のように体をピクピクと痙攣させている。

「ありゃリャ。コレもうダメだな。」

前田は裏日戸の様子を見て、彼女から情報を得るのは不可能だと悟った。

「可哀想ニ。」

前田は裏日戸を地面に落とし、そう吐き捨てた。まるで他人事。自らが、彼女をこのような無様な姿に嬲りものにしたというのに。

「ま、来世ニ期待っすね。」

前田はPSIを纏い、片足を上げた。そして、地面に落とした裏日戸の顔面に向け、蹴りを放った。

「そンナものあればダケどッ…!」

すると次の瞬間、何故か前田は宙を浮いていた。

「ナグァッ…⁈」

何かが飛んできたのだ。前田は自身を宙へ舞い上がらせたその物体を見た。

「(え…ナニアレ…?)」

赤くブニブニした弾力のある物体。前田はそれが『肉』である事に気づくのに時間がかかった。
その時、肉が飛んできた反対方向から、別の何かが前田に向かって飛んできた。速い。とても肉眼ではそれが何か確認できない。

「『人間化猫化キャットマン』!!!」

その何かは叫んだ。瞬間、その何かは人の姿を現した。

「爆ぜろッ‼︎」

ヤブ助だ。高速で飛び出したヤブ助は前田の目前で人間化し、前田の顔面に蹴りを入れた。前田はその蹴りによって数メートル吹き飛ばされた。

「ヤブ助さん!」

ヤブ助の名を呼んだのは氷室だ。氷室とヤブ助は居なくなったガイを探す途中、爆発を聞きつけ、偶然にも同時にこの場へやってきたのだ。

「氷室!お前は裏日戸を治療しろ!俺はコイツをる!」

氷室にそう指示を出すと、ヤブ助は数メートル先へ蹴り飛ばした前田の方を向き、構える。

「(アレが…魔物…)」

ヤブ助は眉を顰める。初めて見る魔物の姿に戸惑いを覚えたからではない。ヤブ助は中身、そう、外見の異様さではなく前田の莫大なPSI量に動揺していたのだ。

「(普通の肉弾戦じゃ勝ち目は無い。だが俺なら勝てるはずだ…アレを使えば……)」

ヤブ助に蹴り飛ばされた前田は地面から立ちあがろうとしていた。

「ってて…不意打ち卑怯じゃナイっすか…」

その時、前田は両目に違和感を覚えた。

「(両目ガ…無イ…ッ⁈)」

そう。前田の両目は見るも無惨に潰れていたのだ。原因は先のヤブ助の蹴り。

「(嘘だろ⁈たった一発ノ蹴りデ⁈)」

一撃で両目を潰され、狼狽える前田。ヤブ助はその様子を見て、ほくそ笑んだ。

「魔物にも効くようだな。安心した。」

そのヤブ助の発言を耳にした前田は焦りを露わにし、問いかける。

「テメェ…ナニしやガッた…⁈」
「『周防封極拳すおうふうきょっけん』基本の型の一つ『睆凪かんなぎ』。あの先生クズに叩き込まれた…お前らを殺す為の武器わざだ…‼︎」
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