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おまけ 婚約者に毎日求婚されているんですが。
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ずっと願っていた事がある。私の事を『悪役令嬢』として見たりしない誰かと――想い想われて幸福な家庭を築けたらって……。
だけど、こんなに熱烈に求婚されるなんて、誰が思っただろう……?しかもその人は、私の婚約者だ。
婚約者から求婚されるなんて、順番が違うんじゃないの?と思ったわ。けど、本当にそうなのだ。彼は、私に一目ぼれしたのだと言う。意味が分からなかったわ。
一目ぼれと言うのは普通、初めて会った時にするものじゃないの??
けれど、初めて会った時の彼――王子であるセドリック様は至って普通だった。普通の、ただの政略結婚。その婚約者同士というただそれだけの関係――。
それでも、嬉しい事もあったわ。セドリック様は決して私を悪役令嬢としては扱わなかったから。ただの普通の婚約者として贈り物をくれたり、舞踏会にエスコートしてくれたの。
だけど、所詮私は悪役令嬢と呼ばれる娘――ヒロイン顔の従妹もいたのだし?舞踏会等では「セドリック様がお可哀想だわ!!」といった陰口も囁かれるのだもの……だから、絶対にセドリック様には恋をしないようにしてたのよ。けれど、あの日以来――
毎日毎日手紙は来たわ。
あの時、思わず「はい」と返事をしてしまったけれど、私――ずっと心のどこかで疑っていたの。もしかしたら、あれはセドリック様の一時の心の迷いのようなものじゃ無いのかって。
あの時のあの瞬間、私の普段は見せる事の無い失態に?興がそそって??何か違う気がするわね……。うーんと何て言ったかしら、ぎゃっぷ!そうギャップ燃え!――……何か変ね……?まぁ良いかしら……。
だって、婚約してから話した事って普通の事しか無いのよ?趣味とか一般的なお話と、天気の話だとか国外の流行の話だとか――??経済の話とか――。
けれど、今は違うのよ!
好きだとか、愛してるとか――そんな事ばかりが書かれた手紙……手の平返しよ?くるんよ??くるん!!信じろって言ったって無理ってものだわ!!
だから、私――シーツにくるまって丸まっていたの。まぁ、醜態をさらした事が恥ずかしかったのもあるけれどね。それに、セドリック様が――
『済まない、やはり気の所為だったみたいだ……』
そう――言うのでは――っ……無いのかしらって……??そう思ったの。
そう考える度に心臓がぎゅうっとなったわ……。嫌な感じのぎゅうっとなのよ?不安の感覚が近いかしら??何で不安になるのかも良く分からないのだけれど……。
それと別に、あの時――セドリック様が私を抱き上げてクルクルと回った時の笑顔も思い出すの……。とても嬉しそうな満面の笑顔――それを思い出すと、心臓がギュウっとなるの。こっちのはもっと良く分からないわ……。
さっき言った不安な感じとは別なんだもの――。
何か、幸福な気持ちになるのよ?――不思議ね……。あんな笑顔、初めて見たからかしら??それが、また見られなくなるのが不安なのかしらね……??
そうかもしれないわ……。
だって、家族やお邸の人達以外であんな風に私に笑いかけてくれた人はいなかったもの……。
「お嬢様、リツちゃんの御飯、行って来ましたよ。……ただ、少し元気が無いようでしたわ」
アネッテの言葉に、私はシーツから顔を出しました。
リツ――……?そんな、具合が悪いのかしら……。心配しながらそうアネッテに聞けば「そう言う感じではありませんでしたよ?御飯はしっかり食べていましたから――お嬢様に会えなくて寂しいのかもしれません……」と言われたわ。
有能なアネッテが言うのだから、多分、具合が悪い訳では無いのね――。そこには安心したけれど、リツは本当に私と会えなくて寂しいと思ってくれているのかしら……?
「リツは本当にそう思ってくれているのかしら。お休みしている間に忘れられてしまいそうで怖いわ……」
「お嬢様を忘れたりしないと思いますよ?未だに、お嬢様のハンカチを出さないと寄って来ませんし……」
アネッテから聞いた話によると、リツに御飯をあげるのには『手順』が重要らしいとか。
まず、私のハンカチを小さなシートの上に置きます――離れて待つと、リツが来ます――ハンカチの匂いを確かめます――リツが離れます――アネッテがハンカチを回収して御飯を置いて離れます――リツが御飯を食べます――……と言う状況らしいのです。
随分と、大変なのね……?
アネッテ曰く、リツは少しヤサグレてスネているのだとか……。アネッテに対してはまだマシな方で、他の生徒達が御飯をあげようとしたり近寄ろうとすると「フ――ッ!!」と威嚇されるらしいのです。
「?前は、そこまでじゃ無かった気がするのですけれど……?」
「お嬢様が学園をお休みするようになってかららしいので、スネているのだと思います」
「リツ――……アネッテ、私……リツに会いたいわ……」
リツ。リツに会って謝りたい。あんなに小さな子だもの……。今まで仲良くしていた私が急に行かなくなったら怒っているわよね??傷付けてしまったかしら……。
「――……ん”っんん!!」
「――?アネッテ、どうしたの……?」
いきなりアネッテが横を向いて、何かブツブツと言っているわ?
シントウメッキャクって何かしら……?アネッテを見ながら彼女の婚約者のテッドが同じような事を言っていた気がするのだけど――何かの呪文??
「お嬢様、可愛――じゃなくて、失礼いたしました……。いっその事、リツをお邸に引き取られてはいかがでしょうか?」
「けれど、私以外にもリツに御飯をあげている方はいるのでしょう?あの子は、沢山名前があるみたいだし――或る意味学園の猫と言っても良い状況だわ――それを勝手に連れて来るなんて、流石に出来ないわ……」
私がそう言ったら、アネッテが「それなら、暫くお時間を下さい。――皆様に確認して来ますわ」と言ってくれたの。皆様って――学園の全員に聞くのかしら??難しいのではなくて?
そんな事を考えていたら、アネッテがバッ!と窓の外を見たのよ。それだけで分かってしまったわ……セドリック様がいらっしゃったって……。
最初は良く分からなかったの。
けど、アネッテは耳が良いらしいのよ。それで、セドリック様の乗る馬車が敷地内に入ると分かるみたいなの……。と言う事は、後15分もすればセドリック様がいらっしゃるって事なのよね……。
私はソワソワしながらアネッテを見たわ。
「――お嬢様……少し、この場を外しますわね」
アネッテはニッコリ笑うと、そう言って部屋を出て行ったわ……。私は気が付かれないように、そっとカーテンの後ろから窓の外を見ているの……。覗き見だなんて、はしたないと思うのだけど一目、セドリック様の姿を見ると安心出来るの――。
走って来る馬車には、王家の紋章が掲げられていたわ。本来ならまだ謹慎中の筈なのですが、私への謝罪がしたいからと仰って毎日セドリック様がいらっしゃるのよ。一通の手紙と――一輪のバラの花を持って。
私だって馬鹿じゃ無いのですから、一輪だけのバラの花の意味も分かります。
毎日毎日そんな風に愛を囁かれる日々。
手紙の書きだしは、謝罪から入って、早く結婚したいが入り――結びはいつも愛を込めて――。その日一日あった事を教えてくれて、こんなお店があると聞いたから今度行こうだとか、私にはこんなドレスが似合うかもだとか全部全部私と一緒にしたい事だとかが書いてあるのよ……?
「セドリック様は、本気なのかしら……」
本当に、本気で私の事が好きなのかしら?私が婚約者で無ければ嫌だと、愛していると言って下さった気持は本当なのかしら……?
ドキドキと心臓が早くなります。これは、何かしら……??
セドリック様が馬車をお降りになるのを見ながら、そっと胸を押さえました。聞こえる筈が無いと分かっていても、この胸の音がセドリック様に聞こえてしまうような気がしたの……。
アネッテにいつものように手紙とバラを渡すセドリック様。チラチラと窓を見上げていますが、そこは私の部屋じゃ無くて父の部屋です――。ですけど、そのお陰で気が付かれずにセドリック様を見る事が出来ました。
――あ、今日のリボンは白なのね……。
昔、ちょっとだけ話した趣味の事――リボンを集めるのが趣味だと……セドリック様は、そんな前の話をちゃんと覚えていて下さった……あの当時はお高いけれど機械織りのリボンを一度だけプレゼントして頂いたのだけど。
今でも大切に取ってありますが、最近のプレゼントとはかなり雰囲気が違います。
私が好きなものは手織りのもの……それを思い出して下さったのか、それとも誰かから聞いたのか――手織りのものや手編みのレースのリボンを下さるのよ?――それから、アンティークのものを下さるようになったのです。
とても嬉しかったですわ。
だって、全部私の事を考えて選んで下さったって分かりますもの。とても心が籠ったプレゼントだと思いませんか??
アネッテは、そのリボンを使ってドレスをより素敵にしてくれたり、身を飾る物を作ってくれます。それがとっても可愛いのよ!私がつけてはもったいないくらい……。
アネッテは「良くお似合いですわ!」と言ってくれるのだけれど、何故かしらその時――少しだけ悔しそうに見えるのよね……??
「……セドリック様――」
名残惜しそうに馬車に乗るセドリック様を、気が付かれないように見送ります……。普通であれば、あり得ない光景でしょう。王子様をおもてなしもせずに帰すのですから……。アネッテの一存では無理なのです。
お父様も関わっているのだと思います。おそらくは――私の事を想って……。
それを、有難いと思いながらも、セドリック様に会いたいと思ってしまうのです。私は――……
「セドリック様の事が――……好き……?」
まさか?
いいえ、そんな――まさか?!!!
その考えが唇から零れた瞬間、私は動揺しました。だって、そんな?待って下さい――。いつからですの――?!!
私は『絶対にセドリック様には恋をしないようにしてた』はず――けれど『しないようにしてた』と言う事は……惹かれている気持に蓋をしたと言う事では……?
私は、真っ赤になって蹲りました。
何の事は無い――私の初恋はとっくのとうにセドリック様だったのです――!!あぁ、なら苦しいのも切ないのも全部、その恋心の所為――……?私は力なく項垂れる事しか出来ませんでしたわ……。
自分の気持ちに鈍すぎやしませんこと?私――……。
この日――羞恥の為にエヴァンジェリンが落ち込んでいる様子を見たアネッテが、テッドに愚痴を零した後、宗旨替えをした結果――セドリックと会えるようになるのだけれど現状のエヴァンジェリンは知る由も無かった。
更に、落ち込むエヴァンジェリンを慰めるためにリツを捕獲しようとした公爵が、リツに引っ掻かれて逃げられた事も一緒に記しておこうと思う……。
リツが公爵家に来るのは更に数日後、アネッテ曰く「満場一致でリツはお嬢様の猫であるとの回答を頂きました!」との事だったけれど、エヴァンジェリンにはその本当の意味は終ぞ分からなかった。
何が起こったかと言えば、アネッテが『エヴァンジェリン様見守り隊』の協力を得ながら本当に学園の生徒、職員全員からリツはエヴァンジェリンと一緒にいるのが当然であり幸福であるとの答えを貰ったのだ。
『エヴァンジェリン様見守り隊』の存在を知らないエヴァンジェリンには知る必要が無い事実である。彼等は――エヴァンジェリンに知られずに活動をしたいのだから……。
その許可を元に、エヴァンジェリンが公爵に「お父様――猫を飼いたいのですけど……」とモジモジしながら言った為に、アネッテと公爵が身悶えたのは言うまでも無い――。
____________________________________________________
更新、遅くなりましたm(_ _)m
エヴァンジェリン初恋自覚回――そしてアネッテおすまし回です。
この後、短めの「おまけのおまけ」3話を追加する事にしました。公爵1話(少々セドリックも入るやも……)。リツ1話、マリ―ロッテと家族の話1話の予定です。
その後、もう一度エヴァンジェリンの話を書いてお話を完結する予定です。宜しくお願い致します。
だけど、こんなに熱烈に求婚されるなんて、誰が思っただろう……?しかもその人は、私の婚約者だ。
婚約者から求婚されるなんて、順番が違うんじゃないの?と思ったわ。けど、本当にそうなのだ。彼は、私に一目ぼれしたのだと言う。意味が分からなかったわ。
一目ぼれと言うのは普通、初めて会った時にするものじゃないの??
けれど、初めて会った時の彼――王子であるセドリック様は至って普通だった。普通の、ただの政略結婚。その婚約者同士というただそれだけの関係――。
それでも、嬉しい事もあったわ。セドリック様は決して私を悪役令嬢としては扱わなかったから。ただの普通の婚約者として贈り物をくれたり、舞踏会にエスコートしてくれたの。
だけど、所詮私は悪役令嬢と呼ばれる娘――ヒロイン顔の従妹もいたのだし?舞踏会等では「セドリック様がお可哀想だわ!!」といった陰口も囁かれるのだもの……だから、絶対にセドリック様には恋をしないようにしてたのよ。けれど、あの日以来――
毎日毎日手紙は来たわ。
あの時、思わず「はい」と返事をしてしまったけれど、私――ずっと心のどこかで疑っていたの。もしかしたら、あれはセドリック様の一時の心の迷いのようなものじゃ無いのかって。
あの時のあの瞬間、私の普段は見せる事の無い失態に?興がそそって??何か違う気がするわね……。うーんと何て言ったかしら、ぎゃっぷ!そうギャップ燃え!――……何か変ね……?まぁ良いかしら……。
だって、婚約してから話した事って普通の事しか無いのよ?趣味とか一般的なお話と、天気の話だとか国外の流行の話だとか――??経済の話とか――。
けれど、今は違うのよ!
好きだとか、愛してるとか――そんな事ばかりが書かれた手紙……手の平返しよ?くるんよ??くるん!!信じろって言ったって無理ってものだわ!!
だから、私――シーツにくるまって丸まっていたの。まぁ、醜態をさらした事が恥ずかしかったのもあるけれどね。それに、セドリック様が――
『済まない、やはり気の所為だったみたいだ……』
そう――言うのでは――っ……無いのかしらって……??そう思ったの。
そう考える度に心臓がぎゅうっとなったわ……。嫌な感じのぎゅうっとなのよ?不安の感覚が近いかしら??何で不安になるのかも良く分からないのだけれど……。
それと別に、あの時――セドリック様が私を抱き上げてクルクルと回った時の笑顔も思い出すの……。とても嬉しそうな満面の笑顔――それを思い出すと、心臓がギュウっとなるの。こっちのはもっと良く分からないわ……。
さっき言った不安な感じとは別なんだもの――。
何か、幸福な気持ちになるのよ?――不思議ね……。あんな笑顔、初めて見たからかしら??それが、また見られなくなるのが不安なのかしらね……??
そうかもしれないわ……。
だって、家族やお邸の人達以外であんな風に私に笑いかけてくれた人はいなかったもの……。
「お嬢様、リツちゃんの御飯、行って来ましたよ。……ただ、少し元気が無いようでしたわ」
アネッテの言葉に、私はシーツから顔を出しました。
リツ――……?そんな、具合が悪いのかしら……。心配しながらそうアネッテに聞けば「そう言う感じではありませんでしたよ?御飯はしっかり食べていましたから――お嬢様に会えなくて寂しいのかもしれません……」と言われたわ。
有能なアネッテが言うのだから、多分、具合が悪い訳では無いのね――。そこには安心したけれど、リツは本当に私と会えなくて寂しいと思ってくれているのかしら……?
「リツは本当にそう思ってくれているのかしら。お休みしている間に忘れられてしまいそうで怖いわ……」
「お嬢様を忘れたりしないと思いますよ?未だに、お嬢様のハンカチを出さないと寄って来ませんし……」
アネッテから聞いた話によると、リツに御飯をあげるのには『手順』が重要らしいとか。
まず、私のハンカチを小さなシートの上に置きます――離れて待つと、リツが来ます――ハンカチの匂いを確かめます――リツが離れます――アネッテがハンカチを回収して御飯を置いて離れます――リツが御飯を食べます――……と言う状況らしいのです。
随分と、大変なのね……?
アネッテ曰く、リツは少しヤサグレてスネているのだとか……。アネッテに対してはまだマシな方で、他の生徒達が御飯をあげようとしたり近寄ろうとすると「フ――ッ!!」と威嚇されるらしいのです。
「?前は、そこまでじゃ無かった気がするのですけれど……?」
「お嬢様が学園をお休みするようになってかららしいので、スネているのだと思います」
「リツ――……アネッテ、私……リツに会いたいわ……」
リツ。リツに会って謝りたい。あんなに小さな子だもの……。今まで仲良くしていた私が急に行かなくなったら怒っているわよね??傷付けてしまったかしら……。
「――……ん”っんん!!」
「――?アネッテ、どうしたの……?」
いきなりアネッテが横を向いて、何かブツブツと言っているわ?
シントウメッキャクって何かしら……?アネッテを見ながら彼女の婚約者のテッドが同じような事を言っていた気がするのだけど――何かの呪文??
「お嬢様、可愛――じゃなくて、失礼いたしました……。いっその事、リツをお邸に引き取られてはいかがでしょうか?」
「けれど、私以外にもリツに御飯をあげている方はいるのでしょう?あの子は、沢山名前があるみたいだし――或る意味学園の猫と言っても良い状況だわ――それを勝手に連れて来るなんて、流石に出来ないわ……」
私がそう言ったら、アネッテが「それなら、暫くお時間を下さい。――皆様に確認して来ますわ」と言ってくれたの。皆様って――学園の全員に聞くのかしら??難しいのではなくて?
そんな事を考えていたら、アネッテがバッ!と窓の外を見たのよ。それだけで分かってしまったわ……セドリック様がいらっしゃったって……。
最初は良く分からなかったの。
けど、アネッテは耳が良いらしいのよ。それで、セドリック様の乗る馬車が敷地内に入ると分かるみたいなの……。と言う事は、後15分もすればセドリック様がいらっしゃるって事なのよね……。
私はソワソワしながらアネッテを見たわ。
「――お嬢様……少し、この場を外しますわね」
アネッテはニッコリ笑うと、そう言って部屋を出て行ったわ……。私は気が付かれないように、そっとカーテンの後ろから窓の外を見ているの……。覗き見だなんて、はしたないと思うのだけど一目、セドリック様の姿を見ると安心出来るの――。
走って来る馬車には、王家の紋章が掲げられていたわ。本来ならまだ謹慎中の筈なのですが、私への謝罪がしたいからと仰って毎日セドリック様がいらっしゃるのよ。一通の手紙と――一輪のバラの花を持って。
私だって馬鹿じゃ無いのですから、一輪だけのバラの花の意味も分かります。
毎日毎日そんな風に愛を囁かれる日々。
手紙の書きだしは、謝罪から入って、早く結婚したいが入り――結びはいつも愛を込めて――。その日一日あった事を教えてくれて、こんなお店があると聞いたから今度行こうだとか、私にはこんなドレスが似合うかもだとか全部全部私と一緒にしたい事だとかが書いてあるのよ……?
「セドリック様は、本気なのかしら……」
本当に、本気で私の事が好きなのかしら?私が婚約者で無ければ嫌だと、愛していると言って下さった気持は本当なのかしら……?
ドキドキと心臓が早くなります。これは、何かしら……??
セドリック様が馬車をお降りになるのを見ながら、そっと胸を押さえました。聞こえる筈が無いと分かっていても、この胸の音がセドリック様に聞こえてしまうような気がしたの……。
アネッテにいつものように手紙とバラを渡すセドリック様。チラチラと窓を見上げていますが、そこは私の部屋じゃ無くて父の部屋です――。ですけど、そのお陰で気が付かれずにセドリック様を見る事が出来ました。
――あ、今日のリボンは白なのね……。
昔、ちょっとだけ話した趣味の事――リボンを集めるのが趣味だと……セドリック様は、そんな前の話をちゃんと覚えていて下さった……あの当時はお高いけれど機械織りのリボンを一度だけプレゼントして頂いたのだけど。
今でも大切に取ってありますが、最近のプレゼントとはかなり雰囲気が違います。
私が好きなものは手織りのもの……それを思い出して下さったのか、それとも誰かから聞いたのか――手織りのものや手編みのレースのリボンを下さるのよ?――それから、アンティークのものを下さるようになったのです。
とても嬉しかったですわ。
だって、全部私の事を考えて選んで下さったって分かりますもの。とても心が籠ったプレゼントだと思いませんか??
アネッテは、そのリボンを使ってドレスをより素敵にしてくれたり、身を飾る物を作ってくれます。それがとっても可愛いのよ!私がつけてはもったいないくらい……。
アネッテは「良くお似合いですわ!」と言ってくれるのだけれど、何故かしらその時――少しだけ悔しそうに見えるのよね……??
「……セドリック様――」
名残惜しそうに馬車に乗るセドリック様を、気が付かれないように見送ります……。普通であれば、あり得ない光景でしょう。王子様をおもてなしもせずに帰すのですから……。アネッテの一存では無理なのです。
お父様も関わっているのだと思います。おそらくは――私の事を想って……。
それを、有難いと思いながらも、セドリック様に会いたいと思ってしまうのです。私は――……
「セドリック様の事が――……好き……?」
まさか?
いいえ、そんな――まさか?!!!
その考えが唇から零れた瞬間、私は動揺しました。だって、そんな?待って下さい――。いつからですの――?!!
私は『絶対にセドリック様には恋をしないようにしてた』はず――けれど『しないようにしてた』と言う事は……惹かれている気持に蓋をしたと言う事では……?
私は、真っ赤になって蹲りました。
何の事は無い――私の初恋はとっくのとうにセドリック様だったのです――!!あぁ、なら苦しいのも切ないのも全部、その恋心の所為――……?私は力なく項垂れる事しか出来ませんでしたわ……。
自分の気持ちに鈍すぎやしませんこと?私――……。
この日――羞恥の為にエヴァンジェリンが落ち込んでいる様子を見たアネッテが、テッドに愚痴を零した後、宗旨替えをした結果――セドリックと会えるようになるのだけれど現状のエヴァンジェリンは知る由も無かった。
更に、落ち込むエヴァンジェリンを慰めるためにリツを捕獲しようとした公爵が、リツに引っ掻かれて逃げられた事も一緒に記しておこうと思う……。
リツが公爵家に来るのは更に数日後、アネッテ曰く「満場一致でリツはお嬢様の猫であるとの回答を頂きました!」との事だったけれど、エヴァンジェリンにはその本当の意味は終ぞ分からなかった。
何が起こったかと言えば、アネッテが『エヴァンジェリン様見守り隊』の協力を得ながら本当に学園の生徒、職員全員からリツはエヴァンジェリンと一緒にいるのが当然であり幸福であるとの答えを貰ったのだ。
『エヴァンジェリン様見守り隊』の存在を知らないエヴァンジェリンには知る必要が無い事実である。彼等は――エヴァンジェリンに知られずに活動をしたいのだから……。
その許可を元に、エヴァンジェリンが公爵に「お父様――猫を飼いたいのですけど……」とモジモジしながら言った為に、アネッテと公爵が身悶えたのは言うまでも無い――。
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更新、遅くなりましたm(_ _)m
エヴァンジェリン初恋自覚回――そしてアネッテおすまし回です。
この後、短めの「おまけのおまけ」3話を追加する事にしました。公爵1話(少々セドリックも入るやも……)。リツ1話、マリ―ロッテと家族の話1話の予定です。
その後、もう一度エヴァンジェリンの話を書いてお話を完結する予定です。宜しくお願い致します。
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