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おまけ 宵闇の錬金術師の結婚①
しおりを挟む「――それで……?私に会いたいと言ったのは、どんな理由からかね?」
目の前にいる公爵閣下を見る。
髭がダンディなオジサマだ。性別と年齢的な差はあるけれど、見た目も色もお嬢様そっくり。目つきだけ言うなら、お嬢様は吊り目の可愛い猫。こちらは目つきの悪い豹だ。フンワリした可愛さが無い分、公爵の方が凶悪に見える。
俺はアネッテに「将来の相談をしたい――」と言い、公爵と会えるようにして貰ったのだ。
普通だったら――ただの一介の侍女が公爵サマとの繋ぎが出来る筈が無い。しかも、こんなフワっとした理由でだ。だけど、そこはお嬢様への愛が溢れてる二人の事である。
茶飲み友達だそうだ。
ん?もう一回、言うべきか??茶 飲 み 友 達 だ!
ありえねぇ。侍女と公爵だぞ??奥様も同席してるらしいが、色々問題あるんじゃ無いか??菓子の代わりにお嬢様(愛娘)への愛を語り合ってるらしい。
まぁ、その話を聞いて思ったのだ。――そんな状況なら、面会させて貰えるんじゃね??俺。――なんなら手札も揃ってる。公爵家にとっても悪い話じゃないしな……。
何で、俺がこんな行動を取ったかと言えば、勿論アネッテの希望である『公爵家のタウンハウス』が大部分を占めていたけれど、大きな理由がもう一つ。
まぁ、こっちもアネッテだけどな……。
アイツ、お嬢様を守る為にテンション上がってたと思うんだよ……。で、今は王子を邪魔する事に燃えてるから良いんだけど、それが落ち着いたらさ――我に返ると思うんだ。
――幼馴染と結婚。
その事実の実感が出て来た時、逃げ腰になりそうなんだよな……。アイツ。
で、俺は考えた。
アネッテが我に返る前に、引きかえす余地も――グダグダ足踏みする余地も与えなければ良いんじゃね?と――。だから、とっととお嬢様の件を片付けて、コッチに手を付けたかった訳だ。
で、昨日――朝の暗いうちから出て、昼頃に実家に着いて俺の両親に報告――、夕方都合が合ったのでアネッテの両親に報告――んでもってそのままトンボ帰り――今朝帰って来たワケです。
アネッテには言って無い。
この件が終わったら、ゆっくり二人で帰省して改めて報告する予定。
「――まずはお忙しいのに、俺みたいなのに会って下さってありがとうございます。公爵様に会いたいと願った理由は単純です。俺を買って貰おうと思ったからです――アネッテと結婚する為に」
「――ほう?」
公爵様は、少し面白そうな顔をした後――片眉を上げて、俺の言葉を促した。
「俺の名前はテッド・ロディックですが――他にも呼ばれている名があります……。『宵闇の錬金術師』と言えば、公爵様も理解して下さるのでは無いかと……」
「正体が分からないとされている、不世出の錬金術師か――君、もしかして転生者かね……?」
ふむ――と言った後、公爵はそう言って俺をじっと見た……。
その言葉に、俺は少しだけ自信なく頷いた――そして「多分――」と答える。
「多分?」
「えぇ――はい……。俺には前世の記憶が完全にある訳じゃ無いんです。自分が何処の誰――性別がどうだったかすら分かりません。けど、俺はこの世界じゃない場所を覚えていました――科学という技術が発展した魔法の無い世界です。俺が発明をしている物のいくつかは、あちらの技術からヒントを得て開発しています」
飾り立てた所で、自分の首を絞めるだけだ。
俺は正直にそう答えた。全てを覚えている訳では無いのは、俺にとっては僥倖だったと思っている。転生者――この世界では珍しくはあるけれど聞かない事も無い――……そんな存在。
ただ、その全てが幸福であるかと言えば――否と俺は言うと思う。
順応出来た人間は、それなりに幸福に暮らしたり、知識を活かして成功した人間も居る。けど、順応できず狂ったり自ら命を断ってしまう人間も少ないけれどいたからだ。
その多くが、前の世界に大切な人がいてだとか、この世界のありようを受け入れられないとか――そう言った事を許せなかった人達。せめて、元の世界での転生だったらマシだったんだろうな……と思う。
俺の前世がどんな人物か分からない以上――全部覚えていない事は俺にとっての幸運だ。自我が壊れる可能性があるのだから、一生思い出さなくても良いと思ってる。まぁ、折角なので覚えてる事は活用するけど。
「つまりは保護かね?」
「それも込みで――ですね」
公爵の言葉に俺は、頷いた。
前世を覚えていて、その知識を活用している以上――その利益を求めて有象無象の連中が湧くのである。俺が、実名を隠して『宵闇の錬金術師』と名乗っているのは、ソイツ等に関わらない為の手段だ。
例えば、俺が高位貴族の血筋とかなら良かった。けど、俺は平民である。後ろ盾が無い状態で、下手に権力を持ったロクでも無い相手に目を付けられたら奴隷奉公させられる可能性が高い。
誘拐監禁――相手に都合のよい道具だけを開発させられる訳だ。
現に、『宵闇の錬金術師』が転生者では無いか?と言う話は出ていて、水面下で正体を探ろうとしている動きもあった。つまり俺は、正体がバレる前に庇護してくれる相手を探していたのだ。
公爵家なら、問題無い。
お嬢様に婿入りして来るのは王子だ。つまり将来的に王家とのパイプも太くなるのである――言わば、間接的に王家の庇護下に入るようなものだ。
アネッテにタウンハウスの条件を出される前は、最悪、隣国の王太子に庇護を頼むか迷っていた。友人だから、手厚く保護してくれるとは思うけれど、流石にこの国にいたままと言うのは無理だったろう。
それを考えれば、本当の本当に最終手段だったけれど……。
だって考えて見て欲しい。隣国に行くとして、アネッテに一緒に来て欲しいとか言って告白したとするだろう?
『え?無理』
――そう言われる未来しか見えねーよ??
1000%言われる自信があるね!!!ツライ。つらいわぁ……アネッテがお嬢様の傍とか離れる訳ないじゃん――……。やりきれない。ねぇ、俺、本当にアネッテに好かれてる自信ないんだが……。ヤバい。早くアネッテの退路を断たねば……。
「表向きは土壌の改良をする技術者として俺を公爵家で雇って欲しいんです」
ちゃんと実績作る為に土壌の改良はするつもりだ。実際出来るし。
公爵家は王都にあるけれど、領地は地方で広大な農地が多い。だから、土壌の改良はして困る事も無いし……。
「で、秘密裏に術具開発者としての契約を結んで頂けたら――と」
公爵家で土壌改良の技術者として雇って貰いつつ『宵闇の錬金術師』としての活動もして行こうかと。
俺は、タウンハウスでアネッテと結婚生活出来れば良いし、国としても転生者が他国に流出したり、不当に監禁されたりする状況は避けたいはずなので、ウィンウィンの関係を築けるんじゃないかって思う訳だ。
「ふむ。所で、何故アネッテとの結婚がこの話に関わって来るのか聞いても良いかね……?」
あ、そう言えばその事を話して無かったか??
公爵の質問に、俺は真面目な顔をして答えた――。
「良いですか、公爵閣下――それは、アネッテの結婚するに際しての条件が――……」
――タウンハウスだからです。
俺がそう言った言葉に公爵が「あっ――!」と言って額を叩いた。どうやら物凄く納得された模様。良い音したけど、痛く無いのだろうか……。デコ赤くなってる……?
どうやら、少し強すぎたらしくてそっとデコを撫でる公爵閣下。オッサン相手になんだけど、仕草が可愛い。この人も行動が天然っぽいわ。お嬢様の父親だって良く分かる気がしたよ。これでも、有能な事で有名な人なんだけどな??
「……それでですね?今雇って頂けると確約を頂けるのなら――……お嬢様が子猫と戯れる映像――ノンカット30分がついてきま――」
「よし!雇おう!!」
俺の言葉を食い気味で即決だったよ?!
こりゃ確かにアネッテと茶飲み友達になれるわ……。
俺の事情の説明とかしなくても、お嬢様の映像一つで全部解決したんじゃね??
お嬢様を売ったようで、ちょっとだけ罪悪感が湧くけど。俺の幸せの為だ。許して欲しい。……可哀想なので、この映像を手に入れた事は口外しないようにって約束して貰った。
お嬢様、今――羞恥心で蓑虫らしいからさ……。
奥様とは一緒に見たいと懇願されて、それは了承しておく。ついでにアネッテにはあげていいか?と聞いたら快諾されたので後で進呈しようと思う。
王子にも恩を売れるだろうな……とは思ったけど、アネッテに激怒されそうだから止めておいた。
____________________________________________________
一瞬ですが、HOTランキングの19位だったらしいです!
読んで下さった皆様のおかげかと思います。ありがとうございます!
①と書いてあるのを見て悟って頂けたかと思いますが、テッドさんの動きが良く、あまりにも長くなりそうな気配がしたので、2話に分ける事にしました……。完結への道が遠くなってますが、宜しくお願いしますm(_ _)m
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