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第69話 鍛錬場。
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アルと皇太子を護衛の人と追いかける。
私が話しかけてしまった所為で、二人は見えなくなってたから少し慌ててしまった――途中、護衛の人は「アルス・ゼル・クワイトス」と名乗ってくれた。私も名乗ろうとしたのだけれど、「存じ上げています……」と言われてしまった。そこにあるのは、やんわりとした拒絶――。
皇太子殿下に名乗らなかったのに、護衛に名乗ったとなれば皇太子の面目を潰す事になってしまう。そこを慮ってくれたのだろう。私は、「浅慮でしたわね……」とそう言って護衛騎士――クワイトスさんの心遣いに感謝した。
最初はクワイトス様と呼んだのだけど、護衛騎士に『様』など着けなくて良いと言われてしまったのだ。
そうは言われても、護衛騎士である前にメルジェド帝国の貴族で年上――呼び捨てで良いって言われても、無理だったので折衷案として『さん』付けになりました。
そんな感じで交流しながら鍛錬場へ――。そこにいたのは、学園長――。どうしてここに?と思ったけれど、笑顔で皇太子殿下と話してらっしゃる。
「いや、急なお越しと伺い、参じましたがお部屋にいらっしゃらないので慌ててしまいました。残念ながら理事長は外出中でして……それで、本日はいったいどうされましたか?」
その話を聞いて、私は「はぁ?」と言いそうになる口を慌てて押さえた。
どうやら、あの皇太子――アポ無しで学園に突撃して来た上に、待っていて欲しいと言われた部屋を無断で出て来たらしい。そりゃ、案内の人も――他の留学生やクワイトスさんも傍にいないよね……。
学園側の都合とか一切無視な所が凄い。先触れの一つぐらい出せる筈なのにね?皇太子が来たらすぐに歓待して貰えるとでも思っているのだろうか……??
学園長はニコニコ笑っている。カンでしか無いから分からないけど、不愉快には思ってそうなんだよね――学園長。でも、態度とかに一切出ていない。役者になれるんじゃなかろうか。
「いや、何――近くを通ったのでな。余が通う事になる学園を見学するのも一興だと思ったのだ!」
喜べ愚民共――!そんな言葉が副音声で聞こえて来そうでゲンナリした。そもそも『余』って王様とかが『私』って意味で使うんじゃ無かったっけ??
もう皇帝のつもりなのだろうか――と突っ込みたい気持ちになったけれど、わざわざ話しかけるのは自爆するだけだと自分を戒めた。
もしかしたら、この世界では王様以外も言ってOKな言葉かもしれないし。
「それはそうと、丁度良い所に来たな。これから、アルフリード王太子と模擬戦をする事になったのだ。だが、ここに来たら鍵が掛かっていると言う。開けよ!」
号令でも掛けるかのように皇太子が手を振った。
袖がキラキラしていて、シャランラとでも効果音が出そうな雰囲気――それにしても『開けよ!』ねぇ……。期待はして無かったけれど、学園長に対する敬意とかも無い訳ですね。
思い通りになるのが当たり前、言う事を聞いてくれて当然――そういう環境で育って来たんだろうな……そんな人間が、なまじ権力がある立場にいるのだから始末に悪い。
自分の事しか考えて無い所とか、思い込みで動く所とかレイナを思い出してゲンナリした。
学園長は、ちらりとアルを見てる。アルは、目を細めて薄ら寒い笑顔で頷いた――……やっぱりお怒りは収まって無かったようだ。背筋がゾワゾワするよ?
学園長は小さく溜息を吐くと、鍛錬場の扉に手を翳した。
私達が鍛錬場を開けるのなら、職員室から鍵を借りて来なければならない。けれど学園長と理事長は学園内のほぼ全ての場所に入る権限を持つ。だから、鍵無しでも問題無いんだろう。
扉全体に、淡い魔法陣が展開した。
何重にも重なるそれらが、ダイヤルキーみたいに右に左に回転してカキン――と音を立てる。その後、ガチャンと大きな音がして、重そうな扉がゆっくりと開いた。
そこは天井部分がガラス張りになったドーム型の広場だ。イメージ的には、スケート場が近いかも。中心にリンクみたいな地面剥き出しの大きな広場があって、その周りを胸くらいの高さの壁が囲む――出入り口として壁が途切れている場所が数か所。
その周囲は広めの通路になっていて、休めるようにベンチが設置されていたりする。
模擬剣等は用具室にあるのだろう。片付けられていて綺麗だった。
――ここ、ほとんどの女子生徒は2学年にならないと用が無いのよね……。
考えてみれば、初めて入るんだよココ。思わず見回してしまった――魔法関係の授業で実技をするようにならないと、私はこの場所を使わないのだ。
1学年の時からこの場所を使うのは『鍛錬』の授業がある男子生徒と、騎士になりたいと希望してる女子生徒のみ。なら、他の女子生徒は何をしているのか――と言われれば、『マナ―』の授業をしております。
お茶や食事等の日常生活のマナ―とか……?それからマナ―とは関係無さそうだけれど、刺繍したりしてる。刺繍もね……刺し方や、刺すモチーフで意味があったりするんです。花言葉とかと一緒だと思って欲しい。女子生徒はその辺を実践しながらお勉強しましょうというものだ。
アルと皇太子は用具室へと歩いて行った――それを見て、私とクワイトスさんは学園長の方へと歩く――。
「私が駆け付ける前に、何やらひと騒動あったようですな?」
「――申し訳、ありません……」
クワイトスさんが、腰を直角に曲げて学園長に謝罪する。
「本来なら、アルフリード王太子殿下にも同様に謝罪すべきなのですが……」
「あぁ、貴方のお立場は理解してます。それで、何がありましたか――?」
忸怩たる思いを隠さずに話すクワイトスさんに、学園長が同情的な顔をしてそう話した。
あの皇太子は、自分が悪い事をしたとは思っていない。しかも、あの感じだと『悪い』と指摘すれば面倒な感じに騒ぎそうだ。下手したら、アルに謝るクワイトスさんを斬り捨てそうで怖い。
私には、その辺の匙加減が困った事に読めないのだ。
クワイトスさん的には、ここで皇太子の前で謝罪するより学園長からアルに言付けて貰うのが、失礼だとしても一番波風の少ない方法だと判断したらしい。
それから、クワイトスさんがあの場であった事を説明してくれた。正直『妾妃』とか口に出すだけで皇太子を殴りたくなりそうだってので、クワイトスさんが説明してくれて助かった。
学園長は、少し遠い目をした後――私の手首を痛ましそうに見た。強い力で握られた所為か、痣が浮いて来ていたのだ。私は気が付かない振りをしてニッコリと笑う。
保険医に見て貰え――と言われるのを避けるためだ。アルが負ける事は無いと思うけれど、それでもこの場にいたかったから……。
「――ふむ。状況は理解しました――……陛下には報告せざるおえませんが、アルフリード殿下なら丸く収めて下さるでしょう。そうすれば、陛下も文句は言いますまい……」
どうやら学園長は、事を大ごとにせずにメルジェド帝国に貸を作る方針にしたらしい。
多分、アルもそうなんじゃ無いかな?じゃ無かったら、さっきの件を『勘違い』なんて方向に持って行かなかったと思う。
それにしても、学園長「文句は」って強調して無かったかな?まぁ、文句は言わないけれど、陛下なら怒りそうな話だよね……。文句は言わないけれど、許す訳じゃ無いって事かな???
「本当に申し訳ありません――令嬢にも謝り切れない事を――」
「私の事は、お気になさらず――」
私は「大丈夫ですわ――」とそう伝えた。だって、多分――アルが私の代わりに戦ってくれるから――。
流石にケチョンケチョン?にはしないと思うけどね……。皇太子の性格を考えれば、そんな事をしたら恨まれて絡まれるだけだもの。
まだ、皇太子だけれど――いずれは皇帝になる人だ。皇帝になった時に私怨で戦争とかしかけられたら堪ったものじゃ無いし。
私は、そんな事を考えながら用具室から出て来るアルと皇太子を見ていた――。
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フラグ管理と、誤字脱字の修正ですが、バタバタしていて途中までしか進んでいません;;状況によっては、完結後に修正を入れる事になりそうです……。
本日も読みに来て頂き、ありがとうございました!!
私が話しかけてしまった所為で、二人は見えなくなってたから少し慌ててしまった――途中、護衛の人は「アルス・ゼル・クワイトス」と名乗ってくれた。私も名乗ろうとしたのだけれど、「存じ上げています……」と言われてしまった。そこにあるのは、やんわりとした拒絶――。
皇太子殿下に名乗らなかったのに、護衛に名乗ったとなれば皇太子の面目を潰す事になってしまう。そこを慮ってくれたのだろう。私は、「浅慮でしたわね……」とそう言って護衛騎士――クワイトスさんの心遣いに感謝した。
最初はクワイトス様と呼んだのだけど、護衛騎士に『様』など着けなくて良いと言われてしまったのだ。
そうは言われても、護衛騎士である前にメルジェド帝国の貴族で年上――呼び捨てで良いって言われても、無理だったので折衷案として『さん』付けになりました。
そんな感じで交流しながら鍛錬場へ――。そこにいたのは、学園長――。どうしてここに?と思ったけれど、笑顔で皇太子殿下と話してらっしゃる。
「いや、急なお越しと伺い、参じましたがお部屋にいらっしゃらないので慌ててしまいました。残念ながら理事長は外出中でして……それで、本日はいったいどうされましたか?」
その話を聞いて、私は「はぁ?」と言いそうになる口を慌てて押さえた。
どうやら、あの皇太子――アポ無しで学園に突撃して来た上に、待っていて欲しいと言われた部屋を無断で出て来たらしい。そりゃ、案内の人も――他の留学生やクワイトスさんも傍にいないよね……。
学園側の都合とか一切無視な所が凄い。先触れの一つぐらい出せる筈なのにね?皇太子が来たらすぐに歓待して貰えるとでも思っているのだろうか……??
学園長はニコニコ笑っている。カンでしか無いから分からないけど、不愉快には思ってそうなんだよね――学園長。でも、態度とかに一切出ていない。役者になれるんじゃなかろうか。
「いや、何――近くを通ったのでな。余が通う事になる学園を見学するのも一興だと思ったのだ!」
喜べ愚民共――!そんな言葉が副音声で聞こえて来そうでゲンナリした。そもそも『余』って王様とかが『私』って意味で使うんじゃ無かったっけ??
もう皇帝のつもりなのだろうか――と突っ込みたい気持ちになったけれど、わざわざ話しかけるのは自爆するだけだと自分を戒めた。
もしかしたら、この世界では王様以外も言ってOKな言葉かもしれないし。
「それはそうと、丁度良い所に来たな。これから、アルフリード王太子と模擬戦をする事になったのだ。だが、ここに来たら鍵が掛かっていると言う。開けよ!」
号令でも掛けるかのように皇太子が手を振った。
袖がキラキラしていて、シャランラとでも効果音が出そうな雰囲気――それにしても『開けよ!』ねぇ……。期待はして無かったけれど、学園長に対する敬意とかも無い訳ですね。
思い通りになるのが当たり前、言う事を聞いてくれて当然――そういう環境で育って来たんだろうな……そんな人間が、なまじ権力がある立場にいるのだから始末に悪い。
自分の事しか考えて無い所とか、思い込みで動く所とかレイナを思い出してゲンナリした。
学園長は、ちらりとアルを見てる。アルは、目を細めて薄ら寒い笑顔で頷いた――……やっぱりお怒りは収まって無かったようだ。背筋がゾワゾワするよ?
学園長は小さく溜息を吐くと、鍛錬場の扉に手を翳した。
私達が鍛錬場を開けるのなら、職員室から鍵を借りて来なければならない。けれど学園長と理事長は学園内のほぼ全ての場所に入る権限を持つ。だから、鍵無しでも問題無いんだろう。
扉全体に、淡い魔法陣が展開した。
何重にも重なるそれらが、ダイヤルキーみたいに右に左に回転してカキン――と音を立てる。その後、ガチャンと大きな音がして、重そうな扉がゆっくりと開いた。
そこは天井部分がガラス張りになったドーム型の広場だ。イメージ的には、スケート場が近いかも。中心にリンクみたいな地面剥き出しの大きな広場があって、その周りを胸くらいの高さの壁が囲む――出入り口として壁が途切れている場所が数か所。
その周囲は広めの通路になっていて、休めるようにベンチが設置されていたりする。
模擬剣等は用具室にあるのだろう。片付けられていて綺麗だった。
――ここ、ほとんどの女子生徒は2学年にならないと用が無いのよね……。
考えてみれば、初めて入るんだよココ。思わず見回してしまった――魔法関係の授業で実技をするようにならないと、私はこの場所を使わないのだ。
1学年の時からこの場所を使うのは『鍛錬』の授業がある男子生徒と、騎士になりたいと希望してる女子生徒のみ。なら、他の女子生徒は何をしているのか――と言われれば、『マナ―』の授業をしております。
お茶や食事等の日常生活のマナ―とか……?それからマナ―とは関係無さそうだけれど、刺繍したりしてる。刺繍もね……刺し方や、刺すモチーフで意味があったりするんです。花言葉とかと一緒だと思って欲しい。女子生徒はその辺を実践しながらお勉強しましょうというものだ。
アルと皇太子は用具室へと歩いて行った――それを見て、私とクワイトスさんは学園長の方へと歩く――。
「私が駆け付ける前に、何やらひと騒動あったようですな?」
「――申し訳、ありません……」
クワイトスさんが、腰を直角に曲げて学園長に謝罪する。
「本来なら、アルフリード王太子殿下にも同様に謝罪すべきなのですが……」
「あぁ、貴方のお立場は理解してます。それで、何がありましたか――?」
忸怩たる思いを隠さずに話すクワイトスさんに、学園長が同情的な顔をしてそう話した。
あの皇太子は、自分が悪い事をしたとは思っていない。しかも、あの感じだと『悪い』と指摘すれば面倒な感じに騒ぎそうだ。下手したら、アルに謝るクワイトスさんを斬り捨てそうで怖い。
私には、その辺の匙加減が困った事に読めないのだ。
クワイトスさん的には、ここで皇太子の前で謝罪するより学園長からアルに言付けて貰うのが、失礼だとしても一番波風の少ない方法だと判断したらしい。
それから、クワイトスさんがあの場であった事を説明してくれた。正直『妾妃』とか口に出すだけで皇太子を殴りたくなりそうだってので、クワイトスさんが説明してくれて助かった。
学園長は、少し遠い目をした後――私の手首を痛ましそうに見た。強い力で握られた所為か、痣が浮いて来ていたのだ。私は気が付かない振りをしてニッコリと笑う。
保険医に見て貰え――と言われるのを避けるためだ。アルが負ける事は無いと思うけれど、それでもこの場にいたかったから……。
「――ふむ。状況は理解しました――……陛下には報告せざるおえませんが、アルフリード殿下なら丸く収めて下さるでしょう。そうすれば、陛下も文句は言いますまい……」
どうやら学園長は、事を大ごとにせずにメルジェド帝国に貸を作る方針にしたらしい。
多分、アルもそうなんじゃ無いかな?じゃ無かったら、さっきの件を『勘違い』なんて方向に持って行かなかったと思う。
それにしても、学園長「文句は」って強調して無かったかな?まぁ、文句は言わないけれど、陛下なら怒りそうな話だよね……。文句は言わないけれど、許す訳じゃ無いって事かな???
「本当に申し訳ありません――令嬢にも謝り切れない事を――」
「私の事は、お気になさらず――」
私は「大丈夫ですわ――」とそう伝えた。だって、多分――アルが私の代わりに戦ってくれるから――。
流石にケチョンケチョン?にはしないと思うけどね……。皇太子の性格を考えれば、そんな事をしたら恨まれて絡まれるだけだもの。
まだ、皇太子だけれど――いずれは皇帝になる人だ。皇帝になった時に私怨で戦争とかしかけられたら堪ったものじゃ無いし。
私は、そんな事を考えながら用具室から出て来るアルと皇太子を見ていた――。
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フラグ管理と、誤字脱字の修正ですが、バタバタしていて途中までしか進んでいません;;状況によっては、完結後に修正を入れる事になりそうです……。
本日も読みに来て頂き、ありがとうございました!!
応援ありがとうございます!
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