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第2章『ガイ-過去編-』
第43障『中学校の頃の成績って教師のさじ加減一つよな。』
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【12月3日、昼休み、戸楽市第一中学校、中庭にて…】
広瀬は堺と山口を中庭に呼び出していた。
「なんだ?タイマンか?あ?」
「なんで喧嘩腰なの…」
勘違いする山口を堺は諭した。
すると、広瀬は話を始める。
「最近のガイ君について、どう思う?」
広瀬の意外な発言に、少し戸惑う堺。
「最近の障坂くん…?」
「うん。何か変に思った事ない?どこか変わったトコとか…」
変わったトコ。堺には思い当たる節があるようだ。
「そういえば、いつもと雰囲気が違うというか…口調が荒っぽくなったような…」
一方、山口にはそれが無いようだ。
「いんやぁ?別にいつもと同じで尻フェチだったぞ?」
そう。山口は頭は良いのにバカなのだ。
そんな山口は放っておいて、広瀬は堺と話を続けた。
「それはいつから?」
「確か、障坂くんが休んだ次の日だから…11月30日…四日前ぐらいからかな。」
それを聞き、広瀬は思考した。
「(兄さんが捕まったのは11月29日の朝。おそらく、前日の深夜にガイ君は兄さんと…本田と戦ったんだ。その時、本田はガイ君の体に乗り移った。)」
広瀬の考察は大筋当たっている。しかし、広瀬には一つ疑問があった。
「(けど『魂移住計画』で乗り移ったとしても、体の主導権までは奪えない。その人の精神が衰退しない限り。)」
そう。それこそが広瀬の疑問。何故、本田は乗り移ってたった一日程度で、ガイの体を自由に操る事ができたのか。
「(それに、ガイ君でも本田でもないアレは、一体…)」
ガイの中にいるナニカ。広瀬にはわからない事が多過ぎた。
しかしその時、広瀬はガイの中のナニカが発した言葉を思い出した。
〈この事、別にガイには話していいからな。俺の事以外は。〉
その言葉の意味。広瀬はコレを考える。
「(ガイ君には話していい…それはつまり、いずれガイ君が俺の前に現れるって事なのか…)」
すると次の瞬間、広瀬の頭に一つの解答が思い浮かんだ。
「(まさか…!)」
その時、堺が広瀬に話しかけた。
「広瀬くん?」
広瀬があまりにも思考に集中していた為、堺が疑問に思ったのだ。
「え…あ!ごめん!なんでもない。」
広瀬は愛想笑いをして誤魔化した。
「今日聞きたかったのはそれだけ。呼び出してごめんね。」
広瀬は敢えて、二人に真実を話さなかった。ガイが偽物だと言ってしまえば、二人に危害が加わるかもしれないからだ。そして何よりも、アレに言われたからだ。
〈でも今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉
約束。いや、脅迫だ。この事実を話してしまったら、きっと自分は後悔する。そんな予感がしたのだ。
「それとこの事、ガイ君には言わないで欲しいんだ。お願いします。」
広瀬は堺と山口にそう言い残し、その場から去っていった。
残された山口と堺は、やや困惑していた。
「なんだったんだ?」
「さぁ…?」
【一方その頃、舞平町、武夫の通う学校、理科室にて…】
5限目の授業が始まった。今日はどうやら、理科室で実験のようだ。
その時、理科の先生が黒板の前で話を始めた。
「今日はみんな大好き先生も大好き大科学実験です。五人一班のグループを作ってください。」
理科教師のこの発言、いつものガイなら何とも思わなかっただろう。しかし、今は違う。
「(どうしよう…)」
そう。ガイはこの学校に知り合いなど居ないのだ。つまり、ぼっち確定。皆、どこかのグループに属しているのに、一人だけ余った時の孤独と羞恥はどれ程のものか。実際に、それを経験した事はない。しかし、想像はできる。それはおそらく、めっちゃ恥ずかしい。
皆、次々とグループが作られていく。
「(ヤバイ…最後の一人になりたくない…!)」
その時、ガイはこの学校で唯一知っている生徒、佐藤武夫をイジメていた小嶋に話しかけた。
「おい!お前んトコの班入れてくれ!」
「はぁ⁈」
小嶋は驚嘆した。そりゃそうだ。今までイジメてきた奴が、急に一緒のグループに入りたがってきたのだから。しかも今朝、あんな事があったにも関わらず。
「頼むよ!最後一人になって、しゃーなしで女子のグループに入れられるのだけは嫌だ!」
「え…でも…」
渋る小嶋。どうやら、武夫に関わる事すら嫌になってきたようだ。
しかし、ガイはそんな小嶋の胸ぐらを掴んで言った。
「俺が頼んだんだぞ。入れろ。」
小嶋は涙目で了承の返事をした。
「はい…」
立場が逆になった。
ガイの班は、小嶋を含めた例のイジメっ子四人組とガイであった。
「「「…」」」
小嶋たちはガイを睨んでいる。
「(なんで居んの…)」
「(どういう神経してんだコイツ…)」
「(トンダくれいじー野郎ヨ!)」
その時、理科教師が全体に向けて話を始めた。
「それでは、各班は二人ほど、前に実験器具を取りに来て下さい。」
ガイ達は誰が実験器具を取りに行くかをジャンケンで決めた。結果、ガイとカタコトが取りに行く事となった。
ガイは立ち上がり、そのカタコトの生徒に話しかけた。
「行くぞ。アルテマウェポン。」
その言葉を聞いたカタコト生徒は驚きを露わにした。
「ワオッ!何デセバス家ノ家宝ヲ⁈」
セバス家、すなわち、セバスジョバンヌの家系のことであろう。
「やっぱお前もセバスジョバンヌか。」
「ソウヨ!オ前、何デ知ッテル!」
「セバスジョバンヌ・ヨシミって奴と知り合いなんだ。そいつがアルテマウェポン持ってたから。」
「ヨシミチャンヲ知ッテルカ!ワオッ!彼女ハ俺ノ従兄妹ネ!」
従兄妹だった。
「へー。ところで、お前なんて名前なんだ?」
「俺ハ セバスジョバンヌ・ミキオ。『アルテマウェポン』ヲ代々受ケ継ギシ一族ノ末裔ヨ!」
「へー。」
「エェ?『アルテマウェポン』ガ何ナノカ知リタイ?ワオッ!ビューティフル!教エテヤルヨ!」
「へー。」
ガイはだんだん興味が薄れてきた。
ガイ達は実験器具を取って、話しながら自分たちの班のテーブルへ戻った。
「今度ウチ来イヨ!魔獣たいぷノ『アルテマウェポン』ヲ見セツケテーヤールー!」
「いや、めんどいからいい。」
それを見た小嶋たちは驚愕した。
「「「仲良くなっとるぅう⁈」」」
【6限目、体育館にて…】
体育館に集まっているのは男子のみ。しかしながら、生徒の数は多い。どうやら、体育は3組と4組が合同で行うようだ。
ガイ達は体操服姿で床に座っていた。そんな彼らの前に体育教師が立っている。
「今日はバスケットボールの試合をする。いいかぁ?戦力が均等になるようにチームを作れー。ちなみに、コレめっちゃ成績に影響するからなー。最下位だったチームは今期の体育の成績は1だ。ま、頑張れよー。」
さらっと恐ろしい事を言う体育教師であった。
数分後、男子生徒達はそれぞれ五人グループを作った。
ガイのチームは理科の実験の時と同じメンバーだ。
・メンバー紹介
ohお尻フェチ! キャプテン 障坂 ガイ
小嶋だよ! 副キャプテン 小嶋
ワンピース全巻持ってます! 渡辺
家がネジ工場! 田中
命アルダケマシダト思イナ! セバスジョバンヌ・ミキオ
「なんだこの肩書き?」
その時、偵察に行っていた一人が帰ってきた。
「おい、ヤバイぞ!一回戦の相手、全員バスケ部だそうだ!」
「はぁ⁈先生の前言ガン無視じゃねーか!」
「ワオッ!成績1ニナッテシマウヨ!」
ガイチームは皆、焦りと絶望を感じていた。しかし、ガイだけは何とも思っていない。それもそのはず。武夫の成績がどうなろうと、ガイには関係ないからだ。
【数分後…】
ガイチームの試合が始まった。偵察通り、相手は全員バスケ部だ。
・敵チーム紹介
胸筋おばけ! キャプテン 真田
現在三股中! 副キャプテン 田村
オッドアイに憧れてます! 村松
靴下が2パターンしかない! 佐竹
じゃない方部員! 真田
「だからなんだよコレ。」
皆、ジャンプボールの位置についた。
「(試合か。なんか新鮮だ。最近、殺し合いしかして来なかったからなぁ。)」
ガイは束の間の平和をしみじみ感じる中、試合は開始された。
ジャンプボールで弾かれたボールはガイがキャッチした。
「(楽しんでみるか。)」
ガイはドリブルでバスケ部五人を突破した。
「「「なぬぅぅぅぅぅう⁈」」」
相手チームの生徒達は声を上げた。華麗で俊敏なドライブに驚いているのだ。また、驚いていたのは、彼らだけではない。観戦していた生徒達、そして、ガイのチームのメンバーも、驚きを露わにしていた。
「(っしゃあ!初得点ゲットぉ!)」
ガイはノリに乗っている。とても楽しそうだ。
すると、ガイはレイアップシュートを打つ為、ボールを持ち、飛んだ。
その時だ。ガイはとある事に気がつき、驚愕した。
「は……?」
なんと、ガイは無意識の内にPSIを纏っていたのだ。
「なん…で……」
PSIを纏って身体能力が強化された事により、ガイの跳躍はゴールリングの高さを超えた。
「(まずい…!)」
それに気づいたガイはボールを持ち替えて、ダンクシュートを決めた。
しかし、PSIを纏っていた為、力が入り過ぎ、ゴールを破壊してしまった。
「「「ッ⁈」」」
それを観ていた生徒達はあまりの光景に絶句した。
「……」
ガイはゴールのリングを持ったまま、床に着地した。
「(なんで…PSIが……)」
ガイは体に纏われたPSIを凝視している。
その後、体育は中止になった。
【放課後、帰路にて…】
武夫は思考しながら佐藤家へと向かっている。
「(PSIが使えるかどうかの確認は、入院中に試した。その時は無理だったけど、何故、今になって…)」
ガイは試しに、腕にPSIを纏ってみた。結果、ガイの右腕には少量ではあるがPSIを纏う事ができた。
「(つまり、この体はあの時あの場で目覚めたんだ。ハンディーキャッパーとして。そして、おそらくコレは俺の影響。俺が佐藤武夫の体に入った事が原因だ。結果、佐藤武夫はハンディーキャッパーになった。)」
ガイの予想は当たっている。元々、佐藤武夫はハンディーキャッパーではなく、ガイが佐藤武夫の中に入った事で、佐藤武夫をハンディーキャッパーにしたのだ。まるで、あのタレントのように。
そして、ガイに一つの選択肢が増えた。
「(コレで戦える。)」
そう。PSIが使えるという事は、身体を強化できる。つまり、戦闘が可能という事だ。
「(広瀬先生、本田、そしてガイの体…向こうの状況は全く分からないが、万が一の護身は可能になり、唯一不安だった帰路へのハプニングにも備えられる。)」
ガイが一番危惧していた事、それは障坂邸に帰るまでである。障坂邸に着けば、ヤブ助や他の執事達、そして何より父親がいる。しかし、道中は孤独そのもの。そんな状況で本田と出会せば、即死亡。実際、本田と出会す可能性など無に等しいが、この時のガイは本田のタレントをよく知らない。もし、魂の軌跡すらも読み取れる力を持っていて、尚、自分の事を恨んでいるのなら、執念深い奴ならきっと報復に来る。家を調べられ、帰路に待ち伏せでもされていたら、ガイに太刀打ちできる術はない。
しかし、ガイはPSIを手に入れた。コレでもう、ココに残る必要はない。
「(あとは、『友達の家に泊まる』とか適当に誤魔化して家を出ればいいだけ。きっと親父なら、俺を元の体に戻して、この体も佐藤武夫に返す事ができる…はず…)」
ガイは自分の都合の良いように事を考えていた。実際、父親が手を貸してくれるかどうかなどわからないのに。
「(それに、佐藤武夫の帰る場所だって作って置いたんだ。)」
帰る場所。それは即ち、学校での居場所。
【ガイの回想…】
体育の授業の後、武夫は皆から賞賛の声を浴びていた。中学一年生がダンクシュートを決め、さらにはゴールリングをへし折ったのだ。賞賛しない方がおかしい。
生徒達は口々に武夫を褒め称え、そして、謝罪した。イジメを傍観していた事を。加害者である小嶋達も同じだ。許される事ではないと知っていながらも、誠意を込めて、武夫に詫びた。
ガイは『気にしてない。』と言った。何故なら、イジメを受けたのは自分ではないから。しかし、本当はこう言いたかった。『謝罪の相手を間違っている。』と。
【現在、佐藤家、リビングにて…】
武夫が家に帰ってきた。
「ただいまー。」
ガイは扉を開け、リビングに入った。
リビングでは、武夫の母親が掃除機をかけていた。
「おかえりなさい。どうだった?学校。」
「まあまあかな。」
その時、武夫の母親は掃除機のスイッチをオフにし、話を始めた。
「今日ね、学校から電話かかってきたの。体育の時間にバスケットゴール壊したって…」
それを聞き、ガイは申し訳なさそうに母親に問い返した。
「まさか、弁償…?」
しかし、母親はガイに顔を合わせる事なく、首を横に振り、答えた。
「ううん、それは学校でなんとかするらしいわ。ただ報告してきただけみたい。」
「そっか。よかった。」
ガイが一安心し、二階へ上がろうとしたその時、武夫の母親が武夫を呼び止めた。
「待って。」
ガイは足を止め、振り返った。
そこには、不安そうな表情でガイを見つめる、母親の姿があった。
「あなた、誰…?」
広瀬は堺と山口を中庭に呼び出していた。
「なんだ?タイマンか?あ?」
「なんで喧嘩腰なの…」
勘違いする山口を堺は諭した。
すると、広瀬は話を始める。
「最近のガイ君について、どう思う?」
広瀬の意外な発言に、少し戸惑う堺。
「最近の障坂くん…?」
「うん。何か変に思った事ない?どこか変わったトコとか…」
変わったトコ。堺には思い当たる節があるようだ。
「そういえば、いつもと雰囲気が違うというか…口調が荒っぽくなったような…」
一方、山口にはそれが無いようだ。
「いんやぁ?別にいつもと同じで尻フェチだったぞ?」
そう。山口は頭は良いのにバカなのだ。
そんな山口は放っておいて、広瀬は堺と話を続けた。
「それはいつから?」
「確か、障坂くんが休んだ次の日だから…11月30日…四日前ぐらいからかな。」
それを聞き、広瀬は思考した。
「(兄さんが捕まったのは11月29日の朝。おそらく、前日の深夜にガイ君は兄さんと…本田と戦ったんだ。その時、本田はガイ君の体に乗り移った。)」
広瀬の考察は大筋当たっている。しかし、広瀬には一つ疑問があった。
「(けど『魂移住計画』で乗り移ったとしても、体の主導権までは奪えない。その人の精神が衰退しない限り。)」
そう。それこそが広瀬の疑問。何故、本田は乗り移ってたった一日程度で、ガイの体を自由に操る事ができたのか。
「(それに、ガイ君でも本田でもないアレは、一体…)」
ガイの中にいるナニカ。広瀬にはわからない事が多過ぎた。
しかしその時、広瀬はガイの中のナニカが発した言葉を思い出した。
〈この事、別にガイには話していいからな。俺の事以外は。〉
その言葉の意味。広瀬はコレを考える。
「(ガイ君には話していい…それはつまり、いずれガイ君が俺の前に現れるって事なのか…)」
すると次の瞬間、広瀬の頭に一つの解答が思い浮かんだ。
「(まさか…!)」
その時、堺が広瀬に話しかけた。
「広瀬くん?」
広瀬があまりにも思考に集中していた為、堺が疑問に思ったのだ。
「え…あ!ごめん!なんでもない。」
広瀬は愛想笑いをして誤魔化した。
「今日聞きたかったのはそれだけ。呼び出してごめんね。」
広瀬は敢えて、二人に真実を話さなかった。ガイが偽物だと言ってしまえば、二人に危害が加わるかもしれないからだ。そして何よりも、アレに言われたからだ。
〈でも今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉
約束。いや、脅迫だ。この事実を話してしまったら、きっと自分は後悔する。そんな予感がしたのだ。
「それとこの事、ガイ君には言わないで欲しいんだ。お願いします。」
広瀬は堺と山口にそう言い残し、その場から去っていった。
残された山口と堺は、やや困惑していた。
「なんだったんだ?」
「さぁ…?」
【一方その頃、舞平町、武夫の通う学校、理科室にて…】
5限目の授業が始まった。今日はどうやら、理科室で実験のようだ。
その時、理科の先生が黒板の前で話を始めた。
「今日はみんな大好き先生も大好き大科学実験です。五人一班のグループを作ってください。」
理科教師のこの発言、いつものガイなら何とも思わなかっただろう。しかし、今は違う。
「(どうしよう…)」
そう。ガイはこの学校に知り合いなど居ないのだ。つまり、ぼっち確定。皆、どこかのグループに属しているのに、一人だけ余った時の孤独と羞恥はどれ程のものか。実際に、それを経験した事はない。しかし、想像はできる。それはおそらく、めっちゃ恥ずかしい。
皆、次々とグループが作られていく。
「(ヤバイ…最後の一人になりたくない…!)」
その時、ガイはこの学校で唯一知っている生徒、佐藤武夫をイジメていた小嶋に話しかけた。
「おい!お前んトコの班入れてくれ!」
「はぁ⁈」
小嶋は驚嘆した。そりゃそうだ。今までイジメてきた奴が、急に一緒のグループに入りたがってきたのだから。しかも今朝、あんな事があったにも関わらず。
「頼むよ!最後一人になって、しゃーなしで女子のグループに入れられるのだけは嫌だ!」
「え…でも…」
渋る小嶋。どうやら、武夫に関わる事すら嫌になってきたようだ。
しかし、ガイはそんな小嶋の胸ぐらを掴んで言った。
「俺が頼んだんだぞ。入れろ。」
小嶋は涙目で了承の返事をした。
「はい…」
立場が逆になった。
ガイの班は、小嶋を含めた例のイジメっ子四人組とガイであった。
「「「…」」」
小嶋たちはガイを睨んでいる。
「(なんで居んの…)」
「(どういう神経してんだコイツ…)」
「(トンダくれいじー野郎ヨ!)」
その時、理科教師が全体に向けて話を始めた。
「それでは、各班は二人ほど、前に実験器具を取りに来て下さい。」
ガイ達は誰が実験器具を取りに行くかをジャンケンで決めた。結果、ガイとカタコトが取りに行く事となった。
ガイは立ち上がり、そのカタコトの生徒に話しかけた。
「行くぞ。アルテマウェポン。」
その言葉を聞いたカタコト生徒は驚きを露わにした。
「ワオッ!何デセバス家ノ家宝ヲ⁈」
セバス家、すなわち、セバスジョバンヌの家系のことであろう。
「やっぱお前もセバスジョバンヌか。」
「ソウヨ!オ前、何デ知ッテル!」
「セバスジョバンヌ・ヨシミって奴と知り合いなんだ。そいつがアルテマウェポン持ってたから。」
「ヨシミチャンヲ知ッテルカ!ワオッ!彼女ハ俺ノ従兄妹ネ!」
従兄妹だった。
「へー。ところで、お前なんて名前なんだ?」
「俺ハ セバスジョバンヌ・ミキオ。『アルテマウェポン』ヲ代々受ケ継ギシ一族ノ末裔ヨ!」
「へー。」
「エェ?『アルテマウェポン』ガ何ナノカ知リタイ?ワオッ!ビューティフル!教エテヤルヨ!」
「へー。」
ガイはだんだん興味が薄れてきた。
ガイ達は実験器具を取って、話しながら自分たちの班のテーブルへ戻った。
「今度ウチ来イヨ!魔獣たいぷノ『アルテマウェポン』ヲ見セツケテーヤールー!」
「いや、めんどいからいい。」
それを見た小嶋たちは驚愕した。
「「「仲良くなっとるぅう⁈」」」
【6限目、体育館にて…】
体育館に集まっているのは男子のみ。しかしながら、生徒の数は多い。どうやら、体育は3組と4組が合同で行うようだ。
ガイ達は体操服姿で床に座っていた。そんな彼らの前に体育教師が立っている。
「今日はバスケットボールの試合をする。いいかぁ?戦力が均等になるようにチームを作れー。ちなみに、コレめっちゃ成績に影響するからなー。最下位だったチームは今期の体育の成績は1だ。ま、頑張れよー。」
さらっと恐ろしい事を言う体育教師であった。
数分後、男子生徒達はそれぞれ五人グループを作った。
ガイのチームは理科の実験の時と同じメンバーだ。
・メンバー紹介
ohお尻フェチ! キャプテン 障坂 ガイ
小嶋だよ! 副キャプテン 小嶋
ワンピース全巻持ってます! 渡辺
家がネジ工場! 田中
命アルダケマシダト思イナ! セバスジョバンヌ・ミキオ
「なんだこの肩書き?」
その時、偵察に行っていた一人が帰ってきた。
「おい、ヤバイぞ!一回戦の相手、全員バスケ部だそうだ!」
「はぁ⁈先生の前言ガン無視じゃねーか!」
「ワオッ!成績1ニナッテシマウヨ!」
ガイチームは皆、焦りと絶望を感じていた。しかし、ガイだけは何とも思っていない。それもそのはず。武夫の成績がどうなろうと、ガイには関係ないからだ。
【数分後…】
ガイチームの試合が始まった。偵察通り、相手は全員バスケ部だ。
・敵チーム紹介
胸筋おばけ! キャプテン 真田
現在三股中! 副キャプテン 田村
オッドアイに憧れてます! 村松
靴下が2パターンしかない! 佐竹
じゃない方部員! 真田
「だからなんだよコレ。」
皆、ジャンプボールの位置についた。
「(試合か。なんか新鮮だ。最近、殺し合いしかして来なかったからなぁ。)」
ガイは束の間の平和をしみじみ感じる中、試合は開始された。
ジャンプボールで弾かれたボールはガイがキャッチした。
「(楽しんでみるか。)」
ガイはドリブルでバスケ部五人を突破した。
「「「なぬぅぅぅぅぅう⁈」」」
相手チームの生徒達は声を上げた。華麗で俊敏なドライブに驚いているのだ。また、驚いていたのは、彼らだけではない。観戦していた生徒達、そして、ガイのチームのメンバーも、驚きを露わにしていた。
「(っしゃあ!初得点ゲットぉ!)」
ガイはノリに乗っている。とても楽しそうだ。
すると、ガイはレイアップシュートを打つ為、ボールを持ち、飛んだ。
その時だ。ガイはとある事に気がつき、驚愕した。
「は……?」
なんと、ガイは無意識の内にPSIを纏っていたのだ。
「なん…で……」
PSIを纏って身体能力が強化された事により、ガイの跳躍はゴールリングの高さを超えた。
「(まずい…!)」
それに気づいたガイはボールを持ち替えて、ダンクシュートを決めた。
しかし、PSIを纏っていた為、力が入り過ぎ、ゴールを破壊してしまった。
「「「ッ⁈」」」
それを観ていた生徒達はあまりの光景に絶句した。
「……」
ガイはゴールのリングを持ったまま、床に着地した。
「(なんで…PSIが……)」
ガイは体に纏われたPSIを凝視している。
その後、体育は中止になった。
【放課後、帰路にて…】
武夫は思考しながら佐藤家へと向かっている。
「(PSIが使えるかどうかの確認は、入院中に試した。その時は無理だったけど、何故、今になって…)」
ガイは試しに、腕にPSIを纏ってみた。結果、ガイの右腕には少量ではあるがPSIを纏う事ができた。
「(つまり、この体はあの時あの場で目覚めたんだ。ハンディーキャッパーとして。そして、おそらくコレは俺の影響。俺が佐藤武夫の体に入った事が原因だ。結果、佐藤武夫はハンディーキャッパーになった。)」
ガイの予想は当たっている。元々、佐藤武夫はハンディーキャッパーではなく、ガイが佐藤武夫の中に入った事で、佐藤武夫をハンディーキャッパーにしたのだ。まるで、あのタレントのように。
そして、ガイに一つの選択肢が増えた。
「(コレで戦える。)」
そう。PSIが使えるという事は、身体を強化できる。つまり、戦闘が可能という事だ。
「(広瀬先生、本田、そしてガイの体…向こうの状況は全く分からないが、万が一の護身は可能になり、唯一不安だった帰路へのハプニングにも備えられる。)」
ガイが一番危惧していた事、それは障坂邸に帰るまでである。障坂邸に着けば、ヤブ助や他の執事達、そして何より父親がいる。しかし、道中は孤独そのもの。そんな状況で本田と出会せば、即死亡。実際、本田と出会す可能性など無に等しいが、この時のガイは本田のタレントをよく知らない。もし、魂の軌跡すらも読み取れる力を持っていて、尚、自分の事を恨んでいるのなら、執念深い奴ならきっと報復に来る。家を調べられ、帰路に待ち伏せでもされていたら、ガイに太刀打ちできる術はない。
しかし、ガイはPSIを手に入れた。コレでもう、ココに残る必要はない。
「(あとは、『友達の家に泊まる』とか適当に誤魔化して家を出ればいいだけ。きっと親父なら、俺を元の体に戻して、この体も佐藤武夫に返す事ができる…はず…)」
ガイは自分の都合の良いように事を考えていた。実際、父親が手を貸してくれるかどうかなどわからないのに。
「(それに、佐藤武夫の帰る場所だって作って置いたんだ。)」
帰る場所。それは即ち、学校での居場所。
【ガイの回想…】
体育の授業の後、武夫は皆から賞賛の声を浴びていた。中学一年生がダンクシュートを決め、さらにはゴールリングをへし折ったのだ。賞賛しない方がおかしい。
生徒達は口々に武夫を褒め称え、そして、謝罪した。イジメを傍観していた事を。加害者である小嶋達も同じだ。許される事ではないと知っていながらも、誠意を込めて、武夫に詫びた。
ガイは『気にしてない。』と言った。何故なら、イジメを受けたのは自分ではないから。しかし、本当はこう言いたかった。『謝罪の相手を間違っている。』と。
【現在、佐藤家、リビングにて…】
武夫が家に帰ってきた。
「ただいまー。」
ガイは扉を開け、リビングに入った。
リビングでは、武夫の母親が掃除機をかけていた。
「おかえりなさい。どうだった?学校。」
「まあまあかな。」
その時、武夫の母親は掃除機のスイッチをオフにし、話を始めた。
「今日ね、学校から電話かかってきたの。体育の時間にバスケットゴール壊したって…」
それを聞き、ガイは申し訳なさそうに母親に問い返した。
「まさか、弁償…?」
しかし、母親はガイに顔を合わせる事なく、首を横に振り、答えた。
「ううん、それは学校でなんとかするらしいわ。ただ報告してきただけみたい。」
「そっか。よかった。」
ガイが一安心し、二階へ上がろうとしたその時、武夫の母親が武夫を呼び止めた。
「待って。」
ガイは足を止め、振り返った。
そこには、不安そうな表情でガイを見つめる、母親の姿があった。
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Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

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