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第2章『ガイ-過去編-』
第65障『鬼ごっこ』
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【12月13日、17:50、大学付近の住宅街にて…】
山口は桜田の刺客の一人、裏日戸に追われていた。
山口は『飛翼』で空を飛んで逃げ、裏日戸はそれを地上から走って追っている。
「(どうすればいい…)」
山口は悩んでいた。『飛翼』には制限時間がある為、このままずっと逃げ続ける訳にはいかない。そして、それを知らない裏日戸は、いずれ何かアクションを起こすはず。山口を捕らえる為に。
本気の跳躍か、それとも投擲か。いや、山口にとって最もされて欲しくない事、それは人質。
裏日戸が踵を返し、大学内にいる堺達の誰か一人でも人質に取られてしまえば、山口になす術はない。彼女の攻撃が絶対に届かないはるか高所へと飛翼する事も可能だが、これをしない理由がその為。付かず離れず、裏日戸を誘導する必要があったからだ。
「(早いこと決着をつけねぇと…)」
しかし、山口は大きな勘違いをしていた。裏日戸には人質を取る必要などなかったのだ。何故なら、もう既に土狛江が有野達を捕らえているからだ。では何故、裏日戸は今、必死になって山口を追いかけているのか。土狛江みたく、暇潰しで動いているのか。否、それは山口達を助ける為。山口達を危険に巻き込ませない為である。
桜田は何をするか分からない。最悪、人殺しだってするかも知れない。裏日戸はそれを危惧しており、山口達を今回の件から遠ざけたかったのだ。その為には、山口達を戦闘不能にする事が1番手っ取り早い。
大学内に残った堺,友那,将利はおそらく、土狛江や有野達がいるオカルト研究部の部室に戻っている。それならそれで、後は土狛江が彼らを何とかしてくれるであろう。であれば、堺らは安全。むしろ大学から出てしまった山口の方が、彼に危険が及ぶ可能性が高い。よって、裏日戸は外へと逃げ出した山口を最優先で追っていたのだ。
そして何よりもう一つ、裏日戸には大きな理由があった。
「(暗くなってきた…)」
裏日戸は空を見ながら心の中で呟いた。
「(時間がない…)」
そんな裏日戸の様子を、山口は逃走を続けながら、空中で眺めていた。
「(アイツ…なんで…)」
観察を続けていた山口の中にある疑問が浮かんだ。それは裏日戸の行動の違和感。裏日戸はまるで何かを避けるかのように走っていたのだ。そして、時折空を見て浮かべる焦りの表情。
「(もしかして…)」
山口はとある事が頭の中で閃いた。
「(やってみるか。)」
【河川敷付近にて…】
山口は河川敷近くの道路へとやってきた。何故、ココへ来たのか。それはあるものを探していたから。
「(あった!)」
それはトンネル。山口の目の前には、せいぜい車一台分が入れる小さなトンネルがあった。
山口はそのトンネル内へと着地し、少し奥に進んでから振り返り、裏日戸の方を見た。
「…」
なんと、裏日戸は足を止めていた。それを見た山口はある事を確信した。
「やっぱりお前、日陰が弱点なんだな。」
説明しよう!
裏日戸のタレントは『日光・攻撃』。日光を浴びている間は最強の攻撃力を有す事ができる能力である。
最強の攻撃力とは、あらゆるものを破壊可能である事。岩や鉄、ダイヤモンドですら素手で破壊する事が可能なのだ。さらには、タレントで作り出した『通常の物理的ダメージでは消失しない』などといった物体をも破壊する事ができる。発動条件は日光を浴びている間。つまり、日陰や屋内、夜などの日光が当たらない場所では『日光・攻撃』は強制解除されてしまう。
タイプ:付加型
山口は観察により裏日戸のタレントを予測し、このトンネルの中へと入ったのだ。
そして、山口は裏日戸を指差し、言った。
「もうすぐ完全に日が沈む。この鬼ごっこは俺の勝ちだ!」
「…」
裏日戸は黙ったまま山口から目線を逸らし、トンネルを見た。
次の瞬間、裏日戸は山口の方へと走り出した。そしてトンネル入り口の直前で跳躍し、トンネルの上に乗った。
「(なんのつもりだ…)」
山口が疑問に思ったその時、裏日戸はトンネル上部を拳で破壊した。
「なぬぁ⁈」
トンネル内にいた山口の頭上からは大量の瓦礫が降ってくる。
山口はトンネル奥へと飛んで瓦礫を回避した。しかし、裏日戸はトンネル上部を破壊しながら奥へと逃げる山口を追い詰めていく。
「(なんて奴だ…)」
山口の誤算、それは自身のタレントの弱点を考慮していなかった事。山口の『飛翼』は翼を創造し、制空権を得られる事。しかし当然ながら、狭い部屋や屋内ではその強みは失われる。
今、山口はトンネルという天井付きの狭い空間にいた。それはまさしく、山口にとっては不利な場所。裏日戸の弱点を炙り出そうとする上で、山口は自身のタレントの弱点を忘れてしまったのだ。
数秒後、トンネル上部は全て破壊され、山口はトンネルから飛び出した。
「ッ⁈」
するとその時、山口がトンネルから飛び出したタイミングを見計らって、裏日戸は空中にいた山口の足にしがみついた。
「捕まえた。」
このままではまずい。裏日戸が少し握力を加えるだけで、山口の足は枯れ枝のように折られてしまう。殺しはしないと分かっていても、予期される痛みの恐怖と、戦線離脱という焦りが山口の心を襲った。
しかし次の瞬間、山口は空へ急上昇した。
「わッ…⁈」
裏日戸は山口の突然の行動に驚き、声を上げた。
二人はどんどん空へ登っていく。そして、地上からの高さが50メートルを超えた時、山口は裏日戸に言った。
「お前が攻撃すれば、俺は痛みで翼の制御を失うかもしれない!そうなれば、俺たちはこのまま道路に落ちて死ぬ!いや、俺なら耐えられる!道路に落ちる寸前に持ち直せる!結果、死ぬのはお前だけだ!」
そう。山口が上昇したのは、裏日戸の攻撃を封じる為。
「だからぜってぇ攻撃しようなんて考えんなよ!マジで!」
「…」
裏日戸になす術はなかった。山口の言う通り、この高さから落ちれば死亡は確実。裏日戸のタレントは攻撃を強化するもので、耐久力を上げる能力ではないからだ。
しかし、裏日戸に諦めるつもりはなかった。何とかして、この状況を打開できないか熟考していた。
するとその時、太陽が雲に隠れた。一瞬だ。雲に太陽が隠れたのは。しかし、一瞬でも日光が遮られた事実は変わらない。それ故、裏日戸のタレントは一瞬、解除された。
「あッ……」
タレントが解けた裏日戸は攻撃力、すなわち、力が元に戻った。山口の足を握っていた右手の握力も、女子大生の平均並に。勿論、その程度の握力で上昇を続ける人間の足を掴み続ける事など不可能。
裏日戸の右手は山口の足から離れてしまった。
「「ッ…⁈」」
裏日戸は勿論の事、山口も裏日戸の手が離れた事に驚嘆した。
「(そうか…雲で太陽が…!)」
山口は裏日戸が手を離してしまった理由を悟り、落下する裏日戸を急降下で追った。
しかし、突然の出来事の為、山口の体はすぐには動かず、約0.5秒のタイムラグが発生した。それ故に、山口は追いつけずにいた。
「(間に合え…!)」
たった0.5秒かと思うかもしれない。しかし、山口が裏日戸を追いかけ始めた頃には、裏日戸の落下速度は既に4.9m/s程。その速さは重力加速度によりさらに勢いを増す。そして落下を始めた高さは約70m。等加速度直線運動の式より3.78秒後、空気抵抗を考慮すれば、落下から約4秒後には地面に激突する。山口の出だしの遅れ0.5秒と、降下の急停止に要する時間を考慮すれば、裏日戸の落下から2秒以内に山口は裏日戸に追いつかねばならない。
それは不可能な数字だ。いくら山口に下降技術があって裏日戸に追いついたとしても、彼女の体重を支えたまま残り1秒足らずで降下速度を0にする事は絶対に出来ない。山口がいくら彼女を助けようと足掻いたところで、何も変える事は出来ないのだ。
「(よし!掴んだ!)」
裏日戸の落下から2.5秒後、山口は裏日戸の腕を掴んだ。そして、山口は翼を広げ、降下の停止を始めた。
しかし、結果は目に見えていた。2人は落下の勢いを完全には消せないまま、コンクリートの地面に激突する。
山口は桜田の刺客の一人、裏日戸に追われていた。
山口は『飛翼』で空を飛んで逃げ、裏日戸はそれを地上から走って追っている。
「(どうすればいい…)」
山口は悩んでいた。『飛翼』には制限時間がある為、このままずっと逃げ続ける訳にはいかない。そして、それを知らない裏日戸は、いずれ何かアクションを起こすはず。山口を捕らえる為に。
本気の跳躍か、それとも投擲か。いや、山口にとって最もされて欲しくない事、それは人質。
裏日戸が踵を返し、大学内にいる堺達の誰か一人でも人質に取られてしまえば、山口になす術はない。彼女の攻撃が絶対に届かないはるか高所へと飛翼する事も可能だが、これをしない理由がその為。付かず離れず、裏日戸を誘導する必要があったからだ。
「(早いこと決着をつけねぇと…)」
しかし、山口は大きな勘違いをしていた。裏日戸には人質を取る必要などなかったのだ。何故なら、もう既に土狛江が有野達を捕らえているからだ。では何故、裏日戸は今、必死になって山口を追いかけているのか。土狛江みたく、暇潰しで動いているのか。否、それは山口達を助ける為。山口達を危険に巻き込ませない為である。
桜田は何をするか分からない。最悪、人殺しだってするかも知れない。裏日戸はそれを危惧しており、山口達を今回の件から遠ざけたかったのだ。その為には、山口達を戦闘不能にする事が1番手っ取り早い。
大学内に残った堺,友那,将利はおそらく、土狛江や有野達がいるオカルト研究部の部室に戻っている。それならそれで、後は土狛江が彼らを何とかしてくれるであろう。であれば、堺らは安全。むしろ大学から出てしまった山口の方が、彼に危険が及ぶ可能性が高い。よって、裏日戸は外へと逃げ出した山口を最優先で追っていたのだ。
そして何よりもう一つ、裏日戸には大きな理由があった。
「(暗くなってきた…)」
裏日戸は空を見ながら心の中で呟いた。
「(時間がない…)」
そんな裏日戸の様子を、山口は逃走を続けながら、空中で眺めていた。
「(アイツ…なんで…)」
観察を続けていた山口の中にある疑問が浮かんだ。それは裏日戸の行動の違和感。裏日戸はまるで何かを避けるかのように走っていたのだ。そして、時折空を見て浮かべる焦りの表情。
「(もしかして…)」
山口はとある事が頭の中で閃いた。
「(やってみるか。)」
【河川敷付近にて…】
山口は河川敷近くの道路へとやってきた。何故、ココへ来たのか。それはあるものを探していたから。
「(あった!)」
それはトンネル。山口の目の前には、せいぜい車一台分が入れる小さなトンネルがあった。
山口はそのトンネル内へと着地し、少し奥に進んでから振り返り、裏日戸の方を見た。
「…」
なんと、裏日戸は足を止めていた。それを見た山口はある事を確信した。
「やっぱりお前、日陰が弱点なんだな。」
説明しよう!
裏日戸のタレントは『日光・攻撃』。日光を浴びている間は最強の攻撃力を有す事ができる能力である。
最強の攻撃力とは、あらゆるものを破壊可能である事。岩や鉄、ダイヤモンドですら素手で破壊する事が可能なのだ。さらには、タレントで作り出した『通常の物理的ダメージでは消失しない』などといった物体をも破壊する事ができる。発動条件は日光を浴びている間。つまり、日陰や屋内、夜などの日光が当たらない場所では『日光・攻撃』は強制解除されてしまう。
タイプ:付加型
山口は観察により裏日戸のタレントを予測し、このトンネルの中へと入ったのだ。
そして、山口は裏日戸を指差し、言った。
「もうすぐ完全に日が沈む。この鬼ごっこは俺の勝ちだ!」
「…」
裏日戸は黙ったまま山口から目線を逸らし、トンネルを見た。
次の瞬間、裏日戸は山口の方へと走り出した。そしてトンネル入り口の直前で跳躍し、トンネルの上に乗った。
「(なんのつもりだ…)」
山口が疑問に思ったその時、裏日戸はトンネル上部を拳で破壊した。
「なぬぁ⁈」
トンネル内にいた山口の頭上からは大量の瓦礫が降ってくる。
山口はトンネル奥へと飛んで瓦礫を回避した。しかし、裏日戸はトンネル上部を破壊しながら奥へと逃げる山口を追い詰めていく。
「(なんて奴だ…)」
山口の誤算、それは自身のタレントの弱点を考慮していなかった事。山口の『飛翼』は翼を創造し、制空権を得られる事。しかし当然ながら、狭い部屋や屋内ではその強みは失われる。
今、山口はトンネルという天井付きの狭い空間にいた。それはまさしく、山口にとっては不利な場所。裏日戸の弱点を炙り出そうとする上で、山口は自身のタレントの弱点を忘れてしまったのだ。
数秒後、トンネル上部は全て破壊され、山口はトンネルから飛び出した。
「ッ⁈」
するとその時、山口がトンネルから飛び出したタイミングを見計らって、裏日戸は空中にいた山口の足にしがみついた。
「捕まえた。」
このままではまずい。裏日戸が少し握力を加えるだけで、山口の足は枯れ枝のように折られてしまう。殺しはしないと分かっていても、予期される痛みの恐怖と、戦線離脱という焦りが山口の心を襲った。
しかし次の瞬間、山口は空へ急上昇した。
「わッ…⁈」
裏日戸は山口の突然の行動に驚き、声を上げた。
二人はどんどん空へ登っていく。そして、地上からの高さが50メートルを超えた時、山口は裏日戸に言った。
「お前が攻撃すれば、俺は痛みで翼の制御を失うかもしれない!そうなれば、俺たちはこのまま道路に落ちて死ぬ!いや、俺なら耐えられる!道路に落ちる寸前に持ち直せる!結果、死ぬのはお前だけだ!」
そう。山口が上昇したのは、裏日戸の攻撃を封じる為。
「だからぜってぇ攻撃しようなんて考えんなよ!マジで!」
「…」
裏日戸になす術はなかった。山口の言う通り、この高さから落ちれば死亡は確実。裏日戸のタレントは攻撃を強化するもので、耐久力を上げる能力ではないからだ。
しかし、裏日戸に諦めるつもりはなかった。何とかして、この状況を打開できないか熟考していた。
するとその時、太陽が雲に隠れた。一瞬だ。雲に太陽が隠れたのは。しかし、一瞬でも日光が遮られた事実は変わらない。それ故、裏日戸のタレントは一瞬、解除された。
「あッ……」
タレントが解けた裏日戸は攻撃力、すなわち、力が元に戻った。山口の足を握っていた右手の握力も、女子大生の平均並に。勿論、その程度の握力で上昇を続ける人間の足を掴み続ける事など不可能。
裏日戸の右手は山口の足から離れてしまった。
「「ッ…⁈」」
裏日戸は勿論の事、山口も裏日戸の手が離れた事に驚嘆した。
「(そうか…雲で太陽が…!)」
山口は裏日戸が手を離してしまった理由を悟り、落下する裏日戸を急降下で追った。
しかし、突然の出来事の為、山口の体はすぐには動かず、約0.5秒のタイムラグが発生した。それ故に、山口は追いつけずにいた。
「(間に合え…!)」
たった0.5秒かと思うかもしれない。しかし、山口が裏日戸を追いかけ始めた頃には、裏日戸の落下速度は既に4.9m/s程。その速さは重力加速度によりさらに勢いを増す。そして落下を始めた高さは約70m。等加速度直線運動の式より3.78秒後、空気抵抗を考慮すれば、落下から約4秒後には地面に激突する。山口の出だしの遅れ0.5秒と、降下の急停止に要する時間を考慮すれば、裏日戸の落下から2秒以内に山口は裏日戸に追いつかねばならない。
それは不可能な数字だ。いくら山口に下降技術があって裏日戸に追いついたとしても、彼女の体重を支えたまま残り1秒足らずで降下速度を0にする事は絶対に出来ない。山口がいくら彼女を助けようと足掻いたところで、何も変える事は出来ないのだ。
「(よし!掴んだ!)」
裏日戸の落下から2.5秒後、山口は裏日戸の腕を掴んだ。そして、山口は翼を広げ、降下の停止を始めた。
しかし、結果は目に見えていた。2人は落下の勢いを完全には消せないまま、コンクリートの地面に激突する。
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