障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第48障『守りたいもの』

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インキャーン近海、船の上にて…

海に投げ出されたナツカ達は、ニキとヤスの元仲間であるバッカス海賊団の船に救助されている。

「ぐぁぁあ…死ぬかと思った…」

ナツカ達は次々と海から引き上げられていく。

「大丈夫ですか…?」

1人の下っ端海賊がナツカに話しかけた。

「見てわかんねぇのか大丈夫な訳ねぇダろ大砲バンバン撃ちやがってコノヤロぉ…」
「す、すみません…てっきり魔物だけかと思って…」

その時、海から引き上げられたニキに、大柄の男が話しかけた。

「元気そうでなによりだぜ、ニキ。」
「あぁ。お前もな、バッカス。」

ニキは辺りを見渡した。

「デカくなったな。船も規模も。」
「そりゃなぁ。デッカい背負ってるからよぉ。」

ニキは首を傾げた。

「スポンサー?」

そこへ、目を覚ましたヤスが走ってきた。

「アニキ!」
「おう、ヤス。起きたか。」

その時、ヤスはバッカスに気づいた。

「ぼ、ボス…⁈」
「よう。」

ヤスはバッカスに頭を下げた。

「どうして、こんな所に…⁈」
「居て当然だろ。俺たちは自由を謳歌する海賊団だからな!」

堂々と答えるバッカス。しかし、ニキはそんなバッカスに対して違和感を覚えた。

「隠さずに話せ。スポンサーの件もな。」

バッカスは少し悩み、黙り込んだ。

「……やっぱし、お前に隠し事は通用しねぇか。実はな…」

一方、ナツカとエッチャは海賊達に文句を言っていた。

「寒い寒い寒い!!!寒いんダよバカヤロぉ!!!」
「えっちゃ、何してんねん!早よ毛布持ってこいや!」

その時、ジャック,ハルカ,カメッセッセは船の上で焚き火を始めた。

「おいぃ!!!何してんだアンタら!!!」

すぐに海賊達は火の気に気づき、集まってきた。

「寒いから焚き火してま~す!!!ア~ハ~ハ~ハ~ハ~!!!」
「暖かい……♡」

3人は暖をとっている。

「オメェらだけ暖まってんじゃねぇぞ!」
「えっちゃ、俺らも混ぜろ!」

そこへ、ナツカとエッチャもやってきた。

「暖けぇ~…」

ナツカ達は皆、ホッコリしている。

「ホッコリするなぁぁ!!!」
「頼むから早く火を消してくれ!船に引火する!」

引火した。

「あーあ。言わんこっさない。」
カメッセッセお前が言うな!」

海賊達は消火活動を始めた。
バッカスとニキはその様子を見ている。

「面白ぇ連中だな。」
「あぁ…」

ニキは寂しそうにナツカ達を見つめていた。

「アニキ…」

ヤスはそんなニキに声をかけた。

「アッシは何があっても!一生アニキについていくでヤンス!」
「ヤス…」

その時、誰かがニキ達に話しかけた。

「あ、あの~…ちょっと…」

雷尿だ。雷尿は何やらモジモジしている。

「どうしたんですかい?雷尿のだんな。」
「そ、その…ヌきに行きたいんだけど…何処でヌけば良いかな…?」

ニキ達は沈黙した。そりゃそうだ。唐突すぎる。

「へ…へへっ…へへっ…」

しかし、なぜ雷尿はこんな質問をしたのか。我慢できなかったのか。理由は一つ。雷尿はイワモミから貰ったブロマイドカードオカズを早く使いたかったから。例えるなら、待ち望んでいたゲームを購入した後の帰り道のように。

「面白ぇ連中だな…」
「あぁ…」

その夜、とある船室にて…

ナツカ達は皆、就寝している。

「ちゃッ⁈」

エッチャは急激な尿意により、目を覚ました。

「えっちゃ、漏れそう…」

エッチャは膀胱が赤ちゃんなのだ。
もう一度言う。エッチャは膀胱が赤ちゃんなのだ!

船の上にて…

エッチャは船上に出て、自身の尿を大海原に放った。

「えっちゃ、気持ちぃぃぃい!!!」

大自然への排尿。エッチャは未だかつて感じた事のない快感を覚えた。

「ふぅ…寝よ。」

排尿を終えたエッチャは、部屋に戻ろうとした。

「……ん?」

その時、エッチャは船首に誰かが居ることに気がついた。

「ニキ…?」

そこに居たのはニキだった。
ニキは船首の縁に座り、たそがれていた。

「エッチャのだんな…?」

ニキはエッチャに気づいた。

「えっちゃ、何してんねん?こんな所で。」
「…ちょっと、眠れなかったんで…」

エッチャはあくびをした。

「ちぁ~あ~あ~…明日、早朝にはポヤウェスト着くねやろ。早よ寝ろよ。」

エッチャが部屋に戻ろうとしたその時、ニキが呼び止めた。

「エッチャのだんな…」
「えっちゃ、何や?」
「…エッチャのだんなには、守りたいものってありますかい?」

エッチャはポカンとしている。

「えっちゃ、急に何やねん。中二病はジャックだけにしとけよな。」

ニキは真面目な顔をしている。

「…」

そんなニキの顔を見て、エッチャは話を聞く態勢をとった。

「えっちゃ、なんかあったんか?」

エッチャはニキの隣に座った。

「フリージア王国。それがアッシの故郷。1年中、雪が降ってるクソ寒ぃ所でさぁ。」

ニキは話を続けた。

「そんな所だから、ろくに作物も育たない。動物だってそう多くねぇ。フリージアの人間の生活は、ほぼ他国との貿易だけで成り立ってるんでさぁ。」

エッチャは真剣に話を聞いている。

「唯一の資源は海産物。それこそが、フリージアの貿易材料。」

エッチャは船を見渡した。

「えっちゃ、もしかしてこの船…」
「察しの通りですぜ。昔の名残で『海賊団』なんて名乗ってはいるが、今はフリージア王国に属する海兵隊、兼、漁業隊。」

昼間、バッカスがニキ言っていたスポンサーとは、フリージア王国の事であったのだ。

「今日、バッカス達がココに来たのだって、漁の為だそうだ。」

その時、エッチャは疑問を感じた。

「えっちゃ、フリージアって海産物取れんねやろ?こんな温暖な所まで来て漁する必要ある?」
「魔王が復活したせいでさぁ。そのせいで、魔物の数が激増し、海の生き物が食い尽くされてる。」
「(魔王の復活、そんな所にまで影響しててんな…)」

エッチャは海を眺めている。

「アッシの故郷の連中が今、飢えで苦しんでるらしい…」

ニキは立ち上がった。

「アッシは故郷を守りたいんでさぁ。」
「ニキ…」

ニキは強く拳を握っている。

「魔王を倒さない限り、根本的に問題は解決しねぇ…それはよくわかってる…でも…!このまま、故郷が滅びゆく様を見てるだけなんて…俺にはできねぇ…!」

ニキはエッチャの目を見た。

「俺はバッカス海賊団に戻る。この旅で得たタレント…きっと、アイツらの役に立てるはずだ…」

次の瞬間、ニキはエッチャに頭を下げた。

「だから、だんな方とはココでお別れでさぁ…自分勝手で…本当にすいやせん…」

その時、エッチャは呟いた。

「…辛い時こそ、一歩踏みとどまれる人間になれ…」
「…?」

ニキは顔を上げ、首を傾げた。

「俺の先生の教えや。」

エッチャも腰を上げ、立ち上がった。

「俺にも、守りたいもんがあって、ナツカ達と旅してる。」

エッチャは微笑んだ。

「えっちゃ、良いやんけ別に。自分で決めてんから。」
「エッチャのだんな…」

すると、エッチャはニキに向けて、右手でグッジョブサインをした。

「その代わり、頑張れよ!」
「はいッ…!!!」
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