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おまけのおまけ 悪役令嬢の父ですが、娘は愛でるものだと思う。
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この世界には悪しき慣習があった。それは『悪役令嬢』である……。誰が言い始めたのか、どうしてそうなったのかをハッキリと語れる者は最早存在しない。
ただ――数多の悪役令嬢を成敗する物語があり、実際に『悪役令嬢』が起した騒動や事件が歴史書に載っているのだ。だから、この世界に於いて『悪役令嬢』という存在はそういうモノでしか無かった。
ただ、顔つきが少々怖いだけで酷い言われようである。
私の妻は美しい。自慢の妻だ。
けれど、一生懸命産んでくれた私の娘は――所謂『悪役令嬢』と呼ばれる存在だった。
若い頃ヒロイン顔であった事を誇りにしているクソババ――……いや、母が『我が家に悪役令嬢が誕生するなんて!ありえないわ!!浮気でもされたのでは無くて?』と脳みそが入っているか分からない発言をした時――私は『悪役令嬢』という存在に疑問を持った。
そもそもそれまで悪役令嬢とかどうでも良いや――位の認識だったのだけれど、ちょっと目つきが悪いだけで悪役令嬢と呼ばれる事になった愛娘が可哀想で仕方がなくなったのだ。
この時、私は初めて母親と大ゲンカをした。私の愛するミレディが浮気とかあり得ない。そもそも、エヴァンジェリンは私にそっくりなのに浮気も何も無いだろう??
それまで、母の事を尊敬していたからショックだったなぁ……。
しかも、母は私の父にベタボレだったんだぞ??格好良いってな?私にそっくりな親父だった。なんならアッチの方が目つきが悪い。それに惚れているのだ――エヴァンジェリンの事も私にそっくりで可愛いわねと言ってくれると思うじゃないか……。悪役令嬢――その認識が母の目を狂わせていたんじゃ無いかと思う。
その後母は、珍しく父に滅茶苦茶怒られてそれ以降『浮気』と言う認識は無くなったようだけれど――。
『私とクリフトにそっくりなのに、ミレディさんが浮気をしている訳が無いだろう!』
今は亡き父のあの言葉に、母は納得したらしい。が――『悪役令嬢』そのままの容姿に関しては、納得出来なかったようだ。私や、父の前ではあからさまに言ったりしないけれど、ミレディやエヴァンジェリンに色々言っていたようなのだ――けど、私や父がミレディやエヴァンジェリンに聞いても『何もありませんわ』と笑うだけ……。
ウチの妻と娘が優し過ぎる……。
父や、私が母を愛している事を知っていたから、そんな風に言ってくれたのだろう。まぁ、私の母への愛情は?ガンガン削られて行った訳だが……。
なるべく二人と母が会わないよう協力者である父と一緒に別邸に移ってもらったのだけれど、会う回数は減らせても会わない訳じゃ無いしな……。会う時に私か父が傍にいるようにしたけれど、母が目を盗んではチクチク言っていたと知ったのは最近の事――。守れてるつもりで守り切れてなかった事で凹んだ。
父が亡くなった後、過熱してたらしい……。
母より酷かったのは妹だ。寄子――あぁ、この国には派閥によって寄親と寄子の関係が出来る。私は公爵なので寄親という立場で寄子と呼ばれる派閥の下位の者を保護する義務を持つ。疑似的な親子関係と言えば良いだろうか?
妹はそんな寄子であるクレバー伯爵家に嫁に行った。
幼い頃は可愛がっていたのだけれど、ミレディと婚約する少し前から何故か彼女に突っかかるようになったんだよな……。ミレディはヒロイン顔では無いものの、美人だったし交際していた頃から母のお気に入りだったので妹は面白く無かったのかもしれない。
――エヴァンジェリンが産まれて、状況は一変してしまったのだが……。
モチロン、さっきの問題だな。あの時から、母はミレディに冷たくなったし――また間の悪い事に、それから数週間後に産まれた妹の娘がヒロイン顔だった。しかも、育てば若い頃の母にそっくりになるだろうと言う感じの。
妹は、ほんのちょこっと目つきが悪いだけで、平凡な顔だと母からは思われていて寂しい思いをしていたから有頂天になった。母も妹の娘の事は手放しで褒めたし。
『兄さんの所は可哀想ねぇ――』
そうニヤニヤ笑った妹が、ミレディに自分の娘を見せてる時はマジで殴ろうかと思った。
その気配を察した義弟が謝りながらサッサと連れて帰ったけれど。はぁ……。不良債権を押し付けたかな?と思ったけれど、ミレディが絡まなければ妹は理想的な伯爵夫人が出来ているらしい。
『その執着さえ捨ててくれれば完璧なんですが……歪んだコンプレックスって難しいんですよね――』と、疲れた感じの義弟が言ったのが脳裏に過る。
それから暫く後の事だ――私はとある紳士に声を掛けられてある紳士クラブに通う事になった。
表向きは『葉巻を愛でる会』と呼ばれているそこは、厳正な審査を通るか会員の勧誘を受けるかしないと入れない紳士クラブだ。その実態は『悪役令嬢を愛でる会』――悪役令嬢が好きな者――家族にいる者、恋人である者――そんな者達が集う会である。
エヴァンジェリン程の『悪役令嬢』は中々いなかったけれど、目つきが悪いだとか、ドリルの呪いが掛かっているとか様々な者達が存在するのだ。悪役令嬢だ!と言われなくても、その特徴から『あの人、悪役令嬢みたいよね……』と言われてしまう令嬢は確かに存在したのである。
だが、我々は!
そんな悪役令嬢こそを愛した同志!!
見た目だけで陰口を言われて傷つく彼女達の心をささやかなプレゼントや手紙で癒したり(モチロン、信頼関係は先に築いてからだよ?怖がらせちゃうからね)、時には支え――時には叱咤し、見守り愛でる事を至上とする会である……。
侍女のアネッテも連れて来れたら良かったのだけど……ここ、男子専用の紳士クラブだからねぇ……。
まぁ、彼女は最近『エヴァンジェリン様見守り隊』初代名誉顧問に就任したらしいのだけど。『何それ羨ましい!』と言ったら、私にも名誉顧問の座をくれた。
まぁ、公爵が学園に行ってその会に参加出来る筈も無いから、名前だけなんだけどさ?嬉しいよね!!うんうん、アネッテは本当に出来る侍女だよ。エヴァンジェリンの話を一緒に楽しく出来るから、茶飲み友達になったしね。
オマケと言うには大物だけど、アネッテの関係で『宵闇の錬金術師』君も我が家に就職する事になったし、まぁ、公爵家の将来は安泰かな?あぁ、陛下には話しておいたよ。彼も秘密裏だとしても王家の庇護下にあるって事実は必要そうに見えたし。陛下と言えば――
「最初はどうなる事かと思ったけどねぇ……」
あのクソ王子。
王子としては優秀な方だよ?仕事もできるしね??けど、あのウザったい正義感だけは頂けなかったんだよねぇ……。
本当は愛娘を政治的な道具として使いたくなんて無かった……。好きな人を愛し愛されて結婚して欲しかったしね。けれど、我が家は公爵家。そんな我儘は許されない。
だから涙を飲んで婚約させたのに!!
良く調べもしないで、せめて当人に確認するとかすれば良いのに!!正義感だけで突っ走って優しいエヴァンジェリンを傷付けるとか、万死に値する!!!
何て言ったかな?絶許??そうだよ絶許!!!そんな感じだったよ、本当にね!!
だから、婚約なんて解消しようと思ったんだよ。だけど、継続はエヴァンジェリンが許可しちゃったって言うじゃないか――。お父さん、上げた拳を何処に持って行けば良いのさ……。
でさ?また王太子が可愛く無いのさ。
さりげなく、結婚式の前倒しをエヴァンジェリンに了承させてるし……。私と陛下に呼び出されて陛下の執務室に入って来た瞬間、ドゲザしたんだよ。
んでもって、私の罵詈雑言や嫌味をセイザしたまま聞き続けた。何なら、殺気も込めたから普通の人間だったら白目を剥いて気絶したと思うけど、王子は私の目を真っ直ぐに見て言い訳の一つも言わなかった。
それから、滔々とエヴァンジェリンに対する愛を、私の話し以上に長く語った訳だ。
熱意に負けた。と言うか、根負けした――。
王子のエヴァンジェリンへの愛だけは本物のようだったので、婚約の継続を許可したよ。エヴァンジェリン、コイツの事好きだしねぇ……。
この件が王子には良い経験になったらしい。正義感で突っ走らなくなったしね。何よりも一方の主張だけで判断し無くなったのは良い事だ。だからってエヴァンジェリンにした事を許す訳じゃないぞ???そう思ってたのに――
「腹立たしい事この上ないんですが、王子とお嬢様を会わせようかと……」
アネッテが『不本意ですが』という表情をしながらそう言った。良く聞けば、バカ王子に会えない事でエヴァンジェリンが苦しんでいたらしい。
ナニソレ?
ぐぬぬぬぬぬ!何と言う事だ!!あの王子にご褒美をやるのは腹立たしいのに、そうしないとエヴァンジェリンが苦しんじゃうの……?事実、その日の昼食の席でエヴァンジェリンは打ちひしがれた様に落ち込んでいた……。
仕方なく、本当に仕方なく王子と会わせる許可を与えたけれど、こんなに落ち込んでいるなんて……。
――そうだ!あの子猫!!
私は閃いて、急いで学園へと向かった。
あの映像に出て来た子猫――あの猫を連れて帰ればエヴァンジェリンはきっと喜ぶはず!!!幸い学園長は知り合いだったので学園内に入れて貰い子猫を捜索した。
引っ掻かれた。
無茶苦茶威嚇された――そんなに私の顔は怖いだろうか……??
察しの良い妻が迎えに来るまで数十分。結局逃げられた。何なら、掴もうとして逃げられて……ズベッと転ぶ格好の悪い所を妻に見られた。泣きたい。
「あらあら……」
そう言いながら私の傷の手当てをしてくれる妻。
「私の顔、そんなに怖いだろうか……」
「まぁ、違うわよ。元々リツちゃんは人に慣れない子らしいから……エヴァンジェリンが特別なのよ?それなのに、貴方ったら追いかけたりしちゃうんですもの……嫌がられるのは当然よ?」
顔が怖い所為じゃ無くて、捕まえようとする行動が悪かったのだと窘められた。
成程――エヴァンジェリンに良かれと思って、当の猫の事をまったく考えていなかったのが敗因か……これでは王子に文句が言えないでは無いか……。流石に少し落ち込んだ。
「エヴァンジェリンが落ち込んでいるから、慰めたかったのでしょう?――貴方のそう言う所、大好きよ?けど、リツちゃんには今度謝りに来ましょうね??」
男と言うのは単純である。
愛する妻に諭されれば、素直に頷けるのだから。傷薬を塗りながら優しくそう言うミレディを見る。愛しい妻と、愛しい娘がいる事の幸福を改めて私は噛みしめた――。
その後、エヴァンジェリンが「お父様――猫を飼いたいのですけど……」と恥ずかしそうにおねだりした時、公爵とアネッテが悶え死にそうになったのは周知の話――。
公爵家にリツが引き取られた後――公爵はリツとの関係の改善を試みるも、随分と長い間警戒される事になってしまった。賢いリツは『襲撃者』を覚えていたからである。
公爵は、まずリツに姿を見せて貰えない所から始まり、何カ月も後に遠方からオヤツを食べて貰う事に成功――エヴァンジェリンが結婚し子供を産んだ後――ようやっと気まぐれに触らせてくれるようになったらしい。
公爵は現在、孫とリツにデレデレである。
____________________________________________________
短め、とは???
あ、そうだ、あれもこれもあったなぁ……と入れていったら短い『おまけのおまけ』では無くなるとゆー。
公爵の話に需要はあるんでしょうか……とか根本的な事に疑問を感じながらも、ちょっと楽しく書かせて頂きました。
次はリツの『おまけのおまけ』の予定です。
ただ――数多の悪役令嬢を成敗する物語があり、実際に『悪役令嬢』が起した騒動や事件が歴史書に載っているのだ。だから、この世界に於いて『悪役令嬢』という存在はそういうモノでしか無かった。
ただ、顔つきが少々怖いだけで酷い言われようである。
私の妻は美しい。自慢の妻だ。
けれど、一生懸命産んでくれた私の娘は――所謂『悪役令嬢』と呼ばれる存在だった。
若い頃ヒロイン顔であった事を誇りにしているクソババ――……いや、母が『我が家に悪役令嬢が誕生するなんて!ありえないわ!!浮気でもされたのでは無くて?』と脳みそが入っているか分からない発言をした時――私は『悪役令嬢』という存在に疑問を持った。
そもそもそれまで悪役令嬢とかどうでも良いや――位の認識だったのだけれど、ちょっと目つきが悪いだけで悪役令嬢と呼ばれる事になった愛娘が可哀想で仕方がなくなったのだ。
この時、私は初めて母親と大ゲンカをした。私の愛するミレディが浮気とかあり得ない。そもそも、エヴァンジェリンは私にそっくりなのに浮気も何も無いだろう??
それまで、母の事を尊敬していたからショックだったなぁ……。
しかも、母は私の父にベタボレだったんだぞ??格好良いってな?私にそっくりな親父だった。なんならアッチの方が目つきが悪い。それに惚れているのだ――エヴァンジェリンの事も私にそっくりで可愛いわねと言ってくれると思うじゃないか……。悪役令嬢――その認識が母の目を狂わせていたんじゃ無いかと思う。
その後母は、珍しく父に滅茶苦茶怒られてそれ以降『浮気』と言う認識は無くなったようだけれど――。
『私とクリフトにそっくりなのに、ミレディさんが浮気をしている訳が無いだろう!』
今は亡き父のあの言葉に、母は納得したらしい。が――『悪役令嬢』そのままの容姿に関しては、納得出来なかったようだ。私や、父の前ではあからさまに言ったりしないけれど、ミレディやエヴァンジェリンに色々言っていたようなのだ――けど、私や父がミレディやエヴァンジェリンに聞いても『何もありませんわ』と笑うだけ……。
ウチの妻と娘が優し過ぎる……。
父や、私が母を愛している事を知っていたから、そんな風に言ってくれたのだろう。まぁ、私の母への愛情は?ガンガン削られて行った訳だが……。
なるべく二人と母が会わないよう協力者である父と一緒に別邸に移ってもらったのだけれど、会う回数は減らせても会わない訳じゃ無いしな……。会う時に私か父が傍にいるようにしたけれど、母が目を盗んではチクチク言っていたと知ったのは最近の事――。守れてるつもりで守り切れてなかった事で凹んだ。
父が亡くなった後、過熱してたらしい……。
母より酷かったのは妹だ。寄子――あぁ、この国には派閥によって寄親と寄子の関係が出来る。私は公爵なので寄親という立場で寄子と呼ばれる派閥の下位の者を保護する義務を持つ。疑似的な親子関係と言えば良いだろうか?
妹はそんな寄子であるクレバー伯爵家に嫁に行った。
幼い頃は可愛がっていたのだけれど、ミレディと婚約する少し前から何故か彼女に突っかかるようになったんだよな……。ミレディはヒロイン顔では無いものの、美人だったし交際していた頃から母のお気に入りだったので妹は面白く無かったのかもしれない。
――エヴァンジェリンが産まれて、状況は一変してしまったのだが……。
モチロン、さっきの問題だな。あの時から、母はミレディに冷たくなったし――また間の悪い事に、それから数週間後に産まれた妹の娘がヒロイン顔だった。しかも、育てば若い頃の母にそっくりになるだろうと言う感じの。
妹は、ほんのちょこっと目つきが悪いだけで、平凡な顔だと母からは思われていて寂しい思いをしていたから有頂天になった。母も妹の娘の事は手放しで褒めたし。
『兄さんの所は可哀想ねぇ――』
そうニヤニヤ笑った妹が、ミレディに自分の娘を見せてる時はマジで殴ろうかと思った。
その気配を察した義弟が謝りながらサッサと連れて帰ったけれど。はぁ……。不良債権を押し付けたかな?と思ったけれど、ミレディが絡まなければ妹は理想的な伯爵夫人が出来ているらしい。
『その執着さえ捨ててくれれば完璧なんですが……歪んだコンプレックスって難しいんですよね――』と、疲れた感じの義弟が言ったのが脳裏に過る。
それから暫く後の事だ――私はとある紳士に声を掛けられてある紳士クラブに通う事になった。
表向きは『葉巻を愛でる会』と呼ばれているそこは、厳正な審査を通るか会員の勧誘を受けるかしないと入れない紳士クラブだ。その実態は『悪役令嬢を愛でる会』――悪役令嬢が好きな者――家族にいる者、恋人である者――そんな者達が集う会である。
エヴァンジェリン程の『悪役令嬢』は中々いなかったけれど、目つきが悪いだとか、ドリルの呪いが掛かっているとか様々な者達が存在するのだ。悪役令嬢だ!と言われなくても、その特徴から『あの人、悪役令嬢みたいよね……』と言われてしまう令嬢は確かに存在したのである。
だが、我々は!
そんな悪役令嬢こそを愛した同志!!
見た目だけで陰口を言われて傷つく彼女達の心をささやかなプレゼントや手紙で癒したり(モチロン、信頼関係は先に築いてからだよ?怖がらせちゃうからね)、時には支え――時には叱咤し、見守り愛でる事を至上とする会である……。
侍女のアネッテも連れて来れたら良かったのだけど……ここ、男子専用の紳士クラブだからねぇ……。
まぁ、彼女は最近『エヴァンジェリン様見守り隊』初代名誉顧問に就任したらしいのだけど。『何それ羨ましい!』と言ったら、私にも名誉顧問の座をくれた。
まぁ、公爵が学園に行ってその会に参加出来る筈も無いから、名前だけなんだけどさ?嬉しいよね!!うんうん、アネッテは本当に出来る侍女だよ。エヴァンジェリンの話を一緒に楽しく出来るから、茶飲み友達になったしね。
オマケと言うには大物だけど、アネッテの関係で『宵闇の錬金術師』君も我が家に就職する事になったし、まぁ、公爵家の将来は安泰かな?あぁ、陛下には話しておいたよ。彼も秘密裏だとしても王家の庇護下にあるって事実は必要そうに見えたし。陛下と言えば――
「最初はどうなる事かと思ったけどねぇ……」
あのクソ王子。
王子としては優秀な方だよ?仕事もできるしね??けど、あのウザったい正義感だけは頂けなかったんだよねぇ……。
本当は愛娘を政治的な道具として使いたくなんて無かった……。好きな人を愛し愛されて結婚して欲しかったしね。けれど、我が家は公爵家。そんな我儘は許されない。
だから涙を飲んで婚約させたのに!!
良く調べもしないで、せめて当人に確認するとかすれば良いのに!!正義感だけで突っ走って優しいエヴァンジェリンを傷付けるとか、万死に値する!!!
何て言ったかな?絶許??そうだよ絶許!!!そんな感じだったよ、本当にね!!
だから、婚約なんて解消しようと思ったんだよ。だけど、継続はエヴァンジェリンが許可しちゃったって言うじゃないか――。お父さん、上げた拳を何処に持って行けば良いのさ……。
でさ?また王太子が可愛く無いのさ。
さりげなく、結婚式の前倒しをエヴァンジェリンに了承させてるし……。私と陛下に呼び出されて陛下の執務室に入って来た瞬間、ドゲザしたんだよ。
んでもって、私の罵詈雑言や嫌味をセイザしたまま聞き続けた。何なら、殺気も込めたから普通の人間だったら白目を剥いて気絶したと思うけど、王子は私の目を真っ直ぐに見て言い訳の一つも言わなかった。
それから、滔々とエヴァンジェリンに対する愛を、私の話し以上に長く語った訳だ。
熱意に負けた。と言うか、根負けした――。
王子のエヴァンジェリンへの愛だけは本物のようだったので、婚約の継続を許可したよ。エヴァンジェリン、コイツの事好きだしねぇ……。
この件が王子には良い経験になったらしい。正義感で突っ走らなくなったしね。何よりも一方の主張だけで判断し無くなったのは良い事だ。だからってエヴァンジェリンにした事を許す訳じゃないぞ???そう思ってたのに――
「腹立たしい事この上ないんですが、王子とお嬢様を会わせようかと……」
アネッテが『不本意ですが』という表情をしながらそう言った。良く聞けば、バカ王子に会えない事でエヴァンジェリンが苦しんでいたらしい。
ナニソレ?
ぐぬぬぬぬぬ!何と言う事だ!!あの王子にご褒美をやるのは腹立たしいのに、そうしないとエヴァンジェリンが苦しんじゃうの……?事実、その日の昼食の席でエヴァンジェリンは打ちひしがれた様に落ち込んでいた……。
仕方なく、本当に仕方なく王子と会わせる許可を与えたけれど、こんなに落ち込んでいるなんて……。
――そうだ!あの子猫!!
私は閃いて、急いで学園へと向かった。
あの映像に出て来た子猫――あの猫を連れて帰ればエヴァンジェリンはきっと喜ぶはず!!!幸い学園長は知り合いだったので学園内に入れて貰い子猫を捜索した。
引っ掻かれた。
無茶苦茶威嚇された――そんなに私の顔は怖いだろうか……??
察しの良い妻が迎えに来るまで数十分。結局逃げられた。何なら、掴もうとして逃げられて……ズベッと転ぶ格好の悪い所を妻に見られた。泣きたい。
「あらあら……」
そう言いながら私の傷の手当てをしてくれる妻。
「私の顔、そんなに怖いだろうか……」
「まぁ、違うわよ。元々リツちゃんは人に慣れない子らしいから……エヴァンジェリンが特別なのよ?それなのに、貴方ったら追いかけたりしちゃうんですもの……嫌がられるのは当然よ?」
顔が怖い所為じゃ無くて、捕まえようとする行動が悪かったのだと窘められた。
成程――エヴァンジェリンに良かれと思って、当の猫の事をまったく考えていなかったのが敗因か……これでは王子に文句が言えないでは無いか……。流石に少し落ち込んだ。
「エヴァンジェリンが落ち込んでいるから、慰めたかったのでしょう?――貴方のそう言う所、大好きよ?けど、リツちゃんには今度謝りに来ましょうね??」
男と言うのは単純である。
愛する妻に諭されれば、素直に頷けるのだから。傷薬を塗りながら優しくそう言うミレディを見る。愛しい妻と、愛しい娘がいる事の幸福を改めて私は噛みしめた――。
その後、エヴァンジェリンが「お父様――猫を飼いたいのですけど……」と恥ずかしそうにおねだりした時、公爵とアネッテが悶え死にそうになったのは周知の話――。
公爵家にリツが引き取られた後――公爵はリツとの関係の改善を試みるも、随分と長い間警戒される事になってしまった。賢いリツは『襲撃者』を覚えていたからである。
公爵は、まずリツに姿を見せて貰えない所から始まり、何カ月も後に遠方からオヤツを食べて貰う事に成功――エヴァンジェリンが結婚し子供を産んだ後――ようやっと気まぐれに触らせてくれるようになったらしい。
公爵は現在、孫とリツにデレデレである。
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短め、とは???
あ、そうだ、あれもこれもあったなぁ……と入れていったら短い『おまけのおまけ』では無くなるとゆー。
公爵の話に需要はあるんでしょうか……とか根本的な事に疑問を感じながらも、ちょっと楽しく書かせて頂きました。
次はリツの『おまけのおまけ』の予定です。
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