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しおりを挟むシュウ兄がアパートに帰るまでの残り数日、俺たちは何事もなかったかのように過ごして、シュウ兄は帰っていった。
時々、LINEを送ってみたが、最初に言われたように、一切LINEの返事をくれなかった。
入学式に、シュウ兄に貰ったネクタイをつけて撮った写真を送っても既読スルーされた。
お互いに好きだと伝えたあの日、シュウ兄に「やっぱり、学校に俺のやったネクタイ着けていくのやめてくれ」と言われた。
なぜかと聞けば、「気持ちわりぃだろ」とそんなことを言う。
「はぁ? どこが? プレゼントのネクタイなんて普通じゃん」
「なんつうか、独占欲? みたいな……俺のもんっていう、首輪みたいじゃん……最初はそんなつもりなかったけど、多分、無意識にそういう意味でネクタイ選んだんだと思う……そしたら、ネクタイがなんかお前を縛りつけてるみてぇ。卒業するまでダメなんて言っておきながら、ダセェだろ」
「なにそれ。せっかく、シュウ兄からの初めてのプレゼントだもん。大切にするし、毎日着けてく。むしろ、その独占欲っぽいところ萌えるね」
と笑えば、「生意気」とデコピンをされた。
「それに実はこれって、色がお揃いでしょ。シュウ兄のピアスも緑色」
「ッッ。バレたか」
そんな独占欲が強いシュウ兄も大好きだ。
時間が過ぎるのはあっという間だ。高校二年の夏はすぐそこまできていた。相変わらず、俺とシュウ兄の関係に変わりはない。いや、1つ変わったことがある。LINEをしないと言っていたのに、俺の誕生日の日だけは、一言「おめでとう」とLINEがきていたことだ。それだけでやっぱりシュウ兄のことが好きだと思った。
さあ、明日から夏休みという終業式の日。同じクラスの女の子に呼び出され、告白をされた。
俺は相変わらずの陰キャだったが、そこそこの顔と、高身長(あれから少し伸びて180㎝で止まった)、物腰の柔らかさ(俺にはよく分からない)ということで、高校に入ってから今回で三人目の告白だった。
シュウ兄に高校に入れば、世界が広がると言われたが、つまりは兄だけじゃなく、視野を広げて他の子も見ろ。ということなのだろう。あんなに俺のことを好きなくせに、他にも目を向けろだなんて本当に馬鹿げている。
そもそも、俺はゲイなんだと思う。
自覚したのは、シュウ兄を好きだと気づいた後だ。シュウ兄が帰ったあと、オナニーをしようと思って、スマホでそういう動画を見ていたら男優の方ではなく、女優の方に感情移入して興奮している自分に気がついた。
そして、初めて後ろの穴を弄り、シュウ兄に突っ込まれている自分を想像して抜いた。
今までにないくらい、興奮した。
これで今まで同級生と猥談をしていても、違和感を感じていたことが府に落ちた。みんな男優側の気持ちで盛り上がっていたのに、俺は逆なのだ。なぜ、気づかなかったのか不思議なくらいだ。
だから、どんなに女の子に告白されても俺はその告白を受けるつもりはない。もちろん、男に告白されても付き合うつもりはない。
一度、高校で仲良くなった男友達とのキスやセックスを想像してみたが、気持ち悪いとしか思えなかった。
シュウ兄とのあれこれを想像しても、気持ち悪いと思ったことはなかったのに。
シュウ兄は俺の気持ちを信じていると言ったが、やはりどこかで、俺の"好き"は、兄弟としての好きなんじゃないかと思っていたんじゃないだろうか。
今度「おれのおかずもシュウ兄だよ」と教えてやろう。
むしろ、シュウ兄以外だと勃たなくなったと。そしたら、どんな顔するかな。想像したら、楽しくなってきた。
荷物を取りに教室に戻ると、数少ない俺の友人が残っていた。
「お、一ノ瀬お帰りー」
「帰ってていいって言っただろ」
「いやいや。だって、告白されてたんだろ? 気になってさー。で? 川口とは付き合うの?」
興味津々といった感じで聞いてくるのは、高校に入って1年の頃から仲が良い木村。うんうん、と相槌を打っているのは伊藤。
「はぁ……付き合わないよ」
「「なんで!?」」
「なんでと言われても……」
「川口、結構可愛いじゃん! それに、俺たちみたいな陰キャにも優しいし」
「いい子だと思うけど、俺は別に好きじゃないし……好きじゃないのに、付き合うって相手に悪いだろ」
「はぁー。やっぱり、モテる男は言うことちげーわ。なぁ、木村」
「それな。一ノ瀬って、なんで陰キャなのか分からんやつだよな」
「ふはっ、なんだよそれ。モテてねーし」
「あ、今、一度も告白されたことない俺たちの心折りにきたー」
「ほんとほんと。告られるの今ので三人目だろ? 結局、一ノ瀬はさぁー、どんな子がタイプなん?」
今まで、俺たちの間で女の子のタイプの話なんてしたことがなかったな。
タイプか……シュウ兄しか好きになったことがないからなぁ……だからといって、そのままを言うわけにはいかないし。
「あー……タイプってか、好きな人はいる」
「はぁ!? 好きな子いるの?」
「初耳なんだが! え、なに、この学校?」
二人共、前のめりになって聞いてくるから、そんなに驚かれるとは思わなかった。
「いや、あー。違う」
「他校ってこと?どんな子?」
あ、まずった。
思ったより食いついてくる。当たり障りないことだけ、言えばいいか……
「他校ってか……相手、大学生なんだけど」
「年上かよ! 出会いは? 告白しねぇの?」
「昔からの知り合い……みたいな感じ? 好きとは言った」
「年上幼なじみってことかぁ。って、もう告ってんじゃん! で? 返事は?」
「いや、木村、空気読めよ。告ってんのに、今付き合ってないなら振られたってことだろ」
「あ、そか。ごめん」
「……いや、あっちも俺を好きだって」
「えっ! じゃぁ、付き合ってんの?」
「いや、付き合ってはいない」
「「はぁ?」」
こいつら、さっきからちょいちょいハモるな。
「え、えっ。ちょっ待っ。お相手からも、好きって言ってもらったのに、付き合ってはないん?」
「まぁ……」
「なんで?」
「いや、なんか……あっち、もう大学生だったし、俺が高校入れば世界広がるだろうから、高校卒業しても好きなら付き合おうって。まぁ、他の人も見てみろよってことなんだろうけど……」
「「あー……」」
二人は顔を見合わせた。
「なに?」
「いやー、俺らモテたことないからあれだけどさ……な?」
「うん……それって一ノ瀬、振られたんじゃない?」
キョトンと二人を見返す。
「なんで? あっちも好きって言ってんだけど」
「まぁ、そうなんだけど……昔からの知り合いなら、断りづらかったんじゃないかなぁって。だから取り敢えず、好きだけど卒業するまで待つって言ったんじゃない?」
「うん。そんでお前に他に好きな子が出来るの待ってんじゃないのかなぁ……と俺らは思うんだけど……」
「………」
断るため……? いやいやいや。先に好きになったのはシュウ兄の方だし……あんなに、好きって言ってたし……まさか……な。と、俺が考え込んでいると、二人が慌てて「ごめん。その、俺らのただの想像だから!」「そうそう。非モテの話だからさ! 一ノ瀬の好きな人はちゃんと卒業するの待ってるって!」と、慌ててフォローされたが、二人の言葉がぐるぐると頭を廻る。
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