障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第43障『中学校の頃の成績って教師のさじ加減一つよな。』

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【12月3日、昼休み、戸楽市第一中学校、中庭にて…】

広瀬は堺と山口を中庭に呼び出していた。

「なんだ?タイマンか?あ?」
「なんで喧嘩腰なの…」

勘違いする山口を堺は諭した。
すると、広瀬は話を始める。

「最近のガイ君について、どう思う?」

広瀬の意外な発言に、少し戸惑う堺。

「最近の障坂くん…?」
「うん。何か変に思った事ない?どこか変わったトコとか…」

変わったトコ。堺には思い当たる節があるようだ。

「そういえば、いつもと雰囲気が違うというか…口調が荒っぽくなったような…」

一方、山口にはそれが無いようだ。

「いんやぁ?別にいつもと同じで尻フェチだったぞ?」

そう。山口は頭は良いのにバカなのだ。
そんな山口は放っておいて、広瀬は堺と話を続けた。

「それはいつから?」
「確か、障坂くんが休んだ次の日だから…11月30日…四日前ぐらいからかな。」

それを聞き、広瀬は思考した。

「(兄さんが捕まったのは11月29日の朝。おそらく、前日の深夜にガイ君は兄さんと…本田と戦ったんだ。その時、本田はガイ君の体に乗り移った。)」

広瀬の考察は大筋当たっている。しかし、広瀬には一つ疑問があった。

「(けど『魂移住計画ゴーンボーン』で乗り移ったとしても、体の主導権までは奪えない。その人の精神が衰退しない限り。)」

そう。それこそが広瀬の疑問。何故、本田は乗り移ってたった一日程度で、ガイの体を自由に操る事ができたのか。

「(それに、ガイ君でも本田でもないアレは、一体…)」

ガイの中にいるナニカ。広瀬にはわからない事が多過ぎた。
しかしその時、広瀬はガイの中のナニカが発した言葉を思い出した。

〈この事、別にガイには話していいからな。俺の事以外は。〉

その言葉の意味。広瀬はコレを考える。

「(ガイ君には話していい…それはつまり、いずれガイ君が俺の前に現れるって事なのか…)」

すると次の瞬間、広瀬の頭に一つの解答が思い浮かんだ。

「(まさか…!)」

その時、堺が広瀬に話しかけた。

「広瀬くん?」

広瀬があまりにも思考に集中していた為、堺が疑問に思ったのだ。

「え…あ!ごめん!なんでもない。」

広瀬は愛想笑いをして誤魔化した。

「今日聞きたかったのはそれだけ。呼び出してごめんね。」

広瀬は敢えて、二人に真実を話さなかった。ガイが偽物だと言ってしまえば、二人に危害が加わるかもしれないからだ。そして何よりも、アレに言われたからだ。

〈でも今回の件、他言や詮索は無用。約束な。〉

約束。いや、脅迫だ。この事実を話してしまったら、きっと自分は後悔する。そんな予感がしたのだ。

「それとこの事、ガイ君には言わないで欲しいんだ。お願いします。」

広瀬は堺と山口にそう言い残し、その場から去っていった。
残された山口と堺は、やや困惑していた。

「なんだったんだ?」
「さぁ…?」

【一方その頃、舞平町、武夫の通う学校、理科室にて…】

5限目の授業が始まった。今日はどうやら、理科室で実験のようだ。
その時、理科の先生が黒板の前で話を始めた。

「今日はみんな大好き先生も大好き大科学実験です。五人一班のグループを作ってください。」

理科教師のこの発言、いつものガイなら何とも思わなかっただろう。しかし、今は違う。

「(どうしよう…)」

そう。ガイはこの学校に知り合いなど居ないのだ。つまり、ぼっち確定。皆、どこかのグループに属しているのに、一人だけ余った時の孤独と羞恥はどれ程のものか。実際に、それを経験した事はない。しかし、想像はできる。それはおそらく、めっちゃ恥ずかしい。
皆、次々とグループが作られていく。

「(ヤバイ…最後の一人になりたくない…!)」

その時、ガイはこの学校で唯一知っている生徒、佐藤武夫をイジメていた小嶋に話しかけた。

「おい!お前んトコの班入れてくれ!」
「はぁ⁈」

小嶋は驚嘆した。そりゃそうだ。今までイジメてきた奴が、急に一緒のグループに入りたがってきたのだから。しかも今朝、あんな事があったにも関わらず。

「頼むよ!最後一人になって、しゃーなしで女子のグループに入れられるのだけは嫌だ!」
「え…でも…」

渋る小嶋。どうやら、武夫に関わる事すら嫌になってきたようだ。
しかし、ガイはそんな小嶋の胸ぐらを掴んで言った。

「俺が頼んだんだぞ。入れろ。」

小嶋は涙目で了承の返事をした。

「はい…」

立場が逆になった。
ガイの班は、小嶋を含めた例のイジメっ子四人組とガイであった。

「「「…」」」

小嶋たちはガイを睨んでいる。

「(なんで居んの…)」
「(どういう神経してんだコイツ…)」
「(トンダくれいじー野郎ヨ!)」

その時、理科教師が全体に向けて話を始めた。

「それでは、各班は二人ほど、前に実験器具を取りに来て下さい。」

ガイ達は誰が実験器具を取りに行くかをジャンケンで決めた。結果、ガイとカタコトが取りに行く事となった。
ガイは立ち上がり、そのカタコトの生徒に話しかけた。

「行くぞ。。」

その言葉を聞いたカタコト生徒は驚きを露わにした。

「ワオッ!何デセバス家ノ家宝ヲ⁈」

セバス家、すなわち、セバスジョバンヌの家系のことであろう。

「やっぱお前もセバスジョバンヌか。」
「ソウヨ!オ前、何デ知ッテル!」
「セバスジョバンヌ・ヨシミって奴と知り合いなんだ。そいつがアルテマウェポン持ってたから。」
「ヨシミチャンヲ知ッテルカ!ワオッ!彼女ハ俺ノ従兄妹ネ!」

従兄妹だった。

「へー。ところで、お前なんて名前なんだ?」
「俺ハ セバスジョバンヌ・ミキオ。『アルテマウェポン』ヲ代々受ケ継ギシ一族ノ末裔ヨ!」
「へー。」
「エェ?『アルテマウェポン』ガ何ナノカ知リタイ?ワオッ!ビューティフル!教エテヤルヨ!」
「へー。」

ガイはだんだん興味が薄れてきた。
ガイ達は実験器具を取って、話しながら自分たちの班のテーブルへ戻った。

「今度ウチ来イヨ!魔獣たいぷノ『アルテマウェポン』ヲ見セツケテーヤールー!」
「いや、めんどいからいい。」

それを見た小嶋たちは驚愕した。

「「「仲良くなっとるぅう⁈」」」

【6限目、体育館にて…】

体育館に集まっているのは男子のみ。しかしながら、生徒の数は多い。どうやら、体育は3組と4組が合同で行うようだ。
ガイ達は体操服姿で床に座っていた。そんな彼らの前に体育教師が立っている。

「今日はバスケットボールの試合をする。いいかぁ?戦力が均等になるようにチームを作れー。ちなみに、コレめっちゃ成績に影響するからなー。最下位だったチームは今期の体育の成績は1だ。ま、頑張れよー。」

さらっと恐ろしい事を言う体育教師であった。
数分後、男子生徒達はそれぞれ五人グループを作った。
ガイのチームは理科の実験の時と同じメンバーだ。

・メンバー紹介
ohお尻フェチ! キャプテン 障坂 ガイ
小嶋だよ! 副キャプテン 小嶋
ワンピース全巻持ってます! 渡辺
家がネジ工場! 田中
命アルダケマシダト思イナ! セバスジョバンヌ・ミキオ

「なんだこの肩書き?」

その時、偵察に行っていた一人が帰ってきた。

「おい、ヤバイぞ!一回戦の相手、全員バスケ部だそうだ!」
「はぁ⁈先生の前言ガン無視じゃねーか!」
「ワオッ!成績1ニナッテシマウヨ!」

ガイチームは皆、焦りと絶望を感じていた。しかし、ガイだけは何とも思っていない。それもそのはず。武夫の成績がどうなろうと、ガイには関係ないからだ。

【数分後…】

ガイチームの試合が始まった。偵察通り、相手は全員バスケ部だ。

・敵チーム紹介
胸筋おばけ! キャプテン 真田
現在三股中! 副キャプテン 田村
オッドアイに憧れてます! 村松
靴下が2パターンしかない! 佐竹
じゃない方部員! 真田

「だからなんだよコレ。」

皆、ジャンプボールの位置についた。

「(試合か。なんか新鮮だ。最近、殺し合いしかして来なかったからなぁ。)」

ガイは束の間の平和をしみじみ感じる中、試合は開始された。
ジャンプボールで弾かれたボールはガイがキャッチした。

「(楽しんでみるか。)」

ガイはドリブルでバスケ部五人を突破した。

「「「なぬぅぅぅぅぅう⁈」」」

相手チームの生徒達は声を上げた。華麗で俊敏なドライブに驚いているのだ。また、驚いていたのは、彼らだけではない。観戦していた生徒達、そして、ガイのチームのメンバーも、驚きを露わにしていた。

「(っしゃあ!初得点ゲットぉ!)」

ガイはノリに乗っている。とても楽しそうだ。
すると、ガイはレイアップシュートを打つ為、ボールを持ち、飛んだ。
その時だ。ガイはとある事に気がつき、驚愕した。

「は……?」

なんと、ガイは無意識の内にPSIを纏っていたのだ。

「なん…で……」

PSIを纏って身体能力が強化された事により、ガイの跳躍はゴールリングの高さを超えた。

「(まずい…!)」

それに気づいたガイはボールを持ち替えて、ダンクシュートを決めた。
しかし、PSIを纏っていた為、力が入り過ぎ、ゴールを破壊してしまった。

「「「ッ⁈」」」

それを観ていた生徒達はあまりの光景に絶句した。

「……」

ガイはゴールのリングを持ったまま、床に着地した。

「(なんで…PSIが……)」

ガイは体に纏われたPSIを凝視している。
その後、体育は中止になった。

【放課後、帰路にて…】

武夫ガイは思考しながら佐藤家へと向かっている。

「(PSIが使えるかどうかの確認は、入院中に試した。その時は無理だったけど、何故、今になって…)」

ガイは試しに、腕にPSIを纏ってみた。結果、ガイの右腕には少量ではあるがPSIを纏う事ができた。

「(つまり、この体はあの時あの場で目覚めたんだ。ハンディーキャッパーとして。そして、おそらくコレは俺の影響。俺が佐藤武夫の体に入った事が原因だ。結果、佐藤武夫はハンディーキャッパーになった。)」

ガイの予想は当たっている。元々、佐藤武夫はハンディーキャッパーではなく、ガイが佐藤武夫の中に入った事で、佐藤武夫をハンディーキャッパーにしたのだ。まるで、あのタレントのように。
そして、ガイに一つの選択肢が増えた。

「(コレで戦える。)」

そう。PSIが使えるという事は、身体を強化できる。つまり、戦闘が可能という事だ。

「(広瀬先生、本田、そしてガイおれの体…向こうの状況は全く分からないが、万が一の護身は可能になり、唯一不安だった帰路へのハプニングにも備えられる。)」

ガイが一番危惧していた事、それは障坂邸に帰るまでである。障坂邸に着けば、ヤブ助や他の執事達、そして何より父親がいる。しかし、道中は孤独そのもの。そんな状況で本田と出会せば、即死亡。実際、本田と出会す可能性など無に等しいが、この時のガイは本田のタレントをよく知らない。もし、魂の軌跡すらも読み取れる力を持っていて、尚、自分の事を恨んでいるのなら、執念深い奴ならきっと報復に来る。家を調べられ、帰路に待ち伏せでもされていたら、ガイに太刀打ちできる術はない。
しかし、ガイはPSI武器を手に入れた。コレでもう、ココに残る必要はない。

「(あとは、『友達の家に泊まる』とか適当に誤魔化して家を出ればいいだけ。きっと親父なら、俺を元の体に戻して、この体も佐藤武夫に返す事ができる…はず…)」

ガイは自分の都合の良いように事を考えていた。実際、父親が手を貸してくれるかどうかなどわからないのに。

「(それに、佐藤武夫コイツの帰る場所だって作って置いたんだ。)」

帰る場所。それは即ち、学校での居場所。

【ガイの回想…】

体育の授業の後、武夫ガイは皆から賞賛の声を浴びていた。中学一年生がダンクシュートを決め、さらにはゴールリングをへし折ったのだ。賞賛しない方がおかしい。
生徒達は口々に武夫ガイを褒め称え、そして、謝罪した。イジメを傍観していた事を。加害者である小嶋達も同じだ。許される事ではないと知っていながらも、誠意を込めて、武夫ガイに詫びた。
ガイは『気にしてない。』と言った。何故なら、イジメを受けたのは自分ではないから。しかし、本当はこう言いたかった。『謝罪の相手を間違っている。』と。

【現在、佐藤家、リビングにて…】

武夫ガイが家に帰ってきた。

「ただいまー。」

ガイは扉を開け、リビングに入った。
リビングでは、武夫の母親が掃除機をかけていた。

「おかえりなさい。どうだった?学校。」
「まあまあかな。」

その時、武夫の母親は掃除機のスイッチをオフにし、話を始めた。

「今日ね、学校から電話かかってきたの。体育の時間にバスケットゴール壊したって…」

それを聞き、ガイは申し訳なさそうに母親に問い返した。

「まさか、弁償…?」

しかし、母親はガイに顔を合わせる事なく、首を横に振り、答えた。

「ううん、それは学校でなんとかするらしいわ。ただ報告してきただけみたい。」
「そっか。よかった。」

ガイが一安心し、二階へ上がろうとしたその時、武夫の母親が武夫ガイを呼び止めた。

「待って。」

ガイは足を止め、振り返った。
そこには、不安そうな表情でガイを見つめる、母親の姿があった。

「あなた、誰…?」
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