前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ

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「つまり、お兄様はユニーカ大陸出身のリア様に似ていらっしゃるということです。ちゃんとこの王家の血筋です。お父様、お母様。私とても反省しているの。お兄様は私の自業自得なのに、怪我をしても私を守ってくださいました。今まで、お兄様にひどい事をしていた私なのに……とても素敵なお兄様だってやっと気づいたんです。だから!」

 だから、お父様もお母様もあんな噂に惑わされず、もっとお兄様と向き合ってください、そう言おうと思ったのに、お母様は顔をおおって泣いていた。もう、号泣。
 お兄様のもとへ駆け寄って、ギュッと抱きしめ、そこにお父様も来て寄り添う。

「アガルト、今まですまなかった。噂について信じていなかったつもりだが、心のどこかで気にしてしまっていて、お前につらい思いをさせた。もっと早く調べていれば、お前が私達の子で間違いないと分かるのに……私は、目を背けるばかりで。王妃も、信じているつもりだったが、私の態度は君を全然信じていないものだったな。すまん」

「私も、アガルトにひどいことをしてしまいました。ごめんなさい。変な噂を流されて、それに、陛下にも信じてもらえていないみたいだったから……あなたに会うととてもつらかくて、あなたを遠ざけてしまった。きちんと、私から王の子で間違いないと、どんなに疑われても主張するべきでした。本当にごめんなさい」

 お兄様はおろおろされながら、初めて抱きしめられたお母様にそろそろと自分も手を回して抱きしめ返した。

「あの、えっと、大丈夫、です」

 うんうん、良かった。お父様もお母様も、自分の間違いに気づいてくれた。

「ミリー。ありがとう」

 お兄様は、嬉しそうに笑っている。
 お兄様に喜んでもらえて、私も嬉しい。







 食堂にいた人達は、呆気に取られたり、目に涙を浮かべている人もいた。
 こっそりお兄様のことを認めてくれていた人もいたってことかしら。
 これなら意外と早くお兄様の環境も変わるかしら。

 それからやっと、初めての家族みんなでの食事をとることができた。
 給仕の人たちは、食事を出すタイミングをどうしようかだいぶ悩んだことだろう。
 
 色んな誤解は解けたけれど、食事をしながらどこかぎこちない空気が漂う。
 ここは私が話題を提供すべきかしら。

「お父様とお母様の馴れ初めってなんですか?   恋愛結婚だったとお聞きしました」

 お父様がごふっごふっと食事を喉につまらせる。

「だ、誰に聞いたんだい?」

「宰相です」

「なるほど。あー、それはほら……」

 チラとお母様の方を見るお父様。

「詳しいことは陛下に聞くのが一番よ」

 お母様はニコッと微笑む。変なことは言わないように、というような圧を感じる微笑みだ。

「あー、その、なんだ。私がユジーノ王国に留学へ行ったときにユジーノ王国の王女だったアメリアが案内をしてくれることになったんだが、その時に一目惚れをしてだな」

「まぁ!   一目惚れだったんですね!」

 熱烈な猛アプローチの末に結婚したと聞いたけど、一目惚れだったのね。

「それでアメリアに婚約者がいないと知って、私が何度も何度もアプローチをして、やっと結婚してくれたってところかな」

「「へぇ」」

 お兄様と私が同じ反応をしたなか、お母様は満更でもないようなお顔をされている。その説明で、納得している様子。
 それなのにお父様は続けて不審なことを言う。

「まぁ、なんでアメリアが私と結婚してくれたのか今でも分からないんだがね……」

 ショボンとうつむくお父様。
 それを聞いたお母様は驚いている。

「なんでって、サイの事を愛していたから結婚したのでしょ」

「いや、でも、アリーはあの大国の王女だったのに……それにユジーノの公爵令息とも仲が良かっただろ」

 いつの間にか愛称呼びになってますね、お父様にお母様。
 そういえば、いつも二人は王妃呼びに陛下呼びだったわね。

「まさかそれを疑っていたの?   彼とは、いとこ同士で交流する機会が多かっただけよ」

 あれれ、どうしましょう。触れてはいけない内容だったかしら。

「でも、彼には既に婚約者がいただろう。だから君は彼らを見たくなくて、ちょうどあの時求婚してきた、他国の私で手をうったのかと……」

「まぁ!!   そんな風に思われていたなんて、心外だわ」

 やばい、どんどんお母様はヒートアップしていく。

「もし仮にそうだったとして、わざわざ他国へ嫁ぐのなら、もっと他の国にしたわよ。私の父にも何度もユジーノ王国のあなたのもとに嫁ぐのか聞かれたわ。私は、あなただから結婚したの」

 あわあわと慌てて、お母様のもとに駆け寄って手を取るお父様。

「すまなかった。まさか、君が振り向いてくれるとは思っていなかったから、当たって砕けろ精神で君に求婚したんだ。留学中は後悔したくないからずっとアプローチし続けていたけど、最後の日に君は急に受け入れてくれたから何かあるのかと思って……」

「はぁ……仕方がありませんね。私もプライドが邪魔をして、素直になれませんでしたから……そのせいで、何も悪くないアガルトに私達二人がつらい思いをさせました。本当にごめんなさい」

「あの、本当に大丈夫、です。それに、お父様は僕が一人にならないようエドをつけてくれましたし、誕生日のプレゼントにもらった魔法石は僕の瞳の色を探してくれたって、宰相が教えてくれました。お母様は噂がもっとひどくならないよう、敢えて距離を置いてくれていたんですよね。大丈夫、僕はちゃんと分かってます」

 二人はハッとした表情をして、お父様は目頭を押さえるし、お母様は手を口元に添えている。
 そうだったのね……なんだ、お父様もお母様もひどいなんて思ってたけど、ちゃんとお兄様のことを考えてくれていたのね。

 待って、そうなると本当に前世の記憶を思い出す前の私だけがお兄様のことを雑に扱っていたのね……嫌だ、最悪。

「んん。今回は私にも否がありましたから、サイのことを許して差し上げます。ですが、もし今度またこのようなことがあったら……子どもたちを連れて実家に帰らせていただきます」

「もちろんだ。これからは、アリーのことの話もちゃんと聞いて信じるし、アルやミリーのことも大切にするから、ずっと私の側にいてくれ」

「ふふっ。間一髪ですよ。この前、父から『政略結婚でもないのだから、子ども等を連れて戻ってきなさい』と連絡があったの」

 お父様は、さぁーっと顔を青ざめる。
 周りの人々も、顔を青ざめさせている。
 今更ながら、大国出身のお母様に変な噂を流していたんだもの、そりゃぁ焦るわよね。
 でも、良かった。これで正真正銘、家族仲の修復はできたってことでいいわよね!

 この日をさかいに、周囲のお兄様の扱いはガラッと変わることになる。


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