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第73話 学園長は腹黒狸……?

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 結局あの後、皇太子は『覚えているが良い!』と何処かで聞いた事があるような捨て台詞を言い放ち帰って行った――。
 クワイトスさんがアルと学園長に『本国にはしっかりと現状を伝えます』と言って深々とお辞儀をした後――『早くしろ!』と怒鳴る皇太子を慌てて追いかけて行く――。
 皇太子殿下の護衛とは、こんなに大変なものなのだろうか……。クワイトスさんが心労で倒れたりしないと良いな、と思いながら私は主従の後ろ姿を見送った……。

 「やれ、これで少しは懲りるでしょう」

 「――懲りますかね……?」

 「キャンキャンと良く吠える子犬と言うものは、得てして怖がりじゃ。あの皇太子が、偉そうに見せて・・・おるのは自分に自信が無いからじゃろう……。儂から言わして貰えば、父親を猿真似して自分を繕っとるだけの小心者じゃの。儂に悪態はつくじゃろうが、それ以上の事は出来んと思いますぞ?」

 アルの問いに、学園長はヤレヤレと言いながらそう言った。
 ハッキリ、キッパリと言われた言葉にそうなのだろうか?と皇太子の事を思い出す。もしかしたらあの派手な服装も、構って欲しいだとか自分を見て欲しいだとかの表れだったのかもしれない。
 少なくともこの国のセンスにあってはいないから、誰も近寄れずに遠巻きにされるだけだと思うけどね。
 見るからに危険そうな人に話しかけに行ったりしないと思うんだ……。皇太子のあの服装じゃ、関わったらキケンって言っているようにしか見えない。
 
 「しかし、呼び出された時は何事かと思いましたぞ?」

 「緊急事態だったからね。許して欲しい」

 アルが苦笑しながらそう言った。
 どうやら、学園長がこの場に居たのは偶然でも何でも無かったらしい。アルが枝葉の人に指示を出して学園長にこの場所に来るように伝言を頼んだようだ。
 学園長は、待合室から勝手に動き回っている皇太子殿下を探していた所、頭上から鍛錬場に来るように――と、アルの指示だと書かれた紙が落ちて来たらしい。普通なら不審がって無視してもおかしく無さそうだけれど、学園長はそれを信じて来てくれたのだ。
 枝葉の人がどんな格好をしているのか興味があったので聞いてみようと思ったのだけれど、それだと姿は見て無いよね……少し残念。

 「最悪、口を出すつもりでしたが――まったくそんな必要が無かったですね。その道のプロである学園長に浅はかな心配をしました。『ファラキアの懐刀』は健在のようで、何よりです」

 「おや、『ファラキアの腹黒狸』と言って下さっても構いませんが?」

 アルの言葉にウィンクした学園長がそんな事を言った。
 何の話かと思ったら『ファラキアの懐刀』と『ファラキアの腹黒狸』はかつての学園長の異名らしい――元々、陛下に絶大な信頼を置かれ外交官をされていたとか。
 学園長が、交渉の席につくと――柔和な笑顔で押し切り――怜悧な威圧で恫喝し、裏の無いような顔でファラキアに有利な条件を勝ち取って来ると評判だったらしいです。敵にしてはいけないタイプと見た。
 それが自身の年齢と、大怪我をした所為で外交の為の旅程をこなす事が苦しくなった為に、学園長に就任する事になったのだとか。――丁度、先代理事長の専横も目立って来ていたので、陛下としては牽制させる目的もあったようだ。
 学園長は先々代の理事長に恩があったから、すぐに頷いたらしい。恩人である前に先々代の理事長とは親友と言うべき間柄だったから、先代理事長にとっては小煩い親戚の叔父さんみたいなものだったとか、お小言を言われるのが嫌で先代理事長が学園に来る頻度がガクっと下がったとか……教えてくれた。
 その横顔は、少し寂しそうだった。先代理事長は好きでは無かったけれど、あんな亡くなり方をしたのだ――自分を先代理事長の叔父みたいに思っていた学園長にとっては辛かったんだろうな……。
 少し沈んだ空気を変えるように、アルが「そう言えば――」と言葉を発した。
 
 「父上は『虎の尾』の話をいつ学園長に――?」

 「あぁ、あれですかな??嘘ですぞ――?」

 えっ!!アルと二人で顔を見合わせてしまった。
 陛下を虎に例えて、あちらの国を仔猫扱いしてましたよね??あれが嘘――?あんなに堂々と皇太子に言っていたのに??
 勝手に陛下の名を出したんですか?学園長!!
 私は冷や汗が吹き出しそうな気持ちになった。
 アルは困った顔をして、勝手な事を発言して学園長は大丈夫だろうか?と心配しているような顔になった。それを見た学園長がカラカラと笑い声を上げる。

 「心配めさるな。陛下のご苛立ちは本当の事ですじゃ。かの国が愚かにも陛下が『恭順』したと話しているのも事実――あのお方の性格から考えても、儂が言った事とほぼ変わらぬような事を仰るでしょうな。その辺は長いお付き合いですから、問題ありませぬぞ?殿下はそろそろ定期報告の頃合いかと存じます。ついでにご報告くだされば――あぁ、いや――枝葉の方から話がいきますかの??」

 「そうだな……。あの皇太子が、父上に問い質しに行く事は無いと思うが、報告は早い方が良いと思う――報告させよう」

 学園長、陛下に信頼されていたと言うより、今も・・信頼されているんだろう。お互いに信頼関係が無ければ、許可も取っていないのに一国の国王の名前を出す事も、他国の皇太子にあぁまで激しい釘を刺したりすることも出来ない。
 普通は、そんな勝手な事をすれば、陛下の名を騙る不届きもの!って事で斬首されると思う……。

 「――……それにしても、色々と驚きましたわ――」

 私はそう苦笑しながら学園長に言った。ついでに気になった事も聞いてみる。陛下に聞いた風でも無いのに、その心情を推し量れるだけの情報を学園長が得ている事を不思議に思ったんだよね……。そうしたら、ニッコリ笑った学園長が『昔取った杵柄と言うヤツですな!』と嬉しそうにそんな事を言う。
 どうやら、学園長には外交官時代に作りあげた情報網のようなものがあるらしい。
 それにしても『切磋琢磨』だったり『郷に入っては郷に従え』だったり、学園長――ちょいちょい日本の言葉を使ってるんだけどコレは何故に??

 「ふむふむ。やはり思ったとおりですな。アルフリード殿下もローゼンベルク嬢もヤポンのお生まれだったのでは??」

 学園長の言葉に私達は驚きながらも頷いていた。ヤポンと言うか、正確には日本だけど。
 どうやら、学園長私達の異世界転生の話を聞いて一人でこっそりワクワクしてたらしい。それで、試しに諺とか四字熟語を言ってみたと――。知らない言葉なら『何だろう?』って顔になるけど、知っていたら普通に流して聞くだろう――そう考えたとか。
 実際、皇太子は意味が分かってなさそうだったらしい。

 「おしいね――『にほん』――或いは『にっぽん』が正解かな――その様子だと、あちらの国に興味が?」

 「むむむ――成程、ヤポンでは無いと――実は長年、カックゲンやヨジジュクーゴ、コトゥワザを研究しておりまして……」

 学園長、大変おしいですが、何か違う事になってます……。
 外国の人がカタコトで喋ってる感じに――あ、合ってるのか……?異世界の日本から見れば、学園長――外国人みたいなものだし……。
 それにしても格言とかはカタコトなのに『昔取った杵柄』とかは普通に喋れている不思議――異世界転生した先人が残した言葉なのは分かるけど、伝承されていく間に何があったのだろうか……。
 私とアルは、その内お茶でもしながら、あちらの話を聞かせて下さい――と学園長からお願いされたのだった。
 敵に回したら怖そうだけど、何ともお茶目なお爺ちゃんである。
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 明日ですが、予定が入った為、更新が難しいと思われます。申し訳ありませんがご了承くださいm(_ _)m

 昨日、告知して新たに投稿した『病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。』ですが、予想以上のお気に入り登録を頂き、・小説10位 (?!)・ 恋愛9位(?!!)になりました――?まだちょっと信じられません……。
 聞いた所によると、ホットランキングというのが5位らしいです。……。大丈夫かな、私。

 別の物語ではありますが、こちらのお話から読みに行ってくれた方もいるかもしれないと思い、ご報告を……。
 相乗効果か、『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。』のお気に入り登録も増えてくれてとても嬉しいです!!

 m(_ _)m読んで下さる方がいるからこその物語達です!皆様、本当に有難うございましたm(_ _)m
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