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第5話 地雷系ヒロインの爆誕。
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入学式を終えてアルと一緒に歩きながら教室へと向かう。
「アル……彼女を見まして?」
「あぁ、講堂に入って来た時に……」
「それでは――その、どうでしたの??」
不安を隠して笑顔を浮かべる――周りからは密やかに楽しげに婚約者と話しているように振る舞って。アルもちゃんとそこは理解していてくれて、楽しそうな笑顔を浮かべてから「どうとも」と呟いた。
「動悸がする訳でも、彼女から目が離せなくなった訳でも無いね。今の所は大丈夫だ」
その言葉に、私の口元が思わず緩む。
――良かった……。
今の所、魅了されたりとかは無いらしい。後は会話をした後に変化があるかどうかだろうか……ヒロインとはクラスが一緒の筈なので、その時に試してみようとアルとは話していた。そんな時である――
「アルさまぁ!」
キラッきらのアニメ声が耳を打った。それと共に、私の横を歩くアルの腕に手が伸ばされる。揺れるピンク色の髪――翡翠のような緑の瞳が一瞬私を睨んだ後、喜色を浮かべてアルを見上げた。
ザワザワとしていた周囲がシンッとなる。それはそうだろう。いくら平等を謳い、身分の区別なく学ぶ事を理想とした学園内でおいてもコレは無い。
仮にもアルは一国の王太子――身分の区別なく平等と言っても、普通はこんな事は出来やしない。ましてや、婚約者の前で愛称で呼ぶなんて喧嘩を売っているようなものである。
けれど、彼女はヒロイン……ばっちりと目があった以上、アルに変化が起こっているかもしれない……。そう考えて私はアルの方を見上げた。
アルは、私と目を合わせて優しく微笑んだ後、冷徹とも思える表情を浮かべて彼女を見た。
「手を――離してくれないか?君は私の事を知っているようだが、私は君を知らない。親しい者にしか許していない呼び方をされては困る」
アルはそう言うと、サッと彼女から手を引き抜いた。言われた彼女はキョトンとした顔をしている。アルの言葉に周囲からはヒソヒソとした声が聞こえて来ていた。
『あれは誰だ?』『何て礼儀知らず』『流石に無礼すぎるだろ……』色々な声が聞こえているのに、彼女は困惑した顔の後、「主人公補正って普通あるんじゃ無いの――?」と呟いた。
その言葉に、私はアルと視線を交わす。
彼女がレイナかどうか正直確信は持てない。けれど、少なくとも彼女が転生者である事は確実だろう……。
「あ、失礼しましたぁ。憧れの王太子殿下が目の前にいらしたので、思わず?私、首席合格する筈だったエリシャ・ネージュです。平民ですけど、優しい殿下は身分なんて気になさらないですよね??気軽にエリシャって呼んで下さいね」
小首を傾げて可愛らしく上目づかいに……動きがあざとい……。彼女の言葉に私は頭を抱えたくなった。
首席合格する筈だったってどういう意味……?身分を気にし無い相手になら何をしても良いと思っているの??最低限の礼儀とかあるじゃんね??突っ込むべきか――正直、彼女に対応するのはアル、私はなるべく口は出さずアルの横でただニッコリ笑ってるだけにしよう――って話し合って決めた事を後悔したくなった。
ほら、私が口出しすると聖女サマを苛めた事にされて悪役令嬢断罪ルートが発生するかもしれないじゃない?一応、その対策のつもりだったんだけど……。
周囲からの嫌悪の視線からしても、罪を捏造されて断罪ルートとかにはならなさそうだ。
「いい加減になさいまし!失礼でしてよ!!」
綺麗なドリル――いえ赤髪の令嬢が意を決したように前に進み出た。ツンと上がった眦の所為でちょっとキツめに見えるけど、綺麗な令嬢である。
「あれ?悪役令嬢って二人いたっけ?」そう呟いた後、ヒロインが赤髪の令嬢に噛みつくように吠える。
「平民だからって差別するんですか!」
「何でそこで平民かどうかが出て来ますの?本当に理解できない方――身分がどうこう何て言ってませんわ。常識的に考えて、自己紹介すらしていない見ず知らずの人に街中でいきなり手を掴まれて名前を呼ばれたら、貴方どう思いますの」
冷やかな目でそう言われて、ヒロインは目を泳がせながら黙り込んだ。助けを求めるように周囲を見たけれど、誰も目を合わそうとはしない。
「エリザベス様――先日のお茶会以来でしたかしら……。このような状況の中、声を上げるのは中々出来る事ではありませんわ。ありがとうございます」
私は軽く目を伏せて謝意を表した後、笑顔を浮かべて赤髪の令嬢――エリザベス様を見た。かつて、王太子殿下の婚約者候補は8人いた――その内の一人がエリザベス・ラナ・ベルシュタイン公爵令嬢――アルとは従兄妹となる彼女である。
特に派閥が違うとか言う事も無いけれど、王太子の婚約者となった私となれなかった彼女――周囲の目はそう見るもので挨拶くらいで互いの名前は知っていても親しく話した事は無かったんだよね。
「アリスティア様――いえ、差し出がましい事を致しました。お恥ずかしい。けれど、どうしても我慢が出来ませんでしたの……」
「お兄様にはいつも注意されてしまうのですが……」そう言ってエリザベス様は恥ずかしそうに目を伏せた。その後、少しはにかむように私に笑いかけてくれる。その顔を見ればアルのためだけでは無く、私の事も心配して声を上げてくれたのだと理解出来た。優しくて可愛い人だなぁ……。私は今まで彼女に話しかけなかった事を後悔した。
あ、ちなみに彼女のお兄様で赤毛の次期公爵である所のベルナドット様が攻略対象その2だったりする。
エリザベス様は確かゲーム内ではスチルとか無いんだよね。ベルナドット様との会話の中で妹がいる事が出て来るだけだ。
「いいえ、差し出がましいだなんて……私、こんな風にエリザベス様に心を配って頂けるなんて思っていませんでしたの……だから、嬉しくて――もしお嫌でなかったら、これから親しくして頂けないかしら……」
おずおずと、正直な気持ちを口に出してみた。ぜひ、この令嬢と友達になりたい。
「アリスティア様がそう望んで下さるなら喜んで!私、前々からアリスティア様とお話してみたかったのです……」
エリザベス様が本当に嬉しそうに笑って下さったので、私も心からの笑顔を浮かべた。
この国に公爵家は二つだけ。一つは、王弟を始祖に戴くベルシュタイン公爵家。騎士として活躍した王妹が興したローゼンベルク家――王家を除けば、私達の家が一番家格が高い。友人と呼べる人達がいない訳では無いけれど、気にし無くて良いと言っても、どうしても気を使われる事が多い関係になっていて……。
それは少し寂しいものだったのである。けれど、エリザベス様となら――
「酷い。やっぱり平民なんて無視しても良いと思ってるんですね!」
何でそうなる――私は思わず出そうになる言葉を飲み込んで、彼女の方を見た……。
「アル……彼女を見まして?」
「あぁ、講堂に入って来た時に……」
「それでは――その、どうでしたの??」
不安を隠して笑顔を浮かべる――周りからは密やかに楽しげに婚約者と話しているように振る舞って。アルもちゃんとそこは理解していてくれて、楽しそうな笑顔を浮かべてから「どうとも」と呟いた。
「動悸がする訳でも、彼女から目が離せなくなった訳でも無いね。今の所は大丈夫だ」
その言葉に、私の口元が思わず緩む。
――良かった……。
今の所、魅了されたりとかは無いらしい。後は会話をした後に変化があるかどうかだろうか……ヒロインとはクラスが一緒の筈なので、その時に試してみようとアルとは話していた。そんな時である――
「アルさまぁ!」
キラッきらのアニメ声が耳を打った。それと共に、私の横を歩くアルの腕に手が伸ばされる。揺れるピンク色の髪――翡翠のような緑の瞳が一瞬私を睨んだ後、喜色を浮かべてアルを見上げた。
ザワザワとしていた周囲がシンッとなる。それはそうだろう。いくら平等を謳い、身分の区別なく学ぶ事を理想とした学園内でおいてもコレは無い。
仮にもアルは一国の王太子――身分の区別なく平等と言っても、普通はこんな事は出来やしない。ましてや、婚約者の前で愛称で呼ぶなんて喧嘩を売っているようなものである。
けれど、彼女はヒロイン……ばっちりと目があった以上、アルに変化が起こっているかもしれない……。そう考えて私はアルの方を見上げた。
アルは、私と目を合わせて優しく微笑んだ後、冷徹とも思える表情を浮かべて彼女を見た。
「手を――離してくれないか?君は私の事を知っているようだが、私は君を知らない。親しい者にしか許していない呼び方をされては困る」
アルはそう言うと、サッと彼女から手を引き抜いた。言われた彼女はキョトンとした顔をしている。アルの言葉に周囲からはヒソヒソとした声が聞こえて来ていた。
『あれは誰だ?』『何て礼儀知らず』『流石に無礼すぎるだろ……』色々な声が聞こえているのに、彼女は困惑した顔の後、「主人公補正って普通あるんじゃ無いの――?」と呟いた。
その言葉に、私はアルと視線を交わす。
彼女がレイナかどうか正直確信は持てない。けれど、少なくとも彼女が転生者である事は確実だろう……。
「あ、失礼しましたぁ。憧れの王太子殿下が目の前にいらしたので、思わず?私、首席合格する筈だったエリシャ・ネージュです。平民ですけど、優しい殿下は身分なんて気になさらないですよね??気軽にエリシャって呼んで下さいね」
小首を傾げて可愛らしく上目づかいに……動きがあざとい……。彼女の言葉に私は頭を抱えたくなった。
首席合格する筈だったってどういう意味……?身分を気にし無い相手になら何をしても良いと思っているの??最低限の礼儀とかあるじゃんね??突っ込むべきか――正直、彼女に対応するのはアル、私はなるべく口は出さずアルの横でただニッコリ笑ってるだけにしよう――って話し合って決めた事を後悔したくなった。
ほら、私が口出しすると聖女サマを苛めた事にされて悪役令嬢断罪ルートが発生するかもしれないじゃない?一応、その対策のつもりだったんだけど……。
周囲からの嫌悪の視線からしても、罪を捏造されて断罪ルートとかにはならなさそうだ。
「いい加減になさいまし!失礼でしてよ!!」
綺麗なドリル――いえ赤髪の令嬢が意を決したように前に進み出た。ツンと上がった眦の所為でちょっとキツめに見えるけど、綺麗な令嬢である。
「あれ?悪役令嬢って二人いたっけ?」そう呟いた後、ヒロインが赤髪の令嬢に噛みつくように吠える。
「平民だからって差別するんですか!」
「何でそこで平民かどうかが出て来ますの?本当に理解できない方――身分がどうこう何て言ってませんわ。常識的に考えて、自己紹介すらしていない見ず知らずの人に街中でいきなり手を掴まれて名前を呼ばれたら、貴方どう思いますの」
冷やかな目でそう言われて、ヒロインは目を泳がせながら黙り込んだ。助けを求めるように周囲を見たけれど、誰も目を合わそうとはしない。
「エリザベス様――先日のお茶会以来でしたかしら……。このような状況の中、声を上げるのは中々出来る事ではありませんわ。ありがとうございます」
私は軽く目を伏せて謝意を表した後、笑顔を浮かべて赤髪の令嬢――エリザベス様を見た。かつて、王太子殿下の婚約者候補は8人いた――その内の一人がエリザベス・ラナ・ベルシュタイン公爵令嬢――アルとは従兄妹となる彼女である。
特に派閥が違うとか言う事も無いけれど、王太子の婚約者となった私となれなかった彼女――周囲の目はそう見るもので挨拶くらいで互いの名前は知っていても親しく話した事は無かったんだよね。
「アリスティア様――いえ、差し出がましい事を致しました。お恥ずかしい。けれど、どうしても我慢が出来ませんでしたの……」
「お兄様にはいつも注意されてしまうのですが……」そう言ってエリザベス様は恥ずかしそうに目を伏せた。その後、少しはにかむように私に笑いかけてくれる。その顔を見ればアルのためだけでは無く、私の事も心配して声を上げてくれたのだと理解出来た。優しくて可愛い人だなぁ……。私は今まで彼女に話しかけなかった事を後悔した。
あ、ちなみに彼女のお兄様で赤毛の次期公爵である所のベルナドット様が攻略対象その2だったりする。
エリザベス様は確かゲーム内ではスチルとか無いんだよね。ベルナドット様との会話の中で妹がいる事が出て来るだけだ。
「いいえ、差し出がましいだなんて……私、こんな風にエリザベス様に心を配って頂けるなんて思っていませんでしたの……だから、嬉しくて――もしお嫌でなかったら、これから親しくして頂けないかしら……」
おずおずと、正直な気持ちを口に出してみた。ぜひ、この令嬢と友達になりたい。
「アリスティア様がそう望んで下さるなら喜んで!私、前々からアリスティア様とお話してみたかったのです……」
エリザベス様が本当に嬉しそうに笑って下さったので、私も心からの笑顔を浮かべた。
この国に公爵家は二つだけ。一つは、王弟を始祖に戴くベルシュタイン公爵家。騎士として活躍した王妹が興したローゼンベルク家――王家を除けば、私達の家が一番家格が高い。友人と呼べる人達がいない訳では無いけれど、気にし無くて良いと言っても、どうしても気を使われる事が多い関係になっていて……。
それは少し寂しいものだったのである。けれど、エリザベス様となら――
「酷い。やっぱり平民なんて無視しても良いと思ってるんですね!」
何でそうなる――私は思わず出そうになる言葉を飲み込んで、彼女の方を見た……。
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