障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第99障『芋虫、裏切り、夫婦、実験。』

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【3月20日、19:25、伊従村、館林地下研究所にて…】

「来てやったぞ、陽道。」

約束の時間まで後35分もある。裏工作をしていた桜田,土狛江,氷室はともかく、何故ヤブ助と秀頼、そして、ガイがこの時間にやってきたのか。

「どう…して…」

桜田のその疑問はすぐに解決した。

「氷室くん…まさか…!」
「すみません…」

そう。氷室がガイに話してしまったのだ。

「お、俺…やっぱり…ガイさんに内緒にするのは良くないと思って…」

それを聞いた桜田は焦った。

「何考えてるんだッ!キミのやった事は障坂くんを殺…」

その時、桜田は自身の口を押さえた。言ってはまずいと判断したのだ。

「(くそッ!こうなった以上、何としてでも障坂くんを逃すんだ…!)」

桜田がスマホを取り出し、タレントを使用しようとしたその時、ヤブ助が桜田に飛びかかった。

「な、何するんだ…⁈」

桜田は自身の体を押さえつけるヤブ助の顔を見た。

「ッ……」

ヤブ助の目は腫れていた。それを見て、桜田はガイやヤブ助の意図を察し、確認した。

「キミの主人だろ…許せるのか…?こんな結末…」
「あぁ…」

そう頷いたヤブ助にもはや意思はなかった。
その時、陽道が椅子から立ち上がり、ガイに話しかけた。

「本物が来たのは良いがよぉお?桜田がやらかしたこの始末、どう落とし前つけるつもりだ?あ?」
「それぐらい許して欲しいな。どうせ、コッチの人質も無事じゃないんだろ…」

人質、つまり有野の事。そう。ガイは勘づいていたのだ。白鳥組に人質として囚われていた有野が、五体満足で帰ってくる訳が無いと。
それを聞いた陽道は笑みをこぼしながらこう言った。

「わかってんじゃねぇか。おい。」

陽道が合図を送ると、側方の巨大な扉が開いた。それと共に強烈な異臭が部屋に充満する。陽道たち白鳥組はその異臭を知っていたのか、マスクを取り出し、顔に付けた。

「コレだろぉ?テメェの返して欲しかった人質って奴は。」

巨大な扉の先、その中にあるもの。それを見てヤブ助,桜田,氷室,土狛江は驚愕した。

「ま、まさか…⁈」

驚愕と絶望を感じる桜田達に向けて、陽道は嘲笑いながら、発言した。

「まぁ!もう人じゃねぇーけどなぁ!!!」

扉の先に居たのは、大型トラックよりも一回り大きな体をした不気味な芋虫だった。

「ァ"ア"エ"…‼︎ク"ェ"ェ"……‼︎」

その芋虫は声を上げながら、身体中から糞尿や膿を噴出している。おそらく、これらが異臭の原因だ。

「待っててくれたんだな…」

ガイはその芋虫の方へと歩き出す。異臭など気にしていない。

「こんな姿になってまで…俺を信じて、キミは…待っててくれたんだな…」

ガイはその芋虫の顔面に右手を添えた。

「京香…」

そう。この不気味な芋虫こそ、白鳥組に人質として囚われていた有野なのだ。
ガイはバケモノに変えられた有野に話しかけた。

「帰ろう。友田も堺も、みんな待ってる。」

その時、有野は自身の顔に添えられたガイの右手を喰い始めた。どうやら、餌だと思っているようだ。しかし、ガイは笑顔で話を続けた。

「ごめんな。急に名前で呼んでビックリしたよな。やっぱり苗字の方が良いかな?」

ガイの右腕は肘の少し上まで喰いつくされた。しかし、ガイは痛がりもせず、笑顔で話し続ける。そんな二人の姿を見て、桜田達は涙を流す。

「残酷…過ぎる……」

その時、白鳥組の時和が呟いた。

「ひへぇ~‼︎臭くて敵わんわい!早よぉ持ってってくれ!」

その言葉を聞いた氷室はPSIを纏い、時和に飛びかかろうとした。しかし、それを土狛江が止めた。

「やめるんだ!氷室くん!」
「お前ッ‼︎お前らのせいだッ‼︎殺してやるッ‼︎全員殺してやるッ‼︎」

氷室は白鳥組に自身の家族や友人知人を殺されている。それに加えて、時和の先程の発言。怒りが爆発するのも無理はない。
その様子を見た時和は氷室を煽るように話し始めた。

「ほぉ~!そりゃあ楽しみじゃ!返り討ちにして、ワシのケツ穴ラブドールコレクションに加えてやるぞい!」
「このクソジジイがあぁッ!!!」

氷室が土狛江の静止を振り切った。その瞬間、秀頼が手刀で氷室を気絶させた。

「氷室を頼む。」

土狛江にそう告げると、秀頼はガイの方へと歩き始めた。そして、ガイの背後に止まると、こう発言した。

「人質は返した。次はこっちの要件を飲んでもらおうか。障坂ガイ。」
「あぁ…」

ガイは秀頼に連れられ、白鳥組の元へ歩いた。それを見た土狛江は秀頼に言った。

「やっぱり、桜田くんの言う通り…アンタが裏切り者だったのか。猪頭さん。」

そう。あの日、ガイを背後から襲い、有野を連れ去った人物の正体は秀頼だったのだ。
その時、桜田が秀頼に質問した。

「教えて下さい、猪頭さん。アナタが白鳥組に味方する理由は何ですか…?」

すると、秀頼よりも早く、陽道がその質問に答えた。

「そりゃあ当然だろ。」

陽道が秀頼の元へ歩み寄り、そして、秀頼の胸を揉んだ。

「妻は夫に尽くすもんじゃねぇかぁ?」

それを聞いた桜田と土狛江は驚嘆した。そう。秀頼と陽道は夫婦だったのだ。

「なるほど…」

驚きと同時に桜田は納得もした。

「それなら合点がいく。何故、猪頭家に匿われていると情報を得ていながらも、白鳥組が攻めてこなかったのか。『Zoo』に関しての情報も全て、猪頭さん経由だったんですね。」
「その通りだ。桜田。お前は頭が良いからな。核心を突かれる前に行動を起こした。」

すると、秀頼の発言を聞いた土狛江はこう呟いた。

「陽道の…妻…?そんな…じゃあ障坂くんを売ったのも…全部……陽道の為……?」
「あぁ。」
「子供達の為に、障坂くんを犠牲にしたんじゃ……」
「全くの思い込みだ。お前のな。」

土狛江は、秀頼が園の子供達を守る為、ガイを白鳥組に差し出したのだと思っていた。しかし、どうやらそうではないようだ。
その時、ガイは陽道に話しかけた。

「アンタの目的は何だ。」
「あん時言っただろ。俺は出る杭は打つ主義なんだ。テメェはこの先絶対に邪魔になる。桜田なんか比じゃねぇほどにな。」

すると、陽道はガイに顔を近づけ、ガイの額に拳銃を突きつけた。

「お前は今日ここで殺す。それで全部終わりにしてやるよ。俺も外へ行く用意で忙しいからな。テメェらにこれ以上時間を割く訳には…」

その時、ガイは言葉を挟んだ。

「違う。そこじゃない。アンタが外の世界へ行きたがってる理由の方だ。」

頭に銃を突きつけられているにも関わらず、ガイは全く臆する事なく話を続ける。

「何故、魔王を復活させたがる?報酬か?お前にも願いがあるのか?」

そんな堂々たるガイの態度が面白くなかったのか、陽道はガイの右目に銃口を押し込んだ。

「報酬ぅ?馬鹿にしてんのか?俺があんな胡散臭ぇ連中、信用する訳ねぇだろ。魔王だって復活させたらすぐ殺してやるよ。」
「じゃあなんで?」

ガイは右目を潰されたのにも関わらず、何も動じない。痛みすら感じていないようにも見える。いや、実際は感じていた。しかし、それすらも今のガイにはどうでもよく思えていたのだ。
陽道はガイの右目から銃口を抜き、答えた。

「俺が魔王になる為だ。」

次の瞬間、陽道は自身のシャツを破り、胸元を見せた。そこには、何やらキミの悪い赤黒い内臓のようなものが胎動していた。
陽道に続けて、他の白鳥組の連中も胸元を曝け出した。皆、赤黒い内臓のようなものがくっ付いていた。

「コレは卵だ。俺たちが魔物になる為のな。」

ガイは眉を顰める。

「魔物になる…だと…」
「あぁ。人間の肉体じゃ限界があるからな。」

その時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「それをこの僕が作ったのサッ!!!」

次の瞬間、巨大な芋虫と化した有野の体が破裂し、中から異形なる者が現れた。

「どうも!人体魔物化実験の最高責任者!館林充です!今、実験が成功してテンションが上がってます!」

その人とは思えぬ様相をした生物、彼の名は館林。以前、ガイと氷室が戦った高田の上司であり、一善の学友だ。

「京香ッ…!」

ガイは破裂した有野を心配する。それを察し、館林はガイにこう言った。

「安心したまえ。彼女は死なない。彼女の細胞は魔物に変態し、さらに無限増殖する。いわゆる、第二の魔王さ。」
「第二の魔王…?」
「魔物化の卵は彼女の細胞から作られる。つまり、彼女さえいれば、際限なく人間を魔物に変えられるのさ。わかりやすく言うと、カルピスが魔物、人間が水、彼女がカルピスの原液さ。あれ?逆にわかりにくい?まぁいいや……そんな事よりよぉ~…」

その時、館林の雰囲気が急に変わった。

「リベンジマッチだぜぇえ!障坂ガイィィィ!!!」

館林がガイに飛びかかってきた。館林は拳をガイに放つ。ガイはそれを受け止めようとした。
瞬間、館林は叫んだ。

「『簡易の次元低下論2Dメイカー』!!!」
「ッ⁈」

館林の腕が平面化し、ガイの左腕をすり抜けた。

「解除ッ!!!」

次の瞬間、平面化された館林の腕がガイの左腕の中で元に戻り、その衝撃でガイの左腕は弾け飛んだ。

「(コレは…)」

そのまま、ガイは館林に馬乗りになられた。その状態で、ガイは館林にこう言う。

「お前、本田か…」
「気づいてくれて嬉しぃぜぇ~!ガ~イ~!」

それは以前、魂を移動させてガイの体を乗っ取った連続通り魔事件の犯人、本田大地だった。本田の魂は生きていたのだ。ガイにやられた後、館林の体に乗り移って難を逃れていたのだ。
その時、本田と館林が入れ替わった。

「すまない少年。気を許すとこうなんだ。」

館林はガイから離れた。ガイは両腕を失った状態で立ち上がった。すると、館林は話を戻した。

「えーっと、何の話だっけ?あ、そうだ。有野京香さん。彼女は僕の研究の為に尽力してくれた。いや、彼女だけじゃない。伊従村の人達みんなの犠牲があったからだ。感謝してもしきれない。」

館林は有野を指差した。有野の体は既に再生を終えている。

「彼女はね、多くの犠牲の上で成り立っている。そういう存在なんだよ。」

勝手な事ばかりを言う館林にガイは反論した。

「一言でも、彼女がああなりたいと願ったか…?彼女の為なら、犠牲になるのも厭わないと、伊従村の人達が言ったのか…?お前が耳にしたのは、苦痛に悶える人たちの、悲鳴と断末魔だけじゃないのか…!」

すると、館林は首を傾げた。

「さぁ。僕そういうのよくわかんないや。」

それを聞いたガイはため息をつく。

白鳥組おまえらに少しでも道徳観念や倫理観というものがあると思った俺が間違ってた。」

すると、陽道がガイの後頭部に銃を突きつけた。

「ちょうど20時だ。死ぬ覚悟はできてるか?」
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