障王

泉出康一

文字の大きさ
上 下
153 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第89障『反撃開始』

しおりを挟む
【3月10日、夜、戸楽市、廃工場前にて…】

ガイとヤブ助が秀頼の弟子になってから約三ヶ月後。かつてガイを襲った『Zoo』の殺し屋、ホールドはとある廃工場へとやってきた。

「…」

ホールドは辺りを警戒しながら、屋内へと入っていく。

【廃工場屋内にて…】

屋内へと入ってきたホールドの前には、帽子とマスクを付けた茶髪ロングの可憐な少女が立っていた。ホールドはその少女に話しかける。

「お前か?俺に依頼したのは。」

少女はこくりと頷く。どうやら、この少女が依頼主のようだ。
それを知ったホールドはあまり良くないといった表情をし、少女に尋ねた。

「お前さん、歳はいくつだ。」
「ナンパですか?」

少女の態度に呆れたような顔をしながらも、ホールドは話を続ける。

「俺もあまりとやかく言うつもりはない。『Zooウチ』と連絡を取れたというだけでも、お前が特別なのはわかる。しかし、お前のような子供が殺しの依頼なんて……」

すると、少女はクスクスと笑い始めた。

「何がおかしい…?」
「別に。子供に優しいんだなって思っただけです。」

それを聞いたホールドは目線を下に向けた。

「ガキはまだ、思慮分別というものがわかっていない。そんな世間知らずに、殺しを依頼されたくないだけだ。勿論、殺すのもな。そうだ。俺はただ、ガキが嫌いなだけだ。」

すると、少女は笑みを浮かべ、こう言った。

「大丈夫ですよ。誰かを殺して欲しいなんて依頼、するつもりありませんから。」
「なに…?」

ホールドはそれを聞き、首を傾げた。『Zoo』は暗殺組織。殺しの依頼以外で仕事は来ないはず。

「どういう事だ…?」
「私の依頼はただ一つ……」

次の瞬間、少女は懐から拳銃を取り出し、ホールドに向けて発砲した。

「さっさと死にやがれッ!クズ野郎ッ!」

ホールドは床に倒れ込む。一方、少女は帽子とマスクを脱ぎ捨て、頭部に弾丸を打ち込まれたホールドに向かって叫んだ。

「立てよおらぁ!テメェら『Zoo』がこんぐらいで死なない事は知ってんだ!」
「……」

すると、少女の言う通り、ホールドは易々と立ち上がった。そして、無傷だ。

「バケモンがッ…!」

少女はホールドのとあるものを見て、眉を顰めながらそう言った。とあるものとは、ホールドの右目に止まった弾丸。
なんと、ホールドはまばたきで弾丸を受け止めたのだ。しかも、止められた弾丸はペシャンコに潰されている。
そして、ホールドはその弾丸を床に捨て、少女に言った。

「お前、障坂ガイだな。」

そう。少女の正体は、女装、いや、変装したガイだったのだ。

「似合ってるぞ、それ。」
「知ってる。ありがとう。良い冥土の土産になったのなら早く死ね。殺すから。」

ガイは茶髪ロングのカツラを外した。

「復讐か。」
「あぁ。わかってるなら話は早いな。」

すると、ガイは武器である拳銃を投げ捨て、構えた。それを見て、ホールドはガイに問う。

「使わんのか…?」
「お前に無意味だろ。こんなオモチャ。」

ガイの言葉通り、『Zoo』の殺し屋に拳銃などほぼ無意味。しかし、ホールドはその行動を怪しんだ。武器を自ら捨てるという、あまりに愚かな行為に。そして、辺りの気配を探る。

「(周りには誰もいない。相当な使い手が潜んでいるか、あるいは…)」

ガイは正真正銘、真っ向勝負の一対一を望んでいたのだ。そんなガイは怪しむホールドに言った。

「ウチの師匠、ちょっと…いや、めちゃくちゃ鬼畜でさ。コレも修行の一つらしい。素手でお前に勝つ。そうしないと俺、師匠に殺されるから。それに俺も…」

その時、ガイはホールドに向かって走り出した。

「お前を完膚無きまでにぶっ殺したいからッ!!!」

【ガイの回想…】

数日前、修行を終えたガイとヤブ助は、秀頼に連れられて、有野たちが匿われている猪頭邸へとやってきた。そこでは、ガイとヤブ助、そして、氷室と堺は秀頼の話を聞いていた。どうやら、有野と友田、他の園の子ども達は話し合いには参加していないようだ。

「数日の内、白鳥組が外の世界へ出発する情報が入った。それまでに、私たちは陽道を殺す。だが、それが簡単ではない事は周知の事実。だから先ず、奴の周りから崩していく。」

秀頼は一枚の写真をガイ達に見せた。それにはホールドの姿が。

「コードネーム、ホールド。『Zoo』の殺し屋だ。どうやら、奴らは陽道のボディーガードとして雇われているようだ。」

その時、氷室が秀頼に質問した。

「殺し屋なのにボディーガードですか?」
「私もまさかとは思った。あの『Zoo』を長期間雇用なんて…だが、事実だ。それ程までに、敵の力は強大だという事。抜かるなよ、お前たち。」

その時、ガイは手を挙げた。

「それで、そのホールドの写真を出した理由は何ですか。」
「あぁ。そうだった。その話だ。この陽道を守る殺し屋達、雇用の身ではあるが依頼の受付はしているようでな。」

それを聞くと、ガイは納得した。

「なるほど。依頼と偽り奴等を呼んで、一人ずつ始末する。ついでに、陽道や他の仲間の能力も聞き出せる。」
「そういう事だ。そして、この男ホールドを一番に選んだ理由は…」

【現在…】

ガイはホールドに近距離戦を仕掛けた。ホールドはそれらの攻撃をいなしながら、思考する。

「(以前より攻撃が鋭い。この三ヶ月、ただ隠れていただけではないようだな。だが…!)」

次の瞬間、ホールドはガイに反撃した。すると、ホールドの拳はガイの顔面に直撃した。

「あがッ…!」

ガイはホールドから距離を取った。そんなガイにホールドはこう言う。

「まだまだ付け焼き刃だな。」

ガイは鼻血を拭き、ホールドを睨みつける。ホールドは話を続けた。

「お前一人の実力では、『Zoo』は殺せない。しかも、お前のタレントが相手のタレントをコピーする能力だとすれば尚更。俺達はノーマルだ。お前のコピーは無意味。PSIによる肉体的強化があれど、たかがその程度。」

【ガイの回想…】

先程の回想の続き。秀頼はガイにホールドを一番最初の標的にした理由を話している。

この男ホールドを一番に選んだ理由は、圧倒的武力だ。」
「圧倒的武力?」
「あぁ。基本的な身体能力や格闘技術だけで言えば、敵の中でホールドが抜きん出ている。だからこそ、お前が戦う必要がある。それを奪う為に。」

【現在…】

ガイはホールドとの距離を保ちつつ、構えを取り、思考する。

「(コイツは未だ、自身の格闘術を使ってはいない。俺の戦闘レベルの低さが、奴の実力を引き出せていないからだ。コレが『Zoo』の実力…)」

ガイは深呼吸をした。

「(だったら、引き出してやるよ。俺なんかの付け焼き刃じゃない、ホンモノで…)」

その時、ガイの雰囲気が変わった。それをホールドも理解した。

「(空気が変わった…)」

ガイは先程までとは違う構えをとった。それを見るなり、ホールドは自身の目を疑った。

「誰…だ…⁈」

目の前に居るのは間違い無く障坂ガイだ。しかし、その異様な雰囲気と完熟しきったその構えを見たホールドは、まるでガイが別人になったかのように思えたのだ。

「(数ヶ月訓練を積んだ程度では、この構えはできない。この俺が、美しいとさえ思ってしまった。まるで芸術作品。時価数億で取引される程の崇高さ。ただの模倣マネでは絶対に辿り着けない武の頂が、今、彼処にある…)」

ガイのこの構えは師である猪頭妹のもの。ガイは自身の格闘技量ではホールドに勝てないと見込み、秀頼の格闘術を模倣したのだ。
次の瞬間、ガイはホールドに向かって走り出した。

「(来るッ…!)」

この時、ホールドは初めて真剣に構えをとった。コレが、ホールドの全力の姿勢。
ガイはホールドに拳を繰り出す。だが、全力のホールドにその拳は届かない。しかし、当たらずとも遠からず。拳は確実にホールドの実力を引き出すに申し分ない技量。フェイント、連撃、狙い目からタイミング、それら全てがホールドの精神を削る。

「ッ‼︎」

しかし、さすがはホールド。心の消耗をいとも容易く打ち破り、ガイの繰り出した右拳を掴んだ。
まずい。アレが来る。数秒後には、ガイの右拳は紙粘土のように握りつぶされてしまうだろう。どうにかして、一刻も早くホールドの腕を振り払わなければ。

「ッ!!!」

しかし次の瞬間、ガイはあろう事か自らその右拳を開き、ホールドの掌を掴んだ。
これにはホールドも驚いた。まさか、力比べをしようというのか。しかし、ホールドの握力に敵うものなどいるはずがない。それはホールドが一番よく知っている。天賦の才と絶え間ない修行によって身につけた剛力。模倣マネしようにも出来るものではない。

「握殺ッ!!!」

ホールドは拳に力を入れ、ガイの右手を潰そうとした。その刹那、ガイは叫んだ。

「握殺ッ!!!」

次の瞬間、握り合っていたガイの右掌とホールドの左掌が、まるで破裂するかのように弾け飛んだ。

「なッ…⁈」

ホールドは大きく背後に飛び退き、ガイから距離を取った。そして同時に、ホールドは確信した。

「何故…お前がそれを扱えるッ…!それは、俺の技だッ…!」

ガイはホールドの『握殺』をコピーしたのだ。しかし、ホールドの『握殺』は肉体的な技。タレントではない。

「どういう事だッ!お前はタレント以外、コピーできないはずじゃ…!」

ガイは弾け飛んだ右腕を押さえ、激痛を感じながらもニヤリと微笑んだ。

「どうやら、本質は別にあるみたいなんだわ…!」

そう。コレこそが、ガイのタレントの真の力。『模倣コピル』の本質。『模倣コピル AGアフターグロウ』だ。

説明しよう!
タレントとは本来、発現時に効果や発動条件などが『なんとなく』で頭によぎる。しかし、あくまでそれは『なんとなく』。何故そんな効果があるのか。どのようにして効果が成されるのか。それを理解した時、タレントの真の力が引き出される。それが『AGアフターグロウ』。タレントの本質である。
そして、『模倣コピル AGアフターグロウ』は、タレント以外の技や身体能力をも完璧にコピーする事が出来る。しかも、タレントコピー時とは違って、近くに被コピー体が居なくとも、自由に使う事が出来るのだ。

「お前の技も大体理解した。もういつでもコピーできる。」

ガイは服で右腕を縛り、止血しながらホールドの元へ歩く。

「そろそろ終わらせるぞ。ホールド。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...