それってつまり、うまれたときから愛してるってこと

多賀 はるみ

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「それでは、ハルの合格祝い兼シュウの成人を祝って、カンパーイ」

 母さんの音頭に合わせて、みんなでコップをカチャカチャ合わせる。

「え、俺も込み?」

「だって、シュウったら誕生日も成人式の時も家に帰ってこないんだもん!」

 母さんが少しむくれて言った。

「あー、ごめんって」

 テーブルにのっているのは、どれも俺とシュウ兄の好物ばかり。シュウ兄は、ちらし寿司と鯖の味噌煮を先ほどから、パクパク運んでいる。

「少し遅れたが、柊人に父さんと母さんからだ」

「え……    誕生日にもプレゼント届いたけど」

「これは成人式の日に渡そうと準備してたんだ。なのに、お前はこっちに顔出さずに、友達の所に泊まりに行ってしまっただろ。まだ先だが、就活の時にも必要だと思って」

 シュウ兄はバツが悪そうな表情をしながら、プレゼントの箱を開け始めた。

「腕時計だ。ありがとう」

「ん。あと、たまには帰ってきて顔を見せなさい。母さんも心配してた」

「わかった……」

 そこからは、シュウ兄の大学での様子を聞いたり、俺の中学の様子を話したりと、一家団欒といった感じであっという間に時間は過ぎた。

 その後もシュウ兄はまるで昔の、仲が良かった頃の様な態度をとってくる。
 あぁ、あの頃のシュウ兄が戻ってきた。
 嬉しくて仕方なかった。
 ただ、少し気になったのは、昔のように話してはくれるが、近づくと、それとなく距離をとられている気がすることだ。

 それに、帰ってきた初日以来、俺に触ったり、触られないように気をつけている素振りをするし、シュウ兄の部屋には絶対にいれてもらえない。
 でも、そんなことはシカトされていた頃に比べれば、どうでも良かった。

 シュウ兄は、帰ってきているこの一週間、いつも家にいるというわけではなく、それなりに友達と遊びに出掛けている。
 俺はそれが面白くない。
 せっかく帰ってきて、俺とは約二年話していないのに、成人式の時に会っていた友達とまた遊びに行くなんて。というか、成人式の時、こっちに帰ってきてたのかよ!    俺知らなかったし……
 もっと、俺といてくれたっていいのに。ほんと、面白くない。
 
 シュウ兄が帰ってきて五日目の夜、今日のご飯も母さんは張り切って作ってしまったのか、とても量が多い。大人組はお酒を飲みながら話しをしている。
 二年間も帰ってこなかった長男が帰ってきて母さんは嬉しいらしい。とにかくシュウ兄を構いたいのだ。俺はそれを聞きながら、もくもくと大量のご飯を口にいれる。

「 そういえば、シュウは彼女いないの?」

「………なんで?」

「だってー、シュウ、バレンタインになるとたくさんチョコ貰ってきて、モテモテだったじゃない。高校の時までは、部活で時間無さそうだったけど、今なら時間に余裕ありそうだし!   どうなの?」

 そう。シュウ兄はモテるのだ。顔は目鼻立ちがはっきりとしていて整っている方だし、中高とバスケ部をしていただけあって、身長も高い。なにげに191cmはあるみたいだ。細マッチョとゴリマッチョのちょうど間ぐらいの体格。キャプテンもしていた。
 口数が多いわけではないが、責任感がありしっかりした性格で頼りになるし、友達も多く、優しい。
 それなのに、俺が知る限り彼女がいたことはなかったはずだ。
 俺とは正反対。

 俺は、親が同じなだけあって、顔はそんなに悪くないと思うし、身長も兄ほどあるわけではないが、178㎝とそこまで低くはない。
 でも俺は元々家の外では引っ込み思案な性格だったのに、兄に避けられるようになってからは、ますます拍車がかかり、人と話すのが苦手になった。
 シュウ兄が陽キャというものなら、俺は陰キャだ。

 俺は心のなかで『シュウ兄に彼女?   ないない。だって、シュウ兄は俺のことが好きなんだもん』と、あの日のことを思い出してどこか高をくくっていたので、シュウ兄の次の言葉に思わず箸を止めた。

「あー……」

「あら!   あらあら! いるの?   それなら、今度連れてきなさいよ」

「いや、いいだろ別に」

「えー。まぁ、でも連れてきたくなったらいつでもいいからね」

 そんなやり取りを聞いて、父さんもなにか話していたような気がするが、あまりに驚きすぎて耳に入ってこなかったし、その後の食事はまったく味がしなかった。シュウ兄に彼女……   彼女……   とてもショックだったし、なぜだか無性に腹立たしかった。
   
 
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