障王

泉出康一

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第1章『チハーヤ編〜ポヤウェスト編』

第38障『信じる者』

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インキャーン王国、闘技場、通路にて…

ニシキサマの腕の中には、自身の頭部が、エッチャの背後には、瀕死のオナブと気絶しているジャックが地面に倒れている。
両者が睨み合っていると先にニシキサマが動いた。
自身の首から垂れる脊髄をまるで鞭のようにエッチャに放った。

「ッ!!!」

しかし、エッチャはそれを回避した。

「イッイッイッイッイッ!コロスコロス!」

ニシキサマは目にも留まらぬ速さで脊髄の鞭を放った。だが、エッチャの身体能力がそれを上回っていた。
エッチャは乱れ放たれるニシキサマの猛攻を回避し、ニシキサマに近づいていく。
その途中で、エッチャはマツイのナイフを拾った。

「(あのグロい攻撃さえ防げれば、お前なんか怖ないわ!)」

エッチャはニシキサマの首を切断しようとしていた。しかしその場合、ニシキサマは『肉蠢カラケラ』を発動するであろう。そうすれば、ニシキサマはノーダメージだ。だが、エッチャには考えがあった。

「(首さえ取れれば、『球丸マルク』で包んで運び出せる。やったら後は、水に沈めて窒息させるだけや。)」

エッチャは攻撃を回避し続け、ニシキサマの近くまで攻め込めた。

「(あと気ぃつけなアカンのは、あのめっちゃ速いビンタ…)」

その時、エッチャはとある事に気がついた。

「えっちゃ……(左手は…⁈)」

そう。ニシキサマの左手が無くなっていたのだ。
その時、ニシキサマはニヤリと笑った。

「『滅音秒速スナッチビンタ』!!!」

次の瞬間、エッチャの側頭部に、切断されたニシキサマの左手が直撃した。

「(切り離してたんか…!)」

直撃した左手に気を取られていると、エッチャの顔面にニシキサマの脊髄が直撃した。

「がはッ!!!」

エッチャは大きく背後に飛ばされた。
飛ばされたエッチャは受け身を取り、すぐさま立ち上がって構えた。

「(何やねん、コイツ…頭良いやんけ…)」

ニシキサマの左手は独りでに動き、ニシキサマの元へと帰っていった。そして、その左手はニシキサマの左腕にくっついた。
その時、エッチャは危機感を覚えた。

「(ヤバい…)」

エッチャの顔は大きく抉れている。当然、流れ出る血の量も半端では無い。

「(頭クラクラしてきた…これ以上はホンマやばい…)」

エッチャはニシキサマを見た。

「(でも何や…さっきっから感じてるこの違和感…なんかコイツ、最初と明らかに…ちゃう気が……)」

その時、ニシキサマは自身の頭を持って、のそのそとエッチャに近づいてきた。

「ッ……」

エッチャの背後にはジャックとオナブが居る。このままでは、ニシキサマの脊髄の鞭攻撃に巻き込まれてしまう。
エッチャはニシキサマに立ち向かうしかなかった。
しかし、ニシキサマは左手と脊髄鞭のコンボで、エッチャに確実にダメージを与えていく。とても、エッチャに攻め入る隙などない。
その時、ニシキサマの脊髄鞭攻撃により、エッチャの右太もも付近のズボンが破けた。

「(ヤバい…ッ!)」

次の瞬間、ニシキサマの左手がそこに当たった。

「『肉蠢カラケラ』!!!」

すると、エッチャの右太ももの肉が削がれた。

「ぐあッ…!!!」

エッチャは起立能力を失い、地面に片膝をついた。
次の瞬間、コレを勝機と見たニシキサマは、エッチャの頭を脊髄鞭で思いっきり叩きつけた。

「ふぐッ…!!!」

エッチャはうつ伏せで地面に倒れた。

「イッイッイッイッイッ!死ンダ死ンダ?」

岩が砕ける程の強烈な一撃を喰らったエッチャ。しかし、エッチャは壁にもたれながら立ち上がった。

「…シブトイ奴ダ…」

ニシキサマの攻撃力は、レイパーTや他の魔物達と比べても、決して高くは無い。いや、むしろ低い方だ。PSIを纏えば、致命傷にはならないだろう。しかし、先程の一撃はエッチャにとって致命的だ。エッチャが立っていられる理由、それはエッチャの強靭的な精神力、そして、希望。
エッチャは見つけたのだ。この絶望的な状態で、希望を。ニシキサマの弱点を。

「(小さなってる…)」

エッチャの感じていた違和感。それはニシキサマの身長。3m30cmあったニシキサマの身長が、3m程まで縮んでいたのだ。

説明しよう!
ニシキサマのダブルタレント『肉蠢カラケラ』は、細胞を操る能力。このタレントを使い、ニシキサマは自身の体をバラバラにして操作していたのだ。また、他者の体に直接触れれば、その他者の細胞をも操る事ができる。それを利用して、オナブやエッチャの体の肉を剥ぎ取っていたのだ。
しかし、この強力なタレントにも弱点がある。先ず一つに、分裂させた自身の肉にはPSIを纏う必要がある。つまり、相当なPSIを消費する事。そしてもう一つ、PSIを失った肉片は、もう操れないという点。
ニシキサマは他者の細胞を操る際、分裂させた自身の肉片に纏われたPSIを使っている。それはつまり、肉片の操作分のPSIを代償に、剥ぎ取りを発動するという事。剥ぎ取りでPSIを失った肉片は、ただの肉片となり回収は不可。直接、ニシキサマ自身が拾いに行かなければならない。それこそ、ニシキサマの身長が縮んだ所以であり、弱点である。
タイプ:操作型

「(あのグロい攻撃は脅威じゃない…勝機や…!)」

次の瞬間、エッチャは服を脱ぎ始めた。
上半身は裸になり、手に巻かれたジャックのコートも取り去った。しかし、顔に覆われた服だけはそのままだ。

「イッイッイッイッイッ!オマエ、バカ。バカ!!!」

ニシキサマは上半身の肉をバラバラにして操作し、エッチャに襲わせた。

「(この作戦、成功したら…俺、もう一緒に旅できへんな…ナツカ…)」

エッチャは叫んだ。

「えっちゃ、来いやァァァァア!!!」

ニシキサマの肉片はエッチャの体に触れ、エッチャの肉を削ぎ落としていく。しかし、エッチャは致命傷になるような箇所だけは右腕で払い除けている。

「イッイッイッイッイッ!死ネ!死ネ!!!」

数十秒後、ニシキサマが操っていた全ての肉片は、エッチャの肉を削ぎ落とし、操作分のPSIを失い、地面に落下した。
その時、ニシキサマは残った肉体と首をつなげて、完全な体を形成した。しかし、肉が足りず、身長は2mを下回った。

「イッイッイッイッイッ!死ンダ。コロシタ!!!」

エッチャは見るも無惨な姿で地面に倒れている。だが、まだ微かに息はあるようだ。
エッチャの作戦、それはニシキサマの肉とPSIを減らし、弱体化させる事。それ故、服を脱いだのだ。そして、それは成功した。
しかし、何故ココまでしたのか。

「後は…頼んだぞ…ッ!」

全ては、仲間に託す為。

「ジャックぅぅぅぅう!!!」

次の瞬間、ジャックは起き上がった。

「ッ⁈」

ニシキサマは動揺した。ジャックは目を覚ましていたのだ。

「『肉蠢カラケラ』!!!」

ニシキサマは即座に両手を外した。

「『滅音秒速スナッチビンタ』!!!」
「『感嘆の波動劇ラムダーハンド』!!!」

ニシキサマが切り離した両手をジャックに放ったと同時に、ジャックは両手を叩いて衝撃波を創造した。

「アァァァァ~~~~~~~~~ハ~~~~~~ァァァァア!!!!!」

ニシキサマの両手はジャックの喉と額に直撃し、肉を削いだ。

「かはッ…!!!」

喉の肉を削がれたジャックは、呼吸すらままならない。しかし、それでも尚、ジャックは『感嘆の波動劇ラムダーハンド』をやめなかった。

「(エッチャ…お前の覚悟、無駄にはしないぞッ…!!!)」

ニシキサマは通路の壁までに飛ばされた。

「イギ~ッ!!!」

ニシキサマは壁にめり込んでいる。
ジャックは『感嘆の波動劇ラムダーハンド』を続けたまま、ニシキサマに近づいていく。

「ッ!!!!!」

ジャックは衝撃波を強めた。

「ハググァアガガア!!!?!?!」

肉体的・PSI的に弱体化したニシキサマには、ジャックの衝撃波から逃れられない。

「(潰サレルッ…死ヌッ!コロサレルッ!!!)」

しかし、ニシキサマにはどうする事もできない。

「(コレで終わりだァァァァア!!!)」 

ジャックは衝撃波をさらに強めた。
すると、ニシキサマの体は衝撃波と壁に潰され、ペシャンコになった。

「イ……ギ………グェ………………」

ニシキサマは死んだ。

「ッ………」

ジャックは倒れた。
薄れゆく意識の中、エッチャはその姿を見た。

「(ありがとな…ジャック……)」

エッチャは意識を失った。
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