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「イヤー。来ないで来ないでー」

 でかいヘビ型の魔物に見つかってしまい、そいつに追いかけ回されている。
 何度か遠目で魔物は見たことはあったけど、こんな近くで追われるなんて、想像以上に恐怖でしかない。

 途中、匂いに誘われて他の魔物も近くに来たけれど、このヘビ型の魔物に気づくと大人しくいなくなっていった。
 数が増えないのはありがたいけど、つまりはこのヘビがよっぽど強い魔物ってことでしょ。
 イヤー。そんなんに狙われて、無事に帰れる気がしない。

 はあ、はぁ、と息切れがやばい。いつでもエイガ公爵家に嫁入りして魔物を倒せるようにと、体力もつけていたはずなのに森の中を走って逃げ回るだけでこの有り様。

 私が魔物を倒すために発明した魔法や魔法具って、一対一を想定して作ってないから、今みたいな時は役に立たないのよね。
 それにどちらかというと、直接、致命傷を与える系のものではなく、目眩ましや拘束系のやつばかりだし、魔法具なんて持ってきてないしー。

 嫌だよー、せっかくエドワルド様との結婚が秒読みだったのに、こんな事になるなんて。
 きっと、学園では私の捜索をしてくれているんでしょうけど、まさか魔物の森まで飛ばされたなんて誰も思ってもいないでしょうから、助けなんてあてにできないわよね。どうにかして、一人で対処しなきゃ。
 きっとこれは試練なのだわ。エイガ家の嫁になる者なら、これくらいできないとね!
 そう、覚悟を決めてチラリと後ろを振り向く。

「ギャーーーーーー」 

 無理無理無理無理無理ー。やっぱり、無理だって。止まった瞬間、一飲みにされちゃうよ。
 公爵家の騎士の皆さん、こんなの相手にいつも戦ってるのね。そりゃぁ、近隣諸国一の武力と言われるだけあるわ。

 はあ、やばい、そろそろ、本当に、足がっっ。
 木の根に足を取られて、ドサッと前にすっ転んでしまった。

 ヘビの魔物はシューシュー言って、舌舐めずりしたように見えた。
 あら、ヘビも舌舐めずりするのねって現実逃避をした瞬間、ヘビの頭頂部にドーンと稲妻が落ちた。

 へ?

「ミリアリア様!   ご無事ですか?!」

 嘘でしょ。なんで、ここにいるの?
 彼は私の側に駆け寄ってくると、手を取って立ち上がらせてくれた。
 ヘビを見やれば、焦げた状態で倒れている。

「ど、どうしてエドワルド様がここに?」

「たまたま学園に行く用事がありまして、そこでミリアリア様が攫われたとお聞きして助けに参りました」

「そ、そうだったんですね。でも攫われたのがよくここだとお分かりになりましたね」

「偽の遺書を見たアリサ嬢が思いついてくれたおかげです」

 さすがアリサ様!   ありがとうありがとう。今度、お兄様の秘蔵写真をプレゼントいたします!
 あれ?   偽の遺書ってあのバカが勝手に書いた、私がエドワルド様との婚約を嫌がったために心中しますっていうあれのことかしら。

「あの、よくあれが偽物だと分かりましたね」

 そう聞けば、ちょっとバツの悪そうなお顔をするエドワルド様。えぇ、あの、まぁ、なんて濁している。

「正直に申し上げますと、私は最初あれは本物なのだと思いました。しかし、アリサ嬢にミリアリア様がいかに私との婚約を喜んでいたか教えていただきまして、あれは偽物だと確信いたしました」

 え、あ、え?
 待って、アリサ様はいったいどのようにお話したのかしら。
 偽物だって思ってもらえたのは嬉しいけど気になるんですけど。

「でも、ここまでの転移魔法にはあの男の魔力では無理だと思わなかったのですか?」

「それについては」

 エドワルド様が答えようとしたその時、ヘビが倒れたことを知って今度はイノシシ型の魔物が近づいてきた。
 うそー。一難去ってまた一難。ヘビよりは小さく見えるけど、横幅が凄い。
 エドワルド様が私を守るように前に踏み出した瞬間、今度は何かがイノシシの右の前足を切断した。バランスを崩したイノシシはドッシャーンと横に倒れる。倒れたイノシシは、そのまま胴を真っ二つに切られて絶命した。

 なんかイノシシが切られてるー。なんで?   エドワルド様はここにいて一歩も動いてないけど。

「お二人共、ご無事ですか」

 その声はリック?!   

「ああ、助かった」

「ご謙遜を。俺が動かなくても、エドワルド様なら瞬殺でしたでしょうに」

「君は魔物に相対するのは初めてなのに、倒せるなんて筋が良いな。正直、ミリアリア様の悲鳴を聞いて、君をその場に置いて行ってしまって心配だったが、その必要はなかったな」

「恐縮です」

 えぇ!   リックも来てくれたの?   こんな危ない場所に来るなんて、ライザが心配するでしょうに。

 二人が助けに来てくれて安心したのか、腰が抜けたみたい。せっかくエドワルド様に立たせてもらったのにまたその場に腰を落としてしまった。

「ごめんなさい。腰が抜けてしまったみたいで立てないの」

 うわーん、恥ずかしい。腰を抜かすなんて。しょんぼり下を向くと、失礼します、とエドワルド様にお姫様抱っこされた。
 え、私今、体重何kgだっけ?   なんて、変な心配をしてしまう。

「安全な場所に移動するので、もう少し我慢してください」

 エドワルド様はリックに腕を掴むように合図をすると、一瞬でどこかの建物の中に移動した。










「エド!    良かった、ミリアリア様もご一緒だな。ミリアリア様が攫われたと報告を受けて、今ちょうど騎士たちを連れて森へ行くところだったんだ」

 エイリク公爵が色んな装備をつけてそこにいた。
 なるほど。ここは、エイガ公爵家の邸だったのね。

「湯浴みの用意をお願いいたします。ミリアリア様はこのままでは気持ち悪いでしょうから」

 そうしてもらえるとありがたいわ。そしてふと思い出す。あれ、そういえば私、あの臭い液体をかけられたままじゃない?    やだ、そんな状態でお姫様抱っこしてもらってたの?

「あ、あの私臭いですよね。もう、大丈夫ですからおろしてください」

「いえ、気づいていないだけでお怪我をされてるかもしれません。私がこのままお連れいたします」

 そうして、公爵家のお風呂場に連れて行かれて、メイドの方々に引き渡される前にエドワルド様から『後でお話ししたいのですが大丈夫ですか?』と聞かれた。
 なんかこれって嫌な予感しない?



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