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しおりを挟む「陛下! 恐れながら、発言をお許しいただけますか」
「そなたは……」
「ゼニーノ伯爵家のレイスと申します」
「ほお。許す」
「ありがとうございます。今回のこの婚約破棄騒動は、私にはなにも関係ございません」
「は? レイス様、何をおっしゃっているの?」
「うるさい、バカ女。エイガ公爵家に目をつけられたくないのが分からないのか」
「な、な、バカ女ですって? あんなに綺麗だって、あなたみたいな方を妻に迎えられる男性が羨ましいって言って、沢山贈り物をしてくれたじゃない」
「お前が次期公爵夫人になるっていうから、便宜をはかってもらえるかもしれないと思って、よいしょしていただけだ。陛下、公爵様、確かに私は便宜をはかってもらえるかもという下心がございましたが、誓って、誓ってこの女との間にやましいことはありません」
「ひどい! 私を騙したのね!」
「接客には多少のリップサービスはつきものだ。そんな事も分からないのか」
「なによ、公爵家の人達はあまり贅沢させてくれないから、あんたの方が沢山贈り物をくれるから貢いでくれると思ったのに、とんだ誤算だわ。陛下、申し訳ありません。私はこの男に騙されていたのです。エドワルド様との婚約継続を望みます」
「はて、そなたは先程、こんな卑劣な事をする男とは結婚するなんて耐えられないというから、私は婚約破棄を認めると言ったのだが」
「申し訳ありません。私が騙されていたばかりに……ですが、公爵様もエドワルド様も私がいないとお困りになるでしょうから」
は? ヤバイヤバイ。この女本当にヤバイ。騙されていたとかの前に、散々エドワルド様を悪しざまに言って、しかも公爵家の方々がケチだからみたいな事を言ってたのに、何また婚約者におさまろうとしてるの? 怖いんだけど。
「いいや、婚約は破棄だ。しかし、先程そなたが言った理由からの婚約破棄ではない。エドワルドがそなたに暴力をはたらいたり、暴言を言ったことはない。よって、名誉毀損と侮辱罪、それに一方的な婚約破棄を宣言したことに対する慰謝料をエドワルドへ払うことを命じる」
「そんな……暴力や暴言がなかったなんてどうして言えるんですか?」
「そなたは先程、エイガ公爵家の事を王家の信頼厚い家だと言っていたな」
「え? は、はい」
「その通りでな、私も私の家族もエイガ公爵家の者たちを信頼している。だからな、そんなエイガ公爵家の嫁となる者も、信頼できる者なのか調べる必要があると思わぬか?」
「あの……その」
「そなたには秘密裏に王家の影をつけておったのよ」
「っ! ひ、ひどいです!」
慌てだすリンダ様。そうよねー、だって全部嘘なんだもの。
それにしても、王家の影をつけた理由ってほんとにそれだけ? もしかしなくても、私がまだエドワルド様を諦めていなかったから、お父様もリンダ様の事を調べていたとか? 公私混同ね。
「どうした、なにを焦っている」
「プ、プライバシーの侵害だわっ」
「高位貴族ともなれば、常に護衛がつく。それと大差ない。実際にそなたの身に何かあれば助けるようにいってあった」
「う、嘘だわ。これは誰かの陰謀よ。それに……それに、公爵様たちもエドワルド様に結婚相手がいないと困るでしょ。誰もが結婚したくないと言われているエドワルド様と私が結婚してあげるって言ってるの!」
「そのことなら心配には及びません」
ここは私の出番ですよね! 今までは、事の成り行きをお父様にお任せしていたけれど、ここから先は私も黙ってません。
すっとエドワルド様の側まで行き、その大きな剣ダコだらけの手を取る。
「ずっと、ずーっと前から貴方のことが好きです。エドワルド様に婚約者が決まり、一度は諦めましたが(諦めていないけど)……その婚約が破棄されたのならどうか私と結婚してください」
辺りがシンと静まりかえる。
エドワルド様のお顔ときたら、驚愕って言葉がピッタリね。他の貴族の方たちも、顎が外れるんじゃないかってくらい驚いて口が空いている。
前に告白したときとは違って今回は沢山の人が聞いている。もしここで断ろうものなら、私に恥をかかせてしまう。
断るなんて、できないわよね? うふふ。
「こ、光栄です。どうか、私に貴方の夫になる栄誉をいただけますか」
「もちろんです!!!」
わーい、やったーーーーーーーー! 言質取ったよ。取っちゃったよ。エドワルド様が私の夫になってくれるって。キャー。
まさかこのタイミングで私が求婚するとは思っていなかったお父様が、えって顔を一瞬されたけど、誓約書を思い出したのか、こほんと咳払いを一つして「エイガ公爵家のエドワルドと、私の娘ミリアリアとの婚約を認めよう」って、宣言してくださった。
「こ、こんな事あって良いはずがないわ! 私が公爵夫人になるはずだったのよ! わかったわ、ミリアリア様が私を陥れようとしたんですね。私が小柄で綺麗で優秀だから!」
いや、確かにあなたのほうが小柄ではあるけど、綺麗も優秀も私のほうじゃない? だって、あなた学園では一度もAクラスになったことがないって聞いてるわよ。
「君は王家を嘘つき呼ばわりしたにもかかわらず、ミリアリアの事も侮辱するのかね。ふむ、イヤーナ子爵家は王家になにか含むところがあるのかな」
そこでやっとまずいと表情をしたリンダ様。人波をかき分けてイヤーナ子爵夫妻が躍り出る。
「陛下、お、お待ち下さい。娘が大変、失礼なことをいたしました。しかし、我が家は決して王家の皆様方に含むところなどございません」
「そうかそうか。そなたらは王家に忠誠を誓っていると、心からそう言えるか?」
「もちろんでございます」
「だが、リンダ嬢がこれだけの騒ぎを起こしたのは事実。沙汰は後ほど伝えよう」
「む、娘を修道院へ入れ、二度と王都へ来れないようにします。エイガ公爵家にも慰謝料を払います。ですから、どうか」
「分かった。それで今回のところは許そう」
「ありがとうございます」
リンダ様は修道院と聞いて、小さく悲鳴を上げた。
「待ってよ、お父様! 勝手に話を決めないで。私は悪くないもの」
「お前は黙りなさい。これ以上どうなっても知らんぞ。申し訳ありません、すぐにでも荷造りをし西の修道院へ向かわせますので、今日はこれで失礼させていただきます」
「ああ行って良い。さて、レイスよ、そなたは商売からの下心があったとしても行き過ぎた接客をしたのは間違いがなく、このような騒動をを起こした原因の一端ではあったと思う。しかし、リンダ嬢の真の姿が分かり、エイガ家にあのような嫁を迎えずにすんだことも事実。そなたや家には特に沙汰は出さぬ。しかし、くれぐれも接客の態度には気をつけるように徹底しろ」
「はっ、かしこまりました」
レイス様は首が千切れてしまうのではというくらい、ブンブンと首を振ってさっさとその場から退場していった。
ある意味では、私の恋のキューピットだわ。ありがたやありがたやーと念だけ送っておく。
「さあ、色々あったが今日はアガルトの二十歳の祝いだ。みな、存分に楽しんでいってくれ」
会場に華やかな曲が流れ始める。
最初にお兄様とアリサ様が一曲踊ると、次の曲からはみんなパートナーと踊り始める。
「さぁ、エドワルド様。私と踊りましょう」
エドワルド様の手を引っ張って、私達も踊り始める。エドワルド様は終始ぼんやりとしたお顔で、華麗に私をエスコートしてくれる。ダンスも完璧だなんて、流石エドワルド様だわ~。
この時の私はもう有頂天。エドワルド様が何を思っているかなんて、全然考えていなかった。
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