珍・桑田少年の品定め

泉出康一

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最終珍 『未来』

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2046年4月4日、昼、珍三郎の館にて…

次の瞬間、幸太郎は飛ばされたベニスに向かって飛び、見えない腕を振り上げた。

「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

幸太郎はベニスに向けて見えない腕を振り下ろした。
しかし、ベニスは難なくそれを回避した。

「(身体強化と超再生、さらにあの黒い腕…が悪い。いくら『高痴漢技術サワレヤ』を手に入れたからと言って、一対一で勝てる相手じゃない…)」

レインは冷静に二人の闘いを分析している。
その時、レインは珍三郎と目が合った。珍三郎は目で合図を送った。
合図を受け取ったレインは何処かへ走り出した。

「死ねオラァァァァァァア!!!」

幸太郎はベニスに向けて見えない腕を何度も何度も放った。しかし、どれもベニスには命中しない。

「(くそ!攻撃が当たんねぇ!どうにかして、奴の隙を作らねぇと!)」

ベニスは辺りを見渡した。近くには幸太郎しか見当たらなかった。

「(他は逃げたか。まぁいい。いずれ消える種族。母を手に入れた今、奴らにもう用はない。今は向かってくる者のみ、我自らが死をくれてやればいいだけの事。)」

その時、幸太郎は館の柱を壊し始めた。

「(何をしている…)」
「『霞・擦熱ファントムパウ』!!!」

次の瞬間、屋敷の柱が折れ、天井が落ちてきた。
ベニスと幸太郎はそれをかわした。
天井が落ちてきた事により、辺りに砂埃が舞う。

「(目眩し…)」

その時、ベニスは目の端で何かを捉えた。

「(そこか。)」

ベニスは砂埃の微妙な変化に気づき、幸太郎の居場所を突き止めたのだ。
次の瞬間、ベニスは黒く巨大な腕を幸太郎がいるであろう場所に向けて放った。

「なにッ…⁈」

しかし、そこには何も無かった。

「『透現スケル』!!!」

次の瞬間、幸太郎は特殊能力を使い、視野を鮮明にして、ベニスの両目を拳銃で撃ち抜いた。

「(なるほど。見えない腕を囮に…)」

幸太郎は『高痴漢技術サワレヤ』を使い、見えない腕で自分とは別の場所の砂埃に風を送った。そうする事で、ベニスに誤った位置を知覚させたのだ。

「(奴の目が再生する前にケリをつける!)」

そう思った刹那、ベニスは空高く飛んだ。

「なッ⁈」

ベニスは目が再生するまで、空中を飛んで逃れようとしていたのだ。

「卑怯者!降りてこい!」

しかし、遠すぎて幸太郎の声は届かない。

「(まずい…このままだと奴の目が…)」

すると次の瞬間、一発の弾丸がベニスの額を貫いた。

「(今のはライフルの…)」

バレットだ。バレットが何処からか幸太郎を援護しているのだ。

「ッ……」

ベニスは一時的に意識を失い、落下を始めた。

「幸太郎!!!」

幸太郎の背後に珍三郎が現れた。

「ここが勝機だ!畳み掛けるぞ!」

空中にて…

額を撃ち抜かれたベニスは、すぐに意識を取り戻し、空中に留まった。
その時、一機のヘリが現れた。レインが操縦しているようだ。
次の瞬間、ヘリの機首から機関銃が現れ、空中にいるベニスに向けて弾が乱射された。

「ぐッ…!!!」

ベニスは黒く巨大な腕で自身を守った。
しかし、機関銃の火力はベニスの予想より遥か高く、腕のガードを貫き、ベニスの身体にダメージを与えていく。

「(再生が追いつかん…!)」

ベニスは無数の弾丸により、段々と地上へ落とされている。

「下等生物共が…!」

その時、ベニスは黒い腕のガードを解いた。

「死に晒せ!!!」

次の瞬間、ベニスは黒い腕の一部を切断し、ヘリに向けて勢いよく投げ飛ばした。
放たれた黒い腕の一部はヘリを貫通した。
制御不能になったヘリは地面に墜落し、爆発した。

「ふぅ…」

ベニスが一息ついたその瞬間、再び、バレットがベニスの額に弾丸を打ち込んだ。

「くッ…!(次から次へと…!)」

ベニスはヘリが墜落した先へ落下した。

地上にて…

ベニスが落下した先は館の床の上。しかし、ヘリが墜落し、爆発した影響によって、館は炎上している。
ベニスは黒い腕を器用に使い、落下の衝撃を軽減した。

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」

その時、ベニスは背後に何者かの気配を察知し、振り返った。
そこには圭人の姿があった。

「(喰らえ!俺の最強の特殊能力ぅう!)見て見て~。」

圭人は顔を90度傾けた。

「ま○こ。」
「…」

レイコンマ数秒の沈黙、それ即ち、ベニスの思考が静止した時間。
あまりに僅か、しかし、幸太郎はその隙を見逃さなかった。

「はッ⁈」

幸太郎は見えない腕でベニスを地面に殴りつけた。

「(何故だろう…自然と、この言葉が言いたくなる…!)ワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワンチャンワチャワチャワチャワチャワチャワチャワチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャァァァァア!!!?!?!」

幸太郎は見えない腕で何度も何度もベニスを殴りつけいる。

〈いける!このまま奴の再生よりも早く、頭部を破壊すれば…〉

ペッテイングが勝機を見出したその時、幸太郎の動きが止まった。

「幸太郎…⁈」

なんと、ベニスの黒い腕が幸太郎の腹を貫通していたのだ。

「………ッ!!!」

しかし、幸太郎は痛みを堪え、再びベニスを殴り始めた。

「貴様ァァァァア!!!?!?!」

ベニスは幸太郎の腹部に、黒い腕を何度も突き刺し始めた。
二人の猛攻は続いた。しかし、結果は知れている。勝ったのは、超再生を持つ、ベニス。
その時、幸太郎の腹が切断された。それと同時に、見えない腕は消滅した。

「ッ……」

幸太郎は地面に倒れた。

「勝った…!」

ベニスは黒い腕を支えにして立ち上がった。
その時、珍三郎がベニスに向けて斧を振りかざした。
しかし、ベニスはいとも容易く、珍三郎を黒い腕で殴り飛ばした。

「ハガッ…!!!」

珍三郎は斧を手放し、遠くへ飛ばされた。

「ふっ…まぁまぁ楽しめた…」

次の瞬間、バレットがベニスの額を撃ち抜いた。

「(しまった…!)」

ベニスが倒れ込むその時、珍三郎の落とした斧を手に取った圭人が、ベニスに向けて斧を振り下ろした。

「よ~ろ~し~く~お~ね~が~い~し~ま~す!!!」

次の瞬間、圭人はベニスの首を切断した。

「(死……⁈)」

鈍い音を立て、ベニスの頭部が地面に落ちた。

「ハァ…ハァ…」

圭人はベニスの頭部に近づいた。

「(我は王だ…死など有り得ん……有り得ない………)」

圭人は斧を振り上げた。

「(あぁ…また、この光景だ…)」

その時、ベニスは何かを思い出した。

「(魔王だった頃と同じ…我は…いや、僕は……)」

圭人はベニスの頭部を両断した。

「(果たせなかった………)」

ベニスは死亡した。

「幸太郎…⁈」

圭人は幸太郎に駆け寄った。

「幸太郎…!幸太郎!」

しかし、既に事切れていた。

「幸太郎ぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

数ヶ月後、満足公会堂にて…

舞台上では珍三郎が話をしていた。
客席には多くの『ちんちん満足の会』会員達が座って、珍三郎の話を聞いている。その中には、圭人,海佳,バレットもいる。

「ヒニン族の王、ベニスを倒した功績として、議会の結果、桑田幸太郎を正式な次期会長とする事に決定した。」

その時、会場がざわつき始めた。

「しかし、知っての通り、彼はもうこの世には居ない。死んだ人間をトップに立たせる…察しのいい者なら、この意味に気づいただろう。」

珍三郎は台に手を置いた。

「本日をもって、『ちんちん満足の会』は解体する!」

再び、客席は騒ぎ始めた。

「色々と不都合が出るだろう。だが、後の事は俺と重役の方々、そして、今病院にいる補佐の植松が行う。以上だ。」

控え室にて…

珍三郎,圭人,海佳,バレットが居る。

「レインちゃんの容態は?」

海佳はレインの心配をしている。

「大丈夫だ。時期に退院する。」
「ヘリから落ちたのに凄いな…」
「あっこの一家、生命力ヤバいからなぁ。」

圭人は高校時代のことを少し思い返していた。
しばらくの間、沈黙が続いた。

「コレでホンマに、良かったんかな…」
「…終わった事だ。思い悩むな。たまに思い出す程度で良い。」
「そう、やな…」

圭人はスマホを取り出した。その画面には、家族四人が揃って撮られた写真が表示されていた。

「(幸太郎…舞香…)」

その時、海佳が圭人のスマホを取った。

「この画像、後で送ってね!」
「…おう。勿論やっわぁ!」

その時、バレットは部屋を出ようとした。

「そや、バレット。ありがとな。」
「私、生まれてこの方、褒められるような事してないけど。」
「何処行くの?」

海佳の質問にバレットは振り返った。

「ハローワーク。」

バレットは少し、微笑んだかのように見えた。

「就活、頑張ってね!」

バレットは軽く頷き部屋を出た。

「んじゃ、俺らも帰るか!」
「うん!」

圭人は珍三郎に話しかけた。

「またな。珍三郎。矢里本も。」

その時、珍三郎のスマホから矢里本珍太郎のAIの声が流れた。

〈また会う日まで、でござる!〉
「じゃあな。」

圭人と海佳は部屋を出た。

「…さて。仕事するか。」
〈では拙者も今から、アニメキャラとイチャラブセッ…〉

珍三郎はスマホの電源を切った。

帰り道にて…

圭人と海佳は歩いている。

「ねぇ、お父さん。」
「なんやぁ?」
「久しぶりに、お父さんのアレ、見たいな~!」
「アレか。いぞぉ~。」

圭人は顔を90度傾けた。

「ま○こ。」

辛い現実。立ち直れない事がある。しかし、それ以上に、守らねばならないもの、果たさなくてはならないものがある。それに何より、未来がある。それだけで、彼らは生きていける。
少なくとも、この世界では。

???にて…

宇宙のような空間で、ベニスが一人佇んでいた。
そこへ、マフラーを巻いた一人の青年が現れた。

「…奴らを探しに来たのか?残念だが、この世界にはもう居ない。ほんの27年遅れだったな。」
「まじか。どこ行ったか知らない?」
「『伝説』…創造主の記憶の残留だ。おそらく、そこにいる。」
「なるほどな。理解した。ありがと。リアム。」

青年は姿を消した。

「さようなら…障坂しょうさかガイ…」





---完---
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