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28【エドワルド視点】
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【エドワルド視点】
今日から王立学園での生活が始まる。
今まで会ったことのない貴族の子息や令嬢、または富裕層の平民や成績優秀者の平民なんかとも関わることが増える。
正直、初めて会った時の反応が面倒くさい。
ついさっきも、よそ見をしていた生徒にぶつかられて謝罪されたと思えば、顔を見るなり謝罪もそこそこに逃げていってしまった。
何度か会っている者たちは、俺がアルと仲がいいのを知っているし、慣れたのか普通に挨拶されて終わるが、初対面の者からはヒソヒソクスクスと周りがうるさい。
まぁ、数年前の状態に戻ったようなものだ。
「エド! 久しぶり。制服、よく似合ってるよ」
「アガルト様、お久しぶりです。アガルト様もよくお似合いですよ」
「いやー、それにしてもまいったね。制服、僕たちのサイズはないから仕上がりまで時間がかかるって言われていたけど、お互い間に合ってよかったね」
「そうですね」
なんて、お互いの苦労話をしながら入学式を行うホールへ向かう。
周りから、「嘘でしょ、あれがアガルト様なの?」「容姿はあまり良くないと噂では聞いていたけど、想像以上だわ」「あれなら、王妃になりたいなんて思わないわ」なんて、令嬢たちがやかましい。
チラリとそちらを見やれば、「やだー睨まれたわ」「あぁ、怖い怖い」なんて言っている。王族や公爵家に対してそのような態度はどうなんだ、と思いはしたが、近くにいた高位貴族からやめておいたほうがいい、陛下から目をかけられている二人だぞって注意されていて真っ青な顔になっていた。
しばらくすれば、落ち着くだろうか。
「そういえば、ミリーがエドに会えなくて寂しそうにしていたよ。今度、学校が休みの時でいいから城に来てよ」
「えっと、それはどうしてでしょうか」
「単純にエドに会いたいんでしょ」
「……もう、あの時のことを気にかけていただかなくても大丈夫なんですが」
「別に六年前の事をずっと引きずっているわけじゃないよ。本当にエドに会えないのが寂しいんだよ」
「はぁ……そうですか」
六年前からミリアリア様のアルや俺への態度が変わって、なんだか落ち着かない。
自分の兄の友人にあんなに親しげにしてくるものだろうか。しかも、婚約者でもないのにやたらと近い気がしている。
一瞬、チラと俺に好意があるのか? と、本当に一瞬だけ思ったこともあったが、そんな考えはすぐさま消し飛ぶ。
いや、だってあのミリアリア様だぞ。絶世の美少女として有名なあのミリアリア様が、わざわざ俺を好きになるはずがない。
きっと、昔助けたことを未だに恩に感じているのだろう。
実際、他の貴族の子息たちからは、アガルト様と仲がいいからミリアリア様からも親しげにしてもらっているだけだ、勘違いしないほうがいい、というようなことを遠回しに言われたし、昔助けたことがあるからって、いつまでもそれを理由にミリアリア様に付きまとわないほうがいいぞ、なんて言われもした。
まぁ、つきまとってはいないんだが。
実は、両親からは「可愛い子が親しくしてくれたからといって、自分の分は弁えないといけないよ」と、暗にミリアリア様を好きになっても振られるだけだぞみたいなことを言われた。
いや、俺だってきちんと弁えてるさ。
「まぁ、時間があえば城に伺わせていただきます」
「うん、絶対だよ。僕がミリーに怒られちゃうからね」
おどけて笑うアルを見て、本当にミリアリア様には感謝しかない。自信無さげだった男の子は、たまに容姿を気にすることはあっても、今ではいつも明るく穏やかに笑っている。
まぁ、アリサ嬢のおかげでもあるのか。
ごくごく一部の貴族たちの間では、アルと宰相の娘のアリサ嬢が学園卒業後に婚約するのではないかという認識だ。
なんでも、ミリアリア様がアリサ嬢とアルの間を取り持ったらしい。アルから詳しく聞いたことはないが、ある日ミリアリア様からお茶に誘われて行ったところ、アリサ嬢がいた。邪魔しては悪いと離れようとしたら、ミリアリア様に強引に席に座らされ、あれよあれよと色んな話をしたらしい。
それから、時々三人でお茶をしていたある日のこと。ミリアリア様が、急に今日は先生がくるのを忘れていた、せっかくアリサ嬢に来てもらって悪いからお兄様がお相手して差し上げて、後はお二人でどうぞ~と席をあとにしたらしい。
その頃にはすっかり意気投合していた二人は、その後は時々文通などをして仲良くなったと聞いている。
そんなことから、周りの者たちはもう、これはそういうことなのでは? と、両陛下も元々息子のことを好意的に思っていてくれた子がいたなんて! 逃してなるものか、と宰相に内々で縁談の話を持っていったと噂だ。
この国は学校を卒業するまで正式に婚約しないとはいえ、それでは王妃教育が間に合わないということもあり、伯爵家以上の令嬢には幼い頃から王妃教育の基礎的な部分を教わることになっている。
アリサ嬢も伯爵家だったこともあり問題はないが、本来ならもう少し家格が上の令嬢が婚約者に選ばれることが多い。
噂を聞いた家格の上のものから色々難癖をつけられるのではないかとも心配されたが、今回はむしろ公爵、侯爵家の令嬢からはそれとなく感謝されているみたいとアルが言っていた。
「たまたま見ちゃったんだけどね、アリサ嬢が家格が上の令嬢たちに囲まれていて、大変だと思って近づいたら……『どんなに優秀で性格が良くても、私達はやっぱりアガルト様の容姿はちょっと……って、思っていたところだったの。学園の卒業が決まったら誰が婚約者に選ばれてしまうのかと恐々としていたわ。だからアリサ嬢、あなたには感謝しかないの。私達全力で応援いたしますからね』って、言われてた」との事らしい。
正直、それをアリサ嬢に言うのもどうなんだ? と、思いもするが、アリサ嬢がいじめられてるんじゃなくて良かったよ。と言っていたから、それ以上は聞かないことにした。
だからもはや、アリサ嬢がアルの婚約者になるのはほぼほぼ内定しているようなものだ。
「そうそう、エドっていい仲の女の子っていたりするの?」
思わず転びそうになる。
「いや、いるはずないだろっ」
しまった。慌てて辺りを確認する。誰もいないことを確認して改めて答える。
「はあ、アルとは違って俺にそんな子がいるはずないだろ」
「んー、でもこの前、隣の領地のリンダ嬢とお茶をしなければいけないって憂鬱そうに言ってたよね」
「あれは両親が俺の見た目を心配して、今から顔に慣れてもらえば、卒業する頃には大丈夫になるかもなんて言ってセッティングしただけだ」
「そうなんだ。で、どうだったの?」
ったく、自分はアリサ嬢と上手くいっているからって余裕そうにしやがって。
「どうも何も、いつも通り。顔は見ないし、話しかけても首を縦にふるか横にふるかしかしないし、まともにやり取りなんて出来ないさ。途中から俺も馬鹿らしくなって、一切話しかけなかったのは少し悪いと思わなくもないが」
「ふーん……でも、ミリーとはちゃんと話すだろ」
「それはアルの妹だからな」
「僕の妹、可愛いと思うよね?」
「え? あぁ、思うけど」
「うんうん、そっかそっか。エドは面食いなんだね」
「いや、それを言うならアルもだろ! アリサ嬢を狙っていた子息たちも多かったんだぞ」
「ハハハ、彼らも残念だね。アリサ嬢は、目が大きくて、体のでかい男が好みなんだって。あ、でもエドは言葉が乱暴だから苦手だってさ」
いや、知らねえよ。アルとは親友だが、流石に王族に対してそんな事は言えない。
「アリサ嬢と順調そうで何よりです」
「『学園で沢山の令嬢がいるから心配です。これを私だと思って持っていてください』って、これもらったんだ」
胸ポケットから大事そうに万年筆を見せつけてくる。
はいはい、ご馳走様。ほんの数年前まで、僕たち将来結婚できるかなぁ……跡継ぎだって、必要なのに。って、心配してたやつとは大違いだ。
まぁ、それに関しては俺もどうしたものかと思っている。両親は俺が結婚して、俺の血を引いた孫に会いたいんだろうが、正直それは難しいと思っている。
一番の可能性は、親族から養子をとるのが現実的だな。
そんな事を考えていたから、アルがなにか言っていたが聞き逃した。
「ミリーはエドがいいんだってさ」
「ん? なにか言ったか?」
「ううん、きっとエドが考えているようなことにはならないと思うよ。とびきり素敵な女の子がエドの事を好きって言ってくれるかもしれないだろって」
「どんな世界線だよ」
そんな風に、ふざけ合っていたら入学式が行われるホールについた。
「アガルト殿下、立派な入学生代表挨拶を期待していますよ」
ニヤリと笑う。
「僕の姿を見て、いったい何人が倒れるか賭けるかい?」
そんな冗談が言えるなら緊張はしていないのだろう。
さぁ、学園生活が始まる。
今日から王立学園での生活が始まる。
今まで会ったことのない貴族の子息や令嬢、または富裕層の平民や成績優秀者の平民なんかとも関わることが増える。
正直、初めて会った時の反応が面倒くさい。
ついさっきも、よそ見をしていた生徒にぶつかられて謝罪されたと思えば、顔を見るなり謝罪もそこそこに逃げていってしまった。
何度か会っている者たちは、俺がアルと仲がいいのを知っているし、慣れたのか普通に挨拶されて終わるが、初対面の者からはヒソヒソクスクスと周りがうるさい。
まぁ、数年前の状態に戻ったようなものだ。
「エド! 久しぶり。制服、よく似合ってるよ」
「アガルト様、お久しぶりです。アガルト様もよくお似合いですよ」
「いやー、それにしてもまいったね。制服、僕たちのサイズはないから仕上がりまで時間がかかるって言われていたけど、お互い間に合ってよかったね」
「そうですね」
なんて、お互いの苦労話をしながら入学式を行うホールへ向かう。
周りから、「嘘でしょ、あれがアガルト様なの?」「容姿はあまり良くないと噂では聞いていたけど、想像以上だわ」「あれなら、王妃になりたいなんて思わないわ」なんて、令嬢たちがやかましい。
チラリとそちらを見やれば、「やだー睨まれたわ」「あぁ、怖い怖い」なんて言っている。王族や公爵家に対してそのような態度はどうなんだ、と思いはしたが、近くにいた高位貴族からやめておいたほうがいい、陛下から目をかけられている二人だぞって注意されていて真っ青な顔になっていた。
しばらくすれば、落ち着くだろうか。
「そういえば、ミリーがエドに会えなくて寂しそうにしていたよ。今度、学校が休みの時でいいから城に来てよ」
「えっと、それはどうしてでしょうか」
「単純にエドに会いたいんでしょ」
「……もう、あの時のことを気にかけていただかなくても大丈夫なんですが」
「別に六年前の事をずっと引きずっているわけじゃないよ。本当にエドに会えないのが寂しいんだよ」
「はぁ……そうですか」
六年前からミリアリア様のアルや俺への態度が変わって、なんだか落ち着かない。
自分の兄の友人にあんなに親しげにしてくるものだろうか。しかも、婚約者でもないのにやたらと近い気がしている。
一瞬、チラと俺に好意があるのか? と、本当に一瞬だけ思ったこともあったが、そんな考えはすぐさま消し飛ぶ。
いや、だってあのミリアリア様だぞ。絶世の美少女として有名なあのミリアリア様が、わざわざ俺を好きになるはずがない。
きっと、昔助けたことを未だに恩に感じているのだろう。
実際、他の貴族の子息たちからは、アガルト様と仲がいいからミリアリア様からも親しげにしてもらっているだけだ、勘違いしないほうがいい、というようなことを遠回しに言われたし、昔助けたことがあるからって、いつまでもそれを理由にミリアリア様に付きまとわないほうがいいぞ、なんて言われもした。
まぁ、つきまとってはいないんだが。
実は、両親からは「可愛い子が親しくしてくれたからといって、自分の分は弁えないといけないよ」と、暗にミリアリア様を好きになっても振られるだけだぞみたいなことを言われた。
いや、俺だってきちんと弁えてるさ。
「まぁ、時間があえば城に伺わせていただきます」
「うん、絶対だよ。僕がミリーに怒られちゃうからね」
おどけて笑うアルを見て、本当にミリアリア様には感謝しかない。自信無さげだった男の子は、たまに容姿を気にすることはあっても、今ではいつも明るく穏やかに笑っている。
まぁ、アリサ嬢のおかげでもあるのか。
ごくごく一部の貴族たちの間では、アルと宰相の娘のアリサ嬢が学園卒業後に婚約するのではないかという認識だ。
なんでも、ミリアリア様がアリサ嬢とアルの間を取り持ったらしい。アルから詳しく聞いたことはないが、ある日ミリアリア様からお茶に誘われて行ったところ、アリサ嬢がいた。邪魔しては悪いと離れようとしたら、ミリアリア様に強引に席に座らされ、あれよあれよと色んな話をしたらしい。
それから、時々三人でお茶をしていたある日のこと。ミリアリア様が、急に今日は先生がくるのを忘れていた、せっかくアリサ嬢に来てもらって悪いからお兄様がお相手して差し上げて、後はお二人でどうぞ~と席をあとにしたらしい。
その頃にはすっかり意気投合していた二人は、その後は時々文通などをして仲良くなったと聞いている。
そんなことから、周りの者たちはもう、これはそういうことなのでは? と、両陛下も元々息子のことを好意的に思っていてくれた子がいたなんて! 逃してなるものか、と宰相に内々で縁談の話を持っていったと噂だ。
この国は学校を卒業するまで正式に婚約しないとはいえ、それでは王妃教育が間に合わないということもあり、伯爵家以上の令嬢には幼い頃から王妃教育の基礎的な部分を教わることになっている。
アリサ嬢も伯爵家だったこともあり問題はないが、本来ならもう少し家格が上の令嬢が婚約者に選ばれることが多い。
噂を聞いた家格の上のものから色々難癖をつけられるのではないかとも心配されたが、今回はむしろ公爵、侯爵家の令嬢からはそれとなく感謝されているみたいとアルが言っていた。
「たまたま見ちゃったんだけどね、アリサ嬢が家格が上の令嬢たちに囲まれていて、大変だと思って近づいたら……『どんなに優秀で性格が良くても、私達はやっぱりアガルト様の容姿はちょっと……って、思っていたところだったの。学園の卒業が決まったら誰が婚約者に選ばれてしまうのかと恐々としていたわ。だからアリサ嬢、あなたには感謝しかないの。私達全力で応援いたしますからね』って、言われてた」との事らしい。
正直、それをアリサ嬢に言うのもどうなんだ? と、思いもするが、アリサ嬢がいじめられてるんじゃなくて良かったよ。と言っていたから、それ以上は聞かないことにした。
だからもはや、アリサ嬢がアルの婚約者になるのはほぼほぼ内定しているようなものだ。
「そうそう、エドっていい仲の女の子っていたりするの?」
思わず転びそうになる。
「いや、いるはずないだろっ」
しまった。慌てて辺りを確認する。誰もいないことを確認して改めて答える。
「はあ、アルとは違って俺にそんな子がいるはずないだろ」
「んー、でもこの前、隣の領地のリンダ嬢とお茶をしなければいけないって憂鬱そうに言ってたよね」
「あれは両親が俺の見た目を心配して、今から顔に慣れてもらえば、卒業する頃には大丈夫になるかもなんて言ってセッティングしただけだ」
「そうなんだ。で、どうだったの?」
ったく、自分はアリサ嬢と上手くいっているからって余裕そうにしやがって。
「どうも何も、いつも通り。顔は見ないし、話しかけても首を縦にふるか横にふるかしかしないし、まともにやり取りなんて出来ないさ。途中から俺も馬鹿らしくなって、一切話しかけなかったのは少し悪いと思わなくもないが」
「ふーん……でも、ミリーとはちゃんと話すだろ」
「それはアルの妹だからな」
「僕の妹、可愛いと思うよね?」
「え? あぁ、思うけど」
「うんうん、そっかそっか。エドは面食いなんだね」
「いや、それを言うならアルもだろ! アリサ嬢を狙っていた子息たちも多かったんだぞ」
「ハハハ、彼らも残念だね。アリサ嬢は、目が大きくて、体のでかい男が好みなんだって。あ、でもエドは言葉が乱暴だから苦手だってさ」
いや、知らねえよ。アルとは親友だが、流石に王族に対してそんな事は言えない。
「アリサ嬢と順調そうで何よりです」
「『学園で沢山の令嬢がいるから心配です。これを私だと思って持っていてください』って、これもらったんだ」
胸ポケットから大事そうに万年筆を見せつけてくる。
はいはい、ご馳走様。ほんの数年前まで、僕たち将来結婚できるかなぁ……跡継ぎだって、必要なのに。って、心配してたやつとは大違いだ。
まぁ、それに関しては俺もどうしたものかと思っている。両親は俺が結婚して、俺の血を引いた孫に会いたいんだろうが、正直それは難しいと思っている。
一番の可能性は、親族から養子をとるのが現実的だな。
そんな事を考えていたから、アルがなにか言っていたが聞き逃した。
「ミリーはエドがいいんだってさ」
「ん? なにか言ったか?」
「ううん、きっとエドが考えているようなことにはならないと思うよ。とびきり素敵な女の子がエドの事を好きって言ってくれるかもしれないだろって」
「どんな世界線だよ」
そんな風に、ふざけ合っていたら入学式が行われるホールについた。
「アガルト殿下、立派な入学生代表挨拶を期待していますよ」
ニヤリと笑う。
「僕の姿を見て、いったい何人が倒れるか賭けるかい?」
そんな冗談が言えるなら緊張はしていないのだろう。
さぁ、学園生活が始まる。
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