前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)

多賀 はるみ

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 食事を終えて、お兄様は剣の稽古へ、私はお兄様には内緒で宰相のところへ行くことに。

 宰相の仕事部屋へ着く前に、廊下でお目当ての人の後ろ姿を見つけて、声を掛ける。

「宰相、ちょっとお待ちになって」

 歩みを止めて、こちらに振り向く。

「これは、ミリアリア様おはようございます。私は仕事があるので失礼いたします」

 いや、なんでよ。待ってって、言ってるじゃん。

「お仕事よりも、大切なお話があるの。そうね、あなたのお部屋でお話しましょう」

「大切な話ですか?」

「ええ、お父様とお母様とお兄様のことについて」

「……わかりました。部屋でお話をお聞きいたします」

 そう言うと、長い脚でスタスタと自分の部屋に向かってしまった。
 






 宰相の仕事部屋に着いて、中へ入る。当たり前だけど、ザ・仕事部屋って感じ。本棚が沢山あって、ギュウギュウに本が詰まってる。その脇に、申し訳程度に応接セットがあった。そこへ座るように促され、宰相と向かい合うように座る。
 ライザが、お茶を部屋に持ってきてもらうように伝えていたのか、私と宰相が座るのを確認すると目の前にお茶を出してくれた。

「早速なんどけど、宰相はお兄様の噂を知っているのよね?」

 ピクリと眉が動いたのが見て取れた。

「噂とは?」

「お兄様が本当にお父様の子なのかっていう」

 また、ピクピクと眉が動いた。

「そのような噂があるのは存じ上げておりますが、あくまで噂です」

 ピシャリと言い切られる。

「では、なぜそのような噂をそのままにしているの?   だから、お兄様はみんなから侮られているのではないの?」

 いや、お前、どの口で言ってるの?   って、思ってるでしょ。そんなの知ってるから。私の傷をえぐらないでよ。

「……ミリアリア様は、一体何がしたいのですか」

「私……私、今までとても酷いことをお兄様にしてきたってやっと気付いたの。お兄様には謝ったけど、でも、今のままだと周りからお兄様がずっと侮られるんじゃないかと思って。それに、家族みんなで仲良くいたいの。だから、今の状況を変えたいの」

 宰相は、本当に私が心を入れ替えたのか怪しく思っているのだろうけど、正真正銘、私の心はお兄様の地位向上のためだけを思ってる。

「今までの私を知っているから、半信半疑でしょうが、どうかお兄様の為に協力してください」

 ペコリと頭を下げる。

「噂をそのままにしているのは、改めて国王の子だと伝えることで余計に不審に思われないようにとの考えがあってのことです」

 おもむろに宰相が話し始めた。
 さっきまでピリッとした空気だったけど、今なら色々話が聞けそう。

「ちなみに、本当にお父様の子なのよね……?」

「おそらくは……」

「おそらく?」

「確実に王の子である証明をすることは不可能ということです。アガルト様は、あまりにも両親であるお二人に似ておりませんから、王もほんの少し疑う気持ちがあるのだと思います……が、王妃様を信じたいという気持ちがあるのでしょう」

「そもそも、お父様とお母様ってどういう経緯でご結婚されたの?   お母様って、ユジーノ王国のご出身なんでしょ?」

「ええ、王妃のアメリア様はユジーノ王国の第五王女でいらっしゃいました。まだ我が王、サイフォルト様が王太子であった頃、少しの期間ユジーノ王国に留学していた時期があります。その時にアメリア様と知り合い、猛烈なアプローチの末にご結婚に至ったと聞いております」

「え、恋愛結婚って事?   それだけで、お母様は大国からわざわざこんな国へ来たの?」

「こほん。ユジーノ王国と、我が国は友好関係にあります。ええ、恋愛結婚ということになると思いますよ」

 いがーい。今はあんなに距離を取ってる感じだから、何か思惑があっての政略結婚だと思ってた。あれ?   でも、貴族とか王族とかって、私の前世のイメージだと政略結婚ばかりだと思ってたけど違うのかしら?

「お父様とお母様って、その時、婚約者の方はいなかったの?」

「我が国は、何十年か前の王太子が当時の婚約者を冤罪の末、婚約破棄したという事件が起こってしまったために、それ以来貴族や王族の婚約は学校を卒業してからという決まりになっております。また、アメリア様にいたっては、末子だったために政略ではなく好きな相手に嫁ぎなさいと言われていたみたいですよ。まぁ、そういう経緯があるので私は王妃様のことを疑ってなどおりません」

 えぇー。そんな事件があったんだ。
 じゃぁ、ほんとにお父様達って恋愛結婚だったのね。なのに、今ではあんな仮面夫婦のようになってしまって……
 今でも、お互いにお気持ちはあるのかしら?

「お父様達って、お互いにまだ好き合っているのかしら……」

 なんだか、今のお父様達を思うと、悲しい気持ちになってしまい、元気のない声が出てしまった。

「王妃様はどうか分かりかねますが、王は今でも毎年王妃の誕生日にはたくさんのバラの花束を用意して、他にもプレゼントは何がいいか悩んでいる姿は見ますよ」

 あら。お父様はまだまだお母様のことが好きなのね!   それなのに、疑いたくないけどお兄様の容姿がお二人に似ていないことと、噂があってギクシャクしてしまっているってことかしら。

 それなら、お兄様が正真正銘、お二人の子だとわかれば一件落着かも!
 でも、それを証明するのが難しいのよね……
 何か、ないかしら。宝物庫へ行けば、何か少しでも血縁関係の手がかりをつかめる魔法具とかあるんじゃない?

「ありがとう、宰相。私、調べてみるわ!」

 淑女の行いではないけれど、紅茶を一気飲みし、立ち上がる。
 ライザを連れて、次は宝物庫よ!

















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