前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ

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 今日の目覚めは過去一でいい。なぜって?   そりゃぁ、昨日、念願のエドワルド様との婚約が整ったからですよ!
 昨日の私は有頂天で顔がニヤけていたと思う。エドワルド様達から婚約のサインを貰って部屋に戻った途端、ライザが泣き崩れたことにはめちゃくちゃ驚いたけど。しかもリックまで目頭を抑えて声を震わせながら『良かった』って。
 ライザは終始『おめでとうございます』しか言ってなかった。まさか二人に泣かれるとは。でも考えてみれば、親以上に私の側にいて、一番私の努力を間近で見てきた二人なのよね。二人も思うところがあったのかしら。
 つられて私もありがとうって言いながら、わんわん泣いてしまったのは三人だけの秘密。

 もうね人生って素晴らしい。窓辺にいる小鳥の鳴き声が歌っているように聞こえるし、私も、前世で見た某ミュージカルアニメのように歌いだしたい気分。心なしか、世界が輝いて見える。

 そんな幸せな気分に浸っていたこの日、エイガ公爵夫妻が私に会いたいっていう連絡が来たらしい。
 え、なんで?
 昨日の今日で、もしかして婚約を解消したいなんて言わないわよね。
 不安に思いながらも了承する旨を伝える。










 エイガ公爵夫妻はお昼を過ぎたあたりにやってきた。二人ともとても深刻な表情だ。やめてやめて。そんな深刻な顔をしないで。

「今日はエドには内緒で来ています」

 ごくり。何を言い出すのかしら。

「ミリアリア様、お願いがございます。婚約を解消するならば、早いうちにしていただきたいのです」

 ぎゃー。だから、なんで婚約を解消する話しになっちゃうの?   せっかくここまでこぎ着けたのに、そんなバカなことするはずないでしょ。
 待って、もしかしてこれって自分たちが下手に出ているように見せかけて、昔、私がエドワルド様を散々バカにしていたから本当は私と結婚するのが嫌なんて事ないわよね……

「あのもしかして、昔、私がエドワルド様にひどい態度を取っていたから、お二人はこの婚約に反対なのかしら……」

「違います。確かに昔のミリアリア様は、幼いにしてもやり過ぎな所もありました。しかし、それは昔のことです。ご自分で気づいて反省なさっていたことも知っていますから、その事で婚約を反対しているなんてことはありません」

「では、なぜこんなに婚約を解消するようにおっしゃるのですか?」

「息子は昨日、ミリアリア様を憧れている気持ちがあると言いましたね」

「ええ、とても嬉しく思います」

「こんな事を親が言うのもなんですがね。恐らくあれは憧れなんてものではなく、ミリアリア様に恋心をいだいているのではないかと思います」

「まぁ!」

 それが本当なら大歓迎ですよ。でも、もうすぐ二十歳にもなるのに、親が好きな女の子に『うちの息子貴方のことが好きみたい』なんて言ったと知ったら恥ずか死ぬ案件だわ。これは墓場まで持っていかなきゃ。

「今まで、あの子から女の子の話なんて聞いたことがなかったんですがね。ミリアリア様のことに関しては時々話題に出していたんですよ。今日は孤児院で奉仕活動をしたらしい。アルと一緒に湖に行ったと言っていた。とか、色々聞きました。リンダ嬢と婚約をしていた時でさえ、リンダ嬢の事は何も話さなかったあいつが。今はミリアリア様のお優しい心で婚約をしていても、いざ結婚となった時に、『やっぱり無理です』なんて事になってしまったら、きっとあの子は立ち直れないのではないかと心配なのです。申し訳ありません、このようなことを頼むのは失礼だと分かってはいるのですが、子を心配するあまり私達が出しゃばってしまって」

 うそー。エドワルド様、私のことを話題にしてたの。嬉しい!

「お二人は、私がエドワルド様を好きなことを疑っているということですか?」

「ええ、その、そうですね。ミリアリア様はエドのことを格好良いとわざわざ嘘をつきました。それがすごく不思議だったのです」

 なるほど。嘘をつくなんて、何か良からぬことを企んでいるのかもと心配しているのね。嘘じゃないんだけどなぁ……どうしたら信じてもらえるかしら。

「お二人はシシリー夫人からのアプローチの末の恋愛結婚だったとお聞きしたことがありますが本当ですか?」

 いきなり、自分たちの馴れ初めを聞かれて照れ始めるお二人。

「ええ、まぁ、そんなところですかね」

「では、失礼ですがお互いの第一印象はどうでしたか?」

 うん、失礼だとは思うけどこのお二人、この世界の基準でいくとそんなに容姿は良くないと思うのよね。それでも、お二人はお互いに好きあって結婚したみたいだし。

「あー、その、褐色肌だなと思ったかな」

「私は、目が大きくてギョロギョロして怖いなと思ったかしら」

「では、お互いに見た目の第一印象は好みのタイプではなかったということですよね?」

 あ、いや、とお二人共慌て始めたけど、別に今はそれは問題じゃない。

「でも、お互いに今は想い合っているのですよね?」

「「もちろん(です)!」」

「それはなぜですか?」

「それは、エイリクの剣の腕が素晴らしかったし、とても紳士的で頼りがいのあるところが素敵だったから」

「私も、シシリーはとにかく気がつくし、どんな事にも一生懸命で友達や家族を大切にするところが素敵だと思ったんだ」

 改めてお互いの好きなところを知って、甘い雰囲気を出し始めたお二人。ごちそうさまでーす。

「こほん。私も、同じですよ」

 お二人の世界に入りそうになっていたのを引き戻す。

「確かに私は昔、エドワルド様を外見だけで判断してひどいことをしました。ですが、私が魔法を暴走させてしまったあの日。エドワルド様が助けてくださいました。それがとても格好良かったのです。今ではエドワルド様の正義感の強いところ、優しいところ、頼りがいのあるところ、努力家なところ、他にも沢山好きなところがあります」

 お二人は目をパチパチさせている。
 よし、ここでダメ押しにカリナ様にも納得してもらった言葉をいいましょう。

「私は人は見た目だけではないということを知りました。格好良いから好きになるのではなく、好きになったから格好良く見えるんです。ですから、私は嘘なんてついていません。エドワルド様に恋した瞬間から、私にはエドワルド様が誰よりも格好良く見えています」

 これでどうかしらとお二人の反応を見ると、エイリク様は目頭を抑えているし、シシリー夫人はハンカチで目を抑えている。

「こんな、こんなにエドのことを見ていてくれてたなんて。親にとって、子どもはどんな子でも可愛いものです。でも、他の方から見たあの子の容姿は最悪だってことを知っています。あの子が私達の容姿の悪いところばかりを引き継いでしまって、どうなるだろうと心配しすぎました。ミリアリア様のように、きちんとあの子の良さを見てくれる子がいたなんて。ええ、ええ、もう二度とこの婚約を解消して欲しいなんて言葉にしません。どうか、あの子のことをよろしくね」

 ギュッと夫人に手を握られて、私ももちろんですと言わんばかりにギュッと握る。
 お二人共、私がちゃんとエドワルド様のことを好きだって分かって、安心したようだ。
 結婚式が楽しみだわ~って、来たときとは違ってニコニコしながら帰っていった。
 よ、良かった。これで、もう心配することはないでしょう。




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