障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第53障『ビルドビルドビルドビルドビルドォォォォォオ!!!!!』

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夜、ポヤウェスト城、B2、地下牢獄にて…

階段から1番手前の部屋の中央にて、ボノボンはハルカを人質に取っていた。また、部屋の入り口には半裸の雷尿がデカマーラの槍を構えている。
ボノボンはニヤリと笑っている。

「とりあえず、しばらくそこに立っててもらおうかしら。何もしないで、じーっとそこに。蚊が止まるようにね。」
「ッ……」

雷尿にはなす術がない。
そんな雷尿に向かって蚊は飛んでくる。

「さぁ!ウチの蚊トラップに貫かれて死に……」

その時、ボノボンの首に蚊が止まった。

「えっ……」

蚊はボノボンの血を吸った。次の瞬間、蚊が吸った血液が弾丸のように放たれ、ボノボンの首を貫いた。

「カハッ!!!」

ボノボンはその衝撃で少し後ろに飛ばされた。

「(なんで…⁈)」

倒れゆく刹那、ボノボンはハルカの手元を見た。ハルカの手には少し開いたポーチが握られていた。そして、そのポーチの中からは蚊が出てきている。

「(コイツ、蚊を集めていやがった…!)」

ハルカは蚊をポーチの中へ数匹ほど捕まえていたのだ。そして、それを今、ボノボンに向けて蚊を放った。ボノボンの蚊取り線香が効かなかったのは、至近距離だったから。蚊取り線香の匂いが部屋に充満する前だったからだ。

「(感知型のタレント…それなら、この暗闇で正確に蚊を集める事も可能…!迂闊だったわ…)」

するとその時、雷尿がボノボンに向けて拳を放った。

「『勃起ビルド』!!!」

雷尿は右腕を巨大・硬質化させ、ボノボンを殴った。

「いッ…!!!」

しかし次の瞬間、雷尿の拳に鋭い痛みが走った。
なんと、ボノボンの体毛が針のように変化して、雷尿の拳を貫いていたのだ。

「(コイツ…自分にタレントを…⁈)」

雷尿の考察通り、ボノボンは『即キレ殺人装置ビックリ・キル』で自身をトラップを付加したのだ。そうする事で、雷尿の攻撃に反応し、カウンターを喰らわす事ができたのだ。

「どうかしら!ウチのタレントは最きょ…」

しかし次の瞬間、雷尿は拳の勢いを止めずに、ボノボンの体毛針に刺されたまま、ボノボンを壁まで殴り飛ばした。

「なん…で……⁈」

ボノボンは壁寄りかかり、起き上がった。

「こんな針如き…痛いだけで、俺を止めれるとでも思ったのか…?」

雷尿は両腕を巨大・硬質化させた。

「ドピュっとなめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

雷尿は巨大・硬質化させた腕でボノボンを何度も何度も殴った。

「ビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドビルドォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!!!」

ボノボンは壁にめり込んだ。

「ァ……ガ………グェ………………」

ボノボンは死んだ。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

雷尿は呼吸を整え、ハルカの元へ近づいた。

「ドピュっと大丈夫かハルカ!」

雷尿がハルカに触れようとしたその時、ハルカは弱々しく叫んだ。

「アカン…!まだ…PSIが……持続してる……!!!」
「えっ…?」

雷尿はハルカの体を起こした。

「俺に触るな!!!」

ハルカがその言葉を雷尿に放った直後、なんと、ハルカの爪が弾丸のように雷尿の顔面向けて放たれた。

「(PSIの持続…そうか…!ボノボンアイツ、ハルカにもタレントを…!)」

ボノボンは万が一の為、ハルカの体にもトラップを付加していたのだ。そして今、雷尿がハルカの体に触れた事により、タレントが発動した。
大抵、タレントは使用者のPSI供給が無ければ自然に消滅する。よって、ボノボンが蚊に付加したタレントも、ボノボンの死後、PSI供給源を絶たれ、消滅していた。しかし、ボノボンはハルカの体に必要以上にPSIを与えてタレントを付加していた。つまり、ハルカの体に付けられたボノボンのPSI、それが全て消えるまでにはまだ時間が必要だったのだ。
そして、そうとも知らず雷尿は、ハルカの体に触れてしまった。

「(まずい…避けられない…!)」

雷尿は『勃起ビルド』で顔面を超硬質化させようとした。しかし、『勃起ビルド』の発動条件は性的興奮。咄嗟の出来事で焦りが生じた今の雷尿には、タレントを発動できない。

「(ドピュっと…死ぬ…ッ!!!)」

ポヤウェスト城、3F、玉座の間にて…

ナツカ,エッチャ,ジャックは魔障将タクシスのいる玉座の間まで辿り着いた。

「オメェがココのボスか。」

タクシスは余裕そうに玉座に座っている。

「ならばどうする?」

ナツカ達は武器を構えた。

「ぶっ殺す!!!」

タクシスは玉座から立ち上がった。

意意いいだろう。相手をしてやる。ただし、私の部下に勝てたらな。」

次の瞬間、玉座の間の天井が崩れ落ちた。

「んなんでい⁈」

すると、崩れ落ちた天井から体長5メートル程の巨大なサソリが現れた。

前達の実力、とくと見せてみろ。」

サソリの魔物はその巨大なハサミでナツカ達に襲いかかった。
ナツカ達はそれを回避している。

「くそ!ボス戦手前で体力消耗するじゃねぇかよ!」

愚痴を言うナツカに、エッチャは呼びかけた。

「えっちゃ、ナツカ。ジャック。ココは俺に任せろ。」
「は?」

すると、エッチャは肉体にPSIを纏い、巨大なサソリの魔物に1人で立ち向かっていった。

「貴様、死ぬ気か⁈アハァ⁈」
「ジャックの言う通りダ!戻れエッチャ!みんなでやるべきダ!」

しかし、エッチャは止まらない。

「話し聞けやボケぇ…行くぞ、ジャック。」
「おう。」

ナツカ達がエッチャに続こうとしたその時、エッチャは叫んだ。

「来んな!!!」

ナツカ達はエッチャのその叫びにより、足を止めた。

「エッチャ…?」

エッチャは振り返った。

「なんか俺…いける気ぃすんねん…」

その時、サソリの魔物はエッチャに向けて巨大なハサミを放った。
しかし、エッチャはそれを高く飛んで回避し、一階の部屋で手に入れた片刃の曲刀、シャムシールでサソリ魔物の関節を狙い、右腕を切断した。

「えっちゃ、良い剣やんけ。」

エッチャはその魔物の体上に着地・走行し、尻尾と左腕、全ての足を切断した。

「ほぉう…」

タクシスは腕を組み、エッチャの動きを観察していた。

「『球丸マルク』!!!」

エッチャは天井の一部を巨大な球体にして、サソリ魔物の頭部に落下させた。
すると、サソリ魔物は断末魔をあげて死亡した。

「すげぇ……」

ナツカ達はエッチャのその身のこなしに見入っていた。

「なるほど。下級モンスター程度では歯が立たな訳か。その強さ、そらく、大魔障レベル…」

その時、今まで余裕ぶっていたタクシスがPSIを身に纏った。

「私が相手しよう。用意は意意いいか?返事は『御意ぎょい』でします。」
「は?」

ナツカ達は困惑した。

「オメェ何言っちゃってくれちゃって…」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァうッッッッッッ!!!!!!!!」

タクシスは取り乱した。しかし、すぐさま落ち着いた。

「……返事は『御意ぎょい』でします。」
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