障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第71障『コンティニュー』

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【12月13日、18:20、河川敷付近にて…】

高所から落下し、意識を失っていた山口。そんな山口が、全身に鈍い痛みを感じながら目を覚ました。

「ご主人!!!」

山口が目を開けると、そこには人間の姿の白マロ、猫の姿のヤブ助とチビマルがいた。隣には意識のない裏日戸が横になっている。

「戻って…来れた……」

説明しよう!
山口が新たに発現したタレントは『あの日見た懐景色ザ・サンライズ』。最後に目を覚ました時点までタイムリープする能力である。
発動条件はトンネルを『飛翼フライド』で飛び抜ける事。何故、トンネルなのか。何故、『飛翼フライド』を使う必要があるのか。それはわからない。少なくとも、今はまだ。
タイプ:転移型

山口はダブルタレント『あの日見た懐景色ザ・サンライズ』を使い、最後に目を覚ました時点であるココに戻ってきたのだ。
山口は安堵と、もう一度チャンスが巡ってきたという歓喜に涙を流している。その様子を3匹の猫達は不思議そうに眺めている。
数秒後、涙を拭った山口がヤブ助達に話しかけた。

「聞いてくれ。これから起こった事を話す。」

時制がめちゃくちゃだ。しかし、彼にとってコレが正しい。山口は桜田達のタレント、ガイの居場所、園への攻撃、自分のダブルタレントなど、未来過去に起こった事について語った。

「時間を…逆行して…⁈」
「し、信じられねぇ…」

ヤブ助達は驚愕している。そんな彼らに対して、山口は真剣な表情でこう言った。

「ヤブ助。作戦を頼む。あの時、俺を助けた時みてぇに。」
「作戦…俺も策を練るのは得意じゃないんだがな…」

確かに、ヤブ助は作戦を考えるのは得意ではない。しかし、現状を正しく理解し、どうすれば良いかを判断する事はガイよりも得意だ。それは野生の生活で備わったヤブ助の才能。

「わかった。引き受けよう。」

【19:00、猪頭愛児園にて…】

桜田と木森は愛児園の門を通り、敷地内を歩いていた。

「真っ暗だ…」
「この辺りは田舎よね。」
「そうなんですが、少し意味が違いますよ。」
「意味?」
「はい。見て下さい。」

桜田は園内の建物を指差した。建物は真っ暗で明かりは付いていなかった

「まだ7時半過ぎなのに建物内の明かりがついていない。いくら子供がでも、こんな早くに寝る訳ないですよ。」
「なるほどね。つまり、私たちがココに来る事はバレていたと。敵もなかなかやるわね。」
「…」

桜田は眉を顰め、思考する。

「(対応が早すぎる。まるで僕たちがココへ来る事を知っていたかのようだ。敵の位置を知るタレント…いや、それなら大学に向かって僕の居場所を探る必要なんてない。どうして…)」

いくら考えても答えなど出ない。いや、桜田の思考力ならあるいは。

「木森さん。猪頭園長は哲也が足止めしてるんですよね?」
「えぇ。そうよ。」

猪頭のタレント『ぼくらの大聖堂St.ハウス』は、自分の敷地内なら何でもできるという能力。つまり、園内に猪頭がいる限り無敵という事。しかし、今、園内に猪頭は居ない。例え、猪頭の代わりに桜田を迎え撃つ者が来ていたとしても、桜田にはそれを返り討ちに出来る。その自信が彼にはある。

「木森さんはココで条件獣を貼って待っててください。僕一人で行きます。」
「了解。」
「それと、に連絡して下さい。何か嫌な予感がする。」
「あの二人って、前に貴方が言ってた助っ人の?」
「はい。土狛江君を見習って『念の為』です。」

桜田は園内の建物へ向かった。木森はその後ろ姿を見ている。

「出る杭は打たれるのよ、桜田秋。」

意味深な言葉を呟く木森。その表情には笑みが浮かんでいた。

【猪頭愛児園、建物内、通路にて…】

明かりのついていない長い廊下。桜田はそこを歩いていた。するとその時、桜田の目の前から包丁が飛んできた。

「ッ!」

桜田はギリギリそれをかわした。

「(いきなり来るか…)」

桜田はスマホを取り出し、耳を塞いだ。そして、音量を最大にしてボイスレコーダーを流した。

〈出て来い。〉

スマホからは録音された桜田の声が流れ、辺りに響いた。
桜田の『誤謬通信ブラックコネクター』は自分にも影響を及ぼす可能性がある。よって、ボイスレコーダーの場合には、自身の耳を塞がなくてはならないのだ。

「(コレでどうだ…)」

しかし次の瞬間、またもや目の前から包丁が飛んできた。

「ッ⁈」

桜田は回避し損ねた。しかし、左手の掌に包丁を刺して顔面に刺さるのを防いだ。

「(僕のタレントが効いてない。耳を塞いでいるのか?)」

その時、またもや包丁が飛んできた。桜田はそれをかわした。するとその時、桜田は包丁に奇妙なシールが付いているのに気付いた。

「(矢印…?なんだコレは…)」

シールの真ん中には赤色に光る矢印マークが描かれていた。

【猪頭愛児園、建物内、屋根裏部屋にて…】

18人の子供達がパソコンの画面を覗いていた。その中には猫の姿のヤブ助も居た。
山口から園に桜田が攻めてくると聞いたヤブ助は子供達を守る為、作戦を伝えた後、急いでココへやってきたのだ。

「あ~!もう!また避けられたぁ!」
「くぅ~!悔しがってる友那ちゃんも可愛いぜぇ~!」

その時、包丁を持った勉が友那を呼んだ。

「次、行きますか?」
「あ!ちょっと待って!まだシール付けてない!」

施設内にはもしもの時の為、防犯カメラが付けられていた。その防犯カメラの映像を見て、友那はタレント『あっちむいてほいフォロースルー』で包丁の進む方向を変えていたのだ。
屋根裏部屋から落とした包丁は自由落下で加速する。それを友那が遠隔で進む方向を変え、1階の桜田の元まで送っていたのだ。

「コレなら侵入を阻止できそうですね。万が一出来なくても、先生が帰ってくるまでの時間稼ぎぐらいにはなりますよ。」

勉のその発言を聞き、ヤブ助は眉を顰めた。

「だと良いんだが。」

【1階、廊下にて…】

桜田は手に刺さった包丁を抜き、その包丁に付けられたシールを剥がした。

「(PSIを感じる。タレントで作ったものか。一度放たれた包丁が再び襲って来ないところを見るに、操作性能は弱。来る包丁だけに注意すればいい。)」

その時、桜田は辺りを見回した。

「(そして、これを遠隔で操る為には…)」

すると、桜田は真っ暗な廊下に唯一、淡く光るものを見つけた。そう。防犯カメラだ。

「(やっぱりあった。)」

桜田は手に刺さっていた包丁を防犯カメラに投げつけ、防犯カメラを破壊した。

【屋根裏部屋にて…】

「あ!壊された!」
「なにぃ⁈」

焦る友那と将利。いや、子供達は皆、焦りを感じていた。見知らぬ男が自分達を攫いにくる恐怖を。
しかし、ヤブ助だけは予想通りといった顔だ。

「(さすがだ。こんな早く見抜くとは。)」

いや、予想以上といったところか。桜田はヤブ助が思っていた以上に頭がきれる。そして何より、タレントについて相当詳しい。
ヤブ助は勉に話しかけた。

「勉、アレをやるぞ。」
「マジですか?」
「マジだ。」
「危険ですよ?」
「でもやるしかないだろ。いずれ、奴はココに来る。」
「…分かりました。」

【3階、和室にて…】

桜田が部屋に入ってきた。

「…」

桜田の目の前には、人間化したヤブ助が待ち構えていた。
ヤブ助は桜田に言う。

「ココからは出られんぞ。」

試しに桜田は扉を開けようとしたが、扉はビクとも動かなかった。

「なるほど。良いタレントを持ってるじゃないか。キミのかい?」

コレは勉のタレント『おままごとクラッキング・サガ』だ。

「…」

当然、ヤブ助は答えない。

「(無視か。)」

その時、桜田は耳を塞ぎ、スマホのボイスレコーダーを流した。

〈動くな。〉

耳を塞がなかったヤブ助。録音された桜田の声を聞いてしまった今、ヤブ助はその命令通り、体の自由が制限される。はずだった。
しかし、ヤブ助には効果がなかった。ヤブ助は耳栓をしていたのだ。桜田もそれを理解した。

「(耳栓…僕のタレントを知っているのか。猪頭園長にでも聞いたか。)」

その時、ヤブ助は桜田に言い放った。

「俺を倒さない限り、お前はココから出られない。そういうルールだ。」
「そうなんだ。ところでキミ、耳栓外さなくていいの?この真っ暗な中で戦うには、音は不可欠だと思うけどなぁ?」

しかし、耳栓をつけたヤブ助には聞こえない。

「(ちょっと何言ってるか分からないが、時間を稼いでくれる分には好都合だ。このまま無視を続ける。)」

ヤブ助の目的は猪頭が帰ってくるまでの時間稼ぎ。攻撃を仕掛けてこないヤブ助を見て、桜田はそれを察した。

「なるほど。君の目的は猪頭さんがココに来るまでの時間稼ぎって訳か。そりゃ、僕としては早く闘わないといけないよね。」

桜田は構えた。

「僕、あんまり闘うのは好きじゃないんだ。だって、カッコ悪いだろ?今年で21なのに、殴り合いの喧嘩なんて。幼稚すぎるよ。でもね…」

その時、桜田はヤブ助に向かって走り出した。

「ッ…」

唐突な桜田の奇襲に一瞬怯んだヤブ助。しかし、備えは万全。ヤブ助は桜田を迎え撃つべく、構えを変えた。
次の瞬間、桜田はヤブ助の顔面に拳を放った。速い。しかし、ヤブ助にとっては回避は容易い。拳を受け流し、ヤブ助は桜田の顔面に肘を入れる。そのはずだった。

「ッ…⁈」

しかし、桜田の放った拳はフェイントだった。スピード、狙い目、軌道、完璧なフェイント。それによってできたヤブ助の隙。桜田はヤブ助の横腹を蹴り上げた。

「うッ…!」

桜田は体勢の崩れたヤブ助の首と手を掴み、床に押し倒した。

「かはッ!」

桜田はヤブ助の上に馬乗りになり、ヤブ助の耳栓を外した。

「闘いは、好きじゃないけど得意なんだよ。」

桜田は耳を塞いで、スマホでボイスレコーダーを流した。

〈眠れ。〉

それを聞いたヤブ助は大人しくなった。そして、桜田はヤブ助の上から離れた。

「ふぅ。さて、子供達を探さないと…」

桜田が部屋にの扉を開けようとした。しかし、扉は開かなかった。

「(開かない…)」

室出条件はヤブ助を倒す事。それを思い出した桜田は思った。ヤブ助を殺さないと出られないのではないのか、と。しかし、そうではなかった。
その時、桜田は背後から物音を聞き、振り返った。

「なッ…⁈」

次の瞬間、桜田は背後によろけた。ヤブ助が桜田のアゴを蹴り上げたのだ。どういう訳か、ヤブ助には桜田のタレントが効いていないらしい。
その時、ヤブ助は桜田の手から落ちたスマホを踏み壊した。

「(な、なんで動けるんだ…⁈)」

桜田は地面に落ちたヤブ助の付けていた耳栓を見た。それには大量の血が付着していた。それを見て、桜田は理解した。

「(まさか…!鼓膜を破ったのか…⁈)」

そう。ヤブ助は両耳の鼓膜を破った上で、耳栓をつけていたのだ。全ては桜田の隙を作る為。今、この時の為。

「封じてやったぞ…!お前のタレント…ッ!」
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