36 / 117
第27話 エルフ先輩は警戒心が強い。
しおりを挟む
図書館通いが日課になって来た頃――、アルが図書館に来るまでの間、本を読んでいた時だった。読んでいた本に影が差す――……。
顔を上げれば真っ黒のフード付きポンチョに身を包んだ人がいた。顔は分からない。フードが口元まで下りていたからだ。
――見た事がある気が……?
そう思って記憶を探る。ちょっと不審者に見えるこの人を何処で見たのだろう。こんなインパクトがある人物、一度見たら忘れそうも無いのに……。
そこで、ハッとなった。これ、『認識ずらしのマント』だ!
そうだ、そうそう!ゲームの中でのヒロインのお助けキャラその②の人だよこの人!!
魔法のマントで人の認識をずらして、その場にいるのに気付かれないように出来るんだよね。魔法はオンオフが可能だから、この人は今、効果を切っているのだと思う。
確か、トゥルーエンドだかに行く為に、この人の協力が必要だったはず――?
でも、出会う為にはフラグ立てないといけないんだ、確か。一つは入学してから一カ月以内に、一定回数図書館に『幽霊』を探しに行く事。
誰もいない筈なのに人影が――とか、右に置いてあった筈の本が左に――みたいな幽霊話が図書館にあって、その秘密を解きに行くんじゃ無かったかな……?
他にも面倒そうな条件があって、レイナがフラグの立てかた分からないってイライラしながら言ってたはず。確か名前は――
「梟……?」
思わず呟いた言葉に、その人が驚いた気配がした。
「驚いたな……僕の事、誰かから聞いたの?その名前は仕事相手にしか名乗ってないんだけどにゃあ……」
――……にゃあ――だと?
もしや、獣人の方ですか?南の国に多いと言う?ぬこ様でしょうか??猫好きですけど、本当にぬこ様??
期待を込めて見ていたら、口にも出して言っていたらしい。
「残念ながら獣人じゃないにゃあ。語尾でそう思ったんだろうけど、『にゃあ』って言うのはユクレース王国の田舎の村の方言だにゃあ」
友達のラグが教えてくれて、最近のお気に入りだにゃあとその人は言った。
猫じゃ――ないのかぁ――……。
「まさか猫獣人じゃなかっただけで、そんなに落ち込まれるとは――えぇっとゴメンネ?」
物凄く申し訳なさそうにそう言って、その人がフードを取る。
私はポカンと口を開けた。
零れおちる金糸の髪――新緑の若葉のような碧の瞳――尖って長い耳――え?この人が「にゃあ」って言ってたの???
「えぇっと、ウォルフリンドバーグ――……トゥワイス?――ティエルラル、シュルフ先輩?」
つっかえつっかえだったけど、多分ちゃんと間違えずに言えたはず……。はずだよね?
エルフな先輩は、少し目を細めた後――にこりと微笑んだ。神々しい微笑みだ。目が潰れそう……。
「うん。君達がここずっと探していたウォルフリンドバーグ・トゥワイス・ティエルラルシュルフだね。覚え難いでしょ?オウルは仕事相手に名乗っている名前だから、ウォルフとでも呼んでくれるかな?――王太子殿下の婚約者のお嬢さん――それから、王太子殿下――」
ウォルフ先輩の言葉に振り向けば、すぐそばまでアルが来ていた。ウォルフ先輩にビックリし過ぎてアルの気配にまったく気が付かなかったらしい。
「自己紹介は必要ないよ。君達が誰かは、今言ったように調べて知っているから――ごめんね?好奇心の強い新入生が面白半分に僕をさがしているのかと思って無視しようかと思っていたんだよ――ハイエルフはここいらじゃ珍しいからね。けれど、ルディが一緒にいたから本当に僕に用があるかもしれないって思ったんだ」
ルディ?――あぁ……ルドルフ――ベルク先生の事かな?
先生も一緒に探してくれていたから、物見遊山や面白半分で探してるんじゃないと思ってくれたらしい。けれど、ウォルフ先輩としては過去に色々あったから、確信が出来るまで――というより私達の素性の調べがつくまでマントで隠れていたようだ。そりゃ探しても見つからない訳だよね。
「……それでは俺達は、ウォルフ先輩に信用に足ると思って頂けたのでしょうか?」
「そうだねぇ。信用には正直まだ足りないけれど、少なくとも話を聞いても良いと思ってるよ。特に、君達は僕の顔を見ても驚きはしたけれど、変な執着とかしなかったし。僕はね、一目ぼれって大嫌いなんだよ。男でも女でもさ、恋って免罪符があれば何しても良いって思ってやがる」
笑顔なのに、ギリリと歯の軋む音がしましたよ?
「――……気が合いますね。俺も同意見です。あぁいった手合いは払いのけてもすぐに湧いて来る――」
アルは多分前世の経験とか、今世でも婚約者の私がいても迫られる事があったみたいだから、それを思い出してるんだろう。だから、ウォルフ先輩の気持ちが分かったんだと思うんだ?けど――……
黒い――黒いですよ?!
無茶苦茶黒い笑顔を浮かべた二人が、ガッシリと握手を交わしてらっしゃる!
物凄く、意気投合?
「アイツ等は黒光りする虫と一緒」だとか「滅べばいいのに!」と語り合ってる……。二人とも苦労したんですね。というか、サラリとウォルフ先輩『男でも女でもさ、恋って免罪符があれば――』って言ってたよね……?男の人にも迫られたんですね??
まぁ、一見性別不明の美人さんだからなぁ……。声を聞けば男性だって分かるけど。けど、ノーマルの男性が、男から迫られても気持ち悪いだけだよね。
それから、話はウォルフ先輩の武勇伝になった――。ウォルフ先輩に迫った男性がどうなったか――私は聞いてはいけないものを聞き、人の心の闇深さを知りました。
半泣きで震える私に気がついてくれたのはアルが先で、私は二人に平謝りされる事になったのだった。
___________________________________________________________________________________
次に一話、短めの閑話を挟みます。
顔を上げれば真っ黒のフード付きポンチョに身を包んだ人がいた。顔は分からない。フードが口元まで下りていたからだ。
――見た事がある気が……?
そう思って記憶を探る。ちょっと不審者に見えるこの人を何処で見たのだろう。こんなインパクトがある人物、一度見たら忘れそうも無いのに……。
そこで、ハッとなった。これ、『認識ずらしのマント』だ!
そうだ、そうそう!ゲームの中でのヒロインのお助けキャラその②の人だよこの人!!
魔法のマントで人の認識をずらして、その場にいるのに気付かれないように出来るんだよね。魔法はオンオフが可能だから、この人は今、効果を切っているのだと思う。
確か、トゥルーエンドだかに行く為に、この人の協力が必要だったはず――?
でも、出会う為にはフラグ立てないといけないんだ、確か。一つは入学してから一カ月以内に、一定回数図書館に『幽霊』を探しに行く事。
誰もいない筈なのに人影が――とか、右に置いてあった筈の本が左に――みたいな幽霊話が図書館にあって、その秘密を解きに行くんじゃ無かったかな……?
他にも面倒そうな条件があって、レイナがフラグの立てかた分からないってイライラしながら言ってたはず。確か名前は――
「梟……?」
思わず呟いた言葉に、その人が驚いた気配がした。
「驚いたな……僕の事、誰かから聞いたの?その名前は仕事相手にしか名乗ってないんだけどにゃあ……」
――……にゃあ――だと?
もしや、獣人の方ですか?南の国に多いと言う?ぬこ様でしょうか??猫好きですけど、本当にぬこ様??
期待を込めて見ていたら、口にも出して言っていたらしい。
「残念ながら獣人じゃないにゃあ。語尾でそう思ったんだろうけど、『にゃあ』って言うのはユクレース王国の田舎の村の方言だにゃあ」
友達のラグが教えてくれて、最近のお気に入りだにゃあとその人は言った。
猫じゃ――ないのかぁ――……。
「まさか猫獣人じゃなかっただけで、そんなに落ち込まれるとは――えぇっとゴメンネ?」
物凄く申し訳なさそうにそう言って、その人がフードを取る。
私はポカンと口を開けた。
零れおちる金糸の髪――新緑の若葉のような碧の瞳――尖って長い耳――え?この人が「にゃあ」って言ってたの???
「えぇっと、ウォルフリンドバーグ――……トゥワイス?――ティエルラル、シュルフ先輩?」
つっかえつっかえだったけど、多分ちゃんと間違えずに言えたはず……。はずだよね?
エルフな先輩は、少し目を細めた後――にこりと微笑んだ。神々しい微笑みだ。目が潰れそう……。
「うん。君達がここずっと探していたウォルフリンドバーグ・トゥワイス・ティエルラルシュルフだね。覚え難いでしょ?オウルは仕事相手に名乗っている名前だから、ウォルフとでも呼んでくれるかな?――王太子殿下の婚約者のお嬢さん――それから、王太子殿下――」
ウォルフ先輩の言葉に振り向けば、すぐそばまでアルが来ていた。ウォルフ先輩にビックリし過ぎてアルの気配にまったく気が付かなかったらしい。
「自己紹介は必要ないよ。君達が誰かは、今言ったように調べて知っているから――ごめんね?好奇心の強い新入生が面白半分に僕をさがしているのかと思って無視しようかと思っていたんだよ――ハイエルフはここいらじゃ珍しいからね。けれど、ルディが一緒にいたから本当に僕に用があるかもしれないって思ったんだ」
ルディ?――あぁ……ルドルフ――ベルク先生の事かな?
先生も一緒に探してくれていたから、物見遊山や面白半分で探してるんじゃないと思ってくれたらしい。けれど、ウォルフ先輩としては過去に色々あったから、確信が出来るまで――というより私達の素性の調べがつくまでマントで隠れていたようだ。そりゃ探しても見つからない訳だよね。
「……それでは俺達は、ウォルフ先輩に信用に足ると思って頂けたのでしょうか?」
「そうだねぇ。信用には正直まだ足りないけれど、少なくとも話を聞いても良いと思ってるよ。特に、君達は僕の顔を見ても驚きはしたけれど、変な執着とかしなかったし。僕はね、一目ぼれって大嫌いなんだよ。男でも女でもさ、恋って免罪符があれば何しても良いって思ってやがる」
笑顔なのに、ギリリと歯の軋む音がしましたよ?
「――……気が合いますね。俺も同意見です。あぁいった手合いは払いのけてもすぐに湧いて来る――」
アルは多分前世の経験とか、今世でも婚約者の私がいても迫られる事があったみたいだから、それを思い出してるんだろう。だから、ウォルフ先輩の気持ちが分かったんだと思うんだ?けど――……
黒い――黒いですよ?!
無茶苦茶黒い笑顔を浮かべた二人が、ガッシリと握手を交わしてらっしゃる!
物凄く、意気投合?
「アイツ等は黒光りする虫と一緒」だとか「滅べばいいのに!」と語り合ってる……。二人とも苦労したんですね。というか、サラリとウォルフ先輩『男でも女でもさ、恋って免罪符があれば――』って言ってたよね……?男の人にも迫られたんですね??
まぁ、一見性別不明の美人さんだからなぁ……。声を聞けば男性だって分かるけど。けど、ノーマルの男性が、男から迫られても気持ち悪いだけだよね。
それから、話はウォルフ先輩の武勇伝になった――。ウォルフ先輩に迫った男性がどうなったか――私は聞いてはいけないものを聞き、人の心の闇深さを知りました。
半泣きで震える私に気がついてくれたのはアルが先で、私は二人に平謝りされる事になったのだった。
___________________________________________________________________________________
次に一話、短めの閑話を挟みます。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
756
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる