障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第86障『座学』

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【12月19日、夕方、寂須山さびすやま、頂上付近の小屋にて…】

道着に着替えたガイとヤブ助(人間化)は、正座しながら秀頼の話を聞いている。

「先ず座学だ。お前ら、タレントやPSIについてどれだけ知ってる?」
「タレントは多くても一人三つまで、とか。PSIで身体強化できる、とか。」
「俺もそれぐらいだな。」

ガイに続けてヤブ助も答えた。それを聞いた秀頼は二度頷いた。

「そうか。なら、話す必要があるな。」

秀頼はタレントやPSIについて話を始めた。

「タレントは八種類に分類される。操作型、創造型、変質型、付加型、感知型、転移型、保存型、支配型。」

その時、秀頼はガイを指差した。

「ガイ。お前のタレント『摸倣コピル』は、近くに居るハンディーキャッパーのタレントを使用できるというもの。つまり、他者のタレントを一時的に、自身のPSIに蓄えておく事ができる。つまり、コレは保存型のタレントだ。」

次に、ヤブ助を指差した。

「ヤブ助。お前のタレント『人間化猫化キャットマン』は、人間を猫に、猫を人間にする能力。これは対象の性質や構造を変化させる、つまり、お前のタレントは変質型に属するという事。」
「なるほど…」
「ちなみに、私の姉のタレント『ぼくらの大聖堂St.ハウス』は、姉の所有する敷地内では何でもできるという能力だ。コレは特定の条件下や空間内で、タレント使用者のルールが強制的に発動される類のもの。つまり支配型のタレントという訳だ。」

その時、ヤブ助に疑問が浮かんだ。

「タレントを分類分けする事によって、何かメリットはあるのか?」
「大まかな対策が練られる。例えば、相手が支配型のタレントであると判明した場合、そいつは攻めよりも受けを得意とする。特定の条件下でしか能力を最大限発揮できないからな。感知型の場合でもそうだ。感知型は基本、戦闘向きのタレントで無い場合が多い。しかし、団体戦で感知型が居るのと居ないのとでは勝率が劇的に変わってくる。そういう意味では、敵に感知型が居ると判明した時点で、それなりの対策を思考できる。」

ヤブ助に続き、ガイも気になる事ができた。

「タイプ相性とかはある?」
「無いな。例えば、操作型のタレントと言っても、生物を操るもの、物体を操るもの、時空系を操るものなど様々だ。付加は操作に強いとか、創造は変質に弱いとか、そういった明確な相性は無い。しかし、それぞれの型の弱点はある。創造型は物体を創り出す。その為、PSIの消費が激しい。また、先程も言ったように、感知型は一対一の戦闘が不向き。支配型も、型にはまらなければ発動すらできないし、応用力にも欠ける。」

秀頼はガイを見た。

「お前のタレントの弱点は何だ。」
「相手がタレントを使えない場合、俺のタレントも使えないこと…?」
「それも一つだが、最大の弱点は、相手のタレントが分からなければコピー出来ない、という点だ。」

その秀頼の発言にガイは意義を申し立てた。

「けど周りに仲間が居れば、その仲間のタレントをコピーできる。」
「確かに、仲間が近くに居れば、な。では一対一ならどうする?その場合、相手のタレントの詳細を探り出さなければ、お前に勝機・決定打は産み出せない。つまり、お前は一対一の能力戦において、後手に回らなければならない。それがお前のタレント、そして、お前自身の弱点だ。」

それを聞いたガイは今までの戦いを振り返った。

「(確かに、今までは運が良かっただけ。この先、タレントが未知の敵との一対一は必ずやってくる。)」

すると、思考するガイに秀頼は言った。

「しかし幸運な事に、お前の戦術は機転型。それもかなりレベルは高い。」
「機転型?」

聞きなれぬ言葉にガイは首を傾げる。そんなガイに対して、秀頼は説明を始めた。

「私が思うに、人間の戦術には二種類ある。作戦型と機転型だ。作戦型は策を練るのが得意で、もっぱら攻めに強い。このタイプは、戦争などでは軍師に向いている。逆に機転型は守りだ。いついかなる状況で敵が攻めてきても、咄嗟の判断で対処できる。ガイ、お前は後者だ。だから幸い、後手に回っても何とか凌げてきたと見た。」
「なるほど…」

そして、秀頼はヤブ助の方を向いた。

「次にお前だ、ヤブ助。お前のタレントの弱点は何だ。」
「戦闘向きじゃない。」
「あぁ。間違いなくそれだ。しかも人間化したとて姿は少年。力は弱く、到底、肉弾戦においては不利だ。どうすればいいと思う?」
「武器を使う…?」
「猫化したら使えんだろ。得策では無い。」
「じゃあどうすればいい?」
「お前にはとある拳法を教えてやる。力が無くとも相手を無力化できる技をな。」

それを聞いたガイは秀頼に質問する。

「俺は?」
「お前にはヤブ助程の俊敏性が無いからな。大半は基礎トレーニングに費やしてもらう。それと武器の扱い方だ。ナイフや銃は勿論、刀や槍、投石など、ありとあらゆる物を使いこなしてもらう。」
「了解。」

やるべき修行はわかった。しかし、秀頼の座学はまだ終わらない。

「次に、PSIの波長の変え方だ。」
「波長?」

ガイは首を傾げ、そう呟いた。ヤブ助も同様、それが何か疑問のようだ。

「PSIは波動性のエネルギーだ。つまり、波長がある。そして、その波長は人によって微妙に異なり、ハンディーキャッパーならその波長を感じる事ができる。」
「じゃあつまり、PSIの微妙な波長の違いで、それが誰のPSIか知る事が出来るのか。」
「訓練すればな。」

ガイは腕にPSIを纏い、その波長とやらを確認しようとした。しかし、全くわからない。

「(自分のもわからないのに、人のなんてわかるのか…?)」

秀頼は話を続けた。

「そして、ココからが重要だ。PSIの波長がハンディーキャッパーの位置特定。要するに、これ自体が弱点だ。しかし、訓練次第でPSIの波長を限りなく0にできる。つまり、相手からPSIを感知されなくなる事が可能という事だ。」

それを聞き、ガイとヤブ助は驚いた。そして、あまりに信じ難い話に、ヤブ助は尋ねる。

「本当にそんな事できるのか?とても信じられない。」

すると、ガイはとある人物を思い出し、声に出した。

「石川…」

それを聞いたヤブ助は納得の表情をした。

「確か、石川も…」
「あぁ。俺と石川は同じクラスだった。けど、アイツがハンディーキャッパーだったって事はつい最近まで知らなかった。PSIを感じなかったからだ。」

そう。石川はPSIの波長を0にする方法を知っていたのだ。つまり、この話は事実だという事。

「それが出来れば、ハンディーキャッパー同士の戦いでかなり優位に立てる。何せ、自分の位置は知られずに相手の位置を特定できるんだからな。」

ヤブ助はPSIの波長を消すメリットを口にした。
PSIの波長を消す事ができる事実を知り、感動する二人。そんな彼らに、秀頼は言った。

「裏技的なものはもう一つある。今度はPSIではなく、タレントの裏技だ。」
「裏技…?」
「ガイ。お前の『模倣コピル』の性質、もう一度言ってみろ。」
「近くに居るハンディーキャッパーのタレントをコピーできる。」
「おそらく、それは間違いだ。」
「間違い…?」
「いや、不十分、と言うべきか。」

ガイは秀頼の言っている意味がわからず困惑している。『不十分』とは、一体どういう意味なのか。

「タレントは発現時に、その使い方や性質が『なんとなく』わかる。しかし、それはあくまで『なんとなく』だ。タレントの本質は別にある。それを解明して初めて、タレントは真の力を発揮する。」

その時、秀頼はヤブ助を指差した。

「ヤブ助。お前のタレント、なぜ人間を猫に、猫を人間にできるか、考えた事あるか?」
「いや、特には…」
「だろうな。タレントとは超常的なもの。そこに原理を求める事はしない。しかし、何事にも理由はある。意味の無いものなど存在はしない。」

すると、その話を聞いたガイは呟いた。

「本質……」

その言葉が、頭のどこかで引っかかる。瞬間、ガイは脳内に電気が走ったような痛みを感じた。

「いッ……」

それと同時に、とある言葉を思い出す。記憶に無い、とある言葉を。

〈あふたーぐろう、ってのはどうかな?〉

そんなガイをよそに、話は続けられた。

「PSIの波長の感知と消去。そして、タレントの本質を見抜く事。ハンディーキャッパーとしての力を磨くならその二つだ。悪いが、これらは自力でなんとかしてくれ。ハンディーキャッパーでない私にはわからん。」
「わかった。」

ヤブ助は返事をした。

「了解。」

ガイも、ヤブ助に遅れて返事をする。
そんな二人の返事を聞いた秀頼は腕を組み、こう言った。

「あとお前たち。今後、私には敬語を使え。一応、師匠なんだぞ。」
「「…はい。」」

【白鳥組本部にて…】

広い食堂。そこで、白鳥組組長の陽道要と、障坂家現当主の障坂巌が高級ワインを飲みながら話をしている。

「ガイに刺客を送ったそうだな、陽道。」
「もしかして、怒ってんのか?」

陽道はそう尋ねた。少し煽り口調で。当然、普通の父親なら、自分の息子の命を狙われてよく思う者はいない。普通の父親なら。

「いや、それでいい。続けてくれ。」

そう。この父親、普通では無い。その異常さには、さすがの陽道も表情が強張る。

「仕事がら、頭のネジがぶっ飛んだ野郎どもをよく見てきた。そん中でも、アンタが一番イカれてんぜ。障坂さんよぉ。」
「そうか。」

普通では無い。しかし、それは決して、ガイを見捨てた訳ではない。そこには彼にしかわからない、深い意図がある。夢か、使命か。それとも、もっと別の。
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