障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第63障『魔王の名前』

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昼、ポヤウェスト城下町、広場にて…

上半身と下半身に切断されたエナバラ。それでも尚、エナバラは生きていた為、パエーザとナドゥーラはエナバラの上半身を取り押さえていた。
そして、その側には、エッチャの亡骸にしがみつき、涙を流すナツカの姿があった。

「エッチャ……」

ナツカの回想、数ヶ月前のチハーヤ城にて…

エッチャはナツカに近づき、左手で坊主頭を触りながら、右手を差し出した。

「えっちゃ、俺、エッチャ。よろしくな。」

ナツカの回想、デカマーラ城にて…

ナツカとエッチャは剣を構えた。

「いくぞ!エッチャ!」
「ちゃあ!」

ナツカの回想、インキャーン宿屋にて…

「何が…ハンデだ……」

エッチャは涙を拭っているナツカを見た。

「ナツカ。」
「…なんダよ…」

その時、エッチャはナツカに微笑みかけた。

「勝とうぜ。明日。」

現在…

「起きてくれ……エッチャ………」

その時、上半身のみとなったエナバラが叫んだ。

「クソがッ……ァァァァァァァァァァァァア"…!!!この…私がッ……こんな…………ッ!!!」

エナバラは暴れ出した。それをパエーザとナドゥーラは必死に押さえつけている。

「(半身をを切り離されたというのに、なんて力なの…⁈)」
「ナドゥちゃん!!!」

パエーザはナドゥーラに話しかけた。

「コイツを殺そう!生捕りは無理だ!」
「…わかったわ。」

ナドゥーラがタレントを使い、エナバラにトドメを刺そうとしたその時、パエーザ達は背後から強烈なPSIを感じた。

「手を抜くからそうなるんだよ、エナバラ。」

そのPSIはMr.クボタだ。Mr.クボタは、四肢を切り落とされたカメッセッセを抱えて、パエーザ達の背後から約20メートル離れた場所に立っていた。

「敵に合わせ、力を抑えて戦う。キミの悪い癖だ。」

Mr.クボタは笑顔で喋り続ける。

「痛い目みて、わかったかい?ん~⁈」

その時、ナツカはMr.クボタの存在に気がついた。

「ッ…⁈」

そして、ナツカはMr.クボタが抱えていたカメッセッセに気づいた。

「テメェら………」

それを見たナツカは、怒りと悲しみに満ちた表情をした。

「(いつもそうダ…魔物コイツらは、ワシから大切なもんを奪いやがる…)許さねぇ…)」

その時、Mr.クボタはエナバラを指差し、パエーザ達に話しかけた。

「そいつ、返してくれないかな?ん~⁈」

それを聞き、パエーザはエナバラの首にPSIで作った剣を突きつけた。

カメッセッセその男と交換なら、考えてやる。」

次の瞬間、Mr.クボタはカメッセッセを地面に落とし、超スピードで移動して、パエーザとナドゥーラを殴り飛ばした。

「「うぐッ…!!!」」

パエーザは直前で身に纏ったPSIを実体化させて、PSIの鎧を創造し、ダメージを軽減した。
また、ナドゥーラはMr.クボタの腕の耐久力を0にし、ダメージの軽減、そして、Mr.クボタの右腕を破壊した。

しかし、Mr.クボタの攻撃力は凄まじく、2人は重傷を負い、地面に倒れている。

「ほう…」

Mr.クボタはボロボロに崩れ朽ちた自身の右腕を見ていた。

「(さすがは障王の仲間。一筋縄じゃいかないか。)」

そして、Mr.クボタはナツカの方を向いた。

ナツカはいつの間にか立ち上がり、PSIを纏って、Mr.クボタに向けて剣を構えていた。

「アカン…逃げろ…ナツカ…!」

カメッセッセは弱々しく声を上げた。しかし、ナツカには届かない。

「へぇ~。この短時間に成長したね。ん~⁈」

PSIは精神的な影響を受けやすい。ナツカはエッチャの死により、感情が強く刺激された。つまり、エッチャの死により、ナツカのPSIは急激に上昇したのだ。

「仲間の死により成長したって事か。嫌いじゃないよ。でも…」

次の瞬間、Mr.クボタはナツカの何十倍ものPSIを身に纏った。

「僕が、無意味にしちゃうんだけどね!」

Mr.クボタはクラウチングスタートのポーズをとった。

エナバラ僕の仲間が今、ヤバい状態だからね。一瞬で終わらせるよ。」

次の瞬間、Mr.クボタは飛び出した。

「ん~~~~~~!!!!!」

Mr.クボタはナツカに向かって拳を放った。

「やめろぉぉお…!!!」

カメッセッセは叫んだ。しかし、Mr.クボタは止まらない。

「(じゃあね!ナツカ・チハーヤ!)」

Mr.クボタの拳がナツカに直撃しかけたその時、ナツカは叫んだ。

「ベクトル魔法『a=-bリターン』!!!」

Mr.クボタの拳がナツカに触れた次の瞬間、Mr.クボタは飛んできた方向に向けて飛ばされた。

「ん~~~~~~!!!?!?!」

Mr.クボタは上手く地面に着地したが、左拳はグチャグチャに潰れていた。

「『ベクトル魔法』…⁈」

それを見ていた者達は皆、口を開けて驚いていた。もちろん、Mr.クボタも。

「(まさか、発現したのか⁈ダブルタレントが…⁈)」

Mr.クボタの予感は的中していた。ナツカはエッチャの死によって、能力が覚醒したのだ。

「(これは…どうしたものか…)」

今まで笑顔だったMr.クボタに、焦りの色が見える。

「(ナツカ・チハーヤは新たなタレントを発現させた。だからと言って、僕の敵じゃない。しかし、倒すには時間がいる。ナツカ・チハーヤを倒すまで、エナバラの体力が保つかどうか…)」

しばらく考えた後、Mr.クボタはエナバラを抱え上げた。

「やっぱりやめた。今日は帰るよ。不本意だけどね。」

その時、ナツカは叫んだ。

「逃げんのか!!!」

その言葉を聞いたMr.クボタは眉間にシワを寄せた。

「障王はまだいる。キミばっかりに時間は割けない。それに、魔王軍にとっては、エナバラを失ってまでキミを殺す価値は無い。本来の目的である『カメッセッセの抹殺』も遂行できたしね。でも安心してよ…」

Mr.クボタは鬼の形相でナツカを睨んだ。

「また、殺しに来てあげるからさッ…!!!」

次の瞬間、Mr.クボタはエナバラを抱えたまま、瞬間でその場から去った。

「助かった…のか…」

パエーザとナドゥーラは痛みを堪え、立ち上がった。

「カメッセッセ!!!」

ナツカは四肢を切り落とされ、瀕死のカメッセッセに駆け寄った。

「しっかりしろ!今、医者呼んできてやるから…」
「待てぇ…」

カメッセッセはナツカを呼び止めた。

「話すぃたい事がある…」
「喋んじゃねぇ!」
「頼む…ナツカ…聞いてくれ…」
「嫌ダッ!!!」

その時、ナツカは涙を流した。

「もう、嫌なんダ…エッチャが死んで、オメェまで居なくなったら…ワシは…もう…」

ナツカは泣きじゃくった。
そんなナツカに、カメッセッセは優しく語り始めた。

「ケモテ良かった…」
「は……」
「お前と…お前らと出会えて…俺は幸せやった…悔いはない…」

カメッセッセはナツカの目を見た。

「やから頼む…俺の…スーパーイケメン…カメッセッセの…最後の授業や…」

ナツカは涙を拭き、カメッセッセを見た。

「この世界は…魔王が作った世界……ニセモノの世界や…」

それを聞いたナツカやパエーザ達は困惑した。

「ニセモノ…⁈」

カメッセッセは話を続けた。

「この世界の地形も…気候も…魔物も…太陽も…全部、魔王が作ったニセモノ………真の世界から来た魔王と…人以外は…」

ナツカ達は信じられないといった表情をしている。しかし、カメッセッセの最後の言葉。当然、最後まで聞くのが礼儀。問いたい事はたくさんある。しかし、ナツカ達は黙ってカメッセッセの話を聞いていた。

「魔王の名は…リアム……リアム・エルバイド…」
「魔王リアム…!」

初めてわかった魔王の名前。ナツカは思わず、それを口ずさんだ。

「必ず…魔王を倒すぃなすぁい……」

その時、ナツカはカメッセッセの肩に手を置いた。

「おう…!当たりめぇダろが…!」

カメッセッセは目を閉じた。

「ぜってぇ、オメェらの仇取ってやるからな…!」

カメッセッセは息を引き取った。
しかし、ナツカはそんなカメッセッセの遺体に話しかけた。

「ダから、安心しとけや…」

ナツカはカメッセッセの亡骸に向かって話し続けている。

「ナツカ君…」

ナドゥーラはナツカを止めようとした。カメッセッセはもう死んでいる、話しても聞こえていない、と。

しかしその時、パエーザがナドゥーラを止めた。

「パエちゃん…」

パエーザは首を横に振った。

「ッ…」

ナドゥーラは気づいた。ナツカの目から涙が流れ出ている事に。

ナツカは気づいていたのだ。カメッセッセが、もう死んている事に。しかし、話さずにはいられなかった。パエーザはそれに気づいており、ナドゥーラを止めたのだ。

「ワシ…強くなるから…!誰にも負けねぇぐらい…強く……!」

カメッセッセ。元魔障将。死亡。

翌日、夕方、ポヤウェスト城下町、墓場にて…

墓場には、ナツカと僧侶(ポヤウェスト大臣)、そして、意識を取り戻したジャックが話をしていた。

「私の名前はエルド・ロット。そうですか。エッチャ君は私の兄の…」

ナツカ達の前にある2つ墓には、エッチャとカメッセッセの名前が彫られていた。

「でも良いのですか?お2人の遺体を国に持って帰らなくても…」
「あぁ。良いんダ…」

すると、ナツカとジャックは墓場の外へと歩き始めた。

「魔王リアムを倒す。ワシらに取って、それが1番の弔いダからよぉ…!」

その頃、とある国にて…

現代日本のような風景が広がる国。車が走り、辺りには高層ビルが立ち並ぶ。

そして、鉄塔の上に立って風景を眺める者の姿があった。

「また、この国に来るとはな…」

それはガイである。その頭には猫の姿のヤブ助が乗っていた。

「本当にやるのか…?」
「うん。仕事だからな。」
「…そうか…」

ガイは手をかざしている。

「(思い出すなぁ…昔の事…)」

その時、ガイの頭の中に何者かの声が聞こえてきた。

〈感傷に浸ってる場合?〉

それを聞くと、ガイの表情は固くなった。

「ガイ…?」

それを心配したヤブ助はガイに声をかけた。

「ううん。何でもない。」

ガイはかざした手の平を閉じた。

「行こうか。」
「…あぁ…」

2人は鉄塔から飛び降りた。




---第1章・完---
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