障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第61障『確率魔法』

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ポヤウェスト城下町から少し南、砂漠にて…

エッチャとエナバラが『血塗られた調理実習ハイプリエステス』の空間へ転送されたその頃、カメッセッセとMr.クボタは町の外の砂漠へと移動していた。

「まさか君と戦える日が来るとはね。嬉しいよ。ん~⁈」
「ゔっさい。」

カメッセッセは先手でMr.クボタに向けて矢を放った。

「(回避…いや、カメッセッセには『微分魔法』がある。ここは受け止めよう。)」

Mr.クボタは矢を受け止めた。
しかし次の瞬間、受け止めたはずの矢がMr.クボタの頭部に刺さっていたのだ。
Mr.クボタは地面に倒れた。

「(死ぃんだか…?いや、コイツがこんなもんで死ぃぬ訳ぬぁい…)」

その時、Mr.クボタは跳ね起きた。

「ん~‼︎気持ちいい!!!」

Mr.クボタは自身の頭部に刺さった矢を引っこ抜いた。

「マイアンの報告通りだ!トリプルタレントが発現したんだね!ん~⁈」

Mr.クボタの頭部の傷は完全に塞がっていた。また、ほんのわずかMr.クボタの顔が熱っているようにも見える。
その様子を見て、カメッセッセは何かを察した。

「『M付加サービス』…⁈」

そう。Mr.クボタは『M付加サービス』を使っていたのだ。

「ますぁか…オレと同じタレント持ってたんか…!」
「ん~…それは違うね。確かに、タレントが被る事はあるよ。非常に稀だけどね。」

Mr.クボタは話を続けた。

「『模倣コピル』。他人のタレントをコピーする能力。それが僕のタレントさ。」

Mr.クボタは、その『模倣コピル』を使い、カメッセッセのダブルタレント『M付加サービス』をコピーして、自身に使用していたのだ。

「コピー能力と言っても、このタレントはそう有能じゃない。あらかじめ、相手のタレントの詳細を知っておく必要があるし、近くにいる者のタレントしか使えない。つまり、タレントをストックできないんだよ。」

それを聞くと、カメッセッセは疑いの目でMr.クボタを見た。

「なんだい?その目。まさか、僕が言ってる事を疑っているのかい?悪いが全部ホントだよ。フェアじゃないからね。僕だけが、キミのタレントを2つも知っているのは。」

すると、カメッセッセはMr.クボタに尋ねた。

「すぉんじゃ…ダブルタレントもおすぃえてくれんのか…?」
「当然!!!」

次の瞬間、Mr.クボタは自身の体にPSIを集めた。そのPSIの量は、あのカメッセッセですら、数歩たじろぐ程に強大だった。

「喜びにPSIが比例する。それが僕のダブルタレント…ッ!!!」

次の瞬間、Mr.クボタは高速でカメッセッセの背後に回った。

「『殺戮新喜劇ザ・ジェノサイド』!!!」

Mr.クボタはカメッセッセの顔面に拳を放った。

「『M付加サービス』!!!」

カメッセッセは自身の肉体にタレントを付加した。
次の瞬間、Mr.クボタの拳はカメッセッセの頭部を跡形も無く弾け飛ばした。
しかし、カメッセッセ『M付加サービス』の効果により、一瞬で破壊された頭部が再生した。

「ん~!!!良いね良いねッ!!!そうでなくちゃ!!!」

Mr.クボタはカメッセッセに高速で連打した。

「『M付加サービス』はダメージが大きければ大きい程、再生に伴う消費PSIの量も大きくなる!僕がヘバるのが先か、キミのPSIが尽きるのが先か…根比べだッ!!!」

するとその時、Mr.クボタはとある事に気がついた。

「(攻撃が…効いていない…)」

Mr.クボタはこの数秒で100発以上もの拳を繰り出した。しかし、それがカメッセッセの体に当たったのは、ほんの2~3回程度だったのだ。

「(全く当たらない訳じゃない。僕のミスでもない。おそらくコレが、カメッセッセのトリプルタレント。僕に初撃を与えた時のように…一体どういうタレントなんだ…)」

その時、カメッセッセはMr.クボタから飛び退き、何かを呟いて、矢をデタラメに撃ちまくった。

「(今、何か喋ったな…)」

次の瞬間、カメッセッセがデタラメに撃ちまくった矢は、9割方Mr.クボタの体に刺さった。

「ふぐッ…!!!」

Mr.クボタは矢が当たらないものとばかり思っていた為、『M付加サービス』をコピー・使用し損ねていた。
全身に矢を浴び、血だらけのMr.クボタ。しかし、Mr.クボタは笑っていた。

「キミのタレント、大体見当がついたよ…!」

Mr.クボタの笑みの奥から殺意を感じたカメッセッセは、さらに攻撃を繰り出す為、矢を取り出そうとした。

「ゔぁッ⁈」

しかし、矢は全て使い切ってしまっていた。その動揺はMr.クボタにも即座に伝わった。

「矢が無くなったみたいだね。剣士は剣を失えば無能。アーチャーは矢を失えば死。けど、武闘家は違う。その身一つで戦う武闘家は、己の肉体が朽ち果てるまで、有能な戦士として戦場で闘いを続けられる。」

Mr.クボタは地面に落ちていた小石を拾った。

「そういう事があるから、僕は素手で闘うんだ。」

次の瞬間、Mr.クボタは目を閉じ、小さく何かを呟いた後、小石を超スピードで飛ばした。

「ゔがッ…!!!」

なんと、その小石はカメッセッセの右目に直撃し、失明させた。

「キミは命中率を操っていたんだ。僕がコピーできたって事はそうなんだろ。ん~⁈」

説明しよう!
カメッセッセのトリプルタレントは『確率魔法』。確率を操作する能力である。カメッセッセはこのタレントを使い、敵の攻撃の命中率を下げ、自身の攻撃の命中率を上げていたのだ。しかし、このタレントでは確率を0または1にする事ができない。その為、全ての攻撃を回避、または、命中する事はできないのだ。Mr.クボタの拳が2~3発当たったのもその為である。
Mr.クボタはこの事に気がつき、『確率魔法』をコピーした。目を閉じた上で、小石をカメッセッセの目に直撃させる事ができたのはその為だ。
タイプ:操作型

「キミの『確率魔法』って言ったのが聞こえてね。その言葉の意味とキミとの戦いを通してわかったよ。こうするんだよね…確率魔法『P(x)≒1ポッシブル』!!!」

次の瞬間、Mr.クボタは確率を変動させ、カメッセッセに飛びかかった。

「確率魔法『P(x)≒0インポッシブル』!!!」

カメッセッセはさらに確率を変動させた。

「へぇ~!下げる時はそう言うのかぁ~!」

Mr.クボタはカメッセッセに向けて拳を放った。

「上げた確率に、下げる確率…果たしてキミのそのタレントは後出しジャンケンか…それとも…ッ!!!」

Mr.クボタの拳はカメッセッセの腹を貫いた。

「グハッ…!!!」
「相殺…だったね。ん~!!!」

しかし、カメッセッセは『M付加サービス』を使用しており、その傷はすぐさま塞がった。

「治ったね!その調子でどんどん治しなよ!」

Mr.クボタは変動された確率を相殺し、カメッセッセの体を破壊していく。
一方のカメッセッセは『M付加サービス』で体を再生する。

「キミのPSIが尽きるまで、ね!ん~!!!」

カメッセッセは強い。イワモミとの戦いで見たように、武器が無くとも敵を葬れる力がある。しかし、そんなカメッセッセでも、Mr.クボタの前では羽虫も同然。手も足も出ない。反撃や逃走を試みるも、通用しない。カメッセッセが今できるのは、Mr.クボタにやられた傷を再生する事だけ。
しかし、それも長くは続かない。タレントの使い過ぎにより、数分後、カメッセッセのPSIは尽きた。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

カメッセッセは両手両足をちぎられた状態で地面に倒れている。

「もうPSIが無くなったみたいだね。再生が追いついてないよ。」

Mr.クボタは地面に倒れたカメッセッセを見ている。

「哀れだね。敗者はいつだって哀れだ。僕の右腕になっていれば、こんな事にはならなかったのに。」

Mr.クボタはカメッセッセにトドメを刺そうとした。

「あの世で後悔するといい。」

その時、カメッセッセが口を開いた。

「後悔はすぃてへん…」

Mr.クボタはカメッセッセの顔を見た。その顔は、カメッセッセの言う通り、満足げな表情をしていた。

「気に食わないな、その表情。勝負は僕の勝ちなのに…そうだ!」

すると、Mr.クボタはカメッセッセを持ち上げた。

「ゔぁ…⁈」
「じゃあ、後悔してから死んでもらおう。」

身動きの取れないカメッセッセを片脇に、城下町の方へと歩き始めた。

「僕らはね、本当は今日、キミを倒したら帰ろうと思ってたんだよ。その為に、1対1を提案したんだ。けど、それはやめたよ。ナツカ・チハーヤを殺す事にした。キミの目の前で。」
「な、なんやと…⁈」

カメッセッセの表情を目に、Mr.クボタは嬉しそうに笑いだした。

「大丈夫。キミもすぐに送ってあげるから。ん~⁈」
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