障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第15障『ワガハイは白マロである』

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【1学期終業式、校門前にて…】

「バイバーイ!」
「また2学期にね!」

校門前の塀の上に白猫が1匹座っている。

〈待ち遠しい…〉

白猫は校門前をずっと眺めている。

〈なにぃ?ワガハイが今何をしているかだと?知りたいか?〉

校門からは次々と学生達が出てくる。

〈なら教えてやる。ワガハイはある人間を待っているのだ。〉

その時、ガイ,堺,山口が校門から出てきた。

「じゃあな!ガイ、堺!」
「バイバーイ。」
「また二学期にね。」

すると、山口は塀の上の白猫を見た。

「よう。また来てたのか。」

〈そう。ワガハイが待っていたのはこの人間だ。〉

【約10ヶ月前…】

ワガハイの名は白マロ。白くてマロ眉だから白マロなのだ。
あの日、ワガハイはおもむろに街を見下ろしたくなり、高い木のてっぺんまで登った。しかし、登ったはいいものの降りられなくなってしまったのだ。不思議なものだ。登るのは容易だったのに、降りられなくなるなんて…ん?なんだ、アイツ。
白猫の目線の先には山口がいた。

「お前、降りられなくなったのか?」

そうだよ、その通りだよ。惨めなワガハイを笑うがいい。

「今助けてやるからな!」

お前が⁈お前のようなガキに何ができる。大人でも呼んでくるか?お互い、無力だな。

「『飛翼フライド』!!!」

山口の背中から翼が生えた。そして、山口は白猫がいる木のてっぺんまで高く飛んだ。

「にゃ⁈」

な、なんだこいつ、鳥か⁈人間じゃないのか⁈
山口は白猫に手を差し伸べた。

「もう大丈夫だからな。」
「…」

この時、ワガハイはこの人間に恋をした。鳥なのか人間なのかわからない。決して猫ではないのは確かだ。だが、ワガハイは思う。恋に種族も性別も関係ない!ちなみにワガハイはメスだ。アイツはどっちだろう。

【現在…】

〈それから、なんやかんやあり、今はコイツのペットとしてコイツの家に住みついている。まぁ、要するに、ワガハイはコイツのペット。人間で言うところの、性奴隷ってとこだな。〉

違う。

〈そんなワガハイは今大変な事に巻き込まれている。それは…〉

その時、白マロは山口の頭から降りた。

「おい!どこ行くんだよ!」

白マロはどこかの家の屋根の上へ登った。

【誰かの家、屋根の上にて…】

そこには3匹の猫がいた。

※ここからは、猫達の会話は猫語を日本語に直してお伝えします。

「もう来ないでくれと言ったはずだ、ヤブ助。」
「冷たいこと言うなよ。俺たちここら一帯を仕切ってた仲間じゃねーか。なぁ、チビマル、ケンケン。」

片目の潰れた虎柄の猫、ヤブ助が背後の2匹に尋ねた。

「そうだぜ。」

一際小柄な黒猫、チビマルが答える。

「あの頃が懐かしいな。」

それに続き、両耳の無い灰色の猫、ケンケンが答えた。

「それに俺たち、ハンディーキャットじゃねぇか。」

〈そう。ワガハイは昔ヤンチャしてたのだ。ワガハイ達はこの戸楽市一帯を牛耳っていた、四天王と呼ばれていたのだ。〉

耳なしのケンケン
漆黒のチビマル
隻眼のヤブ助
純白の白マロ

「そんで、どーなんだよ。俺たちとまた、大暴れする気はねぇのか?」

ヤブ助は白マロに尋ねた。

「この前も言っただろ。ワガハイはもう主人を見つけた。悪いが、またお前達の仲間になる気は無い。」

白マロとヤブ助はしばらく睨み合った。

「…また明日来る。行くぞ、チビマル、ケンケン。」

すると、ヤブ助は去り際に白マロに言い放った。

「明日が最後だ。この意味わかるよな。」
「…」

3匹は何処かへ行ってしまった。

〈この意味…ワガハイにはこの意味がわかる。明日、もし勧誘を断れば、ワガハイ…いや、ワガハイだけじゃなく、ご主人まで殺される…なに?猫が人間を殺せるわけないだと?普通の猫ならな。だが、奴らは違う。奴らはハンディーキャットだ。〉

説明しよう!
ハンディーキャットとは、ハンディーキャッパーの猫バージョンの事である。それ以上でもそれ以下でも無い。

〈断れば、殺されるかもしれない。だが、奴らの仲間になれば、もう二度とご主人に会えない…そんなの嫌だ!ワガハイは御主人とずっと一緒にいたい!〉

白マロは家へと向かった。

〈ご主人には悪いが、ワガハイは明日、奴らと戦う。ワガハイはワガママなのである。〉

【夕方、山口の家、居間にて…】

山口と白マロが帰宅してきた。

「ただいま~!」

居間には山口の祖父母がいた。

「お帰り、裕也。それに、タマもね。」
「タマじゃねぇーよ、ばぁちゃん。」

祖母に続き、祖父も発言する。

「おかえり、裕也、ミケ。」
「だぁからじぃちゃんも違うって!」

〈ワガハイは白マロである。〉

「え?ジバニャン?」
「んな事言ってねぇ…」

【その日の夜、住宅街にて…】

白マロは屋根の上を散歩していた。

「(明日、ワガハイはヤブ助達と決別する。)」

白マロは不安そうに闇夜に浮かぶ光月を見上げていた。

「(しかし、どうしたものか…3対1では分が悪い。誰か味方になってくれる奴はいないだろうか…)」

白マロは友達が少ない。味方になってくれる人物、もとい、猫はいない。頭を抱え、思案を巡らせながら白マロは屋根から塀へと飛び移った。

「(ん…?確かアイツは…)」

不意に横を見た白マロ。そこには、部屋の中でゲームをしているガイの姿があった。どうやら、白マロが歩いている塀は障坂邸の塀だったようだ。

「(間違いない。いつもご主人と一緒にいる人間だ。)」

白マロはガイの顔を知っていた。当然だ。ほぼ毎日、学校の塀の上で山口を待っているのだ。一緒に校門から出てくるガイの顔を覚えていない訳がない。
その時、白マロは閃いた。

「(そうだ!アイツに頼もう!アイツなら存分に迷惑をかけられるぞ。死んだってワガハイにはなんの不利益もないからな。)」

山口を味方にする訳にはいかない。事情を知らせて協力させれば、山口を危険に巻き込む事にからだ。そこで、ガイだ。ハンディーキャッパーでかつ、白マロにとって死んでも構わない人間。そう考えたのだ。
障野邸の警備システムは凄まじい。たとえ猫1匹でも、塀から先、庭を越えて本館に辿り着くのは至難の業だ。しかし、白マロは容易に、ガイの部屋の窓まで飛び移った。それができた理由はただ一つ。白マロがハンディーキャットだからだ。

「(鍵がかかってるな…)」

その時、白マロは体毛の中に隠し持っていた植物の種子を窓の淵に置いた。そして、それにPSIを込めた。
すると次の瞬間、その種子が発芽し、みるみるうちにツタが伸びていった。そして、その成長を続けるツタは、まるで白マロに操られているかの様に窓の隙間に入り込み、中から窓の鍵を開けた。

【ガイの部屋の中にて…】

ガイはベッドの上で寝ながらゲームをしている。RPGゲームの様だ。
するとその時、ガイは唐突にゲーム機をベットの隅に置いて、辺りを観察し始めた。

「(PSIを感じる…)」

ガイは白マロのPSIを感じ取ったのだ。
ガイは成長していた。3ヶ月前まではPSIを身に纏うことすらなかったガイであったが、自身から半径2~3メートル以内なら、PSIを感知する事ができる様になっていたのだ。
その時、ガイは窓から物音がする事に気づいた。

「窓に誰かいるのか…?」

ガイはベッドから降り、警戒しながら窓に注意を向けた。すると、そこには白マロの姿があった。白マロは窓を開けて、中に入ってきていた。

「猫…?」

ガイは拍子抜けした。てっきり、障坂邸に忍び込んできた泥棒ハンディーキャッパーだと思っていたからだ。それがまさか猫とは。
しかし次の瞬間、ガイはその猫、白マロを見て驚愕した。

「(PSI…この猫から…まさか、この猫がハンディーキャッパー…⁈猫にもいるのか⁈)」

ガイは白マロがハンディーキャッパーである事に気がつき、警戒を強めた。
一方の白マロは自身の失敗に気がつき、後悔している最中だ。

「(しまった…事情を伝える術を考えてなかった…)」

当然、猫は人の言葉を話すことはできない。つまり、白マロにはガイに事情を話して味方にする事ができないのだ。
その時、ガイは白マロの姿を見て、何かを思い出した様だ。

「(この猫、何処かで…)」

それはいつも学校の塀の上にいる猫、そう、山口の猫だ。ガイは山口の猫だと思い出した。

「あ!お前、山口の猫だろ。いつも校門の前にいる。」

ガイは警戒を解いた。

「そういえば言ってたな。俺ん家の猫、ハンディーキャッパーだって…」

ガイは山口から白マロについて聞いていた。いや、聞かされていたのだ。しかし、猫がハンディーキャッパー?何言ってんだコイツ?と、ガイはまともに聞いてはいなかった。

「にゃ~!にゃ~!」

白マロは必死にガイに向かって鳴き続けている。

「(頼む!届け!この想いぃ!!!)」

届く訳がない。そんな白マロの姿を、ガイは困ったような表情で眺めている。

「なんかあったのか?」

白マロはより一層、鳴き声を上げた。

「(大ピンチなんだ!ワガハイを助けろ!)」

しかし、ガイは首を傾げた。

「ちょっと何言ってるかわかんない。」
「にゃ!(サンドウィッチマンか!)」

そんな白マロのツッコミさえ、ガイには届かない。
その時、白マロは背後の窓からPSIを感知した。振り返るとそこには、ヤブ助の姿があった。

「(ヤブ助…⁈何故ココに…⁈)」

白マロは驚いている。

「お友達か?」

一方のガイは完全に警戒を解いてしまっていた。そんなガイに向かってヤブ助は飛びついた。

「うぉあ。人懐っこい猫だな。」

その時、ガイは自身の右肩に乗ったヤブ助からPSIを感知した。

「(PSI…コイツも…?)」

一晩に2匹のハンディーキャットに出会い、驚きを隠せないガイ。しかしこの後、ガイはさらに驚く事となる。

「にゃにゃにゃあッ!!!」

ヤブ助の身に纏うPSIが強くなった次の瞬間、ガイの体は猫になった。もう一度言う。ガイは猫になったのだ。

「にゃ…にゃんじゃこりゃァァァァァァァァア!!!」

ガイはゴージャスな猫に変わっていた。毛色は白と茶色。体毛が長くフサフサで、他の猫よりも一回り体が大きい。ヤブ助や白マロのような雑種と違い、血統書付きの猫といった感じだ。
その時、ヤブ助が白マロに言い放った。

「安心しな。お前が明日、俺たちの仲間になるって言うなら、そいつは人間に戻してやるよ。」

そう。ヤブ助は人質を取りに来たのだ。白マロの、命よりも大事なご主人を。しかし、当然ながら、ガイは白マロのご主人ではない。

「猫が喋ってる…」

空いた口が塞がらない。ガイは猫になった事で、猫の言葉が理解できる様になったのだ。
その時、ヤブ助は窓から逃げ出した。

「「…」」

数分の沈黙の後、ガイは白マロに話しかけた。

「コレ…どうしたら元に戻るの…?」

その時、白マロはニヤリと微笑んだ。

「(好都合!ヤブ助は、この人間がワガハイのご主人だと勘違いしている!それにこれなら、コイツと意思疎通ができる!)」

白マロは上機嫌で、ガイの質問には答えず、ガイに話しかけた。

「頼みがある!」
「え…いや…頼み…?」

ガイは状況が飲み込めずにいた。そんなガイに、白マロは畳み掛ける。

「明日、奴らと勝負をする。協力してくれ。」
「は…?協力…?いやいや、無理だろ。俺、今、猫だし。」
「奇遇だな。ワガハイも猫だ。」
「俺は人間なんだよ!早く元の姿に…」

声を荒げ、狼狽する。しかし、さすがはガイ。白マロの話を聞いているうちに、だんだんとこの状況を理解してきたようだ。

「…勝負ってさっきの奴か?」
「あぁ。あと2匹いるがな。」
「勝負に勝ったら人間に戻れるって事だな。」
「多分な。」

ガイはため息をついた。

「(なんか、中学上がってからやたらと面倒事に巻き込まれてるな、俺。)」

ガイは白マロの頼みを了承した。

「分かったよ。協力してやる。」
「本当か⁈」
「あぁ。でも、事の発端はなんなんだ?」
「ズバリ話してやろう。実はな…」

白マロはガイに事情を伝えた。

「…仲間になってこいよ。」
「なっ⁈」

事情を話した白マロに対して、ガイが言ったその言葉。白マロには理解できなかった。仲間になれば、もう2度とご主人山口に会えなくなる。それなのに何故、ガイはそんな提案をするのか。

「お前が仲間になれば、俺は元に戻れるんだろ。」
「だから、そしたらもうご主人に会えないんだよ!ワガハイは!」
「知るか!俺、完全に巻き込まれただけじゃねーか!責任取れ!」
「頼むよ!ワガハイがヘソクリしてたシラスやるからさぁ!」
「そんなもんいるか!」

ガイは白マロが差し出したシラスを払い除けた。

「もう、お前しかいないんだよ…」

白マロはしょんぼりしている。そんな白マロを見て、ガイは少し後ろめたい気持ちになった。

「(いやいや、俺は悪くないだろ。完全に巻き込まれただけだし…)」

その時、ガイは山口が白マロと楽しそうに話している姿を思い返した。

「…まあ、そのヤブ助って奴が、本当に俺を人間に戻してくれるとは限らないしな。協力はする。」
「マジか⁈」
「ただ、お前が明日、奴らの仲間になる事は決定だ。」
「だから嫌だって!」
「嫌言うな。作戦だ。お前がアイツの仲間になれば、俺は人間に戻れる。人間の姿の方が協力しやすいだろ。俺が人間に戻ったら、お前は奴らを裏切ればいいんだよ。」
「あ、そういう事か。」

白マロは納得した様だ。

「協力、してくれるんだな…?」
「うん。」

すると、白マロは上機嫌で飛び跳ねた。

「ありがとう!お前、いい奴だな!ご主人の次ぐらいに好きだぞ!ワガハイの性奴隷にしてやる!」
「やめろ。」

その時、ベッドの下から声が聞こえてきた。

「聞ぃ~ちゃったぁ~。」

ガイのベットの下からチビマルが現れた。

「ヤブ助は1人で来たなんて、言ってなかったぜ!なぁ、ケンケン!」

机の陰からケンケンが現れた。

「我らを騙そうとするなどとは…見損ないましたぞ!白マロ殿!」
「俺はヤブ助にこの事を伝えてくる。ケンケンはそいつらを足止めしろ!」

チビマルは窓から逃げた。

「待てッ!」

白マロが後を追いかけようとしたその時、ケンケンがPSIを纏い、白マロの前に立ちはだかった。

「『斬鉄爪ゴエモンファング』!!!」

次の瞬間、ケンケンの爪が異様に伸び、白マロに斬りかかった。
しかし、白マロは寸前で回避した。

「うぉあッ⁈」

ガイはそれを見て驚きの声を上げた。何故なら、ケンケンの爪が振り下ろされた床には、深い傷ができていたからだ。その深さは、下の階が見えるほど。

「お前ら!部屋壊すなよ!」

ガイは2匹に注意した。

「拙者の爪は鉄をも切り裂く。いざ、尋常に勝負!」

しかし、ケンケンはガイの注意を無視し、襲いかかってきた。

「来るぞッ!」
「なんで俺ばっかこんな目に…」
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