障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第57障『THE END…』

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ポヤウェスト王国解放の翌日、ユート王子捜索組は出発した。捜索組のメンバーはハルカ、そして、カメッセッセの代わりに、比較的ダメージの少なかった雷尿が選ばれた。

「それじゃあ、ドピュっと行ってくるよ。みんな、絶対、生きてまた会おうな。」
「行ってきまぁ~す…」

ポヤウェスト王国解放から3日後、ポヤウェスト城下町、寺にて…

ナツカとエッチャは座禅をしていた。

「…なんでワシら座禅してんダ?」
「えっちゃ、わからん…」

その時、1人の僧侶がナツカとエッチャの肩を警策で叩いた。

「痛っちゃ!何すんねん!」
「ワシら骨バッキバキなんダぞ!」

次の瞬間、僧侶は怒鳴り声をあげた。

「君たち座禅に来たんだろ!黙れ!!!殺すぞ!!!」

僧侶のその発言に対して、ナツカはツッコんだ。
「はいはい。口の悪ぃ僧侶だなぁ。」

ナツカは僧侶に殺された。
THE END...

「えっちゃ、そんな訳…」

エッチャは僧侶に殺された。
THE END...

「もうええわ!!!どうもありがとうございましたー!!!」

僧侶は寺から出ていった。

「なんダったんダ、アイツ…?」

そこへ、僧侶が服を着替えて戻ってきた。

「あ、戻ってきた。」

僧侶は話を始めた。

「どうも。私はこのポヤウェスト王国の大臣です。」
「は?どういう事ダ?」
「ココは私の実家。私の家は代々座禅体験教室の講師だったのです。それで、今日はポヤウェストの救世主であるアナタ方に、無料で、座禅体験を提供いたした次第です。」
「えっちゃ、ありがた迷惑やわ。」
「少し、昔話をしても良いですか?」
「すんな。帰らせろ。」
「私には歳の離れた兄がいました。」

ナツカが立ち上がろうとしたが、僧侶は何の躊躇いもなく話し始めた。

「えっちゃ、コイツ耳付いてへんのちゃう?」
「兄は優秀で大勢の人々から慕われていました。先代のポヤウェスト国王も、兄が大臣になる事を強く推していました。しかし、兄は大臣にはなりませんでした。」

自分の世界に入ってしまった僧侶は話を続ける。

「兄は旅に出て、貧しい者達に無償で教えを説き始めました。しかし、時が経つにつれ、兄も老いてしまった。旅が出来ないほどに。そこで兄は、ある国に孤児院を立て、腰を据える事に決めたそうです。」

僧侶はナツカを指さした。

「その国の名前はチハーヤ。ナツカ・チハーヤ殿。貴方の国です。」
「ほーう。」

ナツカは興味が無いと言わんばかりに、適当な相槌を打っている。一方、エッチャの表情は驚きに満ちていた。

「(孤児院…って事は、コイツ…)」

エッチャには何か思い当たることがあるようだ。

「兄と最後に直接会ったのはもう何十年も昔の事ですが、手紙ではやり取りを続けていました。しかし、数年前から手紙が途絶えてしまって…」
「…」

エッチャは真剣な表情で聞き入っている。

「魔物の影響で手紙の送信に支障が出ているのか、はたまた、兄の身に何かあったのか…」

僧侶はナツカに目線を合わせた。

「兄に関して、何かご存知であれば教えていただけないでしょうか?」

ナツカは困った顔をした。

「ワシ、生まれた場所はチハーヤでも育ったのはカイムの村ダから。わかんねぇや。」
「そうですか。この役立たずが。もっと真剣に思い出せや。殺すぞ!!!」

温厚に話していた僧侶は急にブチギレた。

「はいはい、すまねぇ。」

その時、エッチャが僧侶に声を上げた。

「えっちゃ、あのさ…その兄貴の名前って……もしかして……」

次の瞬間、外から人間の断末魔のような声が聞こえてきた。

「な、何でしょうか…」
「行ってみよう!」
「お、おう…」

ナツカとエッチャは外へ出た。

ポヤウェスト城下町、広場にて…

広場には人間の死体がいくつも転がっていた。
その中央には、魔障王のMr.クボタとコックエナバラ。そして、そんな彼らの正面にはカメッセッセが立っていた。

「久しぶり。裏切り者のカメッセッセ君。ん~⁈」
「…」

カメッセッセは冷や汗をかいている。
そこへ、ナツカとエッチャがやってきた。

「えっちゃ、魔物…⁈」

エッチャは辺りの死体とMr.クボタ達を見て、驚嘆している。

「来んの速すぎんダろ…」

ナツカの言う通りだ。本来、空魔隊からの定期連絡が途絶え、調査が来るのは最低でも1週間はかかるはず。あまりに早すぎる。
しかし、Mr.クボタ達は空魔隊の調査に来たのではない。アグニからの情報を元に、ナツカ達を殺す為、ポヤウェストへとやってきたのだ。

「ポヤウェストを解放したんだね!さすがカメッセッセ!ん~⁈」

その時、Mr.クボタとナツカの視線が合った。

「初めまして。ナツカ・チハーヤ。僕は魔障王Mr.クボタ。お察しの通り、キミ達を殺しに来た。」

エッチャはMr.クボタの貫禄と殺気に恐怖し、たじろいた。直接話しかけられたナツカはもっとだ。
そこへ、パエーザとナドゥーラが駆けつけてきた。

「どうした!何の騒ぎだ!」

それを見たMr.クボタは少し笑顔になった。

「人間の友達が多くて楽しそうじゃないか、カメッセッセ。ん~⁈」

カメッセッセは冷や汗をかいたまま、何も喋らない。いや、恐怖で何も喋れないのだ。

「でも、ちょっとゴチャゴチャしてきたね。」

すると、Mr.クボタは人差し指を立てた。

「提案なんだけど、カメッセッセ。僕とタイマンしないかい?ん~⁈」
「タイマン…やと…」
「そう!僕、団体戦とかあんまり好きじゃなくてね。それに、1度キミと1対1で戦ってみたかったんだ!残りはエナバラと戦うって事で良いね?ん~⁈」

すると、コックエナバラは答えた。

「私は全然構わへんで~ぇえ~⤴︎」

コックエナバラの独特な上がり口調の喋り方は、Mr.クボタの存在感に続き、その場にいる者へ恐怖を与えた。

「うん!ありがとう!」

その時、Mr.クボタはポヤウェスト城下町の入り口の方へと歩き始めた。

「町の外でろう。僕らにココは狭過ぎる。」
「…えーでー…」

カメッセッセはMr.クボタの後についていった。
その姿をナツカとエッチャは心配そうに見ていた。

「えっちゃ、アイツ大丈夫かな…」
「…大丈夫ダろ。強さだけは本物ダ。頭おかしいけど。」

その時、コックエナバラは着ていたエプロンの裏から包丁を2本取り出した。

「今日の食材は人間4人~…美味しく調理してやんよ~ぉお~⤴︎」

それを聞き、ナツカ達はPSIを纏い、構えた。

「他人の心配する暇は無いぞ。ナツカ・チハーヤ。」
「パエちゃんの言う通りよ。あの魔物のPSI…並じゃないわ。」
「わかってるわい。」

その時、エッチャは自身の手が震えている事に気がついた。

「(手が震える…武者震い…恐怖…いや、そんなもんじゃない…コレはもっと深い…何か…)」

エッチャは力強く、シャムシールを握った。

「えっちゃ、この戦い…いつもと違う…」
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