障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第104障『恐怖なき支配に悦は無い』

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【3月25日、障坂家専属の病院、佐藤武夫の病室にて…】

武夫ガイは筋トレをしていた。佐藤武夫の体ではあまりに筋力・体力不足。ガイはそう思ったのだ。
その時、人間化したヤブ助がレジ袋を持って病室に入ってきた。

「そんなに動いて大丈夫なのか?」
「あぁ。こうでもしないと、寝たきりだったこの体は今後、役に立たない。」
「そうか…」

少しよそよそしい。ヤブ助は佐藤武夫となったガイに慣れないようだ。
ヤブ助は手に持っていたレジ袋を机の上に置いた。

「言われた通り、食料買ってきたぞ。」
「ありがとう。病院飯じゃ肉付かないからな。」

ガイは筋トレを一時中断し、ヤブ助が買ってきた食料、主に唐揚げや手羽先を食べ始めた。

「なぁ、ガイ…」
「なに?」
「本当に、アイツらに会わない気か…?」

ヤブ助の言う『アイツら』とは、猪頭邸に身を潜める堺や山尾や友田,園の子ども達の事である。ガイはまだ、この世に残留している事を彼らに知らせていなかったのだ。

「あぁ。会わない。俺が佐藤武夫の体で生きてるって猪頭家の使用人にバレたらやばいだろ?猪頭は表向きには白鳥組と組んでるんだ。今、アイツらが始末されないのは、猪頭が白鳥組の傘下には入ってるから。俺は猪頭邸に戻るべきじゃない。」

ガイの言う事は正しい。しかし、ヤブ助は知らせたかったのだ。記憶であれ、ガイはまだ生きていると。

「ココに呼ぶ事くらいできるだろ?」
「ダメだ。うっかり口を滑らせかねない。そうなれば、俺は何の為に死んだんだってなるぞ?」
「…」

ヤブ助はガイの正論に言葉が出ない。

「そうだ、船の件は上手くいったか?」
「あぁ。陣野は協力的だ。そっちは桜田に任せておけば大丈夫だろう。」
「そうか。」

ガイはヤブ助が持ってきた食料を食べ終え、再び筋トレに戻った。

「あと1週間だ。」

【同時刻、猪頭邸にて…】

堺,山尾,氷室,友田の四人が広間で話をしていた。この中でガイがまだ生きていると知っている者は氷室だけである。

「本当に…コレで終わったんだよね…?」

堺は皆にそう問いかけた。

「コレで僕たちは…命を狙われる事も無いんだよね…?」
「さあな…」

堺の言う通り、もう彼らが白鳥組に命を狙われる事は無いだろう。しかし、素直に喜べない。理由は一つ。ガイが犠牲になったからだ。

「けど、俺は終わらねぇぞ。」

山尾は話を続けた。

「俺は桜田たちと共に陽道を追う。もう失う物は何もねぇんだ。ガイの仇を打つ…!」
「山尾くん…」

山尾の共を想う真っ直ぐな言葉に、心を打たれた氷室。そして、氷室も山尾に続けた。

「俺も行きます!白鳥組は野放しにできない!」

すると、山尾はそう発言した氷室の肩を組んだ。

「よく言った!氷室!漢だぜぇ!お前はよぉ!」
「痛いっすよ山尾さ~ん!複眼当たってますって~!」

氷室の肩にまで広がる複眼に山尾の腕が当たっていた。

「おぉ、悪い悪い。」

山尾が氷室の肩から手を離したと同時に、堺はこう言った。

「僕は…行かない……」

深刻な表情を見せる堺。空気が一変した。

「障坂くんの仇を取りたい…みんなの役にも立ちたい…でも……」

堺はハンディーキャッパーではない。皆の役には立てない。そう思った。そして何より、堺を踏みとどまるものはやはり恐怖。無能力者ノーマルの堺に自身を守る術は無い。PSIで肉体を強化する事も、タレントで窮地を凌ぐ事も出来ないのだ。そんな堺にとっての恐怖は、山尾や氷室のそれとは比にならない。

「ごめん…僕には無理だ……」

堺は謝罪の言葉を発すると共に、顔を伏せる。三人は堺の心境を悟った。

「そうか…」

山尾は呟く。そして、ずっと黙っていた友田が言葉を発した。

「京香は…どうなるの…?」

有野の名前を聞き、他の三人は動揺する。一方、友田は話し続けた。

「京香はずっと…あの姿のまま…ずっと生きていくの…?」

巨大な芋虫の化け物となった有野。もう元の姿には戻せない。その理由を氷室が説明する。

「今の有野さんの体は超再生を繰り返している。例え、重要な器官以外の肉を削いで、俺のタレントで形を整形したとしても、すぐに今の姿に戻っちゃいます。」

氷室に続けて、山尾が発言する。

「俺らには、どうする事も出来ねぇよ…」
「いや、どうにかなるかもしれない。」

そこへ、桜田とその仲間たちが部屋へ入ってきた。

「有野ちゃんを元の姿に戻す事も、死んだ人を生き返らせる事も。」

死人を生き返らせる。それを聞いた瞬間、山尾たちは驚愕した。

「生き返らせるだと…⁈」
「ほ、本当なんですか⁈」
「うん。可能性は十分にある。」

桜田は自身ありげにそう言い放った。

「その方法って…?」
「魔王復活の報酬だよ。」

【障坂家専属の病院、佐藤武夫の病室にて…】

ガイは筋トレをしながら、ヤブ助と話をしている。

「魔王は謂わば、この世界の神。不可能は無いはずだ。雷世の話によると、どのみちリアムを復活させないといけないらしいから、一石二鳥ってやつ?いや、一石三鳥だな。世界の存続に死者の復活、そして、陽道の抹殺。」

その話を聞いたヤブ助はガイに質問した。

「まさかガイ…それがわかっていたから、自分を犠牲に…?」
「まぁね。」

ガイはYESと答えた。しかし、この発言が嘘である事をこの時のヤブ助はまだ知らない。

「俺は桜田たちと共に陽道を追う。陽道たちを殺して、リアムを復活させ、有野を元に戻す。」

その時、ガイは病室の机の上に置いてあったマフラーを見た。誕生日に村上から貰った赤いマフラー。

「(また…逢える……)」

【4月1日、深夜1時、海上にて…】

五隻の大型船が浮かんでいる。白鳥組の船だ。彼らは前日にゴルデンから出港した。
その時、船の上から海へ何かを投げ込む音が聞こえた。それを捨てたのは二人の白鳥組下っ端の男達だ。

「うげぇ気持ち悪ぃ…あと何個あんだよ?」
「四つ。」
「ふへぇ~…」

男達は次々とその何かを海へ投げ込む。

「勿体無ぇな。こんな美人、俺ならずっと生かしておいて肉便器にすんのによぉ。勿体無ぇ…」

そう。男達が海へ投げ捨てていたのは、若い女性の遺体だ。それも、かなりの拷問の跡が見られる。

「これやったのどうせ時和だろ?あの坊主イカれてるから。」
「ボスの仕業かも知んねーぜ?」
「いや、あの人には専属のが居るから。」
「あぁ。アイツか。えーっと…名前、なんだっけ?」
「アレだよ、アレ。四代財閥の。」
「あぁ。猪頭ね。」
「今もボスに犯されてんじゃねーの。知らんけど。」

男達は女性の遺体を全て海に捨て終えた。

「あー腹減った。てか到着まだ?」
「明け方頃に着くとさ。」
「なんで知ってんだよ。」
「石川に聞いた。」

【白鳥組の船の中、陽道の部屋にて…】

荒い息、肌と肌がぶつかり合う音が部屋に響く。

「ハ‼︎ハハハッ‼︎懐かしいぜ‼︎こうやって、テメェの首を絞めながらヤるのは‼︎」

部屋に居るのは陽道と秀頼。陽道は秀頼の首を絞め、背後から彼女を犯す。

「いくつになっても、テメェの身体は最高だぜぇ‼︎」

秀頼の体は縄で縛られ、身動きが取れないようにされている。また、全身に鞭で打たれたようなミミズ腫れの跡があった。

「(感じるぜ‼︎俺への恐怖をッ‼︎堪んねぇ‼︎堪んねぇええッ‼︎)」

陽道は絶頂を迎え、ベッドに押さえつけられる秀頼の上に自身の体を乗せ、脱力した。

「(全てだ…全て支配する…‼︎世界も魔王も、この俺が支配する…‼︎)」

そして、陽道は笑みを浮かべる。

「恐怖なき支配に悦は無い…ッ‼︎」
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