171 / 211
第2章『ガイ-過去編-』
第107障『軟体とトンツー』
しおりを挟む
【4月1日、深夜3時、潜水艦外にて…】
潜水艦に巨体の男が張り付いている。男の名はブレス。ホールド,ロイ,フリート同様、白鳥組に雇われた六人の殺し屋の内一人。
ブレスはその身一つで水深200mを時速50kmで泳いできた。それを可能にするのはブレスの驚異的な肺活量にある。ブレスの全身の細胞は肺のような組織を結成しており、約30時間の無呼吸運動が可能。動かなければ10日は息を吸わなくても問題がない程。
「(くそお…硬えなあ…)」
ブレスは外側から潜水艦の窓を突き破ろうとしている。しかし、これは陣野自慢の潜水艦。そう簡単に破壊はできない。
「(まあいいやあ…あとはソフトに任せるう…)」
【潜水艦内、操縦室にて…】
桜田や他数名の整備士達はブレスの存在に気がついた。
「早くみんなに知らせないと…!」
桜田が操縦室を出ようとしたその時、コツコツと言う音が聞こえて来た。
「(艦壁を叩く音…外の奴が侵入しようとしているのか…)」
次の瞬間、壁の隙間から何かが飛び出して来た。
「ッ⁈」
その何かは鞭のようにしなり、桜田の背後にいた整備士の首を切断した。
「なにぃ⁈」
桜田は驚嘆した。その場にいた整備士達はパニックに陥っている。
「うわぁぁあ!!!」
「嫌だぁ!死にたくないぃい!!!」
すると次の瞬間、パニックに陥った整備士達の首、いや、頭部付近その何かによって切断された。それと同時に、桜田は口に手を押さえる。
「(音……か…)」
桜田はそれが音で攻撃してくるものだと推測した。その証拠に整備士達が攻撃を受けたのは首や頭部、つまり、発声器官の付近。
「(まずい…)」
桜田がそう思う理由。それは桜田のタレントにあった。この潜水艦という密室空間では音が反響してしまう。耳を塞ぐ事も効果が薄い。つまり、桜田の『誤謬通信』を発動した場合、自身や味方にも影響が及んでしまうのだ。
「(どうするか…)」
外ではブレスが潜水艦を殴っている。その音がコツンコツンと艦内に響く。
次の瞬間、天井からその何かが現れ、桜田の首を切り裂いた。
「かぐぁッ‼︎」
桜田はPSIを纏っていた為、首の切断は免れた。しかし、首からは大量の血が流れ出る。
「(何故…僕の居場所が…)」
桜田は音を立てていない。にも関わらず、それは正確に桜田を攻撃した。
「(もしかして…)」
しかし、桜田はすぐその答えに気づいた。そして、桜田は自身の持っていたスマホを部屋の隅へと投げ捨てた。そのすぐ後、投げ捨てたスマホから桜田の声が聞こえて来た。
〈何処にいる!〉
次の瞬間、再び壁の隙間から現れたそれは投げ捨てられた桜田のスマホを正確に攻撃する。その隙に桜田は扉を開け、ガイ達の居る部屋へと移動した。どうやら、スマホは部屋を移動する為の囮だったようだ。
【潜水艦内、ガイ達の居る部屋にて…】
首から大量の血を流した桜田がやってきた。
「秋!」
いち早く桜田に気づいた角野が彼に駆け寄る。
「何があったの⁈」
「…ぇ……ぁ…」
しかし、首を切り裂かれた為、声が出せない。
「(声が……早くみんなに知らせないと…)」
皆、桜田に気づき、彼の周りに集まる。
「ちょっと退いてください!」
氷室はタレントで桜田の治療を始めた。
「一体何が…」
その時、桜田は自身の口の前で、左右の人差し指でバツ印を作った。
「え…?」
治療を行う氷室を始め、皆は桜田のその行動の意味がよくわかっていない。しかし、一人だけその意味に気づいた。
「声を出すな!」
ガイだ。ガイは桜田の行動の意図を読み取り、皆に伝えた。その刹那、壁の隙間から再びそれが現れ、大声を上げたガイの首めがけて飛んできた。
「『靴操』!!!」
この体勢では回避できないと悟ったガイは『理解』で保存してあるチビマルのタレント『靴操』を使用し、自身の靴を操ってその何かを回避した。
「ッ……」
ガイは宙に逆さに浮いた状態で、人差し指を自身の口に当てた。
「「「ッ……」」」
ガイの仲間たちは皆、事態を把握したらしく、騒ぐものは一人もいない。しかし、整備士達は違う。ガイ達のように戦い慣れしていない彼らは、パニックに陥った。
「な、何が起こっているんだ⁈」
「敵だ!敵の攻撃だ!」
当然、壁から出てくるそれは騒ぐ整備士達を殺す。それをまずいと思うヤブ助。
「(彼らが全滅すれば、大陸へは辿り着けない…!なんとしても守らねば…)」
すると、ヤブ助は生き残った二人の整備士を殴り、気絶させた。
「(ナイス、ヤブ助。)」
ガイはヤブ助にグッチョブした。そして、ガイは土狛江にアイコンタクトを送る。
「…」
土狛江は懐から袋を取り出した。その袋に入っているものは土。土狛江の土を操るタレントで艦内の隙間に潜むそれを探るつもりだ。
その時、ガイは窓の外を見た。外ではブレスが窓を殴り続けている。
「(アイツ、ずっと殴り続けてるな…)」
次の瞬間、治療中の桜田が起き上がり、宙を浮くガイに飛びかかった。
「ッ⁈」
そのすぐ後、先程までガイが浮いていた場所に向けて壁からそれが攻撃してきた。つまり、桜田がガイを攻撃から守ったのだ。
「(俺は音を立ててない…なのに敵は俺のいた位置に向かって攻撃してきた…それを、桜田も理解していた…)」
戸惑うガイに桜田は耳打ちした。
「トンツーだ…」
それを聞いたガイは理解した。先ず、ガイ達を襲ってきたそれは人間。『Zoo』の殺し屋のソフトだ。ソフトの超軟体なら潜水艦であろうと侵入する事ができる。そして、艦内の隙間に潜み、音を聞き分けて攻撃を仕掛けてきた。ここまでは誰もが予想の範囲内。しかし何故、音を発しなかったガイを正確に狙う事ができたのか。それは外にいるブレスの仕業。ブレスは窓から中の様子を見て、敵のいる位置をトンツー、つまり、モールス信号でソフトに伝えていたのだ。その為に窓を殴り続けていたという訳だ。
その時、ガイは桜田からタブレット端末を受け取った。
「…」
ガイは理解した。そして次の瞬間、ガイはそのタブレット端末を窓の外にいるブレスに見せつけた。タブレット端末にはこう表示されていた。
〈眠れ〉
コレは桜田の『誤謬通信』だ。この画面の文字を見れば、ブレスは眠る。
「(どうだ…)」
ガイはタブレット端末の電源を切り、窓の外を見た。しかし、そこにブレスは居ない。
「(奴らも白鳥組から俺たちのタレントを聞いてる…下手なミスはしないか…)」
再び、ブレスのトンツーが聞こえる。何処からかガイ達を見ているようだ。
「(さて。どうするか…)」
潜水艦に巨体の男が張り付いている。男の名はブレス。ホールド,ロイ,フリート同様、白鳥組に雇われた六人の殺し屋の内一人。
ブレスはその身一つで水深200mを時速50kmで泳いできた。それを可能にするのはブレスの驚異的な肺活量にある。ブレスの全身の細胞は肺のような組織を結成しており、約30時間の無呼吸運動が可能。動かなければ10日は息を吸わなくても問題がない程。
「(くそお…硬えなあ…)」
ブレスは外側から潜水艦の窓を突き破ろうとしている。しかし、これは陣野自慢の潜水艦。そう簡単に破壊はできない。
「(まあいいやあ…あとはソフトに任せるう…)」
【潜水艦内、操縦室にて…】
桜田や他数名の整備士達はブレスの存在に気がついた。
「早くみんなに知らせないと…!」
桜田が操縦室を出ようとしたその時、コツコツと言う音が聞こえて来た。
「(艦壁を叩く音…外の奴が侵入しようとしているのか…)」
次の瞬間、壁の隙間から何かが飛び出して来た。
「ッ⁈」
その何かは鞭のようにしなり、桜田の背後にいた整備士の首を切断した。
「なにぃ⁈」
桜田は驚嘆した。その場にいた整備士達はパニックに陥っている。
「うわぁぁあ!!!」
「嫌だぁ!死にたくないぃい!!!」
すると次の瞬間、パニックに陥った整備士達の首、いや、頭部付近その何かによって切断された。それと同時に、桜田は口に手を押さえる。
「(音……か…)」
桜田はそれが音で攻撃してくるものだと推測した。その証拠に整備士達が攻撃を受けたのは首や頭部、つまり、発声器官の付近。
「(まずい…)」
桜田がそう思う理由。それは桜田のタレントにあった。この潜水艦という密室空間では音が反響してしまう。耳を塞ぐ事も効果が薄い。つまり、桜田の『誤謬通信』を発動した場合、自身や味方にも影響が及んでしまうのだ。
「(どうするか…)」
外ではブレスが潜水艦を殴っている。その音がコツンコツンと艦内に響く。
次の瞬間、天井からその何かが現れ、桜田の首を切り裂いた。
「かぐぁッ‼︎」
桜田はPSIを纏っていた為、首の切断は免れた。しかし、首からは大量の血が流れ出る。
「(何故…僕の居場所が…)」
桜田は音を立てていない。にも関わらず、それは正確に桜田を攻撃した。
「(もしかして…)」
しかし、桜田はすぐその答えに気づいた。そして、桜田は自身の持っていたスマホを部屋の隅へと投げ捨てた。そのすぐ後、投げ捨てたスマホから桜田の声が聞こえて来た。
〈何処にいる!〉
次の瞬間、再び壁の隙間から現れたそれは投げ捨てられた桜田のスマホを正確に攻撃する。その隙に桜田は扉を開け、ガイ達の居る部屋へと移動した。どうやら、スマホは部屋を移動する為の囮だったようだ。
【潜水艦内、ガイ達の居る部屋にて…】
首から大量の血を流した桜田がやってきた。
「秋!」
いち早く桜田に気づいた角野が彼に駆け寄る。
「何があったの⁈」
「…ぇ……ぁ…」
しかし、首を切り裂かれた為、声が出せない。
「(声が……早くみんなに知らせないと…)」
皆、桜田に気づき、彼の周りに集まる。
「ちょっと退いてください!」
氷室はタレントで桜田の治療を始めた。
「一体何が…」
その時、桜田は自身の口の前で、左右の人差し指でバツ印を作った。
「え…?」
治療を行う氷室を始め、皆は桜田のその行動の意味がよくわかっていない。しかし、一人だけその意味に気づいた。
「声を出すな!」
ガイだ。ガイは桜田の行動の意図を読み取り、皆に伝えた。その刹那、壁の隙間から再びそれが現れ、大声を上げたガイの首めがけて飛んできた。
「『靴操』!!!」
この体勢では回避できないと悟ったガイは『理解』で保存してあるチビマルのタレント『靴操』を使用し、自身の靴を操ってその何かを回避した。
「ッ……」
ガイは宙に逆さに浮いた状態で、人差し指を自身の口に当てた。
「「「ッ……」」」
ガイの仲間たちは皆、事態を把握したらしく、騒ぐものは一人もいない。しかし、整備士達は違う。ガイ達のように戦い慣れしていない彼らは、パニックに陥った。
「な、何が起こっているんだ⁈」
「敵だ!敵の攻撃だ!」
当然、壁から出てくるそれは騒ぐ整備士達を殺す。それをまずいと思うヤブ助。
「(彼らが全滅すれば、大陸へは辿り着けない…!なんとしても守らねば…)」
すると、ヤブ助は生き残った二人の整備士を殴り、気絶させた。
「(ナイス、ヤブ助。)」
ガイはヤブ助にグッチョブした。そして、ガイは土狛江にアイコンタクトを送る。
「…」
土狛江は懐から袋を取り出した。その袋に入っているものは土。土狛江の土を操るタレントで艦内の隙間に潜むそれを探るつもりだ。
その時、ガイは窓の外を見た。外ではブレスが窓を殴り続けている。
「(アイツ、ずっと殴り続けてるな…)」
次の瞬間、治療中の桜田が起き上がり、宙を浮くガイに飛びかかった。
「ッ⁈」
そのすぐ後、先程までガイが浮いていた場所に向けて壁からそれが攻撃してきた。つまり、桜田がガイを攻撃から守ったのだ。
「(俺は音を立ててない…なのに敵は俺のいた位置に向かって攻撃してきた…それを、桜田も理解していた…)」
戸惑うガイに桜田は耳打ちした。
「トンツーだ…」
それを聞いたガイは理解した。先ず、ガイ達を襲ってきたそれは人間。『Zoo』の殺し屋のソフトだ。ソフトの超軟体なら潜水艦であろうと侵入する事ができる。そして、艦内の隙間に潜み、音を聞き分けて攻撃を仕掛けてきた。ここまでは誰もが予想の範囲内。しかし何故、音を発しなかったガイを正確に狙う事ができたのか。それは外にいるブレスの仕業。ブレスは窓から中の様子を見て、敵のいる位置をトンツー、つまり、モールス信号でソフトに伝えていたのだ。その為に窓を殴り続けていたという訳だ。
その時、ガイは桜田からタブレット端末を受け取った。
「…」
ガイは理解した。そして次の瞬間、ガイはそのタブレット端末を窓の外にいるブレスに見せつけた。タブレット端末にはこう表示されていた。
〈眠れ〉
コレは桜田の『誤謬通信』だ。この画面の文字を見れば、ブレスは眠る。
「(どうだ…)」
ガイはタブレット端末の電源を切り、窓の外を見た。しかし、そこにブレスは居ない。
「(奴らも白鳥組から俺たちのタレントを聞いてる…下手なミスはしないか…)」
再び、ブレスのトンツーが聞こえる。何処からかガイ達を見ているようだ。
「(さて。どうするか…)」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる