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第64話 急転。

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 ※流血等の表現があります……※
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 陛下と言う嵐が去ってから数日――学園の理事長が変わった。
 そう、ルクスさんだ――。アルが、以前話していた事を実行したからだろうと私はそう思った。けど、壇上にいるルクスさん――改め理事長は、何処か顔色が悪かった。
 緊張してるから――?ううん。多分違う。何か心配事があるから……私にはそう思えた。
 結果を言えば、私のカンは当たってた。
 理事長が壇上で挨拶をしているその時――前理事長は行方不明、理事長夫人は死亡。ワルステッドは生死の境を彷徨っていたのだ……。
 それを聞いたのは、休日の理事長室――呼び出されたのは、魔王研究会の全員だった。
 部屋に入れば、奥の机の前に緊張した面持ちの理事長――その左側にウォルフ先輩。それから、学園長が右側に立っていた。

 「急な呼び立てをして申し訳ない――……本日付を持って陛下より皆様へ協力するように要請を受けました」

 理事長はそう言うと、左手の甲を見せた。学園長も同じように左手を私達の方に掲げる。
 二人とも、小さく何事か呟くと左手が光って何か紋章が浮かんで来た――。

 「――……誓約紋か――……」

 遠い昔、奴隷制度があった頃――奴隷の舌に刻まれた紋を改良し、約束事を破らせない強制効果を持たせたものである。『沈黙の誓い』の強制力が高いバージョンだと思って貰えれば良いかも。その誓約方法は様々。中には誓いを破れば死ぬようなものまであった。だからだろう――アルの顔色が蒼い。 
 
 「殿下――これは我々から陛下にお願いしたのです。どうかお気になさらず」

 理事長の言葉を聞いて、アルがホッを息を吐く。
 理事長は、先に『沈黙の誓い』をしてから陛下に話を聞いたらしいのだけれど、聞いた後、それ以上の強制力を持った誓いをすべきだと判断。陛下にそう進言したらしい。
 その理由は、自分の身内が色々やらかしてるのでその方が安心して貰えるだろうと判断したから。学園長は、そんな理事長にお付き合いしたと笑ってた。
 死ぬかもしれない誓約を、付き合いでしちゃうのか……。学園長は割と茶目っ気があるお爺ちゃんらしい。

 「そうそう。あ、儂は理事長が暫く忙しそうじゃからの?連絡要員位の扱いじゃから。宜しくの」

 学園長はそう言ってウィンクした。
 その後、「まぁの――出無精で人とあまり関わらないウォルフが所属しとる研究会じゃからのぅ……まぁ、その内なんかコッチにも話が来そうじゃなぁとは思ってたんだがの」と、ウォルフ先輩を苦笑して見ながらそんな事を言った。壇上に居た時とは口調が違うけれど、多分コッチが素の口調なんだろう。
 ほぼ初対面な状況だけれど、学園長がこの口調で話してくれているのは私達の緊張を和らげようとしてくれているような気がした。

 「後、陛下から――『勝手に話して悪かったな』と伝言を貰っとる。先代の理事長の件がのぅ――」
 
 「――そうですね……。その件が無ければこんな緊急に知らされる事は無かったかと……――実は父が行方不明になっていたのですが、昨日――死体で発見されました。拷問の形跡があります……。つまり、犯人は何かを父から聞きだしたかったと言う可能性があると言う事です……」

 理事長の言葉に皆が息を飲んだ。
 その後、理事長が説明してくれた事はこうだ――その日、理事長は先代理事長やワルステッドの悪事を暴く手伝いをする為に家族には『王城から納税の書類の不備があったと連絡があったので、出かけて来る――』と説明して家を空けたのだと言う。
 エルダルトン伯爵家が奴隷商とやりとりしていた手紙などの証拠の精査など、確認作業が多くあり、その日は王城に泊まる事になったらしい。
 エルダルトン伯爵家では、夜中に侵入者があったようだった。ここからは想像が含まれるけれど、おそらく隣室の物音に気が付いた夫人が前理事長の部屋に。そこで、侵入者の存在に気が付き悲鳴を上げた。
 おそらくその声に近くの部屋に居たワルステッドが駆け付け――爆裂魔法を使った形跡が残されている。夫人は喉を切られ絶命。ワルステッドも、喉を狙われたらしいけれど、浅い傷しか無く、片足を落され心臓を穿たれていたと……。普通は左にある心臓だけれど、ワルステッドの心臓は右側――それで即死は免れたらしい。
 その騒ぎに気が付いた執事長さんが見たのは、血を流して倒れる理事長夫人とワルステッド、黒服の人物が二人、呻き蠢く袋を抱えていた――おそらくそれが理事長……。
 執事長さんも攻撃されたらしいけれど、軽傷で済んだ。幸いにも賊は前理事長を連れて行く事を優先したらしい。黒服二人は目の前から忽然と消えたと言う。
 
 「転移魔法が開発されたとは聞いていないのですが……まさしくそんな風だったとか。けれど、侵入時はテラスから窓を割った痕跡が残されているので、自由な転移は出来ないのかもしれません」

 侵入方法は『焼き破り』――小さな魔術を使い、衝撃音を出さず短時間で侵入したようだ。
 拷問の手口からもその道のプロの犯行だと思われているけれど、ヒロインの時と同様・・・・・・・・・足取りが掴めない――と言うか目の前で消えたのだから、掴みようが無かった。
 そして、ある仮説が出て来る。ヒロインの足取りが追えないのは同じ方法で連れ去られたのでは無いかと言う事だ。前理事長が、何の情報を引き出す為にそんな目に遭ったのかも分からない。
 だからこそ、陛下は理事長になったルクスさんや学園長にも情報を教えたのだろう……。陛下は、学園内で私達を守れる立場にある人達が状況を理解してくれていた方が、私達が動きやすいと考えたのだ。

 「ワルステッドですが……意識は戻らないかもしれません。心臓が一時停まったのですが、心拍が戻るまでにかなりの時間が掛かりました――……意識が戻ったとしても、普通の生活には戻れないでしょう」

 「じゃからの、ルクス――いや、理事長がエルダルトン伯爵を継ぐ事に決まったんじゃ。まぁ、この件が無かったとしても、そうなる予定じゃったんだがの」

 理事長とワルステッドは、どちらにしても奴隷の売買をしようとしていた咎で罰を受ける予定だったらしい。この国に出入りしている奴隷商も一緒に捕まえたいと考えられていて、理事長を泳がせている最中の事件だったとか……。
 だから、奴隷商が捜査の手が及ぶ事を知ってこんな事をしたのでは?と言う話も出ているらしい。それに関しては、陛下と父が『殺すだけで済む筈』と疑念を呈しているらしいけど……。
 確かに、それなら口封じだけで事足りそうな話だ。拷問とか――いらないと思うよね……。
 
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