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第2章『ガイ-過去編-』
第111障『メンヘラ』
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【翌日(4月1日)、18:00、フリージア王国、城下町にて…】
猫化したヤブ助が町の探索をしている。
「(所々に黒スーツの男…陣野の言う通り、白鳥組の進行は今日はここまでのようだ。しかし…)」
ヤブ助は白鳥組幹部と陽道の居場所を探していた。しかし、どこを探しても城下町に彼らの姿が見当たらない。
「(まさか奴ら、城を占領しているとか…いや、そんな訳ない。いくら陽道でも、一国を支配する程の力があるとは思えない。メリットも無い。)」
【18:05、フリージア王国、城下町、港にて…】
ヤブ助は地面に座り、道行く人たちを眺めていた。
「(PSIは感じる。しかし、どれも現地のハンディーキャッパーのものだ。PSIを頼りに探せばすぐだと思っていたが…)」
その時、一人の漁師のような男がヤブ助の目の前に一匹の魚を置いた。
「ほら。それやるからどっか行きな。踏まれちまうぜ。」
「…」
ヤブ助はその男から貰った魚を咥え、その場から去った。それと同時に、ヤブ助に魚を与えた男の元へガタイの良い一人の男がやってきた。
「よぉ、ニキ。何サボってんだよ。」
「バッカスか。」
「お前、猫好きだったんだな。」
「別に。目障りだっただけでさぁ。それよりアレは何だ?」
ニキが指差す先、そこには一隻の船。その船へ乗り込む白鳥組の姿。
「アレな。ゴルデンの商人だとよ。」
「ゴルデン?あの幻の?」
「あぁ。俺もよくは知らねぇが、親分がえらく気に入っちまってなぁ。ま、大方ゴルデンの財宝が目当てだろうが。」
ニキはその話を聞き、再び白鳥組の姿を見る。そして、白鳥組を商人だと勘違いし、ペコペコする同僚達の姿も。
「卑しいな。猫も人間も。」
そんな様子をヤブ助は民家の屋根から眺めていた。
【???、船内にて…】
木製造りの大型船内のとある一室、俺はこの世の地獄を見た。
「は、はい…俺…もょもとって言います……皆さんの仲間に……」
声が上手く出せない。目の前のこの光景のせいだ。
「イ"タ"イ"……イ"タ"イ"ッ‼︎」
「ゴロ"シ"テ"ェ"ェ"……」
「お"か"あ"さ"ん"…ッ…‼︎」
両手両足を切り取られ、両目を潰された男達が積み上げられている。そして、その上に座る男。ニンゲンが椅子にされている。
「好きにしろ。石川、あとは任せた。」
「了解です。ボス。」
俺は石川と呼ばれる同い年くらいの少年に連れられ、その部屋を出た。
【部屋の前にて…】
部屋を出るなり、俺は嘔吐した。ずっと我慢してたんだ。あの男の前で吐いたらきっと殺されるって思ったから。
「早く歩け。」
俺を急かす石川の表情は冷静そのもの。有り得ない。あんな光景を見て何も思わないのか?
「おかしいって……」
コイツら、絶対に狂ってる。もしかしたら俺は、ヤバい奴らの仲間になってしまったんじゃないだろうか。
「これから俺は…どうなるんだ…?」
「殺されるだろうな。間違いなく。隙見て逃げない限りは。」
「🥺」
【18:20、フリージア王国、城下町、港にてにて…】
桜田,角野,不知火,土狛江,裏日戸が港へとやってきた。ヤブ助からの情報を元に、陽道は船内に居ると判断したのだ。船着場の手前で、桜田が皆に今一度作戦を話した。
「いいかい、みんな?僕らはあくまで陽動。幹部連中を陽道から引き離す事が目的だ。調子に乗って、陽道を殺そうなんて思っちゃダメだからね。陽香。」
桜田は裏日戸を名指した。それに不満を持ったのか、裏日戸は桜田に尋ねる。
「なんで私だけなんだよ。」
その問いに対して答えたのは桜田ではなく不知火だった。
「すぐ調子に乗る馬鹿だから。」
「なんだとコラ?」
不知火と裏日戸は睨み合う。それを角野が止める。
「二人ともやめなって、もう…こんな時に喧嘩しないでよ…」
角野含め一同は困った顔をする。しかし、二人のおかげで張り詰めた空気が少し和らいだ気がした。
「土狛江。」
桜田は土狛江の名を呼んだ。
「キミは陽香と一緒に行動してくれ。用心深いキミの性格なら彼女と合う。」
「了解。そう言うと思ってた。てか、前もそうだったし。」
土狛江の言う『前』とはガイを誘拐した時の事。その時も、土狛江と裏日戸は二人で行動させられていた。慎重な土狛江が裏日戸の抑制係としてちょうど良かったのだ。それを聞いた裏日戸はやや眉を顰める。
「またコイツとかよ。」
それを聞いた土狛江は微妙な表情をした。
「コイツって…一応、俺、年上なんだけど…」
しかし、裏日戸はそんな土狛江の発言を無視して桜田に話しかけた。
「そんな事より早く行こうぜ。もうすぐ日没だ。私のタレントが使えなくなる。」
「そうだね。」
桜田は深呼吸した後、真剣な表情で皆に言った。
「行こう。最後の戦いに。」
【フリージア王国、城下町、港、船着場にて…】
桜田たち五人はヤブ助から貰った情報通りの船にまっすぐ進む。その道中、数人の水夫に行手を阻まれるも、桜田がタレントを使用して道を開いた。
陽道が居るという船の前に着いた一同。そこで土狛江はとある事に気づく。
「(見張りが居ない…)」
そう。ココは陽道が居るはずの船。しかし、周りに居たのは白鳥組の見張りではなく、フリージアの水夫たち。見張りが居ないはず無いのだ。
「(何故、桜田はその事に気づかない…?気づかないはずがない…まさか、気づいていないフリをしている…?何故…何のために…?)」
土狛江は桜田に話しかけた。
「桜田。念のため聞くけど…」
その際、土狛江は桜田の真剣な表情を見て全てを察した。ココに陽道は居ない。居るのはそう、かつての仲間達。
「久しぶりだな。秋。」
船から出てきたのはかつての桜田の仲間、出口財閥現当主、幼馴染の出口哲也だった。
「哲也…」
桜田は船上にいる出口を見上げ、睨む。出口も桜田を睨んでいる。
「ココに陽道は居ない。あの方は既に船で北へと向かわれた。」
それを聞き、不知火と裏日戸は首を傾げる。
「居ない…?」
「騙されたって事か。」
状況を把握していない角野,不知火,裏日戸はやや困惑している。一方、桜田は冷静に出口に話しかけた。
「あえて情報を流したのかい?僕らをココへ誘き出す為に。」
「あぁ。お前なら来ると思っていた。全て察した上で…」
その時、出口は自身の体にPSIを纏った。
「俺を殺す為にな。」
出口はあえて陽道が港に居るような情報を流した。しかし、それは桜田に向けてのメッセージ。出口は桜田を、かつての仲間たちを殺す。過去と決別する為に。しかし、彼が囚われているものもまた過去。
「待って哲也!」
その時、角野が出口に話しかけた。
「秋も…もうやめようよ。どうして殺し合う必要があるの…?」
出口は黙ったまま。
「私達の目的は同じじゃない?戻ってきてよ。哲也。一緒に春ちゃんを生き返らせるって、約束したじゃない…!私と秋と哲也で…!」
しかし、出口はやはり何も喋らない。角野はそんな出口の態度に腹を立てた。
「黙ってないで何か言ってよ!哲也はいっつもそう!昔から何でも自分一人で決めて行動して…!相談くらいしてくれたって良いじゃない!信じてよ!」
そんな角野の熱意が届いたのか、出口は口を開く。
「信じてるよ。今でも…」
「じゃあどうして…⁈どうして殺し合おうとするの⁈秋もそうよ!どうして⁈」
角野の問いかけに桜田は答えた。
「僕を殺して初めて、哲也は完遂できるんだよ…」
「なに…言ってるの…?」
角野は桜田の言っている意味がわからなかった。ただ、角野の目には、互いの全てを理解し合った桜田と出口だけが映っている。
「訳わからない…!春ちゃんが報われない!そんなであの子が生き返ったとしても、きっと喜ばないよ!二人の殺し合いを春ちゃんが望むとでも思ってるの⁈おかしいよ!二人とも!あの事の事を想うのなら…」
桜田の亡くなった妹、春。その名を聞いた瞬間、だんまりだった出口は叫んだ。
「黙れッ!!!」
出口は凄まじい剣幕で話し続けた。
「気安くその名を呼ぶなッ…‼︎」
怒りを露わにする出口。それに慄く角野。しかし、桜田は冷めた目で出口を見つめ、こう言った。
「コレが彼の本性だよ、葉湖。」
「え…?」
「哲也は春の事が好きだ。けどそれ以上に、哲也は春に、自分を好きになって欲しいと思っている。」
好きな人に自分を好きになって欲しい。そう思うのは誰しも同じ。出口は人よりもそれが少し強かっただけだ。彼女の気を引きたい。彼女を自分のモノにしたい。彼女を『自分の力で』生き返らせたい。彼の愛に彼女の意思が含まれる道理は無かったのだ。
「俺が春を生き返らせるッ‼︎俺がッ‼︎お前らと一緒じゃダメなんだッ‼︎」
「そんな事で……」
角野は出口の理由を知り、愕然とする。しかし、桜田は全て予想通りといった反応。知っていたのだ。出口の本性を。
「哲也。完璧主義のキミが歪んでしまったのは、きっと…僕のせいだ…こんな事に巻き込んだこと…だからこそ、僕が責任を持ってキミを殺す。そうでもしないと、キミはもう止まる事はしないだろう?」
「あぁ。」
次の瞬間、出口は自身の上の服を脱ぎ捨て、上半身を露わにした。胸部には赤黒いナニカが胎動している。そのナニカはバケモノと化した有野の細胞から作られた魔物化の卵。
「それに…もウッ……止マッ…レなイ……‼︎」
出口は苦しみ出した。そして、みるみるうちに出口のPSIが上昇していき、容姿が変化していく。数秒後、出口の体はバケモノと化した。
「哲…也……⁈」
体全身に無数の眼球が現れ、顔・背中・腹・足などから計18本の腕が生えた。その姿は本当に魔物そのもの。
「こリゃア良い。俺の望んダ通りの姿にナれる…」
出口のタレント『殺輪眼機関銃(ピストルアイ)』はPSIを弾丸のように発射する能力。その際の発動条件は、指で輪を作り目に添える事。魔物化で目と腕が増えた分、出口のタレントはより強化された。
「望んだオモヒが頭ニ浮かブ……」
出口は計18本の腕で指の輪を作り、全身の眼球に添えた。
猫化したヤブ助が町の探索をしている。
「(所々に黒スーツの男…陣野の言う通り、白鳥組の進行は今日はここまでのようだ。しかし…)」
ヤブ助は白鳥組幹部と陽道の居場所を探していた。しかし、どこを探しても城下町に彼らの姿が見当たらない。
「(まさか奴ら、城を占領しているとか…いや、そんな訳ない。いくら陽道でも、一国を支配する程の力があるとは思えない。メリットも無い。)」
【18:05、フリージア王国、城下町、港にて…】
ヤブ助は地面に座り、道行く人たちを眺めていた。
「(PSIは感じる。しかし、どれも現地のハンディーキャッパーのものだ。PSIを頼りに探せばすぐだと思っていたが…)」
その時、一人の漁師のような男がヤブ助の目の前に一匹の魚を置いた。
「ほら。それやるからどっか行きな。踏まれちまうぜ。」
「…」
ヤブ助はその男から貰った魚を咥え、その場から去った。それと同時に、ヤブ助に魚を与えた男の元へガタイの良い一人の男がやってきた。
「よぉ、ニキ。何サボってんだよ。」
「バッカスか。」
「お前、猫好きだったんだな。」
「別に。目障りだっただけでさぁ。それよりアレは何だ?」
ニキが指差す先、そこには一隻の船。その船へ乗り込む白鳥組の姿。
「アレな。ゴルデンの商人だとよ。」
「ゴルデン?あの幻の?」
「あぁ。俺もよくは知らねぇが、親分がえらく気に入っちまってなぁ。ま、大方ゴルデンの財宝が目当てだろうが。」
ニキはその話を聞き、再び白鳥組の姿を見る。そして、白鳥組を商人だと勘違いし、ペコペコする同僚達の姿も。
「卑しいな。猫も人間も。」
そんな様子をヤブ助は民家の屋根から眺めていた。
【???、船内にて…】
木製造りの大型船内のとある一室、俺はこの世の地獄を見た。
「は、はい…俺…もょもとって言います……皆さんの仲間に……」
声が上手く出せない。目の前のこの光景のせいだ。
「イ"タ"イ"……イ"タ"イ"ッ‼︎」
「ゴロ"シ"テ"ェ"ェ"……」
「お"か"あ"さ"ん"…ッ…‼︎」
両手両足を切り取られ、両目を潰された男達が積み上げられている。そして、その上に座る男。ニンゲンが椅子にされている。
「好きにしろ。石川、あとは任せた。」
「了解です。ボス。」
俺は石川と呼ばれる同い年くらいの少年に連れられ、その部屋を出た。
【部屋の前にて…】
部屋を出るなり、俺は嘔吐した。ずっと我慢してたんだ。あの男の前で吐いたらきっと殺されるって思ったから。
「早く歩け。」
俺を急かす石川の表情は冷静そのもの。有り得ない。あんな光景を見て何も思わないのか?
「おかしいって……」
コイツら、絶対に狂ってる。もしかしたら俺は、ヤバい奴らの仲間になってしまったんじゃないだろうか。
「これから俺は…どうなるんだ…?」
「殺されるだろうな。間違いなく。隙見て逃げない限りは。」
「🥺」
【18:20、フリージア王国、城下町、港にてにて…】
桜田,角野,不知火,土狛江,裏日戸が港へとやってきた。ヤブ助からの情報を元に、陽道は船内に居ると判断したのだ。船着場の手前で、桜田が皆に今一度作戦を話した。
「いいかい、みんな?僕らはあくまで陽動。幹部連中を陽道から引き離す事が目的だ。調子に乗って、陽道を殺そうなんて思っちゃダメだからね。陽香。」
桜田は裏日戸を名指した。それに不満を持ったのか、裏日戸は桜田に尋ねる。
「なんで私だけなんだよ。」
その問いに対して答えたのは桜田ではなく不知火だった。
「すぐ調子に乗る馬鹿だから。」
「なんだとコラ?」
不知火と裏日戸は睨み合う。それを角野が止める。
「二人ともやめなって、もう…こんな時に喧嘩しないでよ…」
角野含め一同は困った顔をする。しかし、二人のおかげで張り詰めた空気が少し和らいだ気がした。
「土狛江。」
桜田は土狛江の名を呼んだ。
「キミは陽香と一緒に行動してくれ。用心深いキミの性格なら彼女と合う。」
「了解。そう言うと思ってた。てか、前もそうだったし。」
土狛江の言う『前』とはガイを誘拐した時の事。その時も、土狛江と裏日戸は二人で行動させられていた。慎重な土狛江が裏日戸の抑制係としてちょうど良かったのだ。それを聞いた裏日戸はやや眉を顰める。
「またコイツとかよ。」
それを聞いた土狛江は微妙な表情をした。
「コイツって…一応、俺、年上なんだけど…」
しかし、裏日戸はそんな土狛江の発言を無視して桜田に話しかけた。
「そんな事より早く行こうぜ。もうすぐ日没だ。私のタレントが使えなくなる。」
「そうだね。」
桜田は深呼吸した後、真剣な表情で皆に言った。
「行こう。最後の戦いに。」
【フリージア王国、城下町、港、船着場にて…】
桜田たち五人はヤブ助から貰った情報通りの船にまっすぐ進む。その道中、数人の水夫に行手を阻まれるも、桜田がタレントを使用して道を開いた。
陽道が居るという船の前に着いた一同。そこで土狛江はとある事に気づく。
「(見張りが居ない…)」
そう。ココは陽道が居るはずの船。しかし、周りに居たのは白鳥組の見張りではなく、フリージアの水夫たち。見張りが居ないはず無いのだ。
「(何故、桜田はその事に気づかない…?気づかないはずがない…まさか、気づいていないフリをしている…?何故…何のために…?)」
土狛江は桜田に話しかけた。
「桜田。念のため聞くけど…」
その際、土狛江は桜田の真剣な表情を見て全てを察した。ココに陽道は居ない。居るのはそう、かつての仲間達。
「久しぶりだな。秋。」
船から出てきたのはかつての桜田の仲間、出口財閥現当主、幼馴染の出口哲也だった。
「哲也…」
桜田は船上にいる出口を見上げ、睨む。出口も桜田を睨んでいる。
「ココに陽道は居ない。あの方は既に船で北へと向かわれた。」
それを聞き、不知火と裏日戸は首を傾げる。
「居ない…?」
「騙されたって事か。」
状況を把握していない角野,不知火,裏日戸はやや困惑している。一方、桜田は冷静に出口に話しかけた。
「あえて情報を流したのかい?僕らをココへ誘き出す為に。」
「あぁ。お前なら来ると思っていた。全て察した上で…」
その時、出口は自身の体にPSIを纏った。
「俺を殺す為にな。」
出口はあえて陽道が港に居るような情報を流した。しかし、それは桜田に向けてのメッセージ。出口は桜田を、かつての仲間たちを殺す。過去と決別する為に。しかし、彼が囚われているものもまた過去。
「待って哲也!」
その時、角野が出口に話しかけた。
「秋も…もうやめようよ。どうして殺し合う必要があるの…?」
出口は黙ったまま。
「私達の目的は同じじゃない?戻ってきてよ。哲也。一緒に春ちゃんを生き返らせるって、約束したじゃない…!私と秋と哲也で…!」
しかし、出口はやはり何も喋らない。角野はそんな出口の態度に腹を立てた。
「黙ってないで何か言ってよ!哲也はいっつもそう!昔から何でも自分一人で決めて行動して…!相談くらいしてくれたって良いじゃない!信じてよ!」
そんな角野の熱意が届いたのか、出口は口を開く。
「信じてるよ。今でも…」
「じゃあどうして…⁈どうして殺し合おうとするの⁈秋もそうよ!どうして⁈」
角野の問いかけに桜田は答えた。
「僕を殺して初めて、哲也は完遂できるんだよ…」
「なに…言ってるの…?」
角野は桜田の言っている意味がわからなかった。ただ、角野の目には、互いの全てを理解し合った桜田と出口だけが映っている。
「訳わからない…!春ちゃんが報われない!そんなであの子が生き返ったとしても、きっと喜ばないよ!二人の殺し合いを春ちゃんが望むとでも思ってるの⁈おかしいよ!二人とも!あの事の事を想うのなら…」
桜田の亡くなった妹、春。その名を聞いた瞬間、だんまりだった出口は叫んだ。
「黙れッ!!!」
出口は凄まじい剣幕で話し続けた。
「気安くその名を呼ぶなッ…‼︎」
怒りを露わにする出口。それに慄く角野。しかし、桜田は冷めた目で出口を見つめ、こう言った。
「コレが彼の本性だよ、葉湖。」
「え…?」
「哲也は春の事が好きだ。けどそれ以上に、哲也は春に、自分を好きになって欲しいと思っている。」
好きな人に自分を好きになって欲しい。そう思うのは誰しも同じ。出口は人よりもそれが少し強かっただけだ。彼女の気を引きたい。彼女を自分のモノにしたい。彼女を『自分の力で』生き返らせたい。彼の愛に彼女の意思が含まれる道理は無かったのだ。
「俺が春を生き返らせるッ‼︎俺がッ‼︎お前らと一緒じゃダメなんだッ‼︎」
「そんな事で……」
角野は出口の理由を知り、愕然とする。しかし、桜田は全て予想通りといった反応。知っていたのだ。出口の本性を。
「哲也。完璧主義のキミが歪んでしまったのは、きっと…僕のせいだ…こんな事に巻き込んだこと…だからこそ、僕が責任を持ってキミを殺す。そうでもしないと、キミはもう止まる事はしないだろう?」
「あぁ。」
次の瞬間、出口は自身の上の服を脱ぎ捨て、上半身を露わにした。胸部には赤黒いナニカが胎動している。そのナニカはバケモノと化した有野の細胞から作られた魔物化の卵。
「それに…もウッ……止マッ…レなイ……‼︎」
出口は苦しみ出した。そして、みるみるうちに出口のPSIが上昇していき、容姿が変化していく。数秒後、出口の体はバケモノと化した。
「哲…也……⁈」
体全身に無数の眼球が現れ、顔・背中・腹・足などから計18本の腕が生えた。その姿は本当に魔物そのもの。
「こリゃア良い。俺の望んダ通りの姿にナれる…」
出口のタレント『殺輪眼機関銃(ピストルアイ)』はPSIを弾丸のように発射する能力。その際の発動条件は、指で輪を作り目に添える事。魔物化で目と腕が増えた分、出口のタレントはより強化された。
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