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第16話 ヒロインの変化
しおりを挟む「冬に、村の池に氷が張ったんです。子供だけで行ってはいけないと言われていたんですが……」
大きいお兄ちゃん達が、楽しそうに氷の上を滑るのが家の窓から良く見えたのだと言う――。
「義姉は乗り気じゃ無かったんですが、俺はどうしても遊びに行きたくて……」
だから、義弟君はヒロインを連れて池に行ったのだ。池には子供達が多く遊んでいた。大体が年長の兄や姉と来ているようで、紛れるように池の上に立ったヒロインと義弟君も、誰か年長者が付いて来ていると思われたらしい。
池で遊んでいた子達が知っていて、義弟君達が知らなかった事がある。それは、氷の厚さが違う所があると言う事だった。木陰になっているあたりは氷が厚く安全だけれど、左奥の日当たりが良い方は氷が薄かったのである。
それを知らない二人は、自然と人が少なく滑りやすそうな方へと進んで行った。もちろん華麗に滑れる訳じゃないから尻もちをつきながらだ。
立って歩けるようになったヒロインが先を行く。
『おい!そっちは危ないぞ!!』
遠くからそんな声が聞こえた時だった。氷が割れてヒロインは池に落ちた――。
「幸い、近くにいた大人が助けてくれて義姉は助かりました。けれど、それから一週間高熱にうなされたんです――そして起きた時、彼女は変わっていた……」
高熱――異世界転生等で、前世の記憶を思い出すテンプレの一つだったはず……。階段から落ちたり、池に落ちたりもあったっけ。じゃあ、ヒロインはその時に前世を思い出した……?
そう思ったのは、アルも一緒のようだったけれど、義弟君から出た言葉の続きはちょっと予想外のものだった。
「女神様が現れた――と」
その言葉に『?』マークを頭に浮かべる。それは熱に浮かされた幻覚と言う事だろうか???
「女神様が、夢で啓示をくれるのだそうです……」
高熱が下がって、義弟君がヒロインに謝りに行った時――興奮した彼女は、義弟君にお礼を言ったのだと言う。『池に落ちて、熱が出たから女神様の世界に行けたのよ!』――と。
『私、女神様の世界に行っていたの!!すごーく大きな石の塔がたくさんあってね?そこにすごく綺麗な女神様がいたのよ!女神様の世界では、絵が動くの。その絵の中に私がいたわ!!名前も一緒だったの……その絵の中の私は、とってもステキな王子様たちと恋をするのよ?』
うっとりと話す義姉の言葉の意味が彼にはまったく理解できなかったと言う。
けれど、私とアルには理解ができる話だった。
石の塔というのはおそらくビルだろう。動く絵と言うのは多分、テレビの事だ。その女神様が誰だかは分からないけれど、ヒロインがテレビに出ていて素敵な王子様と恋をするって事はゲームの事だろうと思う。
これで、余計に分からなくなった。
私が生まれ育った街は大きな街だったけれど、沢山のビルがあるような都会じゃ無い。かといって、ヒロインがそのビルを見たのもテレビの中という可能性もある。
女神様もだ。
テレビに出ていた人なのか、それとも、ゲームをプレイしていた人なのか――?
今、可能性として考えられるのは……。
①ヒロインは転生者。断片的な記憶を思い出した為に、前世の自分の事を女神様だと思っている。
②ヒロインの中に、あちらの記憶を持った人物が入り込んでいる――仮に憑依者とでも呼んでおこうか……。
後は……、
③高熱を出して幽体離脱したヒロインが、あちらの世界を旅して帰って来た――とか?
可能性としてはこんな所だろうか??
③に関しては正直可能性は低いと思ってるけどね……。ヒロインが、悪役令嬢やら、システム――主人公補正とかを何の違和感無く話していたし、万が一前世の世界に幽体離脱して行ってた場合でもね――?
言葉、分からないと思うのよ。
そう考えると、③はやっぱり無いかなぁ……。
ヒロインへの対処法と、レイナかどうか探るヒントがあればと思っていたのに、より一層謎が深まってしまった。
「それから先はクリス先輩も知ってる通りです。他人の迷惑を顧みず、必要な事だからと俺や義母の話を聞かない――もう出来る事なんて引きずって帰るくらいしか出来なくて――」
義弟君は『出会いは完璧なんだけど――なんで上手くいかないのかなぁ?』そう話す義姉を宥めすかし、時には怒り対処して来た。
ヒロインが自分のせいで変わってしまったと義弟君は思っていたから、負い目もあって何とかしようとしてたらしい。
それは父親が事故で亡くなった後、自分と血が繋がって無いにも関わらず苦労して育ててくれている義母への申し訳無さもあったようだ。けれど――
『また、女神様の世界に行って来たの!!やっぱり間違いないわ!私は幸せになる運命なのよ!!』
高熱を出したあの時以降もヒロインは夢でゲームの世界を見続けたらしい――そしてヒロインは変わってしまった。年を経るごとに、ヒロインから優しさが欠如していったのだ――。
将来は皇太子妃になるか、貴族の妻、或いは大商人の妻になるのだから――私は選ばれた人間なの、と。我儘になって、義母を思いやる事も少なくなった。
それでも、義弟君はいつか以前の優しかった義姉に戻ってくれる筈だと思っていたのだと言う――。
そんな事は起こらなかったのだけど……。
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