障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第119障『エクソシズム』

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【4月1日、18:50、フリージア王国、城下町、教会にて…】

弾けた死体が散らばる教会内。片足を失った裏日戸を抱える土狛江。対峙するは魔物化し、自我を失った水面。いや、悪魔だ。悪魔は土狛江たちの元へ四足歩行で走り出した。

「『魂の芸術人クライアントドール』!!!」

土狛江は土を操り、人型サイズの土人形を作った。と同時に、土狛江は裏日戸を抱えたまま教会の外へと走り出した。
土狛江の作った土人形は襲いくる悪魔に拳を放つ。しかし、PSIという名の鎧を纏う悪魔にとって、土塊の拳などダメージは皆無。それどころか、土人形の拳は悪魔の顔面に直撃すると同時に砕け散った。足止めにすらならない。しかし、それで良い。

「繧ゅ‼︎‼︎?‼︎⁇⁈‼︎」

土狛江は破壊された土人形から、宙に舞い散る土を操作し、悪魔の気管を塞いだ。悪魔はその場に倒れ、苦しみ始めた。

「(コレであとは外へ…!)」

日は沈みかけている。しかし、完全に日没するまではまだ少しの猶予がある。教会の外なら、裏日戸のタレントが最大限発揮できる。この悪魔の排除も容易に成し得る。
隙を作った土狛江は余裕で教会の外へ逃げ出す事ができた。はずだった。

「がはッ…‼︎」

土狛江の腰に鈍い痛みが走る。撃たれたのだ。あの悪魔に。弾丸はおそらく水。いや、血だろう。悪魔は思い出したのだ。自身が水を操るタレントを持つ事に。
悪魔は自身の血を操り、気管を塞ぐ土壁を決壊、そのまま弾丸並の速さで土狛江の腰骨を撃ち抜いたのだ。

「(足がッ…‼︎動けッ…‼︎)」

腰骨を撃ち抜かれた土狛江はその場に倒れ、立てずにいた。勿論、片足を失った裏日戸も立つ事は不可能。悪魔は土狛江の頭部に喰らいつこうとした。

「名前を呼べぇぇ!!!」

その時、教会の外から声が響いた。叫びの主は、なんと陣野であった。
『名前を呼べ』土狛江はその意図を汲み取った。

「後は頼むッ‼︎陣野さんッ‼︎」

次の瞬間、土狛江は石化した。陣野の『青面石化談話ノーグッドパーティ』だ。土狛江は陣野の名前を言った事で石化したのだ。
悪魔は土狛江の頭部に喰らいついた。しかし、土狛江は陣野のタレントで石化している為、悪魔の鋭利な歯は粉々に砕け散った。

「裏日戸!お前もだ!」

陣野は裏日戸にも名前コールの催促をした。と同時に、陣野は教会の天井に向けて何かを投げた。

「早くッ!」

陣野がさらに催促をした次の瞬間、教会の天井が爆発した。陣野が先ほど投げたのは爆弾だったのだ。それを見てやっと陣野の意図を理解した裏日戸は陣野の名前を叫ぶ。

「陣野ッ!」

裏日戸,土狛江,悪魔の3名は崩れ落ちる天井の下敷きとなった。しかし、裏日戸と土狛江は石化している為、ダメージは無い。
数秒後、瓦礫の山の中から悪魔が顔を出した。その目の前には石化解除された裏日戸の姿が。

「あばよ、水面…ッ‼︎」

教会が崩れた事により、屋外となった今、裏日戸の『日光・攻撃Light right』が使用可能。裏日戸は拳を振り上げた。

「『日光・攻撃Light right』!!!」

裏日戸は悪魔の頭部を殴った。悪魔の頭部は最も容易く弾け散った。

「小説、ありがとな…」

裏日戸は悪魔を倒した。
その時、瓦礫の下から土狛江が顔を出した。陣野はそんな土狛江に肩を貸す。

「俺は大丈夫です。それより陽香ちゃんを。」
「あぁ、わかった。」

陣野は裏日戸の元へ駆け寄り、切断された裏日戸の左脚と両手指の止血を行う。そんな陣野に土狛江は質問をする。

「ところで陣野さん。どうしてココに?」

それを聞かれると陣野は何かを思い出し、焦った表情で話を始めた。

「そ、そうだ!聞いてくれ!ガイが居なくなったんだ!」
「居なくなった…?」
「あぁ。トイレ行くって言ってから戻って来なくて…もしかしたら、道中で白鳥組の奴らに襲われたんじゃないかって…それで城下町門の前に整備士の柴垣を残して、俺とヤブ助と氷室くんの三人で、手分けしてガイを探してたんだ。」

その話を聞き、土狛江は桜田の言っていた事を元に思案する。

「(秋は、陽道がココには居ないと知りつつも、出口と決着をつける為に港へ赴いた。障坂君もそれを知っているだろう。おそらく、実際に偵察をしたヤブ助も…)」

土狛江は思案の結果を口に出した。

「もしかしたら、障坂君は一人で陽道の跡を追ったのかも…」
「そんな馬鹿な…」

土狛江の発言を疑う陣野。土狛江はその根拠を話す。

「障坂君が襲われた線は薄い。だって今の彼の姿は佐藤武夫くん。それに奴らは障坂君が死んだと思ってるんだ。」
「けど、それで何でガイが単独行動に出たって言えるんだよ?」

裏日戸の言う通り、今の土狛江の説明ではガイが白鳥組に襲われた可能性は低い事を証明しただけ。ガイの単独行動の証拠は無い。しかし、土狛江はそう思わざるを得なかった。

「秋と同じだ。きっと、障坂君は一人で決着ケリをつけるつもりなんだ。」

【フリージア王国よりさらに北、雪原にて…】

猛吹雪の中、ガイは一人で歩みを進めている。目指す先は陽道と同じ。魔王リアムが封印されている神殿。

「待ってろ陽道。」

何故、ガイが単独行動に出たのか。それは、これ以上、氷室などの無関係な仲間を巻き込みたくなかったから。それもある。しかし、本当の理由は他にあった。

「俺が…必ず…」

障坂として生を受けた使命。父親との決別。陽道への復讐。そして、あの日の約束。それを為し得るのは他の誰でも無い。自分自身だ。

「殺してやるからな…」
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