障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第83障『理不尽な世界』

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【12月18日、夜、障坂邸、ガイの部屋にて…】

部屋にはガイ,猫化したヤブ助,伊従村で出会った改造少年の氷室、計三人がいる。

「すまない…わかってくれ、ガイ…」

『Zoo』の暗殺対象はガイと桜田だけではない。あの場に居た有野や広瀬も同じ、『Zoo』の暗殺対象だった。その事を、ヤブ助はガイに黙っていた。

「みんなが…危ない…!」

【その頃、障坂邸付近の住宅街にて…】

直前でガイを仕留める事を止めた『Zoo』の殺し屋ホールドが住宅街を歩いている。するとその時、目の前に1人の女が現れた。

「職務怠慢だぜ。」
「…」

その女は元『Zoo』の殺し屋で、ホールド達の師匠的存在、コードネームはカフ。石川から今回の依頼を受けた被依頼人だ。

「あんまし勝手な事されると、コッチの信用に関わるんだが。この勝手、どう補償する?」
「他の仕事をやる。それでいいだろ。」
「アカン。言っただろ。信用に関わるって。学校じゃねーんだぞ?できません、はいそうですか、で済むわけねーだろが。って、わかんねーか。お前ら、学校なんて行った事ねーから。」

ホールドはポケットに手を突っ込んだまま、黙っている。しかし、その表情は何か言いたげだ。そんなホールドに、カフは話を続けた。

「戸籍が無い。名前が無い。学歴も常識も無い。人を殺した直後に飯が美味く食える。それがお前だ、ホールド。私の下で働く以外、お前はこの国で生きられない、生きる価値もない。何も無い。あるのはただ一つ、私が教えた、人を殺す技術だけ。」

カフはホールドに背を向けた。

「挽回のチャンスをやる。それまでクソして待っとけ。」

カフはホールドの前から消えた。

「お前らが…奪ったんだろが……」

ホールドは夜空を見上げた。星はおろか月すらも見えない。曇った空。

「俺も、そうか…」

【有野の家、リビングにて…】

「おかあさん……?」

リビングには母親の死体。

「姉ちゃんッ…!たすけッ…………」

今まさに首の骨を折られ、絶命する有野の弟の京介。

「さて、本命と行くか。」

そして、有野に迫る『Zoo』の殺し屋。コートネームはソフト。

「きょうすけ……?」

有野は目を丸くして、辺りを見渡す。

「(何これ……何が…起こってるの……?)」

その時、現状が理解できていない有野の首をソフトは締め上げた。

「かはッ……⁈」

そこでやっと我に返った有野。

「(殺される…ッ!)」

咄嗟にそう思った。途端、有野はPSIを纏い、自身の首を締め上げるソフトの右腕に膝蹴りをかました。しかし、ソフトの腕はまるで軟体動物のように柔らかく、全く手応えがない。

「くッ…!」

にも関わらず、有野の首を絞める力は増す一方。有野の意識が薄れていく。刹那、有野は思った。

「(どうして…私ばっかり……こんな………)」

自己憐憫。いや、こんな悲劇に見舞われてはそう思っても仕方がない。犯され、家族を殺され、ついには自身も。ガイに関わってしまったばかりに、彼女の人生は狂ってしまった。もう、戻る事はできない。このまま首を絞められ、絶命する事こそが、彼女にとっての真の救済なのだ。
いや、例えそうだとしても、奴はそれを許さない。

「有野から離れろぉぉぉおッ!!!!!」

その時、ガイが窓ガラスを蹴り破り、リビングに侵入してきた。その右手には氷室が創造した骨刀が。

「(刀ッ⁈)」

ソフトの体の骨は全身が関節化しており尚且つ柔軟。打撃では大したダメージにはならない。しかし、刃物は別。斬撃ならば全身が関節と化した骨もろとも、ソフトの全身を斬り刻む事ができる。

「ッ!!!」

次の瞬間、ガイは有野を掴むソフトの両腕に向けて骨刀を振り下ろした。ソフトはその斬撃を回避する為、有野から腕を離し、ガイから距離を取った。

「ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎ゴホッ‼︎」

床に落とされ、咳き込む有野。ガイはそんな有野に駆け寄り、ソフトに向けて骨刀を構えた。
その時、ソフトはガイの顔を見て、彼がホールドの暗殺対象である事を思い出した。

「(障坂ガイ⁈何故ココに⁈まさかコイツ、ホールドを倒したのか⁈いや、有り得ない。いくら何でも、無傷であのホールドを倒せるはずがない。)」

一方、ガイは辺りに転がる有野の家族の遺体を目にした。

「ッ……」

それを見て、ガイは強烈な罪悪感に苛まれた。

「ごめん…ごめん有野……ごめん……」
「ガイ……」

涙を流し、ただひたすらに謝るガイ。そんな姿のガイを、正気の無い瞳の有野はじっと見ていた。
するとその時、ソフトの姿が突如として消えた。いや、軟体を利用して、何処かに身を潜めたのだ。ガイ達を死角から仕留める為に。しかし、ガイにとってはそんな事、どうでもよかった。

「有野…走るぞ。」

瞬間、ガイは有野の手を引いて、侵入してきた窓へと走り出した。
そう。ガイは元より戦う気など無かったのだ。『Zoo』には勝てない。ホールドとの戦闘でガイはそれを悟ったのだ。

「逃すかッ!!!」

しかし、それを良しとしないソフト。ソフトは逃げるガイ達に向けて、床下から腕を伸ばした。速い。骨刀での対処も難しい。このままではガイと有野は捕まってしまう。
その時、ガイは胸からネジを取り出し、叫んだ。

「『磁力マグネ』ッ!!!」

すると次の瞬間、ガイと有野は向かいの建物の方向へ、勢いよく体を引っ張られた。
ガイは予め、向かいの建物に特定の合金を設置していた。そして、胸にしまっておいたネジに、その合金のみに反応する磁力を付加。そうする事で、万が一用の緊急避難手段を作っていたのだ。
ガイと有野はソフトの両腕を振りきり、有野家を脱出した。そして、誰も居なくなった有野家のリビングに、床下からソフトが現れた。

「アレが…タレントか……」

すると、ソフトは薄気味悪く笑みを浮かべた。ターゲットを逃したにも関わらず、何がそんなに面白いのか。その理由は一つ。

「殺し甲斐がある。」

彼は難所を好む。いわゆる、戦闘狂なのだ。

【数分後、障坂邸、食堂にて…】

息を切らしたガイと有野が食堂へとやってきた。食堂には既に堺,友田が居て、その側には氷室の姿があった。
ガイは氷室に話しかけた。

「ヤブ助は…?」
「広瀬って人の所へ向かってます。」
「わかった。じゃあ俺は今から山尾の所へ行く。」
「はい。」

その時、氷室のスマホに電話がかかってきた。相手はヤブ助だ。

「あ、ヤブ助さんから…」

氷室は電話に出た。

「はい。え?ガイさんですか?はい、居ますよ。」

氷室はガイにスマホを渡した。

「もしもしヤブ助?どうかしたのか?」

すると、ヤブ助はこう呟いた。

〈ダメだった…〉

その言葉だけで、ガイは理解できた。
ダメだった。それはつまり、助けられなかったという事。

〈すまない、ガイ…すまない……広瀬……〉

広瀬は死んだ。それを理解した途端、得も言われぬ喪失感がガイを襲う。

「そう、か…」

自然と声が出た。

「そうか…」

再び呟く。

「広瀬……」

広瀬の名を呼ぶ。そして、ガイは堺と友田の方を見た。泣き崩れる友田。放心状態の堺。きっと彼らも家族を殺されたのだ。

「ヤブ助。俺は顔を見られた。俺が生きていると知られた今、この屋敷も危なくなる。だから、今から猪頭さんの所へ行こうと思う。あの人のタレントなら、きっとみんなを守ってくれる…」
〈あぁ。それがいい。〉

その時、ガイの中で怒りが込み上げてきた。

「何が『いい』だよ…そもそも、猪頭さんの所へみんなで避難していれば…!お前が教えてさえくれればッ‼︎広瀬が死ぬ事もなかったんじゃないのかッ‼︎なぁ‼︎ヤブ助‼︎お前のせいだぞッ‼︎全部ッ‼︎お前が責任取れよッ‼︎なぁおいッ‼︎」
〈……すまない……〉

次の瞬間、ガイは氷室にスマホを返し、勢いよく食堂から出て行った。
氷室はガイに代わり、電話でヤブ助に話しかけた。

「ヤブ助さんは悪くないです。悪いのは全部、白鳥組です。それよりも今はその…山尾さん…でしたっけ?その人の家へ向かいましょう。俺も行きましょうか?」
〈…いや、一人でいい…お前は…ガイと居てくれ……〉
「そう、ですか…でも気をつけてください。山尾さん、ハンディーキャッパーですよね?多分『Zoo』が居るはずですから。」

堺や友田の家には『Zoo』ではなく、一般の殺し屋がやってきた。一方、ガイや有野には『Zoo』の殺し屋が。つまり、白鳥組はコストの関係上、ハンディーキャッパーにしか『Zoo』を送っていない。それ故、一般の殺し屋に狙われた堺や友田は、ヤブ助や氷室の救援でギリギリ助かったのだ。

〈あぁ…わかった……〉

ヤブ助は電話を切った。

「(ヤブ助さん、大丈夫かな…それに、ガイさんも…)」

氷室は辺りを見渡す。有野,堺,友田。三人とも、とても声をかけられる雰囲気ではなかった。そして、氷室はスマホのホーム画面を見る。そこには、家族や村の同級生達と撮った写真が写っていた。

「(みんな……)」

氷室も家族や大切な人たちを失った。気持ちは皆、同じだ。

「(どうして、こんな事になったんだ……)」

【障坂邸、父の書斎にて…】

「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」

ガイは奇声を上げながら、氷室から貰った骨刀で父親の書斎を破壊している。時には机を切り裂き、時には本棚を蹴り飛ばす。そして、脳裏に浮かぶは、ガイに理不尽を強いてきた者達の顔。

〈今からキミを拷問する。封印を解くタレントを発現させる為に。〉

〈そこに100回、『ごめんなさい』って言いながら土下座しろ。そしたら考えやる。〉

〈救済措置はした。だから、後は自分で何とかするんだな。〉

〈障坂くん。もう、京香とは関わらないでください。〉

〈私ももう、アンタと居られそうにない。〉

〈すまない、ガイ…わかってくれ……〉

〈悩め。考えろ。そして『理解』しろ。その為なら、俺はお前へのどんな奉仕でも惜しまない。〉

彼らの言葉が、頭から離れない。そして、それらがガイの神経を逆撫でする。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!?!?!??!!!」

ガイが書斎の棚を破壊したその時、棚の中から一枚の写真が飛び出てきた。そして、それを見たガイは我に返った。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

息を切らしながらその写真を拾う。それは、ガイがまだ生後間もない頃のもの。それを見たガイは目を疑った。優しく微笑む母親の隣にいる、父の表情に。
次の瞬間、ガイはその写真をクシャクシャに握り潰した。

「なにテメェが笑ってんだ、クソがッ…‼︎」

そして、ガイは床に膝をつき、涙を流した。

「誰か…助けてよ………」
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